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SFD人類の継続的繁栄 第8章2節『自我のめざめと神様ゲーム』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

21世紀初頭の技術者のメモ その2

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いよいよ進化が始まりました。これ以降、知的なプログラム生物を発生させるためには、プログラム上の色々な工夫が必要だと思いますが、不可能な事ではありません。途中で死に絶えたら、その原因を突き止め、プログラムを工夫してトライしましょう。死に絶えないように工夫すれば、たぶん進化していくと思います。
進化しても単純な生物しかできない場合は、放射線攻撃のほかに別の仕掛けをしてみましょう。進化の途中では、最初に用意した餌だけでなく、生物をそのまま餌とする、より高等な生物が誕生すると思います。とにかく思いどおりに行かなかったときは、その原因を分析してまたやり直してください。
ただしこれだけは守ってください。コンピュータを動かしている途中に、外部から条件を変えないでください。もし条件を変えた事により進化したのなら、そのときの条件、「スタートしてから、何クロック後、どのように変更したのか」を『完全に正確』に書きとめておき、その事も初期条件に取り込むことが必要です。

色々工夫する事により思いどおりに進化するようになり、どう見ても人間のように振る舞う、どう見ても意識があり、感情があるプログラム生命が誕生したら、そのプログラムをもう一台のコンピュータにコピーして、2台のコンピュータではじめから同時にスタートしてください。コンピュータの仕様が同一で、ソフトも完全に同一なら、全く同じように進化してゆきます。
ここで一台のコンピュータの演算速度を上げてみましょう。先ほどの、どう見ても人間のような、あるいはそれ以上に見える生命が誕生したら、その動きを観察しましょう。高等生物のなかには、自分はどうしてここにいるのだ、この世はどのようにできているのか考えはじめるかもしれません。
しかしそれを外部からモニターしているだけでは、彼らに意識があるのか否かは、はっきりとはわかりません。それではきりがないので、このように決めましましょう。「もし彼らが地面に数式でも書き始めたら、もし彼らが、彼らの言語で話し合うようになったら、もし彼らが自分の考えた事を何かに書き始めたら」、彼らには我々と同じように意識も感情も、魂もある事にしましょう。
しかしもう一台のコンピュータもスピードを上げ、彼らの動きを観察すると、2台とも全く同じ動きをしています。全く同じ仕様のコンピュータに全く同じプログラムを入れれば、結果は同じになるのは当たり前です。いくら知的な生命がプログラム上に誕生しても、彼らの未来は完全に確定しています。完全に確定しているからといって、彼らに魂がないと決め付けるわけにはいきません。現実世界が確定しているか否かは別として、たとえ確定していても意識のある、魂のある我々がここにいます。

  END
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新人類の創造

「その神様ゲームで自我に目覚めた生物を作った後、どのようにして我々のような自我に目覚めた脳にするのだ」
「自我に目覚めた、適当な知的生命を1つだけ残し、残りは全て消去し、その生命体の脳のソフトを抽出して、別の人体の脳に埋め込めばよい」
「回りくどいやり方だが、生命が発生しやすい宇宙ソフトをつくる。そのソフトを動かすと必然的に生命体が進化して、メモリーで構成された宇宙の中に知的で自我を持った生命が多数できる。その1つを取り出して人体の脳に移植する、という事か」
「そのとおりだ」
「メモリーで構成された宇宙の中で、自我に目覚めた生物が、我々と全く違う危険なものばかりならどうするのか」
「自我に目覚めていれば、それを徐々に変えてゆくのはできるだろう。急にやりすぎると死んでしまうかも知れないが」
「チューニングによらず、自我に目覚めさせる方法がある事はわかったが、宇宙を作り、中の知的生命をもてあそぶゲームは、倫理に反しないのか」
「あなたもずいぶん洗脳されたようだ。倫理などすぐに変わる。本質的なものでは全くない。誰かが先程言ったように、この宇宙も神様が作った物かも知れない」

『生と死は等価』の意味

「話を前に戻すが、『生と死は等価』とはどういう意味か。我々はずっと生き続けているではないか」
「こういうことですよ。あなたは毎日ここに来てこの研究室の人体に乗り換えている。そして、あなたの家には待機モードのあなたの人体があるでしょう。その人体を壊せば、あの人体は死んだ事になるが、あなたはここにいて生きている。たとえここであなたが事故に遭って死んだとしても、あなたの1ヶ月前の記憶は記憶記録機にコピーされている。その記憶を別の体の脳に入れれば1ヶ月間の記憶は飛んでいるが、あなたは自分が生きていると感じるはずだ。それが50年前の記憶なら、あなたは50年後によみがえったと思うだろうし、保存されている記憶の一部を変更し、阿部大統領と思い込むように細工すれば、あなたは自分が阿部大統領だと言うだろう。当たり前のことだが自分の記憶にある事しか自分では認識する事ができない」
「今は新たに人を誕生させる場合、ステータスに応じた基本記憶だけ入った状態になっている。これに上田大統領の記憶を追加すれば、自分は上田大統領だと主張するということか」
「我々は100年以前の記憶は消失するようになっているが、第1世代の人類は老化により記憶がなくなる事に悩まされていたようだ。自分に子供がいる事も忘れてしまい、進行するとどんどん記憶をなくしてしまう。これに対し第2世代の人類はこのような不幸がないように、核心遺伝子の操作により100歳になったら健康なまま急に死ぬようになっていた」
「我々は、脳の変更は厳禁されている。もし変更が許可されたら、どのような変更が良いのだろうか」
「すでに沢山の改良が行われ、満足指数は非常に高い。しかし自分の脳を改造する事が許されたら、大半の人はもっと満足度をあげるだろう」
「満足度を上げるには、単に現状の満足指数を、たとえば10倍にする掛け算を追加するだけで、本当の満足度を上げられるのか」
「それはないだろう。満足指数の計算アルゴリズムは複雑で、満足指数の計算の基となる色々な指数自体が変わらなければ意味がないだろう。もっともそのアルゴリズムに手を加えれば話は別だが」
「アルゴルリズムに手を加えればどうなるのか」
「何もしないで最大の満足状態になることもできる。その最たるものは例の惑星の微小生物だ」
「いくら満足度が高くても、あの微小生物のようになるのは、大半の人は嫌うだろう」
「結局、満足度も知能も程々が良い、という事だ」  

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