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SFD人類の継続的繁栄 第10章『天災』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

微小生物が見たもの

突然、巨大な太陽フレアが発生した。
 強力な衝撃波が襲ってきた。
微小生物の居住するシールド室が地下深くの退避空間に移動した。
強烈な電磁パルスが天体を襲った。
精密装置格納棟に格納されていた多くの機器が破壊された。
各施設を結ぶインフラの多くも各所で分断された。
一連の太陽フレアがやっと終息した。

微小生物は、使用可能な機器を用いて電磁パルスにより破壊された機器の修復やインフラの復旧を開始した。インフラ等の復旧のためには微小生物が操縦できる精密装置の修復が必要である。前回のソーラーパネルの問題で人間の脳に乗り込み窮地を脱した苦い経験から、復旧に必要な大型装置に乗り込むための数々の補助機器は製作してあったので、多くの時間を要したが、一定の復旧に成功した。
第2地球の人類との交信設備の復旧にも成功し、人類との交信を試みた。しかし全く返信はなかった。何度か交信を試みたが、明らかに地球側の装置が機能してなかった。
万一に備えて第2地球との往来用の宇宙船は製造済みである。大至急電磁パルスによりダメージを受けた部分を修復し、各種機器を搭載し第2地球を目指し出航した。

数千時間の航行後、第2地球の領域に到着し、衛星軌道に乗り精緻に地球や月を観測した。しかし電磁波も観測されず人的活動の痕跡は全く見られなかった。
月の研究所の近くに着陸した。搭載してきた数隻の小型超高速宇宙船により月の各所の調査を行った。大量の人体が各所から見つかった。ほとんどの人体は建物の中に整然と並んでいた。しかし、どの人体にも生命活動はなかった。放置されている人体を各所から集め、大型宇宙船に運んだ。
大型宇宙船内の研究室で、運んできた人体の調査を行った。脳以外には何の損傷も見られず、脳のメモリーだけがクリアされていた。無論記憶はどこにも残っていなかった。
さらに月の各所を詳しく探索したが、すべての人体の脳はクリアされていた。月に暮らして人類はすべて死に絶えたようである。第2地球と第2衛星の調査も行った。両天体の様子も月と同じだった。巨大フレアの一撃で人類は絶滅してしまった。
大型宇宙船は第2地球にとどまり、本部の惑星の微小生物との間でこの問題についての通信会議を行った。

「残念ながら我々を助けてくれた人類はフレアの一撃により絶滅してしまった。人体の脳はすべてクリアされている」
「第2地球や2つの衛星は我々の居住する天体に比べ、太陽に非常に近い。我々が受けた電磁パルスに比べ桁違いの衝撃だったのだろう」
「フレアの影響で脳のメモリー内の記憶に損傷を受けるのはわかるが、なぜ一様にクリアされているのだ。クリアするためにはクリアするソフトがないとできない」
「脳のハードウエアを詳しく調べたら、脳の深部のメモリーやプロセッサーには十分なシールドが施されている。フレアにより脳の深部ソフトが損傷するとは思えない」
「脳の設計思想の問題ではないだろうか。いうまでもなく生命の本質は記憶である。重要な部分の記憶が損傷することは死を意味する。重要な記憶を損傷し死んでいるにも関わらず根幹部の脳が損傷せずに自我を持ち動けることは、旧地球で話題になっていたゾンビ状態の死んだ狂人となることで、非常に危険だ。危険を回避するため根幹部のソフトに設けた退避用のロボットソフトが働き、安全な場所に退避してからクリアするような設計になっていたのでないだろうか」
「退避用のロボットソフトの部分とクリアソフトの部分だけは電磁波パルスの影響を受けないようにROM化されていたのだろう。死者からの危険を回避するための設計思想だろう」
「非常に悲しいことに我々を助けてくれた人類は絶滅してしまった」
「クリアされてハードウエアだけになった人体は我々が使用する事が出来ないだろうか」
「活動している脳なら取り付いて動かすことが可能だが、すべてのメモリーがクリアされているので動かすことはできない。放置するより仕方がない」
 
大量の人体が第2太陽系3つの天体に放置されたまま人類は絶滅していた。

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