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SFE人類の継続的繁栄 第11章『宇宙の活力』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

活性物質の制御にむけて

 宇宙大国を目指すうえで活性物質は最も重要なものである。宇宙船のエンジンにも、小惑星や大隕石の衝突対策にも、万一敵が攻めてきたときの最大の武器としても、あるいは天体の軌道を変え、場合によっては天体その物を消滅させる上でも欠く事のできないものであり、各種活性物質を生産し備蓄する事が必要である。
活性物質は最も危険な物質でもある。これまでも人類を含めて多くの知的文明を天体ごと消滅させた。このため活性物質の生産工場や備蓄倉庫などを数十光年以上離れた天体に設ける計画もあった。しかしそれでは必要な時に役に立たない。
宙に浮いていた活性物質の活用計画だったが、今回の巨大爆発寸前までいった事故の経験は、未然に防がれたということが大きな前進への契機となった。一つの経験、一つの知見が活性物質の安全化への抜本的な解決方法へ向けた発展的な模索へとつながっていったのである。
これに対しひとつの良案が提案された。両端を開放した強力で巨大な防爆容器の中央部分に活性物質を保管し、この防爆容器を宇宙に設置する方法である。万一物質が100%エネルギーに変換する爆発が発生した場合、爆発の全エネルギーは電磁波として開放された両端部から放出される。これにより爆発のエネルギーが及ぶ範囲は防爆容器の長手方向だけになり、他には及ぶことはない。無論筒状の防爆容器の向きは、他の重要な天体を損傷させないような方向に設置する事が必要である。
この提案を機に、さらに良案がないか、遠天体に勤務する技術者による検討会が開催された。

「活性化エンジン開発時に議論があったように、100%活性化した、純粋な活性物質の爆発が、果たして大昔のE=MC^2に対応するか否かを再調査する必要がある。90%ぐらいまでならこの式が適合する事は確かだが、それ以上では適合しない可能性が大きい」
「活性物質の割合が100%なら、噴射させる物体その物がなくなりエンジンの効率はゼロになる」
「あの時の思考実験の結果を実験してみよう。エンジンでなく単なる爆発物として試してみよう。100%活性物質なら、エネルギーの作用が及ぶ物質がなくなり、何も起こらないかも知れない。高温も高圧も物質があっての上の話しだ」
「実験は慎重に行わなくてはならない。活性物質の量を少量にするのは無論だが、全体が同時に爆発しなくてはならない。同時でないと物質が残り、物質が残ると高圧、高温になり、大エネルギーが発生する」 

 活性物質100%の爆破実験を行う事になった。万一100%の場合でもE=MC^2がなり立つ場合も考慮して、活性物質の量を0.1グラムにとどめ、筒状の防爆容器中で行う事になった。そして防爆容器の大きさと強度を計算されると、カーボン変成機により防爆容器が製造された。
 この防爆容器は、活性物質その物を爆発させる実験を行うために液体状のABC3物質をある比率で混合させるためのものである。つまり混合後10分後に活性物質になり、その2分後に自然爆発する爆弾となるのである。混合スイッチを入れると、3分割容器のセパレータが引き抜かれ、攪拌して均一に混合するように作製された。 

空回りする力

 計算どおりの正確な比率で、合計0.1グラムのABC3物質が3分割容器に封入された。 容器が爆発装置にセットされ、防爆容器の中央に3分割容器を収納した爆発装置が固定された。 
 防爆容器の要所に姿勢制御ロケットが取り付けられた。大型の宇宙船が防爆容器を遠天体のはるか上空に設置した。姿勢制御ロケットにより防爆容器の筒の向きを予定の方向に向け、遠天体からの操作により混合スイッチが入り爆発装置が起動した。
爆破担当技術者以外の全員が目を望遠鏡モードに切り替えて、はるか上空の天体ショーを見ていた。しばらくして防爆容器から何かが吹き飛んだ。しかし防爆容器に大きな変化は見られなかった。
 小型宇宙船から2人の技術者が防爆容器に乗り込み内部を調査した。内部には爆発装置の破片らしきものが散乱していたが、ただそれだけだった。大型宇宙船により防爆容器は回収され、宇宙船基地の隣地に下ろされた。 
  爆発時の容器内の温度や圧力や電磁波の放出量などの各種データが解析された。解析結果は次のようだった。

  1. 温度と圧力に変化はほとんどなし。
  2. α線等の質量のある物質の噴射はほとんどなし。
  3. 電磁波は大量に放出されたようだが放出エネルギー量は不明。
  4. 防爆容器から吹き飛ばされたのは爆発装置や3分割容器の破片である。
  5. 内部に残った破片も爆発装置や3分割容器のものである。
  6. 活性物質やABC3物質が残った痕跡はなし。
  7. 爆発により発生したエネルギーは、放出量不明の電磁波を除けばE=MC^2に対し10のマイナス50乗以下

 上記の結果を受けて検討会が再開された。

「我々の予測した通りの結果だった。電磁波以外にも僅かにエネルギーが発生したが、容器に電磁波が作用したためと思われる」
「すると物質はエネルギーの放出を伴わずに忽然と消えてしまう事があり、裏を返せば、何もない真空中に忽然と物質が出現する事もあるということか。もしかしたらこの宇宙も何もない真空中から忽然と出現したのかも知れない。それなら大発見だ」
「エネルギーは発生するが、作用するものがないので、エネルギーは眠ったままなのかもしれない。宇宙も眠った巨大なエネルギーが漂う真空中から何かをきっかけに一瞬に物質に変換し、ビッグバンが生じたのかもしれない」
「エネルギーがあっても作用する条件がないため、その力を発揮できないケースはよくある。たとえば100万馬力のミニカー牽引車があったとしても、ミニカーの重量が小さいので、いくら馬力があっても空回りしてしまう。」
「真空中のプロペラ飛行機」
「巻かれたままの強力ゼンマイバネ」
「そのとおり。このようなことはいくらでも挙げる事ができる」
「逆に作用するものを追加して強力にしたのが、20世紀に使われていた釘爆弾だ。このような作用するものを追加して威力を上げるものもいくらでも挙げられる」
「釘爆弾は同じ爆発エネルギーでも破壊威力を高めるものだ。逆に爆発エネルギーが同じでも威力を小さくする方法を順に箇条書きしてみよう」

  1. 釘爆弾から釘を無くす。
  2. 爆発を真空中で行う。
  3. 爆薬の量が少ない高性能爆薬に変える。
  4. 原爆に変える。
  5. 活性物質爆弾に変える。
  6. 物質のないエネルギーだけの爆弾

このように箇条書きにされた課題に対し、再び議論が始まった。

「爆発エネルギーが同じでも、エネルギーが作用する対象物が少なくなるほど運動エネルギーの対象物も、高温・高圧になる対象物も少なくなるので、爆弾の威力がなくなり、爆発エネルギーその物も意味がなくなる」
「質量のほとんどがエネルギーに変換する高性能な爆弾を真空中で爆発させれば、エネルギーは電磁波の様なものにしか成りえないということか」
「作用する対象物がなくなり、運動エネルギーや熱エネルギーがなくなるとその他のエネルギー、ある種の電磁波のエネルギーが増えるのでは」
「釘爆弾から釘をなくしても電磁波が増える事はない」
「しかし釘がなくなれば電磁波が釘に作用する事がないので、その分電磁波は外に放出されるだろう」
「それでは爆弾の場合、エネルギーの全ての基は電磁波なのだろう。作用する対象物がなくなれば、発生した電磁波すべてが外に出る。質量が100%エネルギーに変わると、消失する質量に対応するエネルギーの電磁波の様なものが出るという事か」

このような議論の結果、この場では、少なくとも高性能な爆弾の場合、エネルギーの基は電磁波であり、対象物がある場合、電磁波が対象物を高温にして運動エネルギーを与える、という結論となった。
 遠天体の上空に大小多数の防爆容器が向きをそろえて設置され、活性物質や関連物質が保存された。これにより万一活性物質の大事故が発生しても、この領域に被害が及ぶ事はなくなった。ただし筒が向いている方向の数百光年以上先の領域にある天体には、電磁波の様なものによる大きな被害が及ぶ可能性がある。 

衝突予定の小惑星対策

 衛星に建造された宇宙観測所により、大型の小惑星が300年後に第4地球に衝突する事が明らかになった。小惑星といっても地球の大きさの3割程度の大きさで、衝突すれば地球は間違いなく破壊される。
 活性爆弾の研究が大きな進展を遂げていたため、この小惑星の衝突を回避するには色々な方法を使用する事が可能である。そのため余裕を持って対処方法についての検討が行われ、次のように決定した。

  1. 小惑星全体を活性物質に変換し、一瞬にしてエネルギーに変換すれば、理論上物質は残らないので、実質的なエネルギーの発生無しに忽然と消し去る事も可能だが、猛烈な電磁波の放出のリスクが大きく、この方法は使用できない。
  2. 破壊に必要な量だけを活性物質に変換させてから爆破する方法は、破片が飛び散り第4太陽系の開拓済みの多くの天体がダメージを受ける恐れがあり、この方法も使用できない。
  3. 軌道を変える事が最良の策であり、今後の実験も兼ね、この方法で行う。

 政府は、軌道変さらによる対処方法を承認した。今後の事もあり、大規模な〔軌道変更プロジェクト〕を組織し検討が開始された。無論活性化エンジン方式を使用した小惑星の破壊を伴わない、時間をかけて行う方法を前提とて検討が行われた。
まず、エンジンによる移動開始時期をパラメーターとして、どの方向にどの程度軌道を変更する必要があるか計算した。軌道の計算は極簡単に済み結果が報告された。エンジンによる移動を開始するまでの時間は十分にある事がわかった。
活性化エンジンについては、当初、宇宙船に使用しているエンジンを巨大化し、多数設ける方向で検討していたが、費用の点、今後の技術開発の点で、別の検討会で話題になった小惑星自体の一部分をエンジン化する、セルフエンジン方式を採用する事にした。開発済みの強力なエンジンを持つ宇宙船を使用すれば、問題の小惑星の間を短時間で往来する事が可能である。
小惑星の全体的調査と小惑星自体の一部分をエンジン化するための現地調査を行う事が決まり、基地建設やその他必要な機材と100体の人体と30人の調査隊員を乗せた宇宙船が小惑星に向け出航した。そして800日後に小惑星に到着すると、30名の調査隊員により移動室等を備えた基地が建造され、各種の調査が行われた。
この天体はゆっくりだが自転している事がわかり、自転を止めるための大型活性化エンジンの設置場所と推進用のセルフエンジン設置場所の複数の候補地が選定された。またこの天体には火山活動は全くなく、表面は硬く、いわば1つの大きな岩石で出来ていた。そのためセルフエンジン化は容易で、本来の目的〔衝突を回避するために軌道を少し変える事〕には何ら問題はなく、それ以上の可能性のある天体だとわかってきた。 
 調査は10日間で終了し、機材と100体の人体を基地に残したまま、30人の調査隊員は宇宙船で帰還した。
 帰還後、政府の要人とプロジェクトに調査結果が報告された。衝突の回避のために軌道を変える上での支障が全くない、との事に一同は安堵したが、それ以上にこの惑星とセルフエンジンの可能性に興味が集まり、議論が始まった。

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