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SFF人類の継続的繁栄 第5章『天地創造』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

ダイオード膜シールド着工

 第5暦4000年、江田政権はエネルギー永続プロジェクトの検討結果を受け、この天体群をダイオード膜で覆う方針を決定し、〔ダイオード膜プロジェクト〕を発足させた。
 ダイオード膜自体はカーボン変成機により簡単に製造可能である。問題は広大な天体群を、どのようにしてダイオード膜で覆うかである。

「非常に難題である。普通に考えては解にたどり着けないだろう。何か特別な考え方はないだろうか」
「それでは覆えた場合について考えてみよう。仮に覆えたとして、どうやって膨らませるのか」
「膨らませるのは簡単だ。この領域は完全に真空だから、非常に薄い気体でも中を満たせば膨らむだろう」
「膨らませても、どのように各惑星と接触しないように距離を保つのか」
「ダイオード膜は内側からの全ての照射を反射する。質量を僅かに有する、あの特殊電磁波を照射すれば、外側へのわずかな力が働く。天体群の適所に照射器と距離測定器を設け、連動して照射を制御すれば簡単に解決できるだろう」
「それでは宇宙船に長大な専用のカーボン変成機を積んで、膜を作りながら膜の下から照射すれば膜を宇宙に漂わせる事ができるのか」
「板状ならできるだろうが、膜の厚みは2ミクロン程度で全く突っ張りがない。照射した所だけに力が加わり、無理だろう」
「突っ張りを持たせるには、あの宇宙塔方式を使えば良い。重ねた2枚の膜の周辺と、表面の所々を点状に接着し、中に気体を入れれば突っ張りが生じる」
「2枚の膜を同時に作り気体を封じるための専用のカーボン変成機は作れるだろう。気体の入った長方形のマットを宇宙で大量に生産し、マットの端同士を接触するだけでつなげる事ができる」
「長方形より6角形のマットにしたほうが良いのでないか。6角形のマットなら沢山つないでも突っ張りは残り、制御しやすい」
「天体群を覆いつくしたら、マット状にしたまま内部に空気を満たし、膨らますのか」
「気体が入ったマットのセルの内側の膜に孔を開ければ良い。マットから気体が抜けて上下の膜が自然に張り付き1枚の膜になる。マットから抜けた気体で内部が満たされる。あの膜には強い自己修復機能があり、孔を開けた所もつなぎ目もなくなり、均一の2ミクロンの膜になる」
「空気の入ったセルの数は膨大だ。セル1つ1つに孔をあけるのは膨大な作業で、膨大なエネルギーを消費するのでは?」
「そのときは既にダイオード膜で覆われている。ダイオード膜で覆われている宇宙の内側で、いくらエネルギーを使っても外に漏れる事はない」

 この様な議論を経て、大量の宇宙船と専用のカーボン変成機が製造されると、500年かけて工事は完了した。

AIロボットの誕生

ダイオード膜のシールドは完了した。しかしながら、セルに封入した気体は僅かであり、そこから得た気体だけではダイオード膜を完全に膨らませる事ができなかった。
気体を新たに製造する事を検討したが、それは行なわれず、替わりにダイオード膜内部の広大な宇宙空間の温度を上げ、ダイオード膜内部の圧力を上げる事にした。
人体や機械にとっても絶対温度100度より、300度のほうが都合が良い。
 ダイオード膜の内部ではどんなにエネルギーを消費しようとも、外に漏れる事はないので全く無駄遣いにはならないからだ。この天体群からエネルギーが宇宙に漏れる事はなくなり、外からの電磁波等が入り、エネルギー収支はわずかながらプラスに転じた。
この領域は、銀河の外れにある何もない領域で、微小天体はなく、ましてや大き目の天体などあるはずのない領域である。それでも念のために天体観測を行っていた。ダイオード膜を通して外側からは内側は何も見えないが、内側から外側の天体の観測には何ら支障はなかった。
観測をはじめて数年が経ったあるとき、今まで何も見えなかった領域に小さな点を発見した。何処から来たのかわからなかったが、この天体群の方向に何かが向かっていた。他の天体の引力がほとんど及ばないこの領域では天体の動きは直線的である。軌道を詳しく計算すると200年後にこの天体群の中を、どの惑星にも衝突せずに通り抜ける無害な天体だとわかった。しかしダイオード膜には孔が開き気体が漏れてしまい、修復には時間がかかると見込まれた。
この問題に対する対策会議が行われた。

「何処から来たかわからないが、あるはずのない天体がこちらを目指して飛んできている。200年後にどの惑星とも衝突せずに、この天体群の中を通り抜ける。しかし、このままだとダイオード膜に大きな孔が開き、気体が漏れてしまう。ダイオード膜の修復にも時間がかかる」
「ダイオード膜を開けて、中に入ったらダイオード膜をすばやく閉じて、その天体全体を100%活性物質に変換し、消失処理できれば最高だ。飛び込んできた天体のエネルギーを丸ごと閉じ込める事ができる。最終的にはこの天体群の質量がその天体分増加する」
「それは危険だ。もし消失に失敗し、爆発したらこの天体群は大きなダメージを受ける。軌道を変えるべきだ」
「軌道を少し変えて、この天体群の横を通過させ、通過後少し離れてから100%活性化させ爆発させれば、爆発で生じたエネルギーの一部は、ダイオード膜を通してこの天体群に閉じ込める事ができる」
「軌道を変えるためにはダイオード膜に孔を開けて、宇宙船で外に出て、その天体に活性化エンジンを取り付けに行かなければならない。大きなエネルギーを宇宙に放出する事になる」
「エネルギーの消費を考えれば、小さなロケットで誰かがあの天体に乗り込み、簡単なセルフエンジンを作り軌道を変えた後、活性化処理して爆発させるのが最も良い」
「それではロケットの隊員は死んでしまう」
「無論、その隊員はこの天体群の中に二重に存在させる。二重存在させれば死んだ事にはならない」
「二重存在は短時間なら問題ないが、長時間では問題がある。第3太陽系にも第4太陽系にも、私やあなたと元は同じ人がいて、二重存在との見方もできる。だけど今では全く別人だ。ロケットに乗ってあの天体を処理するのに1年はかかるだろう。1年も経てば2人は別の人間だ。もしかしたら死ぬのが怖くなり途中で任務を放棄するかも知れない」
「人間でなく、人間の体をしたロボットに処理させるのはどうだろうか」
「ロボットに人間のような臨機応変な処理ができるだろうか」
「人間と同様な能力を持つが、自我を持たないロボットを作る必要がある」

 この様な議論を経て、自我を持たない、第1世代の末期に普及したAI型ロボットが開発された。そして、このAIロボットによって危険な天体の爆発処理が行われた。
結局この天体群から〔小さなロケット、AIロボット、ロケットに使用した僅かの活性物質、ロケット発射時にダイオード膜に開けた小さな孔から漏れたわずかな気体〕が失われた。しかしながら、天体の活性化爆発で生じた大量の電磁波エネルギーの極一部がダイオード膜を通して内部に入り、エネルギーの収支バランスはトントンだった。

新天体製造

 宇宙大国を目指し、数々の天体を開拓し、活性物質の安全な運用に成功し、銀河の先を目指す天体宇宙船団を送り出した第4太陽系。
その見送りを終えた第5暦1800年頃の第4地球の衛星である第4月には、人類全体の政府が置かれ上田氏が大統領として君臨していた。人口こそ少ないものの、政治においても技術においても、月には中核機能が集中している。
第4地球は引力が強く、小惑星衝突の恐れがあり、最初は使用されていなかったが、活性物質の技術が進展し、小惑星の軌道を変える技術が完成し、小惑星衝突の恐れがなくなったので、多くの人が定住し、特に製造業が盛んである。
第4地球の内側の惑星(内側惑星)の開拓が始まり、第4地球や月の自宅から沢山の開発隊員が開拓基地に出勤し、インフラの整備が行われている。
第4地球の外側の引力の強い大きな惑星(外側惑星)の衛星には、小惑星破壊基地と宇宙観測基地が設けられている。強力な推力をもつ活性化エンジンの完成により外側惑星にも大型宇宙船が往来できるようになり、開拓が進められている。 
第4太陽から54億キロ離れた遠天体には、活性物質関連施設が建造され、活性物質関連技術者が月の自宅から5時間かけて出勤している。その上空には沢山の筒状の防護容器が方向を揃えて浮かんでいる。活性物質の関連施設を54億キロも離れた遠天体に移したのは、安全技術が確立したとはいえ万一の場合に備えての措置である。
このように、第4太陽系では、3つの惑星と2つの衛星と遠天体の合計6個の天体を使用し、250億人が暮らしている。
 その他のあまり大きくない、使いやすい10個の天体は天体宇宙船として、すでに第4太陽系から離れたはるかかなたを航行中である。
第4太陽系には第4地球と開拓中の2つの惑星を除き、使いやすい惑星は1つも残っていない。あとはAB2つの大惑星があるだけである。
 宇宙大国を目指すといっても、第4太陽系には開拓可能な天体は無く、少なくとの今の技術では別の太陽系を開拓するのは現実的でない。
この状況に対し月に勤務する技術者と、月から遠天体に勤務する活性物質関連技術者を主メンバーとする〔天体問題検討会〕が、宇宙開発省で開催された。

「この第4太陽系には開拓できる天体は残ってない。第4地球の2つ外側のA惑星は大きすぎるしその外側のB惑星はさらに大きい。現在の宇宙船ではとても往来する事はできない。たとえ往来できたとしても人が働くには引力が強すぎる。引力に対応できるように人体を改造すれば消費電力が大きすぎ、すぐに電池切れになる」
「活性化技術で小さくする事はできないか」
「消滅させる事はできるが、小さくすることはできない。無論消滅させれば、太陽系ごと蒸発してしまうが」
「大きな惑星を、適当な引力の小さな惑星に分割できれば最高だが」
「それには切り分けて小さくする方法しかない」
「あの大きな惑星をどのように切り分けるのだ。活性化技術を応用して、爆破して細かくすることはできるかもしれないが、それでは破片が散らばり、この太陽系はめちゃくちゃになる」
「今開発中の技術だが、接触層活性化技術がある。これは触れた層だけが活性化し、すぐにエネルギーに変換するものだ。インフラ部門から依頼を受けて研究している、硬い岩石を切断する技術だ。イメージ的には岩石の上に刀の刃を押し付けるだけで、わずかな力で岩石を2つに切断できるようなものだ。具体的には不活性処理した腐食されない物質で刀を作り、刃に特殊な活性物質を塗布しておく。特殊活性物質に直接触れた原子のみが活性化し、すぐにエネルギーに変換されるため、その周辺の2mmほどが超高温になり蒸発し隙間ができるので、ほとんど力を加えずに岩石を切り裂く事ができる。どんな物でも力をかけずにスパスパ切れる、夢のような刀だ」
「今確認したら、すでに試作品が完成し、安全性に問題ないので月の研究所に送り届けてあるようだ」

 会議は一時中断され、その現物を見に行く事になると、メンバー全員が体を乗り換えて研究所に赴いた。連絡を受けた研究員はすでにデモの準備を行っていた。試作品は長さ50cmの直線状の刀で、柄は不活性物質で作られ、不活性物質の鞘に収められていた。
 研究員は慎重に鞘から刀を抜き、作業台に2段に積み上げられた、厚さ10cmの硬いカーボン板の上にそっと刃を沿えた。
閃光が走り、すぐに刀を鞘に戻した。上段の板は完全に切断され、下段の板も中ほどまで切断されていた。
威力は想像以上だった。通常物質なら何でも切断する事のでき、まさに魔法の刀である。
 メンバーは体を乗り換えて会議室に戻り、会議を再開した。

「想像以上の威力だ。巨大な刀を作れば惑星でも切断できるかも知れない」
「そう簡単ではない。たとえ惑星を2つに切断できたとしても、切断した半球型の惑星は互いに強い引力で引き合っている。それを引き離す事など到底できない」

 この発言にメンバー全員が黙り込んでしまった。確かに切断してもそのままでは引力が小さくなる事はない。2つに引き離して初めて半球の引力はおよそ半分になる。
こうして使用可能な新天体製造に向けたプロジェクトが始動し、手始めとして物質消失・生成実験が行われることとなった。

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