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SFF人類の継続的繁栄 第6章『質量とエネルギー』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

残された物質の謎

 遠天体にある活性物質研究所の〔物質消失検討チーム〕では、物質全体をエネルギーに完全に変換し、物質を消失させる研究を続けていた。
 小型宇宙船により遠天体からさらに100万キロ離れた領域を実験領域として、超小型ロケットを使用して1グラムの球体を宇宙船から10万キロ離れた領域に浮遊させ、100%活性化させた後、瞬時に100%エネルギーに変換する実験を行っていた。   
 宇宙船に搭載した観測機材により、100%エネルギーに変換されるときの様子が綿密に観測されていた。観測データから、ある種の電磁波が放出された事が確認できたが、それ以上の変化は確認できなかった。まさに球体が忽然と消失した。
 繰り返し実験が行われたが、結果は同じだった。超小型ロケットは安価なものだったが、それでも実験の度に交換するのはもったいないので、最初は球体から100キロ離れたところに避難していた。実験を重ねるたびに球体に近づき、10回目の実験以降は球体からわずか1メートルのところに待機したまま実験が行われていた。
 今回の実験では、球体のわずか1メートルの距離で5回の消失実験が行われた。今までは、その日の実験を終了した後、超小型ロケットは放置されていたが、発生したはずの巨大エネルギーの痕跡があるかも知れないので、ロケットは宇宙船に回収された。   
 回収された超小型ロケットを観察すると、未使用のものに比べわずかだが大きいように感じられた。
残った燃料を排出し、重量を比較すると未使用のものに比べ5グラム重かった。製造誤差にしては大きすぎる。5グラムは1グラムの球体の消失実験を1メートルの近距離で行った5回の実験に符合する。
この結果を受けてチーム内で議論が行われる。

「今まで消失実験は沢山行った。何れも電磁波の発生以外にエネルギーの痕跡は無かった。エネルギーは眠ったままだった。今回偶然に眠ったエネルギーが物体に戻った事が確認できた」 
「まだ確認できたと断言する事はできない。追加実験が必要だ。消失対象のすぐそばに同じ1グラムの球体を置く実験はどうだろう」
「その実験方法で行おう。多分眠ったエネルギーは、核となる物体があればその物体を包むように物体に接して現れるのだろう」
「消失対象となる物体がカーボンで、核となる物体が鉄の場合、カーボンが消失した事によるエネルギーは、カーボンと鉄のどちらの物質に生成されるのだろうか」
「それは核となる物体、つまり鉄ということになるだろう。物質が何だろうが質量がエネルギーに転換され眠ったエネルギーに、元の物質の情報などないはずだ。これも含めて色々な角度で実験してみる必要がある」

エネルギー変換実験

 こうして、1グラムの各種物質により、沢山の実験用球体が作られた。球体以外にも棒状や、中が中空なもの、スポンジ状のものも作られた。沢山の実験用の1グラムの物体と、各種観測機器とを搭載した中型宇宙船が、遠天体を離陸し実験領域に到達した。
 まず、消失対象の物体としてカーボン製の球体を、核となる物体として鉄製の球体を選び、間隔1メートルでの消失実験を行った。宇宙船による観測により、核となる鉄製の球体が2グラムの鉄の球体となる事が確認できた。
核となる2グラムの鉄の球体をそのままにして、消失対象の物体としてアルミ製の球体を選び、同じ条件で実験した。アルミ製の球体は消失し、核となる物体は3グラムの鉄の球体となった。
 次々と、消失対象の物体を別の物質の球体に置き換え、消失実験が行われた。何れの場合も核となる鉄は鉄のままで、質量が1グラムずつ増加した。
15回の実験により16グラムになった鉄の球体を、宇宙船に回収し、宇宙船内の実験室で半分に切断し、断面の調査を行った。
光学検査では1グラムずつ増加した時の年輪状の跡は見られなかった。物質検査の結果、最初の1グラムの球体内部ではカーボンなどの微量の不純物が含まれていたが、その上に形成された層は全て純鉄だった。
 次に消失対象となる物体にカーボン製の球体だけを用い、核となる物体を各種物体に換える実験を行なった。まず核体として鉄を用いた中空の球体を選び実験した。宇宙船による観測では質量が2グラムに増加し、増加した物質の成分が鉄である事は確認できた。大きさの測定から中空の内部壁にも生成されているようだった。棒状の核体の実験では消失対象に近い部分のほうが、遠い部分よりも多く生成されている事が確認できた。
 これらの核体に使用された、質量が増加した物体は宇宙船に回収されると遠天体の活性物質研究所に持ち込まれ、詳しい分析が行われた。
 次の実験は、「変換されたエネルギーが、どの様な物質として生成されやすいのか」がテーマとなった。
カーボンの球体の表面に、各種の元素で作った薄膜を貼り付け、重さ1グラムの核体を製造した。この実験用に製造された核体は、各種機材と共に宇宙船によって実験領域に運ばれた。消失対象としてカーボン製の球体が使用され、各種薄膜を貼り付けた球体が核体となるよう実験が行われた。核体は1回ごとに回転させ、どの薄膜との距離も実質的に均等になるようにして、10回の実験を行った。
その結果が研究所で分析され、原子番号の小さな物質に生成され易いことが判明した。その他にも多数の実験が行われ、物質がエネルギーに完全変換された場合の、変換されたエネルギーが物質に転換される仕組みがわかってきた。

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