SFG人類の継続的繁栄第9章『メッセージが呼び起こす物』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

落胆と期待

メッセージを読み取った隊員はがっかりした。
「すべて理解した。作戦続行」の暗号に期待をかけていたが、第3太陽系人の頭は完全にやられている。それにしても超光速通信を扱えるようになったのは不思議である。普通人の能力では扱う事はとうてい不可能である。偶然なのか、あるいは芝居なのか、通信隊員にもわからなかった。
　第3太陽系と通信ができるようになった事が上田政権に報告された。第3太陽系との連絡担当官が任じられ、担当官の指揮の下、第3太陽系と連絡を取り合うことになった。
　連絡用の通信室は宇宙船から取り外され、通信技術研究棟の一室に移された。担当官の指揮の下、第3太陽系との通信が始まった。先ず、第3太陽系の現状を詳細に報告するように通信隊員に命じた。翌日詳細な報告が届き、担当官から政権幹部に報告された。
第3太陽系の人類を普通知能に戻した事、危険な装置や物質変成機などの最新装置を廃棄した事、関連資料も完全に消去した事、本能に危険物や新規技術への嫌悪感を持たせる事、全てに成功していた。第3太陽系の人類は、完全に第4太陽系の支配下にあり、全く無害な存在である。
　通信隊員はあまりにも完璧すぎる内容と、難しい超光速通信機を見事に扱える事に不自然さを覚え、ある種の期待が膨らんだ。また、この不自然さに、第4太陽系の関係者は全く疑念を抱いてなかった。この事にもある種の期待が膨らんだ。
　第4太陽系の様子を知らせてほしい、という趣旨の連絡が入り、その事を担当官に伝えた。担当官から政権幹部にこの事が報告された。政権内で検討し、ありのままに伝える事を決定し、報告文書が作成され、担当官が報告文書をそのまま連絡するように命じた。
通信隊員は命じられるまま連絡した後、「この連中はやっぱり頭が悪すぎる。この連中と同じ知能なら超光速通信は使えこなせるはずがない」と考え、これは第3太陽系の芝居であり、自分も芝居に加わる事を決め、期待がさらに膨らんだ。
　その後の連絡は担当官の指示に忠実に従い、担当官の信頼を獲得することに注力した。このように自分が芝居に加わった事も、知能の高い第3太陽系の担当者なら気付いてくれるに違いない。

　半年間、通信はそのまま続行された。上田政権は、第3太陽系が思い通りに展開していることへの自信をますます深めた。阿部政権は、第4太陽系をだます自信をますます深めた。通信隊員は担当官の信頼をますます深め、同時に第3太陽系の芝居である事を確信した。

　ある日、第3太陽系の阿部大統領から上田大統領宛の丁寧なメッセージが送信されてきた。自治政府としての丁寧な挨拶の後、「第3太陽系の全体の通信網が整ったので、自治政府が行った成果を確認してもらいたい。第3太陽系をさらに発展させるため、第4太陽系からもっと学びたい。学ぶため第4太陽系のネットに接続させてもらいたい」との依頼のメッセージである。　
　メッセージは担当官を通して政権に伝えられた。
　政権内で簡単に協議した後、申し出は承認され、上田大統領から阿部大統領の努力をねぎらうメッセージを添付し、承認した事を返信した。
　返信後、通信隊員は担当官に「宇宙船の隊員の中に、通信接続のスペシャリストがいる」と宇宙船の仲間を推薦した。この申し出を担当官は了承し、宇宙船の仲間の隊員が第3太陽系のネットへの接続作業を行うことになった。この仲間も無論、芝居作戦を承知している。
　通信の接続作業は簡単に終了した。第3太陽系のネットは核心コンピュータが作り出す「架空のネット」である事を前提とした接続である。
　接続した隊員が担当官に「接続は終了しましたが、超光速通信の手順は複雑なので、第3太陽系の隅々までアクセスするような通信は慣れている我々にしかできない。通信技術者なら誰でも通信できるように手順を改造したいので、関連技術者に協力して欲しい」と申し出た。
担当官は了承し、関連技術者数名が招集され、扱いやすいインターフェースの構築が行われた。これにより通信技術者なら誰でもが第3太陽系の隅々までアクセスする事が可能になった。
　担当官が直接、上田大統領に誰でも第3太陽系の隅々までアクセス可能になった事を報告した。担当官にとっても手柄である。大統領府の通信技術者が選任され、第3太陽系の隅々の動きまで調査を行い、分厚い報告書を提出した。分厚い報告書は担当秘書官により数ページの文書に要約され、上田大統領と政権幹部に提出された。
非の打ち所がない内容であり、第4太陽系政府の閣僚たちは大いに満足した。

芝居の成果

　第4太陽系のネットに接続できた事は大成功である。こちらのネットの情報は核心コンピュータにより巧妙に作成されているため、第4太陽系は第3太陽系の実態を何も把握する事はできない。
念の為、第4太陽系のネットがダミーか否か綿密に調査した。ダミーではなく本物だった。無論、要所は鍵によりブロックされ、特に微小生物の情報などの超機密情報には、第4太陽系人から見れば厳重な複数段の鍵がかかっていたが、第3太陽系の知能の高い技術者にとって、彼らが作った鍵を開けることは容易である。第4太陽系の隅々まで丸見えである。微小生物の住む部屋も、その部屋を取り巻く状況も、第2遠天体の武器の格納状況も全てが丸見えである。
　微小生物の絶滅と武器庫である第2遠天体の完全な破壊に向けてシミュレーションを繰り返し、綿密な攻撃戦略を作成することにした。特に微小生物絶滅には失敗は許されない。絶滅に失敗したら、次にはどのような仕打ちをされるかわからない。練りに練った戦略が必要である。
　作戦実行の前に、宇宙船の隊員を救出する必要がある。阿部大統領は上田大統領宛に、彼らの家族が彼らの帰還を待ち続けている事を綿々と書き綴った。この書簡を読み、上田大統領は彼らの宇宙船での帰還を許可した。この書簡により、第3太陽系が自ら考えている第4太陽系との関係は明らかである。第3太陽系が第4太陽系の完全な支配下にある事を、自ら語っている。
無論、これは芝居戦略の最後の大芝居である。
　武装を全て外され、隊員全員の脳が馬鹿になるソフトに書き換えられ、宇宙船1艦に全員を乗り込ませ宇宙船は月から離陸し帰還の途についた。

微小生物絶滅作戦

　〔微小生物絶滅プロジェクト〕が組織された。先ずは相手の特徴を十分に把握し、関係者が情報を共有する必要がある。
微小生物の特徴が羅列された。

微小で非常に知能が高い。

普段は満足度を最大にしたまま寝ている。少しのことでは目覚めない。

命の危機に瀕する時のみ最大の知能を発揮する。

ほとんど脳だけで、むき出しのため、電磁波、温度などには弱い。

体毎に独立の生命体だが、集合して超コンピュータとなる事ができる。

常時は集合して暮らしている。

生命体数は75億体。　

　微小生物の住む建物の詳細な図面、居住空間の環境、環境を制御しているシステム、全てが手に取るようにわかってきた。意外にも彼らの居住空間は気体で満たされていた。最適な温度にするため、熱を伝達しやすい気体を使用しているようである。水分が供給され湿度も調整されていた。乾燥しすぎて静電気の火花に直撃されれば、直撃を受けた個体は終わりである。彼らにとって静電気は雷同然である。
　ある種の音楽のような気体の振動もあった。気体の成分も高度に調整されていた。脳がむき出しの状態の彼らが満足度を最大にして眠るための最適な環境づくりのためだろう。　
　十分にリラックスして安眠しているところを、一気に攻撃し絶滅する事が必要である。
ネットを介し第3太陽系から第4太陽系の機器は自在に操作可能である。環境システムに侵入し環境条件を変え、どこまで気付かずに寝ているかテストした。
温度は0℃から100℃まで調整できるようになっていた。低温には強いはずなので温度を上げてみた。80℃まで上げたところ少し動き始めた。これ以上温度を上げると目を覚ます恐れがあり、すぐに20℃に戻した。
その他の各種の環境条件もテストした。テスト結果を分析すると、現状の環境条件は最も深く快眠する条件からはかなり異なる事がわかった。逆に最も深く眠る条件にすれば多少の異変があっても目覚める事はない。当然のことだが調整の効く範囲では彼らを絶滅する事は不可能である。彼らを絶滅させるためには別の攻撃手段が必要であった。　