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SFG人類の継続的繁栄 第12章『新体制への移行』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

芝居は続く

 第三太陽系の阿部大統領が第4太陽系の上田大統領に、超光速通信と第4太陽系のネットとの直結に成功し、あらゆるところが監視できるようになった事、監視する事だけはできるが、あの微小生物が作った鍵は難しすぎて操作する事はできない事を報告した。
 上田大統領は政権幹部を集め、阿部大統領からの報告をそのまま伝えた。ネットの中で鍵を操作しているような怪しい動きがあれば、第3太陽系からすぐに第4太陽系のネット担当部門に連絡が入り、すばやくその部分をネットから切り離したり、開けられた鍵を閉めることが可能になる。
 これにより微小生物や拉致した犯人が見つからなくても、ネットをハッキングされる当面の危険はなくなった。
 ネットのハッキングの問題はなくなったものの、見えない敵による武力攻撃の心配がある。上田大統領は政権幹部と相談し、第3太陽系の電磁波砲を搭載したステルス宇宙船の配備要請についての議論を行った。第3太陽系の阿部政権に対する、第4太陽系への軍事基地の配備の要請である。万一、第3太陽系が裏切り、第4太陽系を支配する事も考えられなくもなく、政権幹部から軍事基地の配備に反対する意見も多かった。新たに政権幹部に加わった3人の宇宙船隊員が、その危惧は理論的にもありえないことを利理整然と説明した。
 この様子を見ていた大統領は、従来からの政権幹部と新たに加わった3人とは能力の差は無論のこと、大統領に対する忠誠心にも大きな違いを実感した。従来の幹部の多くは自分の保身だけを考えているようにしか思えなかった。
 第3太陽系に対し、第4太陽系防衛のための宇宙船配備の要請を行なうことになった。阿部政権は当然この要請に応じ、第4太陽系防衛のための大型螺旋型電磁波砲を搭載した、多数の宇宙船を建造した。
しかし、この宇宙船が第4太陽系に到着するまでには、少なくても100年を必要とする。 上田政権は阿部政権に相談し、それまでの間、第3太陽系の宇宙船基地に係留されている螺旋型電磁波砲を搭載したステルス宇宙船艦と、人類史博物館に展示している宇宙船艦とを第4太陽系の防衛の任につかせることにした。
 この間も第3太陽系による芝居は続けられた。第3太陽系は第4太陽系に対し、軍事力や技術力の点でずっと上位の立場であったが、あくまでも第3太陽系の政府は第4太陽系の政府の下の自治政府としての立場を崩さなかった。名目より実質を取るための芝居である。

ステルス宇宙船団の到着

 100年かけて、やっとステルス宇宙船団が到着した。大小あわせて30のステルス宇宙戦艦からなる大船団である。上田大統領を始め、第4太陽系の住民の多くが船団の到着を歓迎した。
 ウルトラ人である神田氏を船団長として、総隊員数200人、移動に使う人体500体と、船団の規模に比べ隊員数は少なかった。その代わり超光速通信を使用した移動装置を搭載してきた。
 神田氏を始めとする200名の隊員は、市民から大歓迎を受けたあと、大統領に謁見し阿部大統領の親書を手渡した。
 一連のセレモニー終了後、超光速通信専用の移動室が大統領府に設置された。これで25光年離れている第3太陽系と第4太陽系との間で、第3太陽系人の往来は極短時間にできるようになった。
 移動室には人体数体が配備され、移動装置担当隊員が3交代で勤務した。阿部大統領から上田大統領に、「超光速通信を使用した体を入れ替えるための移動室が設置されたので挨拶に伺いたい」との連絡があった。大掛かりな歓迎式典は避けたいので、大統領と一部の側近だけに話を留めてほしい、とも付け加えられた。上田大統領はせめて簡単な晩餐会でも開催したいと言ったが、阿部大統領はその申出を固辞した。
 移動装置担当隊員に付き添われ、阿部大統領は移動室から出て、大統領執務室のドアをたたいた。上田大統領は自らドアを開け、阿部大統領を招き入れ、硬い握手を交わした。およそ4500年ぶりの再会である。
 阿部大統領は、どうしてあのような馬鹿な事を行ったのか自分たちにも良くわからないが、と前置きを行った後、ステルス宇宙船を用いて遠天体を破壊したことを深くわびた。
 上田大統領は後ろめたさを感じながら、「きっと微小生物の後遺症によるものでしょう」と言い、続けて、今回の第4惑星系の危機に対して、大きな協力をしてもらい窮地を救ってくれたことに対する深い感謝の意を表した。
 上田大統領が「第3太陽系の協力のおかげで救われたので、私のほうから正式に第3太陽系にお礼に伺いたい」と言うと、移動装置担当隊員はあわてて「それは技術的にできません。体を乗り換えて移動する手段として超光速通信を使用するのは大変に難しく、偶然見つかったというのに等しい技術で、脳のハードウエアが全く同じでないとできません。第4太陽系人の脳を模して色々試してみましたが駄目でした」と言った。
阿部大統領は「引き続き十分に研究し、第4陽系の人が第3太陽系にこられるように関連部門に強く指示しますので、開発が済むまで時間をください」と言った。
 無論これも第4太陽系の人間が第3太陽系に来る事を阻止する芝居である。無論、移動装置には第3太陽系の人体しか使用できないような細工が施してある。
 宇宙船基地に係留されたステルス宇宙船の内、螺旋型電磁波砲などの大型武器を搭載した宇宙船は予め用意された軍事基地に移された。今後の宇宙船の運用は第4太陽系の隊員が行なうことになり、装備品の扱い方の説明が行われた。
 最初にステルス宇宙船で第4太陽系に到着した20人の隊員と、宇宙船団で到着した200人の隊員の内、半数の100人が2隻の宇宙船により第3太陽系への帰路についた。宇宙基地の周辺には第4太陽系の住民が沢山見送りに駆けつけた。
また、神田氏が大統領首席補佐官に任じられ、その他の99人も重要機関の要職についた。神田氏は無論のこと、他の99人の能力も高く評価され、各機関の実質トップに就いた。上田政権を神田政権と呼ぶ人々も現れるくらいだった。

くすぶった火種

実質的に第3太陽系が第4太陽系を支配し、両者の関係はしばらく穏便に続いたが、両太陽系の格差は広がり、第4太陽系の一部の人から不満の声が広がった。
最初は慎重だった第3太陽系も、実質的な支配が続くにつれ傲慢さが目に余るようになってきた。この状況を憂いた一部の住民たちは、秘密裏に集会を行っていた。

「近頃の第3太陽系のやつらのやり方は目に余る。政府も実質的に神田が掌握して、上田はお飾りだけの大統領に成り下がった。それにしても第3太陽系のやつらの能力はすごい。同じ人間とは思えない」
「やつらは超光速通信を利用して2つの太陽系間を自由に行き来している。我々にはそれができない。できない理由は脳の構造の違いにあると聞いている」
「脳を構成するチップは我々よりはるかに高密度で大容量だが、ソフトで使用できる容量に制限を設け人類の能力と同じにしていると聞いているが、疑わしい。もしかしたら人類の継続的繁栄という絶対的な理念を破り、スーパー人間になっているのかもしれない」
「私は、彼らが第3太陽系から持ってきたコンピュータの保守管理を行っている。彼らの仕事ぶりをそのコンピュータで分析すれば、知能の程度がわかるはずだ」

 このような議論の後、監視カメラに捕らえられた数人の仕事の映像をコンピュータにより分析が行われた。
 分析結果は次のようだった。

  1. 常時は特別優秀な普通人程度の能力。
  2. 時々、普通人とは桁違いの能力を発揮する。
  3. 知能は普通人より1桁以上高い。常時は能力を低く見せかけている。

 分析結果を受けて集会での議論が再開された。集会は、今は使われていないカーボン採掘現場の道具部屋で行われた。監視カメラや通信機がないことを入念に確認してから議論を始めた。

「思ったとおり人間ではない。人間の形をした化け物だ」
「化け物というより、我々人類よりはるかに知能の高い生物だ。明らかに人類の敵だ。退治する必要がある。知能が高いので、よほど注意してかからなければ我々がやられてしまう」
「やつらの脳の構造と基本ソフトを入手できれば最高だ。やつらが乗り換え用に使う人体は簡単に手に入る。問題は基本ソフトの入手だ」
「拉致して無理やり頭の中から基本ソフトを取り出すのは危険すぎる。基本ソフトは第3太陽系のどこかに保存してあるはずだ。第3太陽系のネットとは超光速通信でつながっている。こちらからネットの中を確認する事ができる」
「私はその方面の専門家だ。第3太陽系のネットを定期的に観察して、関係機関に報告するのも私の仕事だ。私が第3太陽系の隅々まで観察しても、誰にも怪しまれる事はない。基本ソフトは私が探す」

 基本ソフトが格納されている場所の捜索を行った。今までは漫然と観察し報告書を作成していたが、今回は人類の命運がかかったミッションであり、気合を入れて捜索した。基本ソフトは過疎半球側にある人体研究所に保管されている可能性が高い。
ネットの数々の中継基地を経由して人体研究所まで簡単にたどり着くことができた。当然入り口には厳重な鍵がかかっているはずであり、鍵を外すのは当然大変な作業が予想された。
しかしながら、時間がかかるのを覚悟して解錠を試みると、思ったよりずっと早く鍵を開けることができ、脳ソフト保存場所にたどり着く事ができた。ここにも当然鍵がかかっていたが、驚くことに、この鍵も短時間で開けることに成功した。いつの間にか解錠の腕が上達していたようだった。
そして、その先には予想通り基本ソフトが保管されていた。更新された期日も合致していた。すばやく本能ソフトをコピーして鍵をかけて人体研究所への侵入の形跡を消した。それにしてもあまりにも無防備である。重要な人間の脳の基本ソフトがこれほど簡単にコピーできるのは不思議であった。

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