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SFH人類の継続的繁栄 第8章『新たな人体から生まれたもの』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

新たなシステム、新たな事故

 第5太陽系における人類は3千万人を越え、社会行動には紆余曲折もありつつも生活水準は安定したものになった。そして、ここでもさらなる必要性に対する新たなアイデアの誕生という人類社会のサイクルはとどまることはない。
企業には多くの人々が採用され、また社会規模も大きくなったことにより、出勤時などの脳器の移動に、脳器を専用容器に入れ宅急便業者により輸送することに不便さや、不合理さを感じる人は増えていた。まして人体ごと移動するのはあまりにも効率が悪く、大都市での脳器の運搬のためのインフラについて検討され、脳器専用の近距離脳器脳器運搬システムが構築された。
このシステムは、脳器より一回り内径の大きな、長手方向に8本の磁石が配された筒状の脳器運搬容器に脳器を納め、運搬容器に対応した長方形の断面をもつ脳器輸送チューブの中を運搬容器が高速で移動するシステムである。
チューブの底部に電磁石を直線上に埋め込み、電磁石の極の変化により電磁石と運搬容器とが直線状のリニアモーターを構成し、磁極の変化の速度に応じて運搬容器がチューブ内を移動するシステムである。脳器輸送チューブは、大都市とその周辺に網のように張り巡らされ、支線は各ビルの人体室に接続されていた。
リニア運搬システムが故障した場合には緊急冷却システムが働き、チューブ内は低温に保たれ、たとえリニア運搬システムが故障し脳器の運搬に時間がかかっても、冷却システムさえ動いていれば20時間は脳がダメージを受ける事はない。
脳器の電脳には個人データや配送先や使用する人体等のデータが書き込まれ、そのデータを読み取り、指定された場所の人体室に運ばれ、データに指定された人体が、脳器運搬容器から脳器を取り出し頭部にセットするリニア運搬システムが構築された。
 都市群間との数百キロの移動の場合には、脳器はこのリニア運搬システムにより駅や空港に運ばれ、脳器専用の冷蔵コンテナに積み込まれ、他の貨物と一緒に列車や飛行機で運ばれ、運ばれた先のリニア運搬システムにより目的の人体室に運ばれた。

 ある日、リニア運搬システムに大規模な故障が発生した。常温輸送のためあまり時間が経つと脳が痛んでしまう。緊急冷却システムが作動しチューブ内の温度は5度に冷やされた。しかし一部区間で緊急冷却システムが作動しなかった。
救援隊が簡易冷却装置を持って駆けつけ冷却したが、リニア運搬システムの復旧にはかなり時間がかかりそうで、簡易冷却装置では間に合いそうになかった。救助隊員はその部分のチューブを切断し、脳器を取りだし、緊急時用に各地区に備蓄されている浄化装置にセットした。
浄化装置の数が足りず放置された脳器があった。事故を知り、駆けつけた住民が脳器を拾い、自分の脳器と事故にあった脳器を交互に自分の頭にセットし浄化装置の到着をまった。しばらくして浄化装置が到着し、1人の負傷者も出さずにこの大事故は終息した。

人体の特性

 事故を受け、リニア運搬システムの改善と共に、養液の改良が行われた。特殊血液と糖分からなる養液を大幅に改良し、酸素含有量を桁違いに高めた養液に改良された。
また脳器の改良も行われた。人体から脳器を取り外すと、脳器内の養液管と帰液管が連結し、改良溶液がゆっくりと脳内を自然循環し、浄化無しでも常温で5時間、10℃では50時間、0℃では千時間、脳が損傷しないように改良された。
 自立人体の使用が禁止された事もあり、人口は3億人に達した。脳器輸送システムが小都市にも構築され、脳器の性能も大幅に改良され、極特殊な場合を除き人の移動は脳器の輸送により行われた。
 人体については、家庭で過ごすときに使われる自分専用の人体と、職場やレジャー施設などで使う人体がある。ごく少数の例外はあれど、基本的に家庭で使用する人体は本人の所有物であり、職場やレジャー施設で使用される人体はその法人の所有物であることが当たり前だった。
 人体には体脳があり、脳器には電脳がある。同じ人体を長く使うほど、電脳と体脳との連携がよくなり、人体をイメージ通りに使用できるようになる。
 スポーツ競技を行う場合、平等性の点から人体は同一仕様の人体を使用するようにルール化されている。従って体力や筋力については全く同じである。しかし同じ人体を長期間使用する事により、体脳と電脳との連携がよくなり大幅に技術が向上する。
 無論、本人の脳にもそのスポーツに対する適不適があり、たとえばサッカーの場合、元々サッカーに対する能力の高い人が、同じ人体を使用して自分に合ったトレーニングをする事により、本人の有機脳と電脳と体脳との連携が非常によくなる。
 第1世代、第2世代の有機質の人体を持つスポーツ選手では、生まれながらの身体能力とトレーニングニングによる身体能力の向上により体力面で大きな差が生じた。これに対し第5地球の人間にはトレーニングの有無に関わらず体力面の能力差は全く生じることはない。
しかしながら第1世代、第2世代の人類は、〔脳が直接体の動きをつかさどる〕という単純な体の制御方式のため、脳と体の連携という点ではトレーニングによる効果はあまり大きくなかった。これに対し、第5地球の人類は有機脳が直接体を制御するのではなく、電脳、体脳という2つの脳を介して制御するため、トレーニングによる各脳の連携に大きな差ができる。
サッカーなどの複雑な動きをする競技の場合、同じプロチーム内の選手の技能の差も非常に大きく、第1世代、第2世代のサッカーよりも各選手の特徴が顕著に現れ、見ていても大変面白い。この為サッカーは非常に人気のあるスポーツである。
 遊びでサッカーを行う場合は別だが、サッカー選手は当然、自分専用の人体を所有し使用する。しかしサッカー競技は動きの激しい競技のため、負傷する事も多い。人体に致命的な損傷を負った場合は別だが、通常の損傷の場合、パーツの交換等により簡単に回復する事ができる。パーツ交換では対応できないような大きな損傷を負った場合には、別の人体を使用する事になるが、新しい人体を買い取り、人体病院で今まで使用していた損傷を負った人体から体脳を取りだし、購入した新しい人体の体脳を今までの体脳に交換する事により、すぐに復帰することができる。
極まれにだが、体脳に致命的な損傷を受けることがある。この場合は選手生命が終わったと思われがちだが、電脳が体脳の状況をある程度把握しているので、新しい人体を購入し激しいトレーニングを行うことにより、電脳が把握していた体脳の状況を新しい体脳に伝えることができ、根性のある選手は短期間で復帰する場合があった。

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