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SFH人類の継続的繁栄 第13章『終局のとき』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

第1弾ウイルスの起動

計画通りに5年後に第1弾のウイルスが起動し、第5地球の50億人全員が、〔重要事項には承認が必要〕と急に認識した。しかし一般人には関係なく多くの人は無関心だった。
 政府関係者には大きな衝撃が走ったが、そもそも今まで正式な承認制度がなかった事のほうが問題で、急きょ承認システムの構築が始められた。
 第4太陽系では第5地球の政府が承認システムの構築の準備を始め、準備に手間取っている様子を知り、再び脳を頭にセットしたメンバーが会議室に集合した。今回は上田大統領やその側近も交えての大会議である。無論大統領や側近も脳を頭にセットし、脳と人体との通信を用いずに行った。
議長が、大統領にこれまでの経過を報告し、〔正式な承認システム構築に第5地球の政府が手間取っている〕ことを報告した。大統領は「我々はしばらく会議を傍聴する。我々に気兼ねなく意見を出し合うように」と議長やメンバーに言い、議論が始まった。

「これまでのところ全てうまくいっている。意外にも、第5地球の政府には正式な承認制度が整っていないようだ。佐藤大統領は技術系だ。側近にも技術系が多いようだ。そのせいもあって、承認制度にあまり関心がなかったのかもしれない。ノウハウがほとんどないようだ」
「6ヵ月後に第2段のウイルスが起動する。『重要事項は第4太陽系の所轄省庁の承認が必要』との事が本能に刻まれる。ノウハウがない事はスムーズにこの計画を行うためには好都合だ」
「『我々は第5地球から色々なことを学びたい』という事になっているので、我々が常に第5地球のネットの中を見ている事を第5地球側でも知っている。『我々が第5地球のネットから色々な事を学んでいたら、承認制度の構築に苦労していることを知ってしまった。承認制度の点だけは我々のほうが進んでいるようなので、構築のお手伝いをさせて頂きたい』というような内容で、上田大統領から佐藤大統領に連絡し、実務者同士に任せる方向に持っていけば良い」
「たしかに、こちらの実務者が第5地球の実務者にやたらに難しい説明を行い、第5地球側が頭を抱えている時に第2段のウイルスが起動すれば、第5地球側は返ってほっとするだろう。頭が急に切り替わり、承認を求める先が第4太陽系の所属官庁にかわった事に何の疑念も持たないはずだ。多分、『面倒な承認制度など第4太陽系に任したほうが楽だ』くらいにしか思わないだろう」 
「我々のネットが問題だ。承認制度に疎い第5地球の担当者は我々の承認制度をネットで調べているだろう」
「それには先手を打ってある。『承認制度』で検索すると承認制度に関する大容量のファイルが見つかるようにしてある。そのファイルを開くには1000桁の暗証番号が必要にしてある」

 傍聴していた大統領は立ち上がり「これで決まりだ。このストーリーなら何の疑念も抱かれる事はないだろう。何のトラブルもなく第5地球の実権をこちらで握ることができる」と言い、会議は終了した。

混乱と開放のパンデミック

 会議終了後、数名の参加者と側近が会議室に残り、上田大統領から佐藤大統領に伝えるメッセージの草案を作成した。上田大統領が佐藤大統領に連絡し、草案に沿って承認制度構築への協力を持ちかけた。佐藤大統領は喜んで協力を受け入れた。
 政府の高官を団長として、十数名の担当官と民間のシステム技術者総勢25人が、第4太陽系の承認制度の視察の為、政府が用意した第5地球人専用の体脳付き人体に瞬時通信によりやってきた。
 十数光年離れた第5地球から来訪した訪問団に対し、政府主催の大規模な歓迎式典が行われると、その翌日、訪問団は人体管理省の承認室に案内された。承認室には5000人の職員が勤務し、数々の装置が置かれていた。その物々しさに訪問団一行は仰天した。
 その日の午後、訪問団に対し承認制度についての説明会が開かれた。
 説明会の講師は「これは入門書なのでご存知とは思いますが、おさらいの意味で説明させて頂きます」と前置きし、新承認制度入門という資料を配布し、従来の承認制度を導入した場合と新承認制度を導入した場合の国力の違いについて数式を基に説明した。それらしく体裁を整えた、全く意味のない意味不明の説明である。
 その日の夜、関係者による歓迎会が開かれた。そして、次の日から5日間、観光地への案内と承認制度の説明会が行われた。最終日に上田大統領が見送りに訪れ、訪問団は第5地球に戻った。

 訪問団が第5地球に戻り、訳のわからぬ承認制度についての、訳のわからぬ報告書をまとめ政府に提出した。佐藤大統領と2人の側近が訪問団の団長を呼びつけ報告書の説明を求めた。
 団長は「承認制度が如何に重要でシステムが複雑な事だけはわかったが、正直なところ実際の運用方法などの実務的な内容は誰にも何もわからなかった」と頭を抱えて説明した。この説明に対し、佐藤大統領も側近も頭を抱えて座り込んでしまった。
 その時、第2弾のウイルスが起動し、頭を抱えていた4人は同時に立ち上がった。
 大統領は「こんな面倒な事は丸ごと第4太陽系の所轄官庁に依頼すれば済むことだ」と言い、4人同時に笑い出した。先程まで頭を抱えていたことが嘘のように思えた。
 政府は、重要項目の承認行為を第4太陽系の所轄官庁に委ねることを決定し、佐藤大統領から上田大統領に打診した。上田大統領は「そのような事務的な事は、我々が行いますのでお任せください」と言った。
 政府は国民に、「重要事項の承認行為を第4太陽系の所轄官庁に依頼した」と発表した。ウイルスに感染した第5地球の50億人にとっては当然のことで、国民から何ら反発の意見はなかった。

決め手は階層型コンピュータ

 再び会議のメンバーと上田大統領と側近が、脳を頭にセットして会議室に集合した。
 大統領が、「ウイルス作戦は完璧に成功した。これで第5地球も事実上我々の傘下に入った。皆、よくやってくれた」と言い、議長がウイルス作戦の終了と、脳を頭にセットしての会議は今回をもって終了する、と宣言し解散した。
事務方の担当者が重大項目の定義や、内容別に所轄省庁を決めマニュアルを作成し、承認依頼書の書式と共に第5地球の政府に瞬時通信送付し、正式に承認依頼制度が始まった。
第5地球で重要事項に相当する案件が発生すると、マニュアルに沿って担当者がその案件の承認依頼書を作成し、第4太陽系の所轄官庁に瞬時通信送付した。ほとんどの案件は承認されたが、時々、承認されない案件もあった。是非とも承認が必要な案件は、有機脳を最上層とした階層型コンピュータモードになり、承認されるまでのシミュレーションを行い、第5地球にとって必要な案件は、最終的には全て承認させた。
頭がすごく良い相手には何をやってもかなわない。ウイルス作戦は成功したものの、実利を伴わない成功だった。
 第5地球にとって必要な案件が全て通り、第5地球を傘下に入れることに失敗した第4太陽系では、上田大統領と政権幹部と関連技術者が集まり、対策会議を開いた。

「承認権はこちらにあるものの、第5地球に必要な案件は巧妙に承認依頼され、全て承認せざるを得ない状況になっている。こちらに都合の悪い案件も承認させられている。是非対策が必要だ」
「第5地球にとって是非とも必要な案件は、担当役人がネットと直接つながって、有機脳を最上層とする階層型コンピュータモードになって承認依頼書類を作成しているらしい。こちらにも階層型コンピュータならいくらでもある。承認用の強力な階層型コンピュータを製作して対抗すれば良いのでは」

 各省庁に第5地球の承認依頼を処理するための承認室が設けられ、承認用の階層型コンピュータが導入された。これにより第4太陽系にとって不都合な案件はことごとく承認されなくなり、第5地球の担当役人は頭を抱えた。有機脳を最上層とする階層型コンピュータモードでは本物の階層型コンピュータには勝つことができず、どうする事もできなかった。
 第4太陽系の政府のもくろみ通り、実質的に第5地球を第4太陽系の傘下に入れることに完全に成功した。

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