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SFI 人類の継続的繁栄 第1章『残されていた人類』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

旧地球での目覚め

 のちに第5太陽系人類となる200人を宇宙に送り出した後、地球に残った800人は楽しい夢を見ながら眠り続けていた。
それから3年経った頃、大陸で大地震が発生し、数人の脳器が浄化装置から落下した。そして余震が発生する中、彼らは目を覚ました。状況を把握した数人は、すぐに夢の基である電脳を互い取り外した。そして、まだ眠り続けている仲間を起こすと、長い眠りから800人が目を覚ました。
 そして、今後の事について議論を始めた。

「200人を宇宙に送り出す大事業に成功し、我々も楽しい夢を見ながら3年間も眠ってしまった。大地震が起きなかったらこのまま眠り続けて死んでしまったかもしれない。危ないところだった」
「今後の宇宙開発は継続するとして、我々は何を目標にすれば良いだろうか。3次元スキャナーはあるが、唯一残っていた分子合成プレートは宇宙船に搭載したのでここにはない。有機脳のデータを3次元スキャナーで取り込み、解析する事はできるが、新たに有機脳を製造する事はできない。800人で生き延びるしかない」
「とりあえず外の様子を見に行こう」

 シェルターの扉を開け、探検隊30人が4年ぶりに外に出て、軽車両10台で周辺の調査に行った。コケのようなものは生えていたが草木はまだ無かった。しかし全く予想外の出来事を目にした。
 探検隊が戻り、報告を行った。

「あちこちで人間が活動していた」
「形は我々と同様だがロボットではない。感情を持っているとしか思えない。我々の他にも人類がこの地球に生存していた。埋もれた都市からスマホやコンピュータを発掘している。科学技術はあまり高そうではない」
「しばらくは様子を見ることにして、こちらからの接触は避けよう。我々は当面、地下空間を拡大し、宇宙船の開発やその他の科学技術を発展させよう。分子合成プレートだけはないが、その他の装置は一通り揃っている。あの連中はスマホやコンピュータから半導体チップを手に入れているのだろう。我々には第2世代の人類が作った最新の半導体製造装置がある。メモリーやプロセッサーはいくらでも作ることができる」
「質量電池はほとんど宇宙船で持って行った。地下空間で暮らすとなると電源の確保が問題だ。工夫すればわずかな太陽光は得られるが、帰液を養液に浄化する浄化臓器には大きなエネルギーが必要だ。800人が本格的に活動する電力を確保するのは大変だ。」
「体を動かすのに必要な電気エネルギーを無くす事はできないが、脳の役目は情報処理だ。情報処理には基本的にはエネルギーを必要としない。今後の人口の増加も視野に入れ、エネルギーをほとんど必要としない脳の設計を行おう」
 
 中野氏がリーダーに選出され、太陽光の取り入れを工夫した地下空間の拡大工事、宇宙船建造、人口の増加、の3つを当面の主な目標とする事にした。

人口増加に向けて


シェルターとして選んだ場所は元々、黒鉛鉱山の採掘場だった為、カーボンの入手には全く問題はなかった。黒鉛を掘削し、カーボン変成機で強力な構造材に変成し、地下空間を大幅に拡大した。太陽光の取り入れにも工夫をこらし、それなりの電力の確保にも成功した。拡大した地下空間の一角で大型宇宙船の建造が開始された。
半導体やバッテリー製造に必要な希少資源も黒鉛採掘の際の副産物として入手でき、半導体の大量生産が可能となった。その為、人体を制御する制御回路、楽しい夢を見るための手段として開発された電脳も進化した。
電脳の進化により脳の機能の多く、特に記憶や計算、〔視覚などの感覚器官の情報処理〕の大半を有機脳から肩代わりできるようになった。
このような状況で、脳開発担当技術者による議論が行われた。

「脳の機能の内、大半は電脳で肩代わりできるようになった。思考に関する部分も肩代わりできるようになるだろう。問題は自我の発生だ。自我をもつ、意思を持つ人間でないと意味がない。有機脳はどうしても必要だ」
「有機脳が少しでも残ってしまうと浄化臓器が必要で目的がかなわない。それに分子合成プレートがないので有機脳の作りようがない」
「3次元スキャン装置を活用し、誰かの脳をスキャンし、原子レベルのデータを取り込み、超高性能コンピュータで自我や意識の発生の仕組みを解き明かし、それをそっくりそのまま電子回路に置き換えれば良いのではないか」

 1人の技術者が被験者として手をあげた。被験者の脳を脳器ごと3次元スキャン装置で取り込み超高性能コンピュータにより解析を試みた。しかし、静止データを基にした解析では脳が活動している状態の解析は出来るはずもなかった。
 この為、刻々と脳の動く状態を記録するための、原子レベルのスキャン装置を開発する事になった。時間軸を含めた原子レベルの4次元スキャン装置の開発である。
 大量の半導体チップが生産され、5年をかけて開発に成功した。超高性能コンピュータの能力も大幅に引き上げ、最終的に3層の階層型コンピュータが開発された。
 4次元スキャン装置により、被験者の脳の動きを100分間原子レベルで記録し、階層型コンピュータにより解析し、自我や意識の発生の仕組みが解明された。

 解明された仕組みを更に階層型コンピュータで分析し、シミュレーションを繰り返し、綿密に設計図が作成された。失敗の許されない挑戦である。万一、中途半端な自我や意識がある脳が動き出し、「これではまずい」という事でリセットする行為は、自我を持つ生命を殺すことになるからである。
 何度もシミュレーションを繰り返すことで、ようやく最終設計図が完成した。これを基に電子脳が作製され、被験者の記憶をしかるべき位置のメモリーに書き込まれる。自我や意識などに関わる、〔人間の脳の根幹部分〕を除いた記憶などは、その後のバージョンアップを考慮して、根幹部分から独立して配置した。
 いよいよ根幹部分に電源が供給された。一瞬大きく目を見開き、すぐに柔和な表情になり、コピー元の被験者との会話が始まった。
直前までの記憶がコピーされているので、電子脳により新たに誕生した者は、これまでのほぼ全ての経過を知っているためスムーズに会話できた。しかし名前がないと会話がやりにくいので、コピー元の長島氏の名前にちなんで中島氏と命名した。
 他の技術者が2人のやり取りを綿密に観察した。長島氏はいつもと同様に、時々前にした話を繰り返していた。それに対して中島氏にはそれが無かった。
その事を2人に指摘すると、長島氏は「会話の途中で話している内容を忘れてしまう事が時々あり、同じ話をしてしまう」と答えた。
中島氏は「記憶が鮮明すぎる。記憶力が格段に良くなったようだが、あまり些細な事柄も全て鮮明に記憶しているのは不自然だ。やがて重荷になりかねない。しかし重要な事に対する記憶力は良いほうがよい」と意見した。

「記憶場所を複数設け、記憶の内容別に仕分けて適正な場所に入れ直せば、重要な事はしっかり覚え、どうでも良い事はぼんやり覚えていたり忘れてしまうようにする事はできる。あなたを実験台にして良いか」
「実験台として手をあげた長島氏をそのまま受け継いでいる。実験台は大いに結構」

 記憶やそのほかの小実験が繰り返され、中島氏にとっても周りから見ても違和感は解消された。しかし長島氏にとっては、性格や記憶は自分とそっくりだが自分よりかなり頭の良い人が誕生し、複雑な思いだった。

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地球の様子

 脳の根幹部についての研究も進み、各種能力や性格を備えたバラエティに富んだ人を誕生させる事が可能になった。この技術を用い、新たな人間を誕生させ、50年には人口は10万人に達した。
地下空間も大幅に拡大され、エネルギー源として質量電池の製造にも成功し、太陽エネルギーに頼る必要がなくなった。この間、他の技術も大きく進展した。活性物質を使用したエンジンの技術も大幅に進展し、巨大な宇宙船の設計も始まった。
 ダイオード膜も発明され、ステルス偵察ジェット機も数機製造された。

地上の様子を探るための探査チームが編成され、ステルス偵察ジェット機で地球上のあちこちを偵察した。
探査チームによる偵察結果が次のように報告された。

  1. 大きなひび割れがあちこちに見られ、巨大地震が頻発している。
  2. 地表の大半は小惑星衝突時に発生した灰で覆われている。
  3. 降灰はなく、気象は小惑星衝突以前の状態に戻っている。
  4. 木は見られず、所々がコケや雑草などと思われるわずかな緑で覆われている。
  5. 小惑星が衝突した領域と反対側の領域を中心に500万人程が暮らしている
  6. 我々の技術とは程遠いが、火力発電や飛行船等、それなりに技術は進展している。
  7. 人口が集中している領域から2千km離れた領域に、1万人ほどがキャラバン隊を組み道を造りながら移動していた。移動中に大雨が降り土石流に見舞われた。この様子は、彼らの特徴を知るために接近して詳しく観察した。観察結果は次の様である。

〔50名ほどが土砂に飲み込まれ、30名ほどはすぐに救出され、小型重機により10名ほどが救出された。6名ほどが手足を失うなどの重症を負っていた。切断された手足の様子から、体は我々と同様に無機物で作られていた。耐え難い痛みがあったらしくもがき苦しんでいた。すぐにスイッチらしきものを操作され、痛みから解放された。4名はばらばらの状態で掘り起こされ、人の部品らしきものが回収された。回収中に雨が激しくなり、再度土石流が発生し、救援は中止された。救援隊は死者を悼むような仕草をし、その場を立ち去った〕

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