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SFI 人類の継続的繁栄 第12章『脳内マッチング』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

1人3脳2体制度

主人格と2つの副脳人格が同居シェアする案は、概ね実行されることが決まっていた。これに伴い、政府は、関係者及び、国民の意見を聞き、個別の多様な意見をまとめ上げ、実行に足る政策になるよう細部をつめるようプロジェクトへと命じた。
プロジェクトは再度召集され、細部についての議論を行った。

「政府から概ね了解との意見をもらった。この会議に参加しているプロジェクトのメンバーは全員、実験的に家庭にある人体の副脳とも通信でつながっている。この状態についても議論しよう。ここでの議論する人格は3人が平等な時間で参加する事とする。タイムキーパーはここにいる副脳が務めること」 
「このプロジェクトに参加しているメンバーは、今日までの10日間この実験的な状態で過ごしたが、あまり問題はなかったようだ。しかし誰がどのタイミングで表に出るかは難しい。私は元々控えめなところがあるので、私から学習した副脳の2人もあまり表に出ようとはしない。この点については改良が必要だ」
「まだ3人の統合についての何のソフトも使用していない。必要と思われる色々なソフトを試作中だ。3人が表に出る自動ソフトは電子脳に組み込む事にする。現状では副脳はソフトが満載だが電子脳の容量の7割は未使用だ。3つの脳が瞬時通信でつながっているので、その種のソフトはどの脳に組み込んでも同じだ。新規のソフトは電子脳に組み込む事にする」
「本題だが、3つの脳が瞬時通信でつながり事実上1つの脳になる事は決定したが、色々な例外がありそうだ。特に職業によっては自我のない人体を使用する場合がある。この場合には自我を持つ脳は電子脳と家庭で使用する人体の副脳の2つだけだ。大半の人が3つの脳を持つのに、2つだけの脳しかもてないのは不公平だ」
「必ずしも不公平とは限らない。脳が2つだけなら表に出る割合が多くなる。家庭では自分の人体の副脳が、仕事場では電子脳が表に出るようにすれば良いのでは?」
「必ずしも表に出る時間が多くなることを望んではいない。脳が3つのほうが半分眠っている時間が多くなる。むしろそれを望んでいる人のほうが多いだろう」
「公平性の面から脳は3つに統一しよう。仕事場であまり使用しなくても職場の人体を設けよう。その人体を自我に目覚めさせるのは今では簡単なことだ」
「逆に大統領のように、重要な人物にはもっと必要なのではないか」
「平等性の点を最重視しなければ国民が納得しない。それに視察等で地方に行く場合には、一般人と同様に人体を乗り換えて行くよりも、一般人は使用しない大統領専用機や専用車両を使用し、大統領専用の人体で時間をかけて行くほうが箔がつく」
「レジャー施設やスポーツジムや建設現場などで使用する、同じ人が連続して使用する事のない、そのままでは自我に目覚める事のない人体についてはどのようにするべきか」
「副脳を持つ人体は電子脳の2倍だけにして、その他の人体から副脳を取り外し、あまり知的でない制御回路に置き換えるのが妥当だろう。自我に目覚めた人体と、単なる装置としての人体は明確に分けるべきだ。万一装置としての人体が何かの弾みで自我に目覚めたら、ますますややこしくなる。早く制御回路に置き換える必要がある。1人の電子脳が自我に目覚めた副脳のある人体を2体所有し、他の人体は重機と同様の装置としての位置付けにして明確に分けるべきだ」
「例えば、仕事が終わりスポーツジムでトレーニングする場合、職場用の人体からスポーツジムにある装置としての人体に乗り換えてトレーニングを行なう時はどのようになるのだ」
「この場合、主人である電子脳は3つの人体と瞬時通信でつながることになるが、あくまでも電子脳と2つの副脳とは瞬時通信で一体化し、一体化した脳がジムに供えてある装置としてのトレーニング用人体を瞬時通信で使用する、という考え方にすれば矛盾はない」
「3つの脳が瞬時通信により一体化するという考え方ならば、電子脳の容量を3倍にして最初から3倍の電子脳を作り、人体には制御回路だけ設ければ良いのでないだろうか?」
「そのような方法は誰もが望むはずはない。それを行う事はある意味では3人を殺し、新たに3倍の能力をもつ1人を誕生させるということだ。君はそうされても良いのか?」
「使用されていない時の人体はどのようになるのか? 使用されていない時の人体にも自我をもつ副脳があり、その副脳は瞬時通信で他の脳と一体化している」
「副脳が他の脳と一体化していても、その人体は無意識に色々なことをしているだろう。簡単な雑用を行ったり、休息したり、体の手入れをしたり、無意識に何かしているだろう。しかし重大なこと、危険な事は決してしないだろう。第1世代や第2世代の人類が無意識にかゆいところを搔いたり、肩が張ったら肩をたたいているのと同じだ。無論ソフトを小修正し、もっと積極的な行動を行えるようにする事もできる」
「混乱してきた。電子脳と副脳の根本的な違いはどこにあるのだ?」
「電子脳はシェルターに格納され、副脳は人体内に格納されている。格納されている場所の違いだけだ」

 このような議論を経て、1人が自我を持つ3つの脳と、2つの人体を所有する、1人3脳2体制度が法制化され、3つの脳を合理的に統合するための高度なソフトが開発され、50億の電子脳に組み込まれた。

脳同士の性格と相性

 順調に運用がはじまり、大半の人には好評だったが、極一部の人には問題があった。
 元々、電子脳は前世代の人類の有機脳をそのまま電子に置き換えたものである。根幹部のデータは100人の有機脳のものを使用し、バランスの取れた活発な社会の実現に向けて、様々な能力や性格の人が適正に分布するようにしていた。電子脳だけの場合には狙った通りの結果が出たが、3つの脳が一体化する事は当然計算外のことだった。
 特に問題だったのは、ナルシストの性格を持つ人の場合である。電子脳がナルシストの性格を持つ場合、電子脳から学習した副脳も当然ナルシストの性格を持ち、ナルシストの性格を持つ3つの脳が一体化し、脳内で主導権争いが起きてしまった。 本人の希望もあり、ナルシスト的な性格を押さえ目にするために、根幹部のソフトの修正手術が行われ、脳内のもめごとは収まった。
この様な事件を受けて、プロジェクトの議論が始まった。

「電子脳には元々色々な性格や能力を持たせてある。副脳は電子脳から学習しているので電子脳と同じような性格になってしまう。3つの脳が一体化したとはいえ、それぞれに自我を持っている。全く同じ性格の3人が寝食を共に行動していたらどうなる。3人とも自己主張が強ければすぐに喧嘩が始まる。逆に自己主張が弱すぎる3人組では何も決められない。性格は別々で相性がよいのが一番良い」
「相性が良い組み合わせとは、例えばどの様な組み合わせか?」
「例えば、1人目が出たがり屋で、2人目が黒幕的存在で、3人目が常識的性格だ。目立つ場所には出たがり屋が出て行き、黒幕的存在が出たがり屋を裏で操る。常識的性格者は、2人のやり方をチェックし指導する」
「現在は同じような性格で同じような能力を持つ3つの脳が合体している。いざという時には3倍の能力を発揮するが、普段は1人が表に出て、残りの2人は半分眠っている。性格や能力が異なれば、いざという時には3倍以上の能力が発揮できる。3人の相性がよければもっと能力を発揮できる」
「実行するか否かは別として、更に安定して活気にあふれた社会を作るために、電子脳の50億人と副脳の100億人を合わせた150億人を今の組み合わせを解くと仮定し、新たにどのような組み合わせにすれば最も良いのか、階層型コンピュータで調べてみよう」
「性別についてはどうする、現状は男同士、女同士の3人が一体化している」
「男女が混じるとややこしい。肝心な性行為もできなくなる」

 このような議論を経て、150億人を男女75億人に分けて、最良の組み合わせを計算する事にした。男だけでも、75億人から3人ずつの25億人を組み合わせる、膨大な組み合わせである。
先ずは150億人全員の脳内データをコンピュータに取得しなければならない。しかしこれはあまり難しい作業ではない。150億人全員の脳は既に瞬時通信網につながっているからである。

最高の相性

 超高性能の階層型コンピュータが最良の組み合わせ作業を開始した。
対話しながら実験の目的を最上層に入力。最上層が最適な実行計画を作成し、2層目の管理層に実行を命じた。管理層から数層の中間層を介し最下層の1万個の並列コンピュータに150億人全員の脳内データの取得を命じ、実行された。
 全ての組み合わせ結果が管理層により解析・分析され、最上層に報告された。最上層は分析結果を更に深く分析し、最終結果を報告書にまとめた。 
報告書によると現状の組み合わせによる評価を10点満点中5点とすると、この方式による最適な組み合わせを行うことによる結果は7点だった。備考欄には、同性同士の組み合わせではこれが限界であり、男女混合の組み合わせを示唆していた。
 この結果を受けてプロジェクトの議論が再開した。

「150億人を50億人に統合する最適な組み合わせでも、現状の5点から7点に改善されるだけだ。満点には程遠い。多大な費用をかけて行うのには中途半端だ。これでは国民の支持も得られないだろう。満点とはならなくても8点以上は必要だ」
「備考欄に男女混合について示唆されている。男女混合について考えてみよう。電子脳にも男性脳と女性脳とがあるが電子脳は元々人体を持たない。それに対し副脳は人体にあるので明確な男女がある。少なくとも家庭のカップルは男女カップルでなければならない。そうしないと性交ができないしカップルの意味がない。職業にもよるが、職場で使う人体は男性の人体でも女性の人体でもかまわないだろう。電子脳については一応男女の違いを設けてあるので家庭の人体と同じ性の方が良いだろう。男女混合を絶対条件とすると、職場で使う人体だけ男女が逆になるということだ。これで試してみよう。家庭の男女の人体を中心とした方式だ」

 早速階層型コンピュータの最上層にそのことを入力した。150億人全員の脳内データは既に取得済みである。前回の経験があるのでより効率よく計算され、短時間で結果が出た。
結果は1ポイント上がり8点だった。
備考欄には「家庭で使用する人体だけは現状のままの人体に固定し、その他は男女関係なく組み合わせを行うことを薦める」旨のコメントがあり、早速それを試した。結果は9点だった。
備考欄には「家庭で使用する人体だけは現状のままにして、2つの電子脳と職場の人体の副脳とを男女関係なく3つの脳を2つずつ一体化し、家庭の男女の人体を中心とした2人6脳4体制度を推奨する」旨のコメントがあり、更に家庭の2つの電子脳と2体の職場の人体の副脳をTPOに応じて組み合わせを変える事も示唆されていた。
 早速、その示唆を加えて計算を行った。結果は10点だった。
備考欄にはただし書きとして、6人が必ずしもシミレーション通りにTPOにあわせて組み合わせを変えるかまでは予測がつかない。しかし学習効果が働き、慣れてくれば限りなく満点に近づくであろう、とコメントされていた。
 この結果を受けてプロジェクトでの議論は続いていった。

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