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SFJ人類の継続的繁栄 第11章『2つの文明の不易流行』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

裏半球の整備へ

 隕石への当面の対策が終了し、移民戦略室で生活の建て直しについての議論が始まった。

「全員が洞窟に避難する事ができた。洞窟内の光についても当面の問題は解決した。しかし洞窟内で避難しているだけで他に何もできない。洞窟内の環境を整備するにも道具が全くないので手作業でしかできない。我々と連絡するにも洞窟同士で連絡するにも通信のインフラが整っていない」
「電磁波による通信は洞窟内では使えない。瞬時波なら洞窟内でも使える。瞬時通信装置はいくらでも作れる。主な洞窟は500個で、その周りに100個から2000個ぐらいの小さな洞窟があるようだ。とりあえず拠点となる500個の洞窟に瞬時通信を導入しよう。導入できない周りの洞窟には、当面は拠点となる洞窟から連絡してもらうことになるが、通信は当面これで解決できる」
「ただ、洞窟内の環境整備には重機や道具が必要だ。宇宙船で運ぶには量が多すぎる。道具は現地で製造するようにしよう。そのために主要な洞窟にシリコン変成機を設置することを提案したい」
「ちょっとまってくれ、シリコン変成機とは何なのです。我々には全くわからない」
「シリコンを材料にしてほとんど何でも作る事のできる機械だ。18人を呼び戻してくれ。使い方を教える。シリコン変成機を1台ずつ持たせて主要な18個の大洞窟に設置すれば、そこでスコップでもハンマーでも何でもできる。軽車両でも重機でも一部の部品以外は作ることができる。我々の人体の大半もシリコン変成機で製造している」

 四足人の生活再建に向けてあらかたの方針が決まり、この方針はすぐに実行に移された。裏半球から四足人18人が呼び戻されシリコン変成機の使い方が教授される。その間、裏半球の洞窟に設置される500個の瞬時通信装置と18台のシリコン変成機が準備された。
準備が終わると6隻の小型宇宙船に設置される機器を搭載、18人は裏半球側に戻ると、18個の主要な洞窟にシリコン変成機を設置した。
 彼らは、自治政府を設ける予定の洞窟に四足人技術者100人を集め、シリコン変成機の使い方と瞬時通信機の使い方を伝授する。伝授された技術者達は500個の主要洞窟に瞬時通信機を設置し使用法を伝えた後、18個の大洞窟に設置されたシリコン変成機を使い道具を作り始めた。
 裏半球側でも洞窟の底には良質な石英が大量に埋まっている。適当な大きさの石英を探し、シリコン変成機で各種道具を製造した。トロッコやレールも製造し、スコップで掘り出した石英をトロッコに乗せ工場に運び、シリコン変成機で更に高度な道具を作り、洞窟内の環境が整備されていった。
 また、工場のある大洞窟に大量の電気モータが運び込まれ、小型重機や軽車両の製造も始まった。削岩機も製造され、洞窟間を結ぶトンネルの工事も始まった。

活性物質の使用問題

 18人からの報告や主要洞窟からの直接の報告により洞窟内の整備が計画通り進んでいる事を知り、移民戦略室は安堵していた。そこに四足人の暫定自治政府からトンネル工事の工法変更に対する許可申請が入った。削岩機による工法だと能率が悪いので自分達が使っていた工法を使用させて欲しいとの申請だった。具体的な方法を聞くと特殊な活性物質を使用する方法で、現状のやり方に比べ100倍も速い、ということである。
「活性物資を使うとなると我々では判断できない」と四足人に伝えると、不思議な表情で事務的に工法を説明した。四足人にとっては極当たり前の技術のようである。
 材料はどうするのか、危険はないか、と訊ねたところ、「原料は少しだがこの星の洞窟にもあった。危険な扱い方をすれば無論危険だが、そうしなければ全く危険でない」との答えだった。
 このことをありのまま緊急移民対策省に報告したが、省の長官も判断ができず頭を抱え、最終的に移民戦略室で判断するように命じられた。
四足人の暫定自治政府から、「許可は、まだ下りないのか」との問い合わせが繰り返しあった。暫定自治政府は、人類が自分達のため惜しみない努力をしてくれているのに、このような簡単なことに対しなぜすぐに許可が下りないのか理解ができなかった。
 移民戦略室では専門家を交えて議論されていたが、その中で四足人のメンバーは「我々は日常的に活性物質を扱っていた。事故が起こった事もあったが、重機の誤操作や宇宙船の事故に比べれば極小さな問題だ」と許可を求めた。

「活性物質は通常物質を活性化させる。そのまま放置しておくと星全体が活性物質に変換し、質量が全てエネルギーに変換する大爆発を起こす。非常に危険なものだ」

活性物質は一つの文明に崩壊をもたらせたものだ。人間側の活性物質の専門家の意見は、人間にとっての常識であり教訓でもある。

「無論、通常物資を活性化させる特性の活性物質を作る事はできるだろう。しかし我々が日常で使っている活性物質は通常物質を活性物質に変換させる事はない。全く安全で使いやすい物質だ」

四足人が話すことが真実なのかは未検証でわからなかったが、これまで人類に起こったような絶望的な事態にはならないという実績と、なにより彼らの熱い要望に折れた人類側は、暫定自治政府に許可が遅れたことをわびて使用を許可した。
活性物質の使用によりトンネル工事は急ピッチで進み、洞窟間の往来が可能となった。洞窟内の不安定な場所の補強工事も進み、人間の支援の下、安定した生活がおくれるようになった。

並走する二文明

暫定自治政府の長官が緊急移民省の長官に対し「戦争を仕掛けた事に対する謝罪、戦争を仕掛けた相手を死の淵から救ってくれた事に対する最大限の感謝、裏半球側への移民を受け入れた事に対する最大限の感謝、洞窟内での生活を可能にするために数々の装置を送ってもらった事に対する最大限の感謝を正式に行いたい」との申し出が暫定自治政府の要人から移民戦略室の担当者に入った。
移民戦略室内でこの申し出に対する検討を行った。

「ややこしい問題がある。バーチャル側に対する配慮の問題だ。我々も四足人もリアルな人間だ。しかも少し前までバーチャル政府の多大な支援を受けて四足人と戦ってきた。バーチャル政府側から見れば、一緒に戦ってきた我々リアル政府が、戦った相手と仲良くするのは面白くないだろう」
「謝罪や感謝の表明は無論バーチャル政府側にもする必要がある。謝罪や感謝を表明するのは、表明する側から相手側に赴くのが筋だが、バーチャル世界に行く事はできない。行けないので、丁寧な長々とした文章で謝罪と感謝の表明を行えば良い。選択肢は全くないので考える必要もない。文章の内容だけを十分に吟味して表明すれば良い。バーチャルの世界への謝罪やお礼は、文章という情報で行う以外に方法はない」

 移民戦略室で報告書を作成し、緊急移民省に提出した。この報告書を受け、緊急移民省の関係者が議論し、次のように扱う事が決まった。 

 

  1. 正式な謝罪と感謝の表明はリアル政府とバーチャル政府両政府に対し文書で行う。
  2. 四足人の暫定自治政府を正式な自治政府にする。
  3. 自治政府は両政府の下に置き、リアル政府が支配の実務を担当する。
  4. 暫定自治政府のヨツ長官を自治政府の大統領とする。

 自治政府のヨツ大統領が緊急移民省の長官に正式に感謝の意を表すために二足人の政府庁舎を訪問した。謝罪と感謝の意を表した後、緊急移民省の長官に次のように提案した。

  1. 裏半球側の資源の開発は四足人が行い表半球側に供給する。
  2. 活性技術を全て提供する。
  3. 自分達が住んでいたシリコン星の汚染物質の浄化について合同の〔浄化プロジェクト〕を設ける。
  4. 減り続ける四足人増加の手法を研究するための〔人体研究プロジェクト〕を合同で設ける。

この4つの提案はリアル政府内で検討が行われ、特に問題なく承認された。 
 表半球側の精錬工業地帯の近くに、二足人政府と四足人自治政府共同の庁舎が建設され、両政府合同の2つのプロジェクトの本部もそこに置かれた。

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