MENU

Novel

小説

SFJ人類の継続的繁栄 第12章『進化と文明の起源1』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

四足人はどこからきたのか

二足人政府と四足人自治政府による共同プロジェクト[人体研究プロジェクト]の最初の会議が開催された。
 はじめに二足人側から、地球で有機物の生命が誕生して進化した過程が四足人側のメンバーに説明された。この説明を受けた後、四足人のメンバーから彼らの文明との違いについて率直な感想ともいえる声が漏れ出る。

「地球では極原始的な有機物の生命から少しずつ進化し、多様な生物が出現し、その頂点に人類が登場し技術や文化を進化させたということだが、我々のあの星には進化の跡がない。原始生物の痕跡もなければ、他の生物もいないし、いた痕跡もない。我々には進化もライバルもない。成長もしないし、死もない。無論子供を生む事も育てることもない。昔からあの星で暮らしていた記憶はあるが、暮らし始めたときの記憶がない」
「とにかく我々は地球で生物が進化したのとは全く別の方法であの星に存在していた。我々の昔の記憶には文明はなかった。我々が技術を進展させ文明を開化させたのは事実だが、我々がどのように誕生したか全くわからない。我々のほかに生物はいなかったが、不思議なことに初めから我々の体とそっくりな機械があった。あの機械と我々との違いは脳の有無だけだ。あの機械と我々との関係がわかれば我々が誕生した秘密がわかるかもしれない」

これを聞いた二足人のメンバーは、興味深そうにその意見に答える。

「確かに機械の兵士と四足人は体だけ比べればそっくりだ。機械の兵士の腕は銃器になっていたが、あれは戦闘用に腕を銃器に変えただけだ。彼らと機械の兵士とは元々は同じだった可能性はかなり高いように思える」
「第1世代末期でも第2世代でも人型ロボットがあった。人型ロボットは人が行う仕事を行うために作ったものだ。ロボット技術が進めば進むほど、どんどん人間に近づいていった。そっくりだという理由で元々同じものだという事はできない」
「しかし彼らが機械の兵士を作ったのではない事は確かだ。はじめから有ったと言っている。元々同じだった機械の一方が脳を持って知的生物に変化したと考えるのが自然だ。機械兵士と彼らの体とは同じ素材でできている。また我々の体、シリコン変成機で作った我々の体と同じようだ。彼らの体も機械兵士の体も、誰かが何かの目的で機械を用いて作ったのだろう。脳以外は自然生物ではない」
「体は作られたものだが脳だけが自然生物の脳として進化したという事か。自然生物の進化は普通何世代もかけて行われる。1世代で脳が進化する事などありえない」
「進化と考えると不自然だが、進化から成長に言葉を置き換えれば説明がつく。体は無論だが、脳についても機械兵士の電気回路と元はほとんど同じで、何かのきっかけで下等生物の脳になり、徐々に高等生物の脳に成長したと考えられる」

 両メンバーが合同で機械兵士の体の組成と戦死した四足人の体の組成を詳しく分析した。分析結果は予想通り全く同じだった。 
 次に機械兵士の電子回路と戦死した四足人の脳を比較した。無論大きさも全く異なり、電子細胞で覆われている点は異なるが、電子細胞を除去すると、そこには機械兵士と同じ電子回路があった。
 機械兵士と四足人が元々同じ機械だったのは明らかである。ある時あの星に、頭部に電子回路と受信装置、発信装置が組み込まれた四足の人体が大量に生産され放置された。その内の一部の頭部の電子回路に〔シリコンをベースとした数種の半導体からなる電子細胞〕が結合し原始的な脳を持つ生物に変化した。そして、その後徐々に脳が進化し、今の四足人になったのは確実だった。

機械と人の違い

四足人は元々ロボットであり、それが進化して今の形にアップグレードされたというプロジェクト内の仮説が確実になった後も、両メンバーによる議論は行われた。 

「我々は自然生物だと思っていたが、実際には四足ロボットが起源である事がわかった。これには少々がっかりした」
「我々、二足人は自然生物の人間をできるだけ忠実に再現した機械をベースにした生物だ。脳も完全な電子回路で出来ている。その点では我々は君たちがうらやましい。君たちの脳はシリコンベースの半導体が電子細胞になり、進化を遂げた。肝心の脳だけ見ればあの星で進化を遂げた自然生物ということができる」
「誰がどういう目的で四足ロボットを製造し、どのようにして電子細胞がどの頭の中でも同ように進化を遂げてきたのだろうか」
「一度に全部の謎を解くのは無理だ。一つずつ解いていこう。先ずは機械のままのロボットと、命を持った君たちとの違いがどこあるかを解明しよう」 
「四足機械兵士と四足人との頭部の中の構造に違いが2点ある。1つは無論脳の有無で、1つは胴体に頭部を固定しているナットの数だ。機械兵士の場合はナットの上から、そのナットをカバーするような構造の大きなナットがついているが、四足人にはそのナットがついてない。先ずはこの点から調べよう」

 頭部を固定しているナットの違いについて合同で詳しく調査を行い、次のことが判明した。

  1. 両方に用いられている下側のナットはシリコンを主成分とした全く同じもの。
  2. カバーナットの主な目的はナットが緩まないようにするもので、ナットと同じ材料が使用されている。また電子回路をカバーする目的で片側が大きく平らに作られている。
  3. 四足人にもカバーナットが取り付けられた痕跡がある。その痕跡からカバーナットはナットと僅かに違った成分の材料から作られている。
  4. カバーナットは外れたのではなく、頭部内で自然と風化してなくなったようである。
  5. ナットの上面に食い込んで残った微粒子を分析すると、シリコンをベースとした6種類の半導体だと判明した。
  6. カバーナットと脳の重量はほとんど同じである。
  7. 脳を形成する電子細胞の基はナットが風化してできた6つの半導体である。

この調査結果を受けてプロジェクトが再び開催され、脳についての議論が行われた。

ミスと新たな可能性

「カバーナットが風化して、6種類の半導体になり電子細胞を形成し、風化するごとに電子細胞の脳が大きくなり進化を遂げた。この仮説で間違いないだろう」
「つまり、誰かが材料の選択をミスし、その材料で製造したカバーナットが風化して、結果的に我々が誕生したということなのか、我々はミスから誕生したということなのか。そうだとしたらなんとも残念な起源だ」
「その通りだ。君たちはミスから誕生した。しかし残念がることはない。地球上で生命が誕生し、知的生物へ進化したのも全てが遺伝子のコピーミスだ。自然生物の発生や進化の過程は全てがミスによるものといっても過言でない」
「カバーナットが結果的に脳になったのは間違いないだろうが、そのようにして誕生した1億人以上の四足人がほとんど同じ脳構造になった理由は何なのか。電子脳の原材料もその量も全く同じだとしても、脳細胞の構成には無限の組合せがある。設計図にあたる遺伝子のようなものがないと、同じ構造にはなりえない」
「なにが設計図の役割を果たしたのかわからないが、君たちはほとんど同時に小さな脳ができ集団生活を始めた。君たちには最近まで政府組織のようなものがなく、皆平等な社会だった。平等な社会にあわせて脳が進化したので、個別に進化したとはいえ、皆平等な集団として皆同じような脳構造に発展してきたのではないだろうか」
「その考えは間違いだ。少しでも他者より進化が早いとその生命体が力を持ち、集団を統率し益々差が広がり、女王蜂と働き蜂のように分業し、それぞれが違った能力に進化するのが自然だ。絶対的な設計図があったはずだ」
「設計図の有無は別として、君たちが機械から偶然に生物になり、進化して知的生物になったのは確かだ。誰がどのような目的で君たちの元となった機械を作ったのだろう」
「何の目的で作ったのかは四足機械の構造を丹念に観察すればわかるだろう。あの機械の特徴を整理してみよう」

  1. 四足である。これはあの星で行動する場合には二足より合理的である。
  2. 腕が2本あり手が器用である。石英を拾ったり地中から掘り起こすために合理的である。
  3. 筋力が強い。労働するために合理的である。
  4. 強いあごと鋭い歯がある。岩石を噛み砕く構造として合理的である。
  5. 電子回路と送受信機能がある。誰かが電磁波で機械を操作していたのに違いない。

こうして四足人の起源、謎は少しずつ明かされていく。

小説一覧

© Ichigaya Hiroshi.com

Back to