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SFJ人類の継続的繁栄 第13章『進化と文明の起源2』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

四足人の記憶

ここまでの議論で、四足人が元々はロボットだったこと。これがある部品の材料のちがいによって変異が発生し、彼らに生物としての進化が始まったこと。そして彼らは、元々は何者かによって、故郷の星で鉱物採取のためにつくられたということが判明してきた。

「ここまでの議論からも、彼らが作られた目的は明らかだ。あの星から何かの資源を採るために作ったのに間違いない。深い孔を掘るようにはできていないので、地表にある資源を拾い集めるために作ったのだろう」
「総数は2億体ほど作ったようだ。大量に作ったことから考えると、あの星の表面にある、あまり大きくないものを拾い集め、その中から何か貴重な物質を取り出していたと思われる」
「大量に拾い集めて貴重なものを取り出していたとしたら、取り出すための機械や、取り出した後の鉱物などが大量に放置されているはずだ。そのようなものはあの星に残されてなかったか」
「細かく砕かれた石英の小山があちこちに沢山あった。そのそばには機械のような物もあった気がする」
「いつ頃から石英の小山や機械のようなものがあったのか?」
「あまり覚えていない。体は今と同じだったが当時の頭はずっと悪かった気がする。石英の小山で遊んだことがあるような気もする」
「なるほど、とにかくここまでの話を整理してみよう」

  1. 何年前かわからないが、誰かがあの星の貴重な物質を得るために四足ロボットを2億体作り、電磁波で体を操作して貴重物質を含んだ石英を手で拾わせ精錬所に運ばせた。
  2. 貴重物質は誰かが持ち去り石英の小山と精錬用の機械と四足ロボットが残った。
  3. 残された四足ロボットの内の約半分に不良品のカバーナットが用いられ、頭の中で風化し6つの半導体が電子回路と一体化し電子細胞を形成し、初期の生命が誕生した。
  4. 風化の進行に伴い電子細胞が増加し、知的生物へと進化した。

「謎がだんだん解けてきた。あとは誰が何を採取するために、何時、四足ロボットを作ったかだ。あの星に行って石英の小山を調べれば何を集めていたかわかるだろう。機械の風化の様子を観察すれば何時頃製造したのかわかるかもしれない。しかし今は汚染されているのであの星に行く事はできない」
「四足人の記憶を分析すれば、何時頃初期の生命として誕生したかわかるはずだ。昔の記憶ほど知能が低かった時の記憶だ。カバーナットが全部風化し現在の知能になってからどのぐらい経過したかもわかるはずだし、風化の速度もわかるはずだ。風化の速度がわかれば四足機械の製造時期もわかるだろう」

 四足人の記憶を引き出す装置を開発し四足人の被験者を募った。プロジェクトに参加している四足人全員が被験者として手をあげた。全員の記憶が記録装置に収録され、階層型コンピュータにより解析された。

四足人の創造者、その正体とは

四足人の記憶を解析した階層型コンピュータは次のような結果を出力した。それは二足人、四足人に関わらずプロジェクトメンバー全員にとって、意外すぎる結果だった。

  1. 現在の知能になったのは10年前
  2. 初期の生命が誕生したのは50年前
  3. 製造されたのは80年前
  4. 採取していたのは、活性物質に関連した何らかの原料

 「意外な結果だ。君たちが誕生したのは50年前だった。君たちが活性物質に詳しい理由もわかった。しかし宇宙船の問題がわからない。宇宙船ができたのは君たちが現在の知能になってから5年ぐらいだ。5年で宇宙船ができるわけがない。君たちの文化の水準も高すぎる。人間が何十万年もかかって築いた文化を僅か5年で築いたとは信じられない。もしそれが本当なら、あと5年もすれば君たちは宇宙を吹き飛ばしてしまうだろう」

 この疑問を解くために階層型コンピュータにより再び記憶の調査を行った。最上層への入力内容は、無論、この謎を解くための内容に変更した。
 更に驚くべき結果が出力された。現在の知能になったのは10年前だったが、現在の文明を持ったのは8年前に突然全ての知識を得た事による、とコンピュータは出力した。備考として「脳の受信器官に全員同一の知識が送信されたと思われる」と書かれていた。
 この報告を聞いた四足人のメンバーの1人が近くにあったヘルメット状の物を頭に載せ、口を手で覆う仕草をして全メンバーに合図した。いうまでもなく、盗聴の危険性、その可能性を示唆したジェスチャーだった。メンバー全員が、その行動を理解し、解散した。

 解散したメンバーは関連技術者に〔電磁波をシールドするヘルメット〕、そのヘルメットと頭部との間に設け電磁波を特殊電磁波に変換する〔変換装置〕、特殊電磁波から電磁波に変換する〔逆変換装置〕の緊急製造を依頼した。
次の会議では、四足人のメンバーには変換装置を組み込んだ電磁波シールド用のヘルメットを、二足人のメンバーにはイヤホン型逆変換装置を無言で配付した。
 全メンバーが装置を取り付け、翻訳装置を介し特殊電磁波による会話が開始された。

「これで盗聴される事はなくなった。四足人のメンバーの脳が操作される危険もなくなった。四足ロボットを作った者が、作ったロボットの約半分がロボットから知的生物になったのを知り、今度は別の目的で知識を植え込んだのに違いない。四足人の頭部にある送信器官、受信器官は通常の電磁波用なので、電磁波を使って知識を植え込んだのだろう。通常の電磁波を使用したという事は、少なくても当時は1千万km以内の場所にいたはずだ。安全な活性物質の原料を採取するためにロボットを操作していた当時は、百万km以内にいたのだろう。それ以上だと信号のやり取りに時間がかかり、ロボットを運用する事は実質的にできないからな」
「何れにせよ我々を操作した者は今でもこの近くにいる。80年前も現在もこの近くにいる者で、すぐに思いつくのはバーチャル人だ。バーチャル人は今でもこの星の中の小さなクラウド装置の中にいる」
「犯人は、いや、犯人と呼ぶのはやめよう。ある意味では我々を誕生させてくれた恩人だ。操作者と呼ぶ事にしよう。操作者がバーチャル人だとした場合、安全な活性物質の材料の入手にも、我々に知識を植え込んだ事にも合理的な理由が見つからない」
「バーチャル人にとってクラウド装置が破壊されなければ問題ない。そのためにクラウド装置を置かれたこの星を敵から防衛するため活性爆弾砲を作った。活性爆弾砲は通常の活性化技術だ。活性爆弾砲の技術は今回の安全な活性物質の原料や高度な活性化技術と符合しない。四足人に超高度な活性技術も含め、高度な文化を植え込む必要性も思いつかない。もし我々リアルな人間を滅ぼすために行ったとした場合、ますますつじつまが合わなくなる。我々を絶滅させたら不利になる事ばかりで何のメリットもない」
「もしバーチャル人が我々四足人を操ってあなた方を絶滅させたら、面倒な相手がいなくなる。我々にはバーチャル人に操られている事を認識できないので、あなた方がいなくなれば、操られている認識のない、それなりの知能を有する我々は、クラウド装置を守らせたり増設させたりするための非常に都合の良い存在になる」
「何れにせよ我々リアルな知的生物同士が深く手を結びバーチャル人に対抗しよう。我々があなた方に助けられたのは紛れもない事実で深い恩義がある。あなた方のためなら何でもする」

 二足人と四足人合同の人体研究プロジェクトの報告を受け、リアル政府は急きょ完全電磁波シールド会議室を作り、西田大統領を議長とする大規模な対策会議を開催した。

新たな対立

「誰が行ったのかわからないが、安全な活性物質を作るための原料を得るために、四足人の基となるロボットを今から80年前に約2億台製造した事が明らかになった。そのロボットの約半分の頭の中のナットに欠陥があり、頭の中でナットが風化し、6種類の半導体の微粉となり、電子細胞が形成され、今から約50年前に初期の生命体となり、風化の進行と共に脳が大きくなり、10年前に現在の知能に達した。ここからが問題だ。今から8年前に突然頭の中の受信器官を介し、活性物質をはじめとした技術や文明が全ての四足人の脳に埋め込まれた。受信器官は通常の電磁波用の器官だ。8年前に技術や文明を脳に植え付けた者は1千万km以内にいたはずだ。あまり遠くからでは時間の遅延が大きすぎ、脳への情報の書き込みができない」
「8年前にあの星から1千万km以内にいた知的生物は、我々とバーチャル人しかいない。バーチャル人から見れば我々は邪魔者との見方もできる。四足人を洗脳し我々を殺害し、四足人をバーチャル人の手足として使おうとした事は大いに考えられる」
「真偽の程はわからないがバーチャル人を信用しないほうが賢明だ。我々はバーチャル人に何も手出しができないが、現状の通信システムではバーチャル人が我々や四足人の脳の中を観察したり洗脳する事は不可能ではない。我々二足人を監視できないように通信システムを変更する必要がある」
「我々とバーチャル人の間で平和条約を締結したばかりだ。急に監視できないようにするとバーチャル人が我々に疑念を持つ。変更するにはそのための十分な口実が必要だ」
「口実は後から考えるとして、できるだけ早く変更する事が必要だ。現に我々はバーチャル人から脳をモニターされないようにシールドルームの中で対策会議を行っている。この政府の重要会議は常にモニターされているだろう。既に疑念を持たれている事を前提として進める事が必要だ」
「どの様な方法で変更するのだ。時間をかけて行うのは危険だ。無論、準備期間は必要だが、準備が済んだら一斉に切り替えることが必要だ」
「通信システムの変更は信号レベルの変更では意味がない。ハードウエアが関連する変更が必要だ。バーチャル人の弱点はハードウエアには手が出せないことだ。リアルなものを扱うにはリアルなもので扱わなければならない。あの小さなクラウド装置からリアル世界との通信はどのようになっているのだ。クラウド世界からの電磁波の出力は極小さなはずだ」
「1千万の人体に乗り移り、兵士として戦った時は瞬時波増幅器を使用していた。戦闘が終結してバーチャル兵士が帰った後は、瞬時波増幅器の電源は切られ使用されていない。バーチャル世界との通信は、今は通常の電磁波で行なっている。従って今は通常の小型増幅器を使用している。その増幅器に手を加えれば頭の中を覗かれる事はない。しかし増幅器を変更する合理的な名目が必要だ。名目の種は四足人がらみにするのが良いだろう。四足人の扱いについては我々に任されている」
「『四足人は信用できない』という理由で、『我々だけでなくバーチャル政府も四足人の自治政府を監視できるように、四足人と我々とバーチャル政府が同じ通信フォーマットで会話できるように改造した』と報告するのはどうだろうか。四足人と我々との裏の会話は、バーチャル側にはわからない別のシステムで行えば良い」

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