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SFJ人類の継続的繁栄 第16章『石英星の冷戦2』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

バーチャル人隔離作戦

 石英星のリアル世界では、クラウド装置や通信関係の技術者が招集され、バーチャル人たちが住むクラウド装置をどのようにするか議論した。

「クラウド装置が5つある。クラウド装置といっても実際には大容量のメモリーの固まりだ。5つのクラウド装置の間は瞬時通信でつながっている。移動の際の振動の問題や、万一壊れた時はどうなるのか」
「瞬時通信でつながっているので実際には一体化しているのと同じだ。通常の電磁波通信なら問題だが、瞬時通信ではどんなに速く移動させても、どんなに激しい振動があっても、時間という概念がないので問題はない。無論取り扱いが乱暴ならクラウド装置が壊れてしまうが。しかし万一4つ壊れても1つ残ればバーチャル側は気付けない。塞がれた洞窟から取り出す問題が解決できたので、何ら問題なく1箇所に集められる」
「もし1箇所に集めて電磁波も瞬時波も通さないシールドケースで囲ってしまえば、バーチャル世界とリアルな我々の世界とは完全に分離できる。バーチャル世界からシールド外には何も力が及ばない」
「それが良い。バーチャル世界にとってもデメリットは何もない。バーチャルの世界で何をやっても我々には一切関係ない」
「シールドケースで囲ってしまっても、バーチャル世界では何も問題が起こらないということか」
「何も起こらない。ただ急に我々と連絡が取れなくなるだけだ。無論バーチャル側で隕石防衛システムを操作する事もできない。透明なシールドケースを作ってまたバーチャル記念館に展示しておこう」
「もし我々からバーチャル世界に連絡する必要が生じた場合はどうするのか。小さな扉を開けてそこから通信すれば良いのか」
「それで良いが、万一バーチャル世界の連中がそのチャンスを狙って万全の準備をしていたら、小さな扉をあけた瞬間に何かをされる恐れがある。それを避ける方法はシールドの扉を二重にして、外側のシールドの扉を開けて連絡担当者が中に入り、扉を閉め、内側の扉を開けて連絡すれば良い。最悪でも連絡担当者が被害を受けるだけで済む。ただし連絡担当者が洗脳されバーチャル政府の手先になるかも知れない。それだけを注意しておけば何も問題ない」

 この議論を報告書としてまとめ、政府に報告した。大統領と政府の幹部だけで対策会議を開いた。

「宇宙からクラウド装置を持ち帰るのも、深さ15kmの地下に埋まっているクラウド装置を掘り出す事も全く問題ない。取り出してシールドしてしまえばバーチャル世界とは完全に縁を切ることができる。彼らがどの様な技術を使っても、シールド外のリアルな世界には一切力は及ばない」
「四足人の脳に情報を書き込んだ犯人探しはどうするのか?」
「彼らが犯人だったらシールドする事で問題は解決する。他に犯人がいればその犯人に備える必要がある。とにかくクラウド装置を集めてシールドケースの中に閉じ込めよう。この方針は私からヨツ大統領に話しておく」

シールドケース問題

 透明のシールドケースを開発する命令が、政府から技術省を通しシリコン変成機技術局に届いた。この命令を受け技術局の関係者が技術会議を開き議論した。

「電磁波を完全シールドする透明なシールド物質など作れるはずがない。やはり政治家は技術については馬鹿だ。透明とは光を通すことで光は電磁波だ。光での通信も大昔から行なわれている」
「一概にそのようには言えない。どちらから見て透明かが問題だ。外側から中が見えるような透明では中の電磁波が外に透過するのでシールドの目的を果たさないが、内側から見て透明なら外側の電磁波は内側に透過する。この方法なら、内側には太陽光が差し込み太陽光を用いた発電ができる。ステルス技術に使用したダイオード膜技術を使用すれば可能である」
「原理上完全なダイオード膜はできない。少なくとも我々の技術ではできない。1%以下だが僅かに透過してしまう」
「安全性を考えて完全な真っ黒なシールド板を使う事にしよう。真っ黒にした場合、太陽光での発電はできなくなる。しかし質量電池がある。四足人の活性技術を使用すれば安全で大容量の質量電池は簡単にできる」
「例え質量電池を使っても燃料を全て使い果たせばそれでおしまいだ。充電も考えねばならない」
「十分な燃料があれば充電は必要ない。太陽だって燃料を使え果たせばおしまいだ。太陽に充電する事はありえない」
「電池の問題より中が見えないほうが問題だ。政府は物体至上主義を最大の理念として掲げている。その象徴があの小さなクラウド装置だ。クラウド装置が見えないのでは展示する意味がない」
「真っ黒な完全なシールドケースを作り、5つのクラウド装置と大容量質量電池をその中に完全に閉じ込めて、シールドケースの外側を展示栄えがする様な模様で塗装し、それを少し大きい透明ケースに収めれば良いのでは」
「全体があまり大きくなると展示効果が悪くなる。できるだけ小さくする事が必要だ。シールドケースに収めるのは5つでなく2つにする事を提言しよう。質量電池は10万年持つ大きさにすることも提言しよう」

 技術局の提言通り、3つのクラウド装置から1つを外し、2つのクラウド装置と10万年分の質量電池を真っ黒なシールドケースに収める事にした。シールドケースの外側にはバーチャルを象徴する模様が描かれ、透明なケースに収め、バーチャル展示館に展示する事になった。

 

別れのストーリー

  バーチャル人たちが暮らすクラウド装置の処理について大統領と政府の幹部が集まり、最後の詰めの会議を行った。
 
「技術局の提言どおりに行う事に決定したが、何が起こるかわからないので出来るだけ穏便に進めたい。相手があまり疑う事のないように進めてほしい。穏便に進めるために嘘をつくのに金はあまりかからない」
「大統領おっしゃる通りです。ただ、万一将来バーチャル側の助けを借りる事になるかもしれません。シールドケースに収める事には変わりはないが、うまい口実を考えれば後々の無用なトラブルを避けることができる。考えることにも金はかかりませんからな」
「我々が口実を考えるよりも戦略のプロに任したほうが良い。我々は方針を決めれば良い」

戦術に長けた者を募集して関連技術者も交えた、〔口実プロジェクト〕を発足させた。

「政府の方針は決まった。我々の任務は如何に相手をだますうまい口実を作り上げるかだ。バーチャル世界のためにシールドケースに収める、という口実を探そう」
「どこかに設置したクラウド装置が何者かの攻撃を受け、このままではバーチャル世界が危ないのでシールドケースに収めなくてはならなかった、というあらすじではどうだろうか」
「あらすじはそれが良い。ストーリーを考えよう。『宇宙に設置したクラウド装置が瞬時波攻撃を受け、このままだとバーチャル世界が危ないので、宇宙に設置したクラウド装置を切り離した』というところからストーリーを組み立ててはどうだろうか。その前に大きな雑音の瞬時波をバーチャル世界に与えられれば真実味が増す」
「瞬時波に一時的な雑音を加えるのは技術的に可能だ。この件は私に任してくれ」
「『切り離したが瞬時波攻撃は続いている。至急瞬時波攻撃を防ぐためのシールドケースを作る』と連絡し、『我々は瞬時波を全く使っていないので瞬時波に対する詳しい知識はないがシールドなら簡単に作れる』と言おう」

 このようにストーリー作りの議論が行なわれ、最終的に次のようなストーリーとなった。

  1. 瞬時波に雑音を加え、バーチャル世界に大きな雑音を与える。
  2. どこからだかわからないが、隕石防衛システムに瞬時波攻撃に加えられた、と連絡する。
  3. 隕石防衛システムの核心部分を瞬時波から守るため、シールド板で囲んで、暫定対策を行った、と連絡する。
  4. 隕石防衛システムの隣に設置されているクラウド装置にも瞬時波攻撃が加えられたので、この装置を他のクラウド装置と切り離した、と連絡する。
  5. こちらの世界では隕石防衛システム以外に瞬時波は使っていないので問題ないが、この星のあちらこちらが瞬時波攻撃にさらされている、と連絡し、同時に更に大きな雑音を与える。
  6. シールド板をかき集め地上の3箇所に設置されているクラウド装置を1箇所にまとめ、かき集めたシールド板で覆っている、と連絡する。
  7. 3つのクラウド装置はシールド板で覆ったが、問題ないかと質問しながら、更に大きな雑音を与える。
  8. こちらにも雑音が聞こえた。地底に埋まっているクラウド装置を切り離す、と連絡する。
  9. 3つの装置と大型の質量電池を格納するための大型の本格的なシールドケースを製造中、と連絡する。
  10. 四足人の技術を使って大容量質量電池を製造中、と連絡する。
  11. 巨大な隕石が落下しても壊れない頑丈な洞窟を発見した、と連絡する。
  12. 大きな隕石が表半球側の端のほうに落下した、と連絡する。
  13. 3つのクラウド装置を洞窟に運搬中に1つのクラウド装置を壊してしまった、と大パニックを装い連絡する。
  14. 本格的な大きなシールドケースと、連絡員が入るためのシールドケースが出来上がり、間にシールド板のドアを設けた、と連絡する。
  15. 頑丈な洞窟内にシールドケースを設置し、無事2つのクラウド装置と大容量質量電池をシールドケースの中に設置できた、と報告し、今連絡しているのは連絡員用のシールドケースの中からだ、と連絡する。
  16. まだこの星のあちらこちらに瞬時波攻撃を受けている。シールドケースは本体と連絡員が入るケースとの二重の構造になっているが、万一連絡員が入るときドアの隙間から瞬時波が入るかも知れないので今後はあまり連絡をしない、と連絡する。 

 ほぼ完璧なストーリーが出来上がった。政府はすぐにこれを承認し、ストーリーどおりに行うことが決定され実行された。
途中でバーチャル世界から質問があったが、雑音と連絡員のパニックでほとんど聞こえないふりをして、ストーリーどおりに行った。
 最後の連絡と同時に2つのクラウド装置と質量電池と自動応答用のコンピュータが真っ黒なシールドケースに収納され、シールドケースの蓋は隙間がないように強固に溶接された。
 その後の事は人間よりはるかに高い能力の自動応答用に改造されたコンピュータが、連絡員や大統領を装い、適切に対応してくれるはずである。これによりリアル政府はバーチャル世界とは完全に縁を切ることができたと胸をなでおろした。

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