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SFK人類の継続的繁栄 第1章『存続のための宇宙戦略』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

第5地球の完全な未来戦略

 承認権問題で事実上第4太陽系に負け、主導権という点では第4太陽系の下になってしまった第5地球の政府は、関係者を集め今後の第5地球のあり方について協議した。

「承認権というつまらない事で第4太陽系と争ってきた。今は実質的な承認権はあちらに有るが、こちらも階層型コンピュータを活用すれば五分五分になる。承認権など手続き上の問題は単にそれだけだ。実力があるほうが上になる」
「実力とは具体的には何を指すのだ。人口か経済力か軍事力か、そのほかのものか」
「最終的には軍事力だ。いくら経済力があっても軍事力にはかなわない。軍事力が強ければ第4太陽系の承認など問題にはならない。どうしても承認の手続が必要ならば軍事力をちらつかせれば良い」
「軍事力と一言に言っても色々ある。軍事費の大きさか、武器の量か、武器の強力さか?」
「軍事費などあまり関係ない。武器といえば最終的には活性爆弾に結びつく。活性爆弾を大量に保有しているほうが軍事力は上だ」
「それでは軍拡競争になってしまう。活性爆弾は、破壊力は強力だが制御が難しい。敵を壊滅する事は簡単だが下手をすると第5地球が丸ごと活性化し、第5太陽系ごと消滅してしまう」
「制御しやすい安全な活性爆弾を手にしたほうが勝ちだ。しかし原理上安全な活性爆弾などないだろう。活性物質は接している通常物質を次々と活性化させてしまう。不活性容器からこぼれただけでおしまいだ」
「普通物質に接しても活性化を起こさない活性物質が開発できれば解決する。我々は、活性物質は接している普通物質を活性化させるものだと思い込んでいる。活性物質というネーミングが問題だ。別のネーミングを考え、ネーミングにあわせた爆薬を作ろう。爆薬と言っても無論、質量が100%エネルギーに転換する、効率100%の爆薬だ」
「発想の転換ということか、面白いアイデアだ。思い切って完全に反対のイメージを持つ、『完全物質』と呼ぶのはどうだろうか。質量が100%エネルギーに転換する、普通物質を全く活性化させない完全に安全な物質、欠点のない完璧な爆薬、という完全な物質だ」
「それでいこう。完全物質の開発を最大の目標にしよう」

 完全物質の開発のための体制を整える必要がある。防衛省の下に完全物質開発局を設ける案があったが、それでは完全物質が何を意味するのか誰にでもわかってしまう。第4太陽系をごまかすためにはネーミングも重要だが組織名も重要である。
科学技術省の下に有機脳研究局を新設し、その下に〔完全物質研究班〕を設けることにした。第5地球の人類は第1世代の人類から引き継いだ有機脳を持っているので不自然ではないし、だれも活性爆弾をしのぐ性能の爆弾の研究とは思わない。  
 秘密裏に優秀な活性物質関連の技術者が招集され、大規模な研究を開始した。

自然界に活性物質は存在するのか

関連技術者による勉強会が開かれ議論が始まった。

「活性物質が質量の100%をエネルギーに転換する事と、活性物質と接する普通物質を活性化させるメカニズムに本質的な関連があるのだろうか。本質的な関連があるとすると難しい問題だ」
「その辺の研究はほとんどされてないが『活性物質に接する』という事があいまいだ。固体や液体はほとんど全部活性化されるが気体は活性化されない。これは活性化した原子との距離の関係だろう。気体の場合は分子間の距離が大きい。そのために活性化の力が及ばないのだろう。気体でも超高圧にして分子間距離を短くすれば活性化されるだろう」
「活性物質、つまり活性化された物質と通常物質との間隔を1ミクロンも離せば活性化されないということか。それなら活性物質の塊の周りを不活性物資でコーティングすれば良いのでは」
「コーティングする前に活性物質が不活性容器からこぼれたらおしまいだ」
「そもそも活性物質はほとんどの物質を活性化させるが、不活性物質だけ活性化されないのはどうしてだ。不活性物質は他の物質とどこが異なるのだ」
「今までは経験的に活性化されない物質を知り、不活性物質として使用していたようだ。このメカニズムの解明が完全物質への鍵になるかも知れない」
「今では不活性物質以外なら、どの物質も活性物質に変成できるようになった。第5地球で手に入るあらゆる物質を活性物質に変成してみたが、全てが接触している普通物質を活性化させてしまった」
「活性物質は自然界にあるのだろうか。我々の知る活性物質は自然界には存在しないだろう。存在したら周りの物質を活性化してしまい、星ごと爆発して消滅してしまう。活性物質は自然界に存在できない」
「完全物質は自然界に存在しているかも知れない。その場合には小さな塊だろう。大きすぎると爆発する可能性が高まる」
「活性物質は化学的には普通物質と全く同じ特性で見分けることができない。しかし最新の研究では瞬時波だけには普通物質と異なる反応をする事がわかってきた。完全物質があるとしたらそれにも同じ反応があるかも知れない。この近くの天体を瞬時波レーダーで隈なく調べれば活性物質と同じ反応をする物質が見つかるかもしれない。もしその反応があったら、活性物質による反応ではなく完全物質による反応ということだ」

 瞬時波レーダーで第5太陽系のあらゆる天体を調査した。しかし第5太陽系からは見つからなかった。調査範囲を広げ、近い恒星から調査を行い第6太陽系の調査が始まった。惑星を全て調べたが第6太陽系の惑星からはそれらしき反応はなかった。しかし、ある惑星の近くで、僅かだがノイズのような反応があった。念の為レーダーの照射範囲をその領域に集中して調査した。反応は大きくなったがノイズか否かはっきりしなかった。さらに領域を絞ると、その領域から微小な反応が途切れる事なく観測された。

完全物質の獲得にむけて

 反応があった領域をさらに絞り込む為、スキャン装置を取り払い、瞬時波ビームを1点に集中させた。手操作で少しずつ移動させたところ、突然、微弱だがはっきりとした反応が現れた。その領域に完全物質を含む小さな天体があると考えられた。
 この天体を観察するための専用の瞬時波レーダーを開発し、さらに詳細な調査を行った。反応波は活性物質の特徴と一致し、完全物質が天体の表面に存在している可能性がほぼ確実になった。またその星の表面の大半は石英で覆われている事もわかり、シリコン星と名付けた。
 その周辺の天体も瞬時波レーダーと光学望遠鏡により丹念に調査した。他の天体には同様の反応は見られなかったが、その天体のそばにある大きな惑星付近から時々微弱な瞬時波が発射されていることが観測された。瞬時波は自然界には存在しないので、かなりの知的生物がいるに違いない。 
 報告書がまとめられ、科学技術省を通し政府に報告された。班の主要メンバーを交え、政府の関連高官とこの問題の検討会を開催した。

「第6太陽系の小さな天体に、我々が求めている完全物質が大量に存在するようだ。おまけにそのすぐそばの天体には瞬時波を操る知的生物がいるようだ」
「第6太陽系は我々が移住先として選んだ2番目の候補地だ。我々をこの星に送りだした同胞がその天体に移住した可能性が高いだろう」
「仮にそうだとして、移住した同胞は完全物質に気がついているのだろうか」
「観測結果ではその星との往来は確認できない。その他の観測結果も合わせると気がついていない可能性が高い」
「その物質を採取する時、その同胞に連絡するべきか、知らないふりをするべきか」
「もともとは旧地球にいた100人が共通の人間だったと聞いているが数万年前の話だ。同胞には違いないが今は全く関係ない」
「知らないふりをするしかない。連絡すれば貴重な完全物質を向こうにとられてしまう。同胞だといっても信用するのは危険だ。現に、かつての同胞である第4太陽系の人類とつい先日までだましあいを行っていた。今回は完全物質が絡んでいる。完全物質を手に入れたものが宇宙の勝者になるといっても過言でない。絶対に秘密に進めなければならないだろう」
「採取に使用する道具は現地で作らなければならないな。ただ、あの天体は石英がほとんどでカーボンは見つからないかも知れない。シリコンから各種道具を製造するための開発が必要だ。カーボン変成機に替わるシリコン変成機ができないだろうか」

 この検討会を受けて、政府は〔完全物質プロジェクト〕を発足させた。20光年も離れた小さな天体から、隣の星に住む同胞に絶対に悟られることなく最強の物質を採取する、緻密な作戦を必要とする大プロジェクトである。
 1年かけて実験や観察を行い採取計画が作成された。活性化エンジンは大幅に進化していたが20光年先の天体に行くのには40年は必要である。 
 プロジェクトにより次のような計画案が作成され、政府が承認し実行に移された。

  1. 遠距離航行用のエンジンを使用した大型宇宙船5隻に1000人の開拓隊員と瞬時通信増幅機やカーボン変成機などの各種機材を載せ、第6太陽系を目指してすぐ出航する。
  2. シリコン変成機を大至急2台開発する。
  3. 2億体のロボット用の電子回路を製造する。
  4. 2台のシリコン変成機と2億個の電子回路を短距離航行用の高速エンジンを使用した小型高速宇宙船に載せ、先発した大型宇宙船団を追いかける。追いついたら小型宇宙船ごと大型宇宙船に荷物室に搭載する。
  5. 第6太陽系の目立たない天体に着陸し本部基地を建造する。
  6. 小型宇宙船で目的の天体に行き、採取物を確認し、採取方法を調査する。
  7. 本部基地で採取に必要な機材を製造する。
  8. 採取に必要な機材や資材を目的の天体に運ぶ。
  9. 目的の天体で採取に必要なロボットを製造する。

大型宇宙船5隻が第6太陽系を目指して出航した。
1年後にシリコン変成機などを搭載した小型高速宇宙船が出航し、2ヵ月後に大型宇宙船団に追いつき、小型宇宙船ごと大型宇宙船に搭載された。

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