MENU

Novel

小説

SFJ人類の継続的繁栄 第20章『三国時代の終わり』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

四足人の未来に向けて

 バーチャル世界との関係が断ち切れた二足人の政府は、四足人の自治政府にこのことを連絡した。自治政府としてもバーチャル世界の脅威が全くなくなったので、安心して裏半球側を開拓する事ができる。
 既に洞窟間のトンネルは全て開通し、洞窟内の整備も進み、洞窟は四足人にとって快適な居住場所となった。しかし洞窟から一歩外に出ると隕石による死の危険がある。
 二足人と四足人とが合同でこの問題の対策を協議した。表半球側の隕石対策には隕石防衛システムは構築できたが、同じ方式を裏半球側に適用するのは技術的に困難であり、また隕石の落下自体が裏半球側の資源の源になっている。
 隕石の落下は防げないので警報・避難システムを構築する事になった。裏半球側に落下しそうな隕石を早期に発見し、すばやく軌道を計算し落下地点を警報するシステムである。
人が多く働くところを重点に、あちこちに警報用の電磁波発信機と分厚い強化ガラス製のシェルターを設置し、隕石を発見したら落下予測地点周辺の電磁波発信機から警報を出し、その近くの人を近くのシェルターに避難させるシステムである。システムが構築され、四足人は安心して資源の採掘に従事できるようになった。
バーチャル世界の脅威はなくなったが、数十年前に、頭の中の受信器官を介し脳に突然、活性物質をはじめとした技術や文明を植え付けた犯人はまだ特定されていなかった。しかし植え付けられた情報から犯人が人類だという事は確かである。この星の近くにまだ見つかっていない別の人類がいるかも知れない。
人体研究プロジェクトはこの問題を解決するための合同会議を開催した。

「犯人はまだわかっていない。バーチャル政府の仕業だと思っていたが、その後の経過から推測するとその可能性はあまり大きくない。今となっては調べる方法もない。この太陽系のどこかに他の人類がいて、その人類が犯人だと仮定して対策を採るべきだ」
「四足人には電磁波を受信する受信器官がある。電磁波通信の知識がある者なら誰でも洗脳する事ができる。脳が直接電磁波で会話するのは非常に無防備な状態だ。頭にシールド用のヘルメットを被り、電磁波以外で会話すべきだ」
「二足人も電磁波を使って会話しているではないか」
「我々の脳には洗脳を防ぐためのソフトがある。我々の脳は基本的には電子回路だ。合理的な電子回路なのでソフトが作りやすい。君たちの脳は電子回路と有機脳の中間的な脳だ。我々には君たちの複雑な脳のためのソフトを作る技術はない」
「電磁波以外での会話は音声会話しかない。しかし、この星にも我々が元々いた星にもほとんど大気はない。音声会話は不可能だ」
「シリコン変成機でシリコンの大気を作れないだろうか?」
「作れるかもしれないが、例え作れてもあの星を大気で満たすのには膨大な時間が必要で現実的ではない」
「大気の振動の代りにシリコンの微粒子を利用する事はできないだろうか。音声発生器の振動板のようなものにシリコンの微粒子を当て、密度を変調して周辺に放射すれば良いのでは? 鼓膜に対応する振動膜にシリコン微粒子がぶつかれば変調密度に応じて振動膜が振動する。基本的には音声会話と同じだ」
「それは良いかもしれない。この方法だと会話する時に少量の微粒子が必要になるが、大気で満たすのに比べればずっと簡単だ。音声通信は大気を構成する微粒子の密度が変調されるが、この方法は密度を変調した微粒子を相手に向かって放出する方法だ。周りが微粒子で満たされていないので放出された微粒子はすぐに引力で地面に落下する。この星の裏半球側は別だが、表半球側や元々いたシリコン星は石英で覆われている。石英の上にシリコンの微粒子が落下しても、そのうち石英に吸収されるだろう」
「はじめから石英の微粒子を使えば良い。この星の石英は特殊な石英で、石英の微粒子はすぐに石英の結晶の表面に結合する。ほとんど埃は発生しない」

 早速実験したところこの方法は簡単に実用化する事ができることがわかった。

帰還計画

 この報告を受けた合同浄化プロジェクトは早速会議を開催した。

「石英の微粒子会話が簡単に実現できるとわかった。もう洗脳される心配はない。浄化できればあの星に戻ることができる。至急浄化する方法を考えよう」
「地球から運んできた脳に使用するチップの材料が、どうして四足人間には毒物なのか。そのメカニズムがわからないと対策の立て様がない」
「メカニズムなら人体研究プロジェクトにより解明されている。四足人の電子細胞はシリコンをベースとした6種類の半導体で六角形に形成されている。そのうちの1種類の半導体が地球から運んできた物質とよく似ていて、隣同士の半導体との結合強度が強い。この物質が電子細胞と接触すると元の半導体と入れ替わる毒物となる。入れ替われば当然その細胞は機能しなくなる」
「元の半導体より両隣の半導体と結合し易いということか。それなら浄化は簡単だ。両隣の半導体の微粉を大量にまけばよい。そうすれば撒いた半導体が毒性のある物質の両端に結合し、無害な物質になる」
 
 両プロジェクトは政府に〔電磁波により洗脳される恐れのない石英微粒子による会話方法〕、〔四足人が元々暮らしていた天体の浄化方法〕の両方とも見通しがついた、と報告した。
 政府は自治政府の高官を共同の庁舎に招き、シリコン星への帰還について相談した。
基本方針は帰還を前提とする方向で話が進み、両大統領も共同の庁舎に駆けつけ、大統領同士の会談が行われた。ヨツ大統領から、最大の感謝の表明と裏半球側の開発に対する提案があった。二足人が裏半球側でも安心して暮らせるようにインフラを整えてから帰還したい、との提案だった。
 両政府による帰還プロジェクトが組織された。帰還までの計画が綿密に練られ、帰還計画書が作成された。

  1. 四足人側で大量の浄化物質を製造する。
  2. 合同で石英粒子会話システムを実用化し、両者で生産する。
  3. 二足人の宇宙船で、帰還する天体に浄化物質を大量にまき、浄化効果を確認する。
  4. 表半球側で石英粒子会話システムの大規模な実験を行い、大きな不都合がない事を確認する。
  5. この間、四足人の大半は裏半球側のインフラ整備に従事する。
  6. 全ての帰還の準備が整い、インフラの整備が終了した時点で帰還する。

その後、この作成された帰還計画書に基づいて計画は実行され、全ての準備が整った。
 二足人から大量の装置が贈呈され、インフラ関係の技術者と自治政府の一部の要人だけがこの星にとどまり、1億人の四足人は故郷のシリコン星へ帰還することとなった。

 こうして、石英星「三国時代」は一応の終結をみた。

小説一覧

© Ichigaya Hiroshi.com

Back to