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SFK人類の継続的繁栄 第2章『覇者への道』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

天然の完全物質

完全物質を求めて第6太陽系を目指し出航した1000名の開拓民を乗せた5隻の宇宙船団は、出航から40年の旅路を予定通り進み、本部基地を設ける天体に無事到着した。
到着後速やかに小型宇宙船が目的の天体に向け航行し、到着後すぐに調査が開始された。
 第5地球から観測した通り、シリコン星の表面は石英で覆われていた。石英の表面を良く見ると、石英の星面に半分食い込んだ直径1mmにも満たない小さな球状の物質が、あちこちに散らばっていた。先端のとがったナイフを使い、2つの粒を取りだし、宇宙船で本部基地に戻った。
 2つのサンプルはすぐに分析担当の技術者により分析され、完全物質である事が確認された。質量は約1ミリグラムと2ミリグラムだった。
1人の技術者が爆破実験をしようと言い出し、他の技術者は反対したが、あまりにも小さかったので2ミリグラムの粒の爆破実験を行う事にした。
宇宙船から1km離れた位置に細い杭を打ち込み、杭の上に粒を載せた。宇宙船から粒に標準をあわせ起爆ビームを発射した。発射した瞬間小さな発光があったが、ただそれだけだった。
すぐに爆破地点に行き爆発跡を確認したところ、細い杭はなくなり石英の地面も少しえぐれていたが、それ以上に特筆すべきようなことにはなっていない。実験の様子を見ていた開拓隊員の多くは、爆発の威力が小さな事にがっかりした。
そんな中で、技術隊員の1人が大声で、「大成功だ。完全物質に間違いない」と叫んだ。
周りにいた開拓隊員はけげんな表情で「どうしてあれが大成功なのだ」と質問すると、その技術隊員は、直径10cm程の球状体にドリルで数ミリの穴を開け、穴の中に1ミリグラムの粒を入れ、ドリルであけた穴を宇宙船の方向に向け5km先に設置した。
全員を宇宙船に退避させ、穴に向かって起爆ビームを照射した。照射したとたん、目もくらむ大きな発光があり、球状体の破片が宇宙船を襲った。一瞬宇宙船が壊れるのでないかと多くの隊員が身構えたが、幸い宇宙船に大きな損傷はなかった。
上級技術隊員が笑いながら周りの隊員に「球状体が軽いカーボンだったので何でもなかったが、重い金属を使っていたら宇宙船はめちゃめちゃに破壊していた」と言った。
 後始末をした後、設営したばかりの本部基地に隊員全員が集まり、爆破を行った上級技術隊員が次のように説明した。

  1. 2ミリグラムの粒が爆発した時ほとんど何も起こらなかったのは、粒が純粋な完全物質の証拠である。質量が全てエネルギーに変換したため、作用する物質がなくなり、ほとんど何も起こらなかった。作用したのは粒を載せた細い杭だけだった。
  2. 1ミリグラムの粒が大爆発を起こしたのは、エネルギーが作用するように球状体で覆ったためである。
  3. 球状体は軽い物質で作ったためエネルギーのごく一部が作用した。
  4. 重く大きな物質で覆えば桁違いの大爆発を起こしていた。

 瞬時通信により開拓隊員から完全物質研究班に、表面は石英で覆われ、所々に小さな粒が石英にのめり込み掘りだすのに手間がかかる、と報告された。

完全物質の採掘過程

 再度、開拓隊員5名と各種測定機材を搭載し、小型宇宙船でシリコン星へ行き、粒の密度、取り出し方などの各種調査を行なった。
 詳しい調査結果を基に、今後の計画について第5地球の担当者を交えて会議を行った。

「半径500kmの星の表面に1平方メートル当たり約3mgの純粋な完全物質が埋まっている。総量は約10トンである。予測していたより少ない量だが、10トン全部手に入れれば間違いなく宇宙の王者になれるだろう」
「1ミリグラムの粒でも300kgほどの砲弾の中に詰めて爆発させれば、大昔の大型原爆ぐらいの威力はある。1kgの爆薬なら地球程度の惑星を粉砕する事ができる。できるだけ多く採取して欲しい」
「採取方法が問題だ。ロボットを大量に作り1つずつ取り出さなくてはならない。1台のロボットで1日15粒、0.01グラムがせいぜいだろう。10トン全部採取するには1千万台のロボットで1000日かかる計算になる」
「1000日はかかりすぎる。シリコン星の表面での採取作業は目立つので、昔の仲間に知られる恐れがある。採取作業は100日で行うように計画しなさい」
「100日で行うためには1億台のロボットが必要だ、ロボットは現地で作らなければならない。それだけ大量に作るためには全隊員を総動員しても最低40年は必要だ。40年も作業するためには昔の同僚が暮らす星から見えない死角に大規模な中央基地を作らなければならない。
「中央基地は目立たない小規模にし、そこでロボットの製造が出来る程度の知的なロボットを製造し、製造した知的なロボットにより知的なロボットを製造すれば3年もかからないだろう」
「ロボットは四足で手は2本が良い。ロボットの製造も粒の採取も細かい作業なので、手のひらや指は人間の手をそのまま真似たほうが良いだろう。頭には第5地球から運んだ電子回路を入れ、ロボット自体が考えて採取する自動型が良い。バージョンアップを簡単に行えるよう通信機能が必要だ」

 これらの議論を元に計画書が作成された。

  1. 本部基地が置かれた天体からカーボン鉱山を探す。
  2. カーボンを採掘してカーボン変成機をフル稼働し、本格的な本部基地の建造とシリコン星で使用する機材を製造する。
  3. 地球から運んできた機材と本部基地で製造した機材を宇宙船でシリコン星の中央基地建造予定地に運搬する。
  4. シリコン変成機を用いて中央基地を建造する。
  5. 中央基地の隣に四足ロボット製造工場を建造する。
  6. 中央基地周辺の石英を採掘し、2台のシリコン変成機をフル稼働させ知的な四足ロボットを製造し、製造したロボットにより1億台になるまで次々とロボットを製造する。
  7. シリコン星の星面1万箇所に、目立たない前線基地を建造する。
  8. 前線基地1万箇所それぞれに、1万台のロボットを配備する。
  9. 200日で、できるだけ多くの完全物質を採取する。
  10. ロボットをそのまま残し、採取した完全物質を中央基地に集める。
  11. 中央基地から本部基地に採取物を輸送する。

 計画は実行され、1億台のロボットを製造するところまでは計画通り運んだ。しかしロボットによる完全物質の粒の採取は予定通りにいかなかった。粒が石英の中に完全に埋没している物も多く、粒だけを採取できるのは稀だった。
0.1ミリグラムの粒を採るために数グラムの石英塊ごと採取しなければならない場合がほとんどで、採取能率が悪かった。通信により何度かロボットのプログラムを修正したが大きな改善はできなかった。 
 急遽、採取した石英の塊から完全物質の粒だけを取りだすための精錬工場を中央基地に建設した。各前線基地に集められた完全物質の粒と、粒を内包した石英片が定期的に中央基地に集められ、破砕機により細かく砕かれると、粉砕機により完全物質を粉末化、その後は化学処理により純粋な完全物質が取り出され、最終的には直径1mmのペレットに変成された。

 予定の200日の採取期間が終了し、ロボットは各前線基地に集められた。最終的に3トンの完全物質が採取され、第1回の採取作業は終了した。
ロボットと機材をシリコン星に残したまま、3トンの完全物質を搭載した宇宙船により開拓隊員全員が本部基地に戻った。
本部基地には990人が残り、隊員10名が大型宇宙船に3トンの完全物質を搭載し、第5太陽系への長い帰還の途についた。

特殊元素の可能性

 シリコン星の本部基地には瞬時波増幅装置が設置され、基地から20光年離れた第5太陽系にある自宅への往来は自由にできるようになっていた。また第5太陽系に戻った隊員の使用していた人体を利用して、別の人が来ることもできた。
人体は990体なので990人以上はこの星に存在できないが、交代すれば誰でも本部基地に来ることができた。
 ある日、地質学の専門家をはじめ、10名の研究者がシリコン星調査のために基地に訪れた。早速、観測機材と軽車両3台を宇宙船に搭載し、中央基地のそばに降り立った。研究者たちは軽車両3台に分乗しシリコン星のあちこちを調査し、中央基地からあまり離れていないところにクレーターを発見した。クレーターを丹念に調査したところ100万年前には大気があった事がわかった。
また、クレーターの周辺には大小の岩石が石英を貫いて埋まっていることもわかった。その一つを掘り起こし、岩石の構成物質を調べると、完全物質の可能性が高いと判明した。
 早速その岩石を本部基地に持ち帰り、基地の実験室で調べてみると化学的には全く同じ性質だが完全物質ではないことが判明した。岩石全体を丹念に調べると、岩石の表面の一部が完全物質である事もわかった。
これらの事実とこれまでの調査を基に、シリコン星にある完全物質がどのようにしてできたのか、研究者と技術者が集まり議論された。

「完全物質も完全物質でない特殊元素も同じ特性を持つ物質で、今まで発見されていない特殊な元素だ。比較的軽い元素だが陽子か電子の大きさが普通と僅かに異なり、電気的に僅かに偏った、普通では考えられない特殊な元素だ。完全物質と特殊元素との違いは全く測定できない」
「特殊元素を多く含む大きな隕石があの星に落下したのに間違いない。あのクレーターが衝突跡だ。周辺に埋まっている大小の岩石は衝突の衝撃で砕けて飛び散ったものが落下して埋まったものだ。その頃には大気があった。砕けた時に大量の微粉が石英の微粉と風に舞い、石英の粉が先に落下しその上に特殊元素の微粉が落下したのだろう。その後大気はなくなり、風化せずにそのまま残ったのだろう」
「その通りだとしても大気中を舞っていた特殊元素の微粉だけが完全物質に変化した説明にはなっていない。また埋まった岩石の表面の一部も完全物質に変化している説明にもなっていない」
「電気的に中性でないところに鍵があるのではないか。宙に舞っているときに粉と粉がぶつかり合うことで静電気が発生し、小さな雷により完全物質に変化したのかも知れない」
「それなら特殊元素を微粉にし、電気的な何らかの処理をすれば完全物質になる可能性があるな」
「その可能性は非常に大きい。じっくりと研究すれば特殊元素から完全物質が作れるかもしれない。いや、きっと簡単に作れるだろう」
「特殊元素の総量ならば100トンはくだらないだろう。100トンの完全物質があれば間違いなく宇宙の王者だ」

 早速このことをまとめ、10人の研究者が第5地球に戻り政府に報告した。

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