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SFK人類の継続的繁栄 第11章『第6太陽系の将来』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

攻撃と防御の概念

 二足人と四足人の関連技術者がそれまで理想爆薬と呼ばれていた理想物質について議論を行った。

「理想物質と活性物質の違いは、活性物質は周りの普通物質を活性化させてしまうが理想物質にはそれがない。しかも目的に応じた起爆装置により簡単に起爆させることができる。したがって危険を伴わずにどのような爆弾も作ることができる。1ナノグラム使用して強力な破壊力の砲弾を作る事もできる。無論トンネル工事などのインフラ工事にも手軽に使え、質量電池も簡単にできる。我々には200トンもあるので最強の武器をいくらでも製造できる」 
「取り扱い上の危険はあるが、最強の武器なら感染式の武器だ。爆弾なら活性物質を使った爆弾だ。情報爆弾でも他の爆弾でも感染式なら僅かな量で次々と感染して拡大してゆく。少量の活性物資を不活性物質で作った容器に閉じ込め、敵の天体に向け発射すれば、衝突により容器が砕け活性物質に汚染される。たちまち天体全体が活性物質に変成され、その太陽系ごと消滅するような爆発を起こす。活性物質は取り扱いも非常に危険だが威力はほぼ無限と言うことができる。感染型爆弾は威力がほぼ無限なので使い方を誤ると敵の天体だけでなく、味方の天体も吹き飛ばしてしまう。したがって近くの天体に使うのは危険だが遠く離れた敵の天体を太陽系ごと消失させてしまう目的には最適な爆弾だ」
「もし他の太陽系がその爆弾で攻撃してきたらそれで終わりなのか」
「他の太陽系からの攻撃ならば爆弾が発射されてから到達するまでに何十年もかかる。瞬時レーダーで捕らえて迎撃できるかもしれない」
「迎撃は絶対無理だ。ロケットをロケットで打ち落とすことなど絶対無理だ。大昔は攻撃兵器と防御兵器の力のバランスが取れていた。第1世代の人類が使っていた言葉に、『矛盾』と言う言葉があった。しかし技術の進展と共に戦闘用語としてはこの言葉はなくなった。技術が進展すれするほど攻撃と防御には大きな差ができる。防御と言う言葉も今ではほとんど使われなくなった。攻撃されたらそれでおしまいだ。反撃されたらどちらもおしまいだ」
「隕石防衛システムはどうなのか。今は技術が進展し、ほとんど隕石の問題はなくなった」「冗談言うな。隕石が隕石自体の技術を進展させるはずはない。ただし我々の思っても見ない別のタイプの未知の隕石があるかもしれないが」
「隕石の話は別だが我々には理想物質という強力な武器がある。ある意味で他の太陽系に比べ軍事技術が格段に上という見方もできる。完全な迎撃はできなくとも、敵のロケットのそばで理想物質を使った超強力爆弾を爆発させれば良いのではないだろうか」
「迎撃ロケットを発射したことを瞬時レーダーで敵が察知すれば、ロケットを自爆させ、中に大量に搭載した砂粒ほどのカプセルを数億個ばら撒くだろう。1つでも天体に当たれば天体が丸ごと活性化されそれで終わりだ。迎撃は100%不可能だ」
「感染型爆弾は他にもあるのか」
「大気や水のないこの星では使えないが、第1世代の地球に暮らしていた人間の最強の兵器は生物兵器だ。生物兵器は最強の感染型爆弾で、強力すぎて使用できなかった。敵も味方も地球上で暮らしているので、敵に強力な感染型生物兵器を使用すれば、やがては味方も絶滅してしまう。替わりの感染型爆弾としてネット社会を破壊する情報ウイルス爆弾が登場した。いずれにせよ技術の進展は確実に破滅の方向に動くので、人類は技術の進展を止め第2世代に移行した」
「活性技術と瞬時レーダー技術をもつ第4太陽系や第5太陽系から攻撃されたら防ぎようがないのか?」
「瞬時波より早く伝達する波が見つかれば可能だが、無論そんなものはあるわけがない。有ったら過去に行けてしまう。もし過去に行ったなら現在は消滅してしまう」
「その考えは正しい。大昔は光の速度を超えると過去に行くとされていた。しかし今では音の伝播に時間がかかるのと同様に光の伝播にも時間がかかるだけで、光の速度は絶対的なものではないという事が分かってきた。しかし瞬時波は伝播に時間を要しない」
「物理の論議は別にして、攻撃を必ずしも防げないとはいえない。防ぐ方法は先制攻撃だ。瞬時レーダーで監視し、相手に攻撃の兆候が見られれば先に攻撃すれば良い」
「それは無理だ。先制攻撃しても爆弾を積んだロケットが敵の天体に到達するには何十年もかかる。その前に敵からもロケットを発射されてしまう。敵も味方も消滅してしまう」
「すると、瞬時技術で敵を監視しておけば先制攻撃される事はない、という事になるのか」
「敵がそれなりに賢く、また自滅を望んでいなければそういう事になる。しかし馬鹿な連中もいる。安心はできない」
「何れにせよ第3~第6のどの太陽系でも爆弾なら十分にある。爆弾より瞬時通信のほうが平和を守る楯になりそうだ」

瞬時通信技術の可能性

  二足人の瞬時通信関連の技術者が加わり、会議を再開した。瞬時通信で各太陽系の通信網を監視している担当者のこの発言から、別の議論が始まった。

「第4太陽系の通信網の中から次のような事がわかった。この内容は機密性が低く、第4太陽系の住民なら誰でも知っている内容だが。複数の天体に強力な活性エンジンを取り付け、天体ごと宇宙船として第4太陽系から銀河の先を目指して航行した天体宇宙船団の大プロジェクトがあった。長い航行後、銀河の端のほうの、恒星群の間の何もない過疎領域で停止して天体群を形成しているようだ。天体群全体をダイオード膜で覆っていて、中からは何のエネルギーも外側に漏れないという事だ。したがって外からは観察できないようだ。今は瞬時技術を使った特殊な方法で第4太陽系と連絡しているようだ」
「第4太陽系にはそれほどの高度な技術と経済力があったのか。我々と子供じみた騙し合いを行っていた相手とは思えないすごいプロジェクトだ。さすがに銀河系の淵の相手までは攻撃の対象とはならない。万一この銀河系の太陽系同士で大戦争が起きても、天体群には被害が及ばないだろう。安全保障は敵となりうる天体から大きく距離を置く事に限る」
「瞬時通信技術を兵器に転用する事はありえないのか」
「瞬時波は光と似た性質をもっている。情報の伝達程度のエネルギーはあるがそれ以上のエネルギーを持たせるのは実質的に困難だ。まして天体を破壊する事など絶対にできない」
「物質を全てエネルギーに転換し、作用する物質が残らなければ、そのエネルギーは全て電磁波になる、とも聞いている。またその電磁波に指向性を持たせられるという事も聞いている。電磁波砲というものはないのか」
「電磁波砲はありえる。我々の技術でもすぐに開発できるだろう。ただし瞬時波でなく電磁波だ。電磁波の速度は遅すぎて、銀河系外の天体は全く対象にならない」

行き着く先のビジョン

「やはり安全保障の常套手段は危険な相手からできるだけ離れる、ということか」
「我々も天体ごと銀河系の淵に移動する事はできないか」 
「できたとしても時間と費用がかかりすぎ、現実的でない。天体ごと移動するには大量のエネルギーが必要だ。たった200トンの理想物質ではどうにもならない」
「要は移動するにはあまりにも重いということか。バーチャル世界なら軽いので移動するのにエネルギーはあまりかからない」
「我々もバーチャル世界に入り込むということか。我々は物体至上主義を理念としている」
「我々はここに残って、我々のデータだけがバーチャル世界に移動するのはどうだろうか。 我々の分身がバーチャル世界に移動し、しかも手の届かない銀河の先に移動する事だ」
「その場合、クラウド装置のメンテナンスやロケットの操縦は誰が行うのだ」
「高度な能力を備えたロボットが良いだろう。バーチャル世界からロボットを動かすのは全く問題ない」
「エネルギーはどうする。天体群ではエネルギーの流出を防ぐためダイオード膜で覆っていると聞いている。ダイオード膜で天体群ごと覆うと、ダイオード膜の内側でいくらエネルギーを使っても外には漏れないので天体群の質量が減る事はない。すなわち天体群全体としてみればエネルギーの消費はゼロだ、と聞いている。しかもダイオード膜を通して外部からの電磁波等は中に入るのでその分エネルギーが増加すると聞いている」
「バーチャル世界でどれだけ活動しても理論的にはエネルギーを消費する事はない。しかし、バーチャル世界の基となるクラウドシステムには若干のロスがある。しかしこのエネルギー消費は本質的なものではない。情報のやり取りの際の効率が100%でない事が原因だ。何れにせよ極わずかな消費だ。大型の質量電池を使用すれば1億年は持つだろう」
「バーチャル世界はいくらでも複製できる。10個ほど複製して宇宙のあちこちに設置したら良いのでは。元々大きさが小さいので運搬にはわずかなエネルギーしかかからない」

 二足人と四足人の関連技術者による議論が報告書にまとめられ両政府に報告された。無論バーチャル政府の意向が最も重要である。二足人のリアル政府はこの報告書に政府としての見解を付してバーチャル政府に送付した。
 四足人政府はバーチャル世界への分身は行わず、リアル世界のみにとどまることを決定した。またこの構想には最大限協力することも決定した。
 バーチャル政府はこの報告書に大きな関心を持ち、中野大統領と政府の要人、担当技術者がリアル政府の貴賓室に備えてある人体に乗り移り、リアル世界を訪れた。
 リアル政府とバーチャル政府による両大統領も交えた二者会談が行われた。バーチャル政府側は大いにこの構想に興味を抱き、報告書を作成した技術者と多角的な面から議論をかわした。この議論を経てバーチャル政府はこの構想に益々乗り気になり、この構想のすばらしさを逆にリアル政府に説明した。
 物体至上主義を掲げるリアル政府としても、自分達の記憶データがコピーされるだけで、実質的には何ら今の状態と変わらず、反対する理由もなかった。強いてあげるならば新たなクラウド装置の製造やロケットの製造にわずかな資金がかかるだけある。
 
 三政府それぞれの方針が決まり、この構想を実行する事になった。各政府の方針、役割は次のようである。

二足人政府:各人のデータを作成しバーチャル世界に送る。クラウド装置、運搬用ロケット、高性能ロボットを10組製造する。
バーチャル政府:各リアル人のデータからその人を作成する。各種シミュレーションを行う。
四足人政府:大容量質量電池の製造、理想物質を燃料とするロケットエンジンの製造、理想物質を用いた燃料を製造する。

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