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SFA 人類の継続的繁栄 第5章 『国際プレート技術検討プロジェクト』2

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

『30歳双生児レポート』の検討とその結果

 翌日の会議にこのレポートが提出され、プロジェクトのメンバーはこれについて検討した。議論を深めるほどメンバーの間に強い衝撃が走った。
 このレポートの検討をすすめる議論から得られた結論として、「周りの人に気付かれることなく人が死んでも、外観がそっくりで、記憶を継承した人が新たに出来ることになる。結果、新たに出来た人は、自分はもちろんのこと、周りの人も何ら疑念を持つことはないということが普通に起こる」ということだった。
また、これは「自分が連続して生きていると思う事は、そのような記憶があるからだ」との結論へと帰結する可能性がありえた。
 しかし、「ならば記憶喪失はどうなのか。記憶を喪失して自分が誰だかわからない、という事件はあった」と指摘するメンバーもいて、議論は大いに紛糾し、どうにも収まりがつかなくなった。
この議論の経緯は、ある意味では政治的な判断が求められることでもあり、プロジェクトを所轄するWUNO最高責任者にまで報告がされることとなった。すると、すぐさま「レポートの破棄」が命じられた。〔人類の継続的繁栄〕という点で、真実か否かは別として、「このような考えは危険だ」とのお達しである。このレポートは、即日抹消されることとなった。
このレポート破棄によって、議論の潮目はより混沌とした流れに変わっていった。
 「分子レベルの3Dスキャナー技術、分子レベルのプレート技術そのものを禁止するべきだ」との意見も出たほどである。
この意見に対しては、「この技術は現在では食料の安定供給に欠かせない技術で、これを禁止すれば世界中に一挙に食糧問題が発生する。全く現実的でない」との意見があり、禁止しない方向で模索する事となった。
ただ、根本的な問題が未解決なため、議論の流れは堂々巡りを繰り返すこととなる。
「3Dスキャナー技術とプレートを利用する、この危険な海外出張の場合も30歳双生児の場合も、有機物変換プレートの片側の分子合成だけを使用している。分子分解と分子合成の両機能を備える今の方式では、果物等の物体をプレートが透過するだけなので、何ら違和感はなく危険な考えにはつながらない」との意見がでた。
これに対し別のメンバーから、「分子分解側は使用せずに、人を製造するための分子材料を別に供給すれば、3Dプリンターで人形を作るように人を作れてしまい、新規に作った人は別としても、元の人が残ってしまう」との意見がでて、議論は前に戻ってしまった。

検討会議の結論

 メンバーの誰もが有機物変換プレートその物を見た事がないので、プレートがどのようなものか知らなくては話にならない。「プレートの内容を知る事が先決だ」という事になり、メンバーは翌日プレート製造会社を訪ねた。  
 プレート製造会社の技術者から一通りの説明を受けた後に、各メンバーからの質問が相次いだ。
 「材料は別に供給し、分子合成側だけを使うのは可能なのでしょうか」
 「昔は両方の面が独立していたのでそのような使い方ができたかも知れないですが、現在のものは分解と合成が一体化しているので片側だけ使用する事は不可能です」
 「なるほど」
 「最新のプレートの多くはスキャナー機能もコンピュータ機能もプレートに一体化されているので、プレートに触れた層のデータを取得し、解析して、その層を分解した後、その層に毒が含まれている場合はその毒を無害化し合成するようになっているのです。完全にワンストップです」
 別のメンバーからは次のような質問がでた。
 「種を果肉に変換する場合、種を構成する分子やその量が微妙に異なると思いますが、もし、ある分子の量が少なかった場合にはどのようにするのでしょうか」
 「今は外部から分子材料の供給などやりませんし、できません。全部もとの果物を分解した分子を使っています。種と果肉の成分や量が異なり、種の分量の果肉が作れない場合には、その分を小さな空洞にして、余った分子は余った他の分子と組み合わせて無害な物質を作り、種を分解した分子は全て果物のその部分に使用され、分子の供給も排出も行ないません」

 プレート技術の現状を知ったメンバーは、翌日検討の結果を整理し、現在のプレート技術では海外出張の技術に転用される恐れがない事、さらに技術の進んだ、〔スキャナーも組み込んだ最新のプレート〕は全く危険技術につながる恐れはない事を確認した。
 しかし、「8千万人を救ったあの手術装置やその関連文献、またプレート研究の初期の文献は片側だけ(分子合成)のプレート技術につながるので、全てを破棄する事が必要だ」との意見がでた。これに対し別のメンバーから「過去の関連する研究文献を破棄することは良いが、手術装置の廃棄には反対だ。万一、又同じような事故が起こった場合どうするのか」との意見が出た。
 このような指摘は会議メンバーも大いに納得するもので、これらの意見を盛り込んだ報告書が作成された。

プレート技術のその後

 国際政府の担当部門がこの検討プロジェクトの報告を受け、プレート研究初期の文献を全て焼却処分し、8千万人を救った手術装置を廃棄する方向で議論した。
 手術装置の廃棄については、関連部門でも様々な意見が出て活発に議論された。議論の結果、「今後あのような事故が発生する可能性はほとんどない。小惑星が地球に衝突し、地球が消滅するより小さな確率で、その心配をするよりも、あの手術装置を残す場合は、装置の使用マニュアルや技術文献も残さなければ使い物にならない。それらを残す事の方がはるかに危険だ」という結論となった。
 この結論を受け、プレートに関連する資料は徹底的に探し出され処分された。無論ネット内の関連情報も徹底的に削除された。しかしネットからの完全な削除は困難を極めた。特に個人が所有する、削除作業当時にネットに接続されていなかったパソコンに隠れた情報までは完全には削除できなかった。

 数年後、このプレート技術の文献がそのまま残ったパソコンが見つかり、そのパソコンの処理について検討された。
 冷静さを取り戻していた国際プレート技術検討プロジェクトが再度検討した結果、「危険なのは分子合成プレートだけが形成されたプレートであり、分子分解側は各種物質が混合したリサイクルの難しい廃棄物を、分子レベルに分解し、分子毎に仕分ける事ができ、厄介な廃棄物をリサイクルする技術として非常に貴重な技術だ」との結論が改めて出された。
 分子分解に関する資料だけを再度作成後、文献はパソコンごと粉砕処理された。このとき作成した分子分解技術資料により、後日〔分子分解専用のプレート〕が開発され、ほとんどの物を分子ごとに仕分けしリサイクルできるようになった。

 国際プレート技術検討プロジェクトの報告書がきっかけになり、特にネットやコンピュータの規制が一段と厳しくなり、国際政府の監視下にある半導体装置産業に対する監視の目も一段と強化され、AIの研究は全面的に禁止された。 
AIの研究の全面禁止の背景には、21世紀初頭のAIの研究が活発だった頃の、次のような笑い話も絡んでいた。

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