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SFA 人類の継続的繁栄 第6章 『完全な社会と進化の終焉』3

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

自然災害とブロック自給社会

 情報技術、医療技術、遺伝子操作技術のような危険技術の研究は禁止されたとはいえ、その他の技術は緩やかだが進歩を続けていた。
 技術の進歩が緩やかになったが、徐々に社会インフラは高度化してきた。そして高度化した社会インフラは自然災害に非常に脆くなる。それは丁度、積み木を積み上げ、大きなおもちゃの城を作るようなもので、おもちゃの城が小さいうちは多少の揺れでは壊れないが、城が大きくなると、小さな揺れによって大規模に崩壊する。これと同様で、グローバル化が進み社会インフラが充実すればするほど、大きな災害があったときには社会全体が大きなダメージを受ける。
 新誕生システムにより核心遺伝子が固定され、人体が放射線に対する大きな防御能力を獲得したとはいえ、核融合発電が実用化された初期には人々には脅威だった。そのため、人のほとんど住んでいない南極大陸など、数箇所の地域に多数の核融合炉を建造し、送電網により世界中に送電していた。
ある時、送電線を支える巨大な塔の直下で地震が発生し、塔が倒壊した。正確には中心の少し上部から折れ、接続されていた送電線が切断されたのである。送電網は多重化されていたが、この送電線の切断が引き金となり世界の各所で電力の供給が途絶えた。
 多くの地域では短時間で復旧したが、世界の1割にあたる地域で電力の供給が1ヶ月間停止した。エネルギーは全て電気に置き換えられていた為、電力が断たれた地域では何の活動もできず、あらゆるシステムが使用できなくなり、外部からの救援部隊がその地域に入る事すらできず、2百万人が死亡する大惨事となったのである。
 この大きな悲劇を受けて、国際調査プロジェクトが大規模に組織され調査が行われた。調査の結果、このような悲劇が発生しないように、さらにそれに備えたインフラを構築すると、かえって自然災害に脆弱な社会になる事がわかった。「自然災害や巨大隕石の衝突によるダメージを小さくするためには、グローバル化は行わず、十分な農地を有する人口数十万の都市を分散してつくり、その都市内で自給自足が可能な社会が望ましい」との調査レポートが提出された。このような危機管理のシミュレートは、かつてならばコンピュータを使って当たり前のように行われていたが、未来をシミュレートするような技術も危険技術の範疇に加えられたことによって見落とされた結果だった。
 このような事態に対して人類社会がとった対策は、かつての先進技術の復活ではなく、古典的なブロック経済社会の復活であった。
インフラの整備はその都市内部で完結し、緊急時に備えた小型空港を各都市に設け、隣接する都市とは鉄道或いは舗装道路により簡潔に結び、都市間の物流は最小限に抑え、生活に必要な発電所、農場、食糧生産工場等を備えた都市で、仮に10年間他の都市との交流が途絶えても、生き延びられる都市を作ることが提案された。
また機器の耐久性は21世紀初頭に比べ平均20倍程度に伸び、また人々の物欲の低下もあり、例えば自動車の全世界の年間生産数は15万台程度にまで減少していた。ただし生産量が少ないとはいえ、自動車産業のような相対的に大型の産業を各都市に作る事は不合理であり、数箇所の都市で集中して製造するようにした。他の都市への輸出用の産業は数個に留め、大部分はその都市内で消費するための産業とすることにした。 
 この構想は全体的には合理的だが、特に核心的エネルギー源の発電所にトラブルが生じた場合には、その都市の活動ができなくなってしまうため、バックアップ用の発電機を備える必要があった。このような都市形態に完全移行するため、質量電池の実用化が急がれることとなった。

質量電池の発明

 核融合発電の実用化により、電気エネルギーの原料事情は大幅に改善されたが、人類の継続的繁栄に対して原料枯渇の問題が存在した。このため国際エネルギー問題検討機関は第2暦30万年頃から、質量をエネルギーに変換する別の方式を模索していた。
 先ず、各種のエネルギーと質量変換効率の整理が行われた。水力発電の場合、大量の水の位置エネルギーを使用する方法であり、水の質量がエネルギーに変換する率はほとんどゼロである。これに対し水素の燃焼や火薬や乾電池等の化学変化によるエネルギーの質量変換率を調べると、変換率のごく小さな一定の範囲に集中して分布していた。核分裂や核融合の場合には、質量変換率は化学エネルギーに比べかなり高いが、それでも数値的には小さく、これもある範囲に集中して分布していた。
 これらを図式化すると、次の3つの領域が存在することがわかる。

1.位置エネルギーによるゼロに近い変換率の領域
2.化学変化による非常に変換率の小さな領域
3.核エネルギーによる変換率の小さな領域

 この3つの領域では、各領域間には大きな隔たりがある事が明瞭である。その図式を精緻に観察すると、核エネルギーによる変換率の小さな領域の外側に、変換率の大きな領域があるのが自然であると推測できた。
 この領域の研究が盛んに行われ、ついに人類は質量から半分近いエネルギーを取り出す方法を見つけることになる。結果、質量変換率20%以上もの効率を有する質量電池が発明された。
 実用化された質量電池の外観は、21世紀初頭に使用されていた乾電池を大きくしたもので、乾電池と同様に直接電気エネルギーを取り出す事ができる。電気の取り出し方も乾電池と同様に、負荷に接続する事により電力を得る事ができる。
 乾電池との決定的な違いは、いくら電気を取り出しても、何年間でも使用できる事にある。10kgの質量電池では、1万kwの電力を連続して5年使用しても、僅かに軽くなるだけで、重量が8kgに減少するまで、延々と使用する事が可能であった。

地球温暖化、寒冷化の制御技術 

 この数十万年に及ぶ人類繁栄の歴史の中で、徐々にだが、大きく進展した技術が他にもあった。それは地球温暖化、寒冷化の制御技術である。
 スーパー木による大気中の二酸化炭素の回収、スーパー木から炭素の取り出し、逆に二酸化炭素の大気への放出等に関する技術は大幅な進展を遂げ、大気中の二酸化炭素の濃度を急速に制御できるようになった。
 火山の大噴火により太陽光が一時的に遮られ、それにより寒冷化し、陸地の大半に雪が積もり、雪により太陽光が反射され更に寒冷化が進行した場合、黒色のカーボンを雪の上にまき太陽光の吸収率を上げ、また大量の炭素を燃やし巨大な燃焼熱で直接地球を暖め、同時に大気中の二酸化炭素濃度を上げる事により、寒冷化から逃れる事ができるようになった。

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