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SFA 人類の継続的繁栄 第8章 『希望をつなぐ極秘プロジェクト』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

人類終焉の日を迎えるにあたって、全世界的に行われた『国際終焉プロジェクト』。
ただ、1億人の記憶を宇宙に発信してもその記憶を宇宙のどこかの高度に発達した文明が捕らえる可能性などほとんどあり得なく、「単なる自己満足」という事は多少の知識を有する専門家には明らかだった。それはほとんど可能性など残されていない、半分冗談のようなプロジェクトでもあった。
そして、全世界が人類終焉の日を迎えるにあたってお祭り騒ぎを行っている最中、国際終焉プロジェクトとは別の、日本人を中心とする国際プロジェクトが秘密裏に進行していた。

人類継続に向けたオルタナティブ・プロジェクト

 小惑星が地球に衝突すれば、地球環境に壊滅的なダメージが残ることは動かしようのない事実であった。ただし、それは地球が壊滅してしまうことを必ずしも意味しない。つまり、地球は粉々に砕け散ってしまうわけではないということである。もちろん、小惑星の衝突により微小生物を除き、ほとんどの生物が絶滅していく事は確かだったが、衝突がイコール人類滅亡ではなく、結果として滅亡せざるをえないということであり、衝突と滅亡にはわずかなタイムラグが存在するのも確かなことだった。
 秘密裏に進行していた国際プロジェクトは、この点を考察して発足したプロジェクトだった。先ず、小惑星の衝突により地球にどのようなダメージがあるかを計算した。シミュレートの結果は、小惑星の衝突により衝突中心点から10キロの範囲では、衝突によるエネルギーにより地表面は蒸発し、半径50キロの穴が開きその部分の多くは宇宙に飛び散るというものだった。
 ただ、見方を変えれば地球全体の大きさに対してはその孔は小さな孔であり、また衝突地点の反対側では衝突による衝撃は比較的大きなものではなくなる。地中に頑丈なシェルターを設置しシェルター内の装置には簡単な衝撃吸収手段を設ければ壊れる事はないこともわかった。つまり、人がこのシェルター内に避難すれば衝撃により致命傷を受けることもないということだ。
 ただし、衝突により地球の環境は一変して、高等動物が住める環境に戻るのに少なくとも500年はかかる。したがって人がこのシェルターに避難したところで生存し続ける事は不可能であるのも事実だった。

 ――ならば、小惑星衝突後の地球で生きられるように人の体を作り変えてしまえばいい。

 この極秘プロジェクトでは、そんなタブーをタブーと思わない発想のもと進められたのである。
 結論からいえば、この極秘プロジェクトの最終方針は「人の記憶を引き継いだ自我に目覚めたロボットをシェルターに格納する」というものである。この点では1億人が僅かな望みの下に記憶信号を宇宙に発射することと同じであるが、このプロジェクトが成功すれば確実に個人の記憶をロボットに引き継がせることが可能となることを意味していた。

極秘プロジェクト発足の経緯

 当プロジェクトがタブーであり、極秘裏に進められたのは倫理的に問題があるとされていたからだったことはいうまでもない。当然、この時代でも知的ロボットの研究は危険技術として禁止されていた。すなわち、このプロジェクトの成否は新たに知的ロボットを秘密裏に開発できるか否かが鍵であった。

 「新誕生システムが稼動する少し前、ロボットをできるだけ人間に似せて作ったところ偶然にそのロボットが自我に目覚めた、という資料が人類史資料館には残っている」

 そんな話は誰もが耳にしたことがあった。無論、それは危険技術に認定されていることなので本当かどうかを確かめられるような文献は全て破棄されていたし、記録からも抹消されていた。
 そのため、ほとんどの人は都市伝説めいた話のようになんとなく思っていたが、当時の科学者たちが少し真剣に考えれば、その信ぴょう性は決して低くないことはわかることだった。この極秘プロジェクトの関係者の場合ならば、それを信じていたといっていいだろう。あるいは、資料がかつて存在していたことを知っていたのかもしれない。
 この極秘プロジェクトは終焉の日の30年前に発足したもので、文献無しで知的ロボットをつくる事は困難だとメンバー全員が考えていた。先ず、その全て破棄されたという文献を探し出すことが必要であった。無論、危険技術関連の文献はネットからも徹底的に削除されているはずだった。
 ただし、危険技術を所持していた者、あるいは集団がかつていたことは事件記録として明確に残っていた。彼らが最初に手を付けたのは、その痕跡をたどることだった。

危険技術の発掘

 数十万年前、核心遺伝子が最終的な状態に固定される以前は、人によってはまだかなりの権力欲が残っていた。そして、危険技術を使ってでも世界を掌握しようとする勢力というのは世界中にあったし、それを摘発するために世界治安機構もフル稼働していた。
 かつて、そんな危険技術を手に入れて世界を支配しようと考えたグループ一味が摘発されたという有名な事件があった。特殊な技術を使いネットの隅々まで調べた結果、そのことが半年後に当局に漏れて一斉に摘発されたという当時の大事件である。
 捜査において当局がその一味が入手した危険情報を調べたところ、発見されたのは21世紀初頭の当時の最新医療の文献が数十件と、竹を基にした初期の改良木を作るための遺伝子操作に関連する文献数件だけだった。
 当局は、犯人グループが半年間ネット内を隅々まで調べたが、結果的に入手できた危険技術の文献は、危険度のあまり高くないこれらの文献だけだったので、ネット上に危険文献は残っていないとの自信を深めた、との事だった。
 これがネット上に彼らにとって有益な情報が残されていない根拠であり、プロジェクトのメンバーはネット上から文献を探し出す事はあきらめ他の方法を模索したのである。
 より可能性があったのは、数十万年前に起きた別の有名な事件だった。その事件は有機物変換プレートに関するものだった。その事件では、危険技術として徹底的にネット上から削除したプレート技術に関する文献がそのまま残ったパソコンが見つかったという事件である。そのパソコンに残されていた文献により、結果「廃棄物のリサイクルのための分子分解プレートの開発」という大発明に繫がったという事件だった。そのパソコンはネットに接続されていなかったため、危険視された貴重な情報が保管されていたのである。

 プロジェクトのメンバーはこの事件をヒントに、新誕生システムが稼動以前のパソコン、あるいは当時使われていた保存メディアを探し出すことになった。もちろん、そこに欲しいデータが残されているとは限らなかったが、必要なデータがネット上に残されている可能性よりは断然高いと考えられた。そう考えられる理由は次のような事情があったからでもある。
 新誕生システムの運用と同時に電気製品、特に情報機器は21世紀初頭の技術に戻され、それ以上の開発を禁じられていたが、外観等についての開発は禁じられておらず、当然ケース等は炭素由来の物質に置き換えられ、操作性向上の点からキーの形状や配置は大きく変わり、21世紀初頭に使用されていたパソコンは興味を引くものだった。
 また新誕生システム運用と同時に情報機器の性能は21世紀初頭に戻され、その後の開発は禁じられていた事もあって、歴史の変換点を代表するような当時のパソコンは大いに興味の対象であり、世界のあちこちある人類歴史資料館には少なくとも1台は必ず展示されていた。そして、非常に貴重な歴史的遺品なので劣化しないように特別の管理の下に保存・展示されていた。また、ネットには流通していないもののデータがコピーされたまま忘れ去られ、そのままどこかに保存されている可能性も依然としてあった。
 このように厳重に管理されている太古のパソコンや旧来の保存メディアからどのように目的の資料を見つけるかが次の課題となった。

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