MENU

Novel

小説

SFB 人類の継続的繁栄 第1章 『第3世代人類の孵化』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

一瞬で過ぎ去る時間 -200年後の世界-

 小惑星の地球衝突から200年。
 新誕生システムで生まれた人間を第2世代の人類とするならば、第3世代の人類とも言える26名のロボット人間がいっせいに目を覚ました。
 電源をOFFしてから200年間ロボット人間の頭脳は停止していたにも関わらず、自分が引き継いだ第2世代の人類との感動的な別れから数分しか経っていない様な感覚だった。しかしながら、体については最新のカーボン技術が使われているとはいうものの、200年の歳月は相応の影響と負荷をもたらすことになった。
 26名それぞれの腕や足は、なかなかにスムースに動かなかった。
 「機械仕掛けとはいっても、寝すぎると体が凝るらしいな」
 「200年前に作られたんだから。私達はもう立派なアンティークだ」
 そんな軽口を叩きながら、それぞれが体の感触を確かめるように椅子から立ち上ると、順に自分の体に充電を開始していく。その後、各々の体の動きを確認し、スムースに動くように手入れを行った。
 そして概ねの準備が整うと、いよいよその段となった。
 「さて、どうなっているかな。私たちの母なる星は……」
 26名の中で最年長の阿部がそうつぶやく。
 「シェルターはシミュレート通りに生きていたんですし、そう悪くはなっていないでしょう」
 「そうだといいけれど……」
 ロボットに表情はないため、メンバー各員はいたって平静な様子であったが、その内心は不安と期待、興奮が混ざり合っていた。
 「では、開けるぞ」
 阿部が各員にそう確認すると、メンバーは黙って頷いた。

 小惑星の衝突から200年が経ち、衝突のあと地球を覆っていた塵はすっかりなくなっていた。たまたまその日は晴れていて空気は澄み渡っていた。シェルターは衝突の際に生じる巨大な津波を避けるために高地に作られていた。
周りの様子がどうなのかと26人は見晴らしの良い近くの山に登った。その間、草木や動物は見かけなかった。山の頂上に望遠鏡を設置し、周囲から遠くに見える海まで各所を観察した。どこにも草木は見つからなかった。海は穏やかだった。

文明再生の第一歩

 シェルターに戻った26人は、今後のことについてミーティングを行うことにした。
 先ず「リーダーを選ぶ事が必要だ」という話になり、リーダーには秘密裏のプロジェクトを創設した上位機関の3名から選出する事とした。結果、最年長者の阿部がリーダーに、井上と上田がサブリーダーに選出された。年長者と言っても体は皆同じロボットなので体力が劣る事はない。
 その後、阿部を議長として今後の戦略会議が開かれた。
 200年前、事前に想定されるいくつかの状況パターンから、現状の課題をピックアップして整理していく。そこから、優先事項を順に決めていくことになった。

 「こうしてみると、まさにサバイバルですね」
 「文明がほとんどリセットされたんだ。文字通り一からやり直しだ」
 最優先事項は、言わずもがな『確実に生き残ること』であった。そして、そのために必要な事項が挙げられていく。大きくは、次の3つが挙げられた。

 1)この環境で生きていく為の生活上の改善を行うこと。
 2)シェルター周辺の道路等のインフラを整備すること。
 3)それらを行なうための装置や道具を作ること。

 その為、生活部門、インフラ部門、技術部門の3つの部門をつくり、リーダーの阿部が生活部門、井上氏がインフラ部門、上田氏が技術部門の部門長となった。なお、基が同一人物だった8人の江口氏はそれぞれの部門に分散して配属された。
 技術部門では当面行うことが記載されたマニュアルに基づき、シェルター内に残された工具一式を使用して残された大量の材料、部品から当面必要な道具や装置を作り始めた。
 生活部門では顔が皆同じではやりにくい、また8人の江口氏の声が同じでは混乱するとの意見から、先ずそれぞれの顔と声とをつくり、江口氏については名前も江ノ口、江田、江山の様に明確に区別する事とし、声質も少しずつ変えていく事にした。
顔については、それぞれ基の人間の顔のマスクを作ることにした。カーボン関連技術は大きく進歩していたので、カーボンを使用してマスクを作る事は精巧にできた。顔だけでいえば、基となった人との顔と見分けがつかないほどに出来上がった。
 また、基が同じ人間だった江口グループの8名については大きな特徴あるホクロを各自異なった位置に付ける事により解決した。26名全員がそれぞれの記憶に残る顔立ちになったので、コミュニケーションもスムースに行えるようになり仕事の能率も上がった。
 インフラ部門には部門長の井上含め10名が配属されたが、まだ十分な機械が出来上がっていないのでインフラの整備はなかなか進まなかった。
 インフラ部門の急務は2キロほど離れた場所にある大きな洞窟への道を整備する事であった。洞窟にはシェルターの数十倍の生活空間があるので、その洞窟とシェルターとをつなぐのが目下の目標となったのだが、このインフラ整備が遅れていることに対して大きな不安があった。
 その不安は、もちろん隕石衝突がもたらした地球環境の変化が引き起こすものであった。

第3世代人類のゆりかご

 目下の大きな不安は、小惑星の衝突により地球の軌道が楕円形になった事に起因している。1日や1年の長さには幸いにして大きな変化は無かったが、軌道が楕円形に変化し、回転軸が軌道面に対しほぼ垂直になった事により、太陽に最接近する猛烈な暑さの夏と太陽から遠ざかる猛烈な寒さの冬とが1年に2回訪れることが、観測データより報告されていた。
 現在はその中間の時期なので問題ないが1ヶ月後には夏が始まる。真夏になると最高気温が80度になることも予測された。
体は最新のカーボン技術で作られているので何ら問題ないが、脳は21世紀初頭の半導体技術で作られているので80度の暑さには耐えることができない。シェルターに引きこもり夏が過ぎるのを待つしか方法はない。道の施工は何とか間に合うとしても、洞窟とシェルターとを結ぶ道には太陽光を遮るドーム状の屋根を設ける必要がある。
 半月でこれを完成させるか、シェルターに引きこもり夏をやり過ごすかの決断をせまられた。
 この問題に対し生活部門の1人が予備用に残っている24台のロボットを活用する案をだした。そして、この案を全員で検討した結果採用する事になった。
 ただ、問題は誰の記憶を植え付けるかである。
 さまざまな議論があったが、「もともとの人間の記憶を移植すると、この3週間の貴重な体験の記憶は残らない。この26名人の中から選んだほうが良い。何よりも我々ロボット人間同士なら全記憶を確実にコピーする事ができる。インフラが問題なので、インフラ部門の人の記憶を移したほうが良いのでは」という、案に全員が納得した。
 「それでは誰の記憶を移植するのが良いか」
 阿部リーダーの問いかけに対し、「江口8人グループは8人の間で何のトラブルもなく、また勤勉なので8人の中のインフラ部門の人が良いのでは」、との提案が挙がる。
 「たしかにインフラ部門に集中するより、各部門から8人グループの人を選んだほうが、各部門も強化されるので良いかもしれない」
 結局、各部門から江口8人グループから1名ずつ選び、その3名の記憶を24台の予備ロボットに対して均等に移植する事となった。
 移植された24名は8人グループだけでも紛らわしい、という事で全く別々の顔と声を持たせる事となった。
 こうして第3世代の人間として新たに24人が加わり50人となった。
 当面の急務はインフラ整備なので、新たな24人は全員インフラ部門に配属され、道路工事が終了後それぞれの部門に再配属されることとなった。結果、シェルターと洞窟を結ぶ工事は夏を迎える前に完了し、彼らの生活空間の場は大きく拡大した。
 洞窟は、南アフリカにあった人類発祥の地として名高い洞窟より、「スタークフォンテン」と名付けられた。
 

小説一覧

© Ichigaya Hiroshi.com

Back to