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SFB 人類の継続的繁栄 第2章 『「シン・新誕生システム」始動と山積みの課題』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

シン・新誕生システム

 次の彼らのミッションは、新たな人類を増やすことである。
 これは、200年前から想定され当然計画プログラムにもあったことであり、いわば「シン・新誕生システム」と呼べるものである。
新たに人を増やす方法は、次のようなプログラムとして行われることとなる。
まず、第3世代の人間には性別はない。新たに人を誕生させ仲間を増やすには、体や脳などのハードウエアを作りそこにソフトを入れ、チューニングを行うことで自我に目覚めさせ、最後に誰かの記憶を移植するという方法をとる。
こうする事により、過去の経験を学習済みの人を誕生させることができるのがメリットである。また、これまでの経験上、過去に同じ記憶を持つ人が新たに誕生しても、単に同じことを学習した学習済みの人が誕生するだけの事であり、大きな問題ではないこともわかっていた。
シェルターに保存されてある人類史を解読すると、これまでの人類、特に第1世代の人類では、教育と学習により文明を進化させていることがわかった。
教育と学習とは、まさに人類の過去になした経験等を次の世代に継承する事なので、現在行おうとしている学習済みの人を誕生させる事は極めて合理的、との結論になり、「シン・新誕生システム」による第3世代の増員計画はスタートした。

 人類の継続的繁栄という使命を担った彼らは、いかに第3世代の人類を多く誕生させ確実に第2世代の人類からのバトンを受け取ることが最大の使命である。小惑星の衝突によりほとんど全てのインフラを失った彼らは、インフラ、特に気象の悪化の中で活動範囲を拡大するための交通網の整備が最優先課題であった。
シン・新誕生システムを実際に稼動するためには、第3世代の人を作るための材料を入手する必要がある。地球のあちこちには膨大な備蓄された炭素が残っているはずである。また脳を構成するためのメモリーや関連する電気部品を見つけ出す必要もある。シェルターに備蓄されていたそれらの材料では50人を誕生させる事がせいぜいであった。

都市発掘プロジェクト

 シェルターと洞窟拠点「スタークフォンテン」との間に、ドームで覆った道が開通したことによって行き来が季節によらず自由にできるようになり、洞窟内を整備して活動の場をシェルターから「スタークフォンテン」に移す事になった。技術部門が製造した重機を洞窟に運び、洞窟の石灰岩を取り出し、洞窟の底に敷き詰め、その上を石灰の粉末で覆い固めて平坦な床を作った。
 一方、生活部門と技術部門はシェルターに残り、シェルターに備蓄されていたカーボンとメモリー等により、新たに50名を誕生させた。これにより人類は100名となった。新たに誕生した50名もこれまでの50名の苦労や考え方を記憶として引き継いでいるので即戦力として勤勉に働いた。
 人類は100名となり洞窟が使用できる様になったが、カーボンやメモリーの備蓄はほとんどなくなり、この後どのように仲間を増やすかが問題であった。
このような課題を解決する方法を見つけるのに、全員の知識を使用する必要は無かった。たとえ最後に誕生した人でも、それまでの情報はほぼ共有されていたからである。この課題を解決するための人類増産プロジェクトが新規に誕生した人の中から10名が選出されプロジェクトは組織されていく。
 人を誕生させるために不可欠な物は、カーボンとプロセッサー、メモリー等の半導体チップと充電式バッテリーである。その他の配線材料や絶縁材料等は、カーボンがあればシェルター内に格納されているカーボン変成機で製造可能である。
これらを入手する為の障害として質量電池の問題があった。質量電池はシェルター内に1つ、洞窟内に1つだけであり、これ以上に活動領域を広げるためには最前線基地にも必要で、これを入手できないと充電のために頻繁に戻らなくてはならず、活動領域を広げることができない。これらの課題についてプロジェクトメンバーは検討した。

「グローバル化した高度のインフラ社会は自然災害にもろく、小惑星衝突前の前時代の終盤では自給自足できる中規模の多数の独立した都市に分散されていた。小規模だが何もかも備わっている中規模の都市により世界は成り立っていた」
「しかし、辺りには草木はおろか、人工物の面影は見当たらないぞ」
「滅んだ都市というのは、埋もれているというのが定番ですよ」
「つまり、近隣から灰に埋まった都市を見つけて、発掘すればそこに一通りの物は揃っているということ? ですかね」
「その可能性は高いはずだ。まずは、都市の痕跡を見つけよう」

こうして、まずは埋もれた都市を見つけるための調査が開始されることになった。

都市発見と今後の課題

 晴れた空気の澄み渡った日、探索プロジェクトのメンバーは望遠鏡と200年前の地図を携えて、都市の痕跡を見つけようと周囲を観察した。GPSのような衛星を活用したテクノロジーはすでになく、目と足による極めてアナログな作業であった。
独立した都市とは言っても近隣の都市とは道路や鉄道で繫がっていたはずであり、かつてのライフラインの痕跡でも見つかれば、そこから辿ることも可能であるはずだった。
探索から2日目、活動拠点である「スタークフォンテン」から150kmほど離れたところに棒状の突起物を見つけた。また、その周辺から四方に伸びる道路のような筋があることもわかった。その筋をたどってゆくと、地中に埋もれた道路標識を発見することができた。
その標識の周辺を掘ってみると、支柱は酷く曲がってはいたがその基盤から立っていた地面から動いた様子はない。この道路標識どおりの場所、つまり50km程度離れた所に都市があることが推測された。
探索隊は標識が指し示していたであろう方向に向かっていく。そして、その周辺をつぶさに観察すると建造物をうかがわせる凸凹が多数見つかった。明らかに都市の跡である。そして、探索隊はその都市の跡と思われる場所と「スタークフォンテン」との間を観察し、その都市に向かうための新たな地図を作成していった。
 すでに主な活動の場はシェルターから洞窟に移っていた。探索プロジェクトのメンバーは「スタークフォンテン」に戻り、リーダーにこの事を報告すると、すぐさまサブリーダーと人類増産プロジェクトとインフラ部門の関係者が招集され、今後の方針について検討が開始されることになった。
「50km先の都市は小惑星の衝突によるダメージは少なく、堆積した灰を取り除けば必要なものが多量に入手できる可能性が高い」
検討の結果、以上のような結論になり、その都市を目指して道路を作ること決定となった。これを受け、インフラ部門の担当者による道作りについての見積もりがすぐに出された。
「直線距離で50kmなので、おそらく70km程度の長さの道路を作らなければならない。ただし日差しを遮るためのカーボンはすでに使いつくしている。また、道路が延びるにつれ、充電のためにスタークフォンテンまで戻るのでは作業効率が低下する。道路整備の最前線には移動基地を作り、質量電池を備える必要があり、さらに夏場でも作業できるようにするためには移動基地には日差しを避けるための移動式ドームを設ける事が必要である」
新たな人類を誕生させる「シン・新誕生システム」始動のための資源確保、その資源を確保するためのインフラ整備。そして、そのインフラを作るための資源確保……。
第3世代人類にとっての課題は山積みだった。

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