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SFC人類の継続的繁栄 第0章『太陽系の消滅前夜』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

宇宙移住系計画プロジェクト

 太陽系の消滅前に発足していた宇宙開発プロジェクトは、地球の引力圏から離れ、新天地を開拓しようとの考えから生まれたものだった。
 プロジェクト発足人が、いわゆる変わり者の研究者であり、予算もさほど多くはなかったが、風変わりなその発想に惹きつけられ、一癖ある優秀な人材が集まっていた。
 宇宙開発プロジェクトにはいくつかの下位プロジェクトがあった。エンジン開発のためのプロジェクト、新たなエネルギーを開発するためのプロジェクト、そして、宇宙開発全般に関わる一般プロジェクトの3つが大枠である。
 この一般プロジェクトの中には、開拓候補地を探す〔有力惑星発見プロジェクト〕というものがあった。
〔有力惑星発見プロジェクト〕ではまず、超大型の反射望遠鏡を作る事からはじめた。大型の反射鏡は複数のパーツを組み立てて製造する。巨大な反射鏡はカーボン変成機で製造する。宇宙では重力がないので、地上に比べずっと容易に歪みのない反射鏡を作ることができた。
 人類が作った光学式望遠鏡の中で最大の超大型望遠鏡が、大気や重力のない宇宙空間に建造された。その威力は第1世代の人類が作った望遠鏡と全く比較にならない。結果、中型望遠鏡により有力候補が多数見つけられ、候補となる惑星は超大型望遠鏡により詳細に観察された。
 有力候補は沢山見つかった。第3世代の人類には空気や水は必要ない。空気や水がない方が自然災害による問題は少ない。温度や重力、それに火山活動、地表の安定度などの単純な選択基準を満たせばよいので条件はそこまで厳しくはない。
 50光年先と70光年先に、理想的な惑星が見つかった。最終的にどちらを選ぶか。その最優先条件は、「どちらの方が行きやすいか」である。強力なエンジンができたとはいえ、50光年も移動するのは大変である。
 超大型望遠鏡により地球との間にあるブラックホールを探し、惑星までの経路を探した。それらの惑星に行くには、ブラックホールの引力を利用する〔スラローム航行〕が一番である。

スラローム航法

スラローム航法とは、たとえば交差する線路を避けて道路を作る場合、線路の下をくぐる〔アンダーパス方式〕にすると、直線的に走るのよりも早く反対側に到達するのと同様な原理を応用したもので、目標の星の方向にあるブラックホールめがけて推進し、ブラックホールの引力により加速し、ブラックホールの縁すれすれを高速ですり抜け反対側に移動し、次のブラックホール目指して推進する、ブラックホールをジグザグに渡り歩く方法である。
 この航法は、惑星の公転を利用するスイングバイ航法と異なり、エネルギーを得る方法ではないが、ブラックホールの引力により一時的に強力に加速するため、時間を大幅に短縮する事が可能となる。
 観察の結果、50光年先の惑星までの間には、利用できそうなブラックホールが3個確認できた。70光年先の惑星までの間には超大型のブラックホールも含め、6個のブラックホールが確認できた。またこの星の1光年手前には、延々とガス雲が広がり、摩擦ブレーキに利用できる事がわかり、計算の結果70光年先の惑星のほうが早く到着できる事がわかった。
「地球との連絡には近いほうが便利」という理由で「50光年先の惑星にするべきだ」と主張する技術者もいた。しかしながら事実上50光年先の惑星と連絡を取り合う事は不可能である。1回のメッセージのやり取りに100年もかかる。光の速度はあまりにも遅い。
 計算の結果70光年先の目標の惑星に到着するには、400年かかる事がわかった。400年は大変な時間だが、事実上死のない第3世代の人類には不可能な話ではない。また質量電池の節約の意味でも、航程の大半は隊員の電源を切って航行すれば良い。電源を切っていれば時間の長さは感じない。
 目標の惑星に近づいたら減速する必要がある。途中までロケットエンジンで加速し続けているので、その分を減速しなければならない。減速後、その惑星の太陽(第2太陽)を回る軌道に入り、徐々に惑星に近づき、惑星の衛星となり、静止軌道に移る。
 静止軌道から惑星の地表に降りるのが大変である。推進力の小さなこのロケットのエンジンでは地表に降りる事は不可能である。またこの惑星には空気がないのでパラシュートを使用する事はできない。そのため、静止軌道から地表に降りるための検討も行った。
 こうして移住先の惑星は決まり、その惑星までの航行経路のシミュレーションが終わった頃、質量電池は完成し、強力なエンジンも完成した。宇宙開発プロジェクトは〔新惑星への移住プロジェクト〕に格上げされ、具体的な移住計画が次のように策定された。

資料1 策定された移住計画

  1. 隊員は6人の家族とする。
  2. 宇宙船には隊員6人、2つの質量電池、カーボン変成機、1000人分の脳に当たる記憶入りの半導体チップ、10個のバッテリー、1万人の記憶データとそれに付属する顔データと声データ、小型重機、半導体製造装置、第1世代の人類から第3世代の人類までの詳細な人類史、その他を搭載する。
  3. 目的の惑星の静止軌道に到着後、宇宙基地を建造し易い場所を見つけ、その位置まで移動する。
  4. 宇宙船の船体を材料して、先端に〔1名の隊員と杭とハンマーを格納した籠〕をくくりつけたメインワイヤをカーボン変成機により連続的に製造し、籠が地上に到達するまでワイヤを作り続ける。
  5. 籠が地上に到着したら、隊員が籠から降り、地上に杭を打ち凝固剤で杭の周りの地面を強力に固化し杭と一体化させる。
  6. メインワイヤと杭とを連結する。
  7. 宇宙船のカーボン変成機で、先端に重しを付けた牽引用ワイヤを、地上に到達するまで連続的に製造する。
  8. 地上の隊員が籠に牽引用ワイヤの先端を連結し、籠とメインワイヤとをスライダーにより連結し、簡易宇宙エレベーターを建造する。
  9. 宇宙の隊員が高速モーターを利用してこの籠を引き上げる。
  10. 3名の隊員を地上に降ろす。
  11. 宇宙エレベーターを何度も往復させ宇宙船に積んだ機材を全ておろす。
  12. 当面のカーボン材料として使用するために、宇宙船の船体もできるだけ解体し地上に降ろし、最後に残りの2名の隊員が地上に降り、宇宙にはロケットの残骸だけを静止軌道上にメインワイヤと繋がれた状態で残す。 
  13. カーボン変成機で10人分の人体を製造し、1000人分の脳の中の10人を誕生させ16人にする。
  14. このプロジェクトのリーダーのデータを基に誕生した者を、新惑星のリーダーとする。
  15. 990人分の人体の材料を採掘し990人分の人体を製造する。
  16. 残りの990人分の脳により990人を誕生させ、新惑星の人口を1006人とする。
  17. 小型重機で大型重機やその他の必要な道具を作るための原料を採掘する。
  18. 大型重機などで、その他の重機や人間の材料を採掘する。
  19. 半導体製造装置とカーボン変成機でソーラーパネルを作り、恒久電源として使用する。
  20. 半導体製造装置でメモリー等の半導体チップを増産する。
  21. カーボン変成機等でバッテリーを増産する。
  22. 1万人の記憶データにより新たに人を誕生させる。
  23. リーダーを長とする政府を作る。
  24. その後の計画は政府が中心になり策定する。
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