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SFC人類の継続的繁栄 第3章『新たな月の開発』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

月開発と宇宙エレベーターシステム

 最も重要な材料であるカーボンは黒鉛として大量に採掘できたが、バッテリーの製造に必要な特殊な金属の採掘には見通しが立たなかった。超大型望遠鏡で第2地球の月に当たる衛星を丹念に調査したところ、この金属を大量に含む隕石が衝突したと思われるクレーターが見つかった。
さらにこのクレーターを詳細に観察すると、この金属ばかりかメモリーチップの製造に必要な貴重物質や、その他の有用な物質が大量に存在する宝の山の可能性が高い事がわかった。この報告を受けて「新たな月」における開発計画が急遽策定される事になった。

 技術者を中心としたプロジェクトが組織され、まず月へ行く方法について検討した。
月を綿密に観察した結果、大きさは小さいが、大きさの割に質量は大きい事がわかった。自転周期も判明し、これらのデータから月の上空に静止孫衛星を設ける事が可能だとわかった。また孫衛星と月面とをつなぐ宇宙エレベーターも容易に作る事ができそうであった。
地球側の宇宙エレベーターの検討に入った。真っ先に、静止軌道上に放置され、地上とつながっている簡易宇宙エレベーターを利用する案があがった。
その案を実現するためには、この簡易エレベーターの現在の状態の調査が必要である。 そこからは担当の技術者が現地で調査を行い、結果は調査報告書にまとめられた。
簡易エレベーターの状態は、期待通り当時のままであった。地面に強固に打ち込まれた杭にメインロープが連結され、エレベーター籠もスライダーを介してメインワイヤと連結され、牽引用ワイヤの一方の端は籠に、他方の端は小型の巻き取り機に接続されていた。
宇宙基地の詳しい状態まではまだわかってはいなかったが、メインワイヤが緊張している様子から、宇宙基地は静止軌道よりわずかに上空に位置し、滑車が取り付けられたプラットホームにはロケットエンジンと質量電池が設置されたままの状態で、牽引用ワイヤは滑車から外れていないようだった。
 このエレベーターは、宇宙基地から地上への物資の荷下げ専用のもので、地上に設置された巻取り機は、空の籠を宇宙基地に戻すときだけに使用されていた。このままでは荷揚げに使用する事は不可能であり、少なくとも巻き取り機を荷揚げ用の強力な物に交換する必要があった。
 巻き取り機を交換後、空の籠を途中まで運んで問題ないことが確認された。しかし実際に籠に荷物を積んで荷揚げする場合は宇宙基地のロケットを緻密に操作し、メインワイヤにかかる力をできるだけ小さくしなければならない。そのためには誰かが宇宙基地に行かなければならなかった。
 このための方法が議論された。議論の結果できるだけ体重の軽い人をゆっくりと荷揚げする事になり、宇宙でのロケット操作に支障がない範囲で、できるだけ小さな人体を製造する事にした。
小さな人体が製造され、担当技術者がその体に乗り換えた。小さな体に乗り換えた担当技術者を籠に乗せると、メインワイヤの張り具合を見ながら、慎重に牽引用ワイヤの巻き取り作業を開始した。
500時間後、宇宙基地のプラットホームに小さな技術者が乗り込んだ。宇宙基地は予想通りの状態だった。試しにロケットエンジンのスイッチを入れてみるとエンジンが点火した。質量電池もエンジンも無事である。真空中では物はほとんど劣化しないようだ。
 地球側の宇宙エレベーターと月側の宇宙エレベーターからなる地上と月面を結ぶ宇宙エレベーターシステムが建造された。
  


地球の宇宙エレベーターと月の宇宙エレベーター

 第1次探査には1人の開拓エクスパートが10体の大型人体に乗り移り試掘する事になった。結果は、効率よく試掘でき大成功だったが、探査終了後、大きな問題が発生した。
月面の作業を終え、元の体に乗り換え戻ってきた隊員が精神にダメージを受けていた。医師が脳内の個人記憶を調べたところ原因がわかった。この隊員は少々短気なところがあった。
 元々1人のこの隊員が10人の隊員となり試掘作業を行ったが、原因はこの内の2人の隊員のトラブルにあった。掘削作業中に隣で作業していた隊員に小石があたり、もともと短気な2人が口喧嘩をはじめた。周りの隊員が仲裁してその場は収まったが、2人の隊員の間にわだかまりが残ってしまった。わだかまりを残したまま、10人の隊員の個人記憶を統合したため精神に大きなストレスが残ったのである。
 医師と技術者が、喧嘩の記憶を消去し、わだかまりを解消するフィルターソフトを作成した。一旦この隊員から個人記憶を取りだし、フィルターにより不都合記憶を除去処理し、処理後の記憶を隊員に戻した。手術は成功し隊員は健康を取り戻した。  
 記憶統合時のソフトにこの不都合記憶除去用のフィルターを組み込めば、月面探査と同様に1人で複数の人体に乗り移り仕事をする事が可能になり、この手法は色々な場面で応用されることになっていく。

超大型望遠鏡から見えたもの

 真空中での超大型望遠鏡の威力はすごかった。月面のクレーターの観測から、人の誕生に必須の物質の存在を見つけて、第1次探査につながった。
月の観測が終了すると、その役割は次の目的に移行する。誰もが心の奥底で気になっていた、消滅した太陽系周辺の観測である。超新星の爆発とは明らかに異なる異様なものだった。同様の消滅跡を探すために、5年をかけて宇宙をくまなく観察したが、同様な消滅跡は見つからなかった。
 観測員は、再び太陽系の消滅跡を観察しようと望遠鏡を動かした。動かすといっても超大型望遠鏡である。太陽系消滅跡へ移動するには1日がかりである。
観測員はタイマーをセットし仮眠を取った。タイマーにより目覚め、少しずつ太陽系消滅跡に向かって動く望遠鏡が映し出す映像を見ていた。
すると一瞬異様な光景が目に入った。観測員は望遠鏡の移動を止め、ゆっくりと元の方向に移動させ、一瞬目にした場所に戻した。
異様な光景である。
今までくまなく探した光景とは全く異なり、規模はかなり小さいが、太陽系消滅跡と類似した光景であった。
 宇宙を隈なく観測したつもりだったが、あまりにも近いところは観測していなかった。今度は太陽系消滅跡から600光年以内の範囲を丹念に観測した。すると同規模の消滅跡が1カ所、また最近消滅したと見られる太陽系消滅跡と酷似した消滅跡が1カ所見つかった。 何と、この付近の領域で、人類が消滅させた旧太陽系も含め大小4カ所の消滅跡が見つかったのである。観測員は同僚と共にそれらの消滅跡の状態と位置を詳細に観察・記録し、報告書を作成した。
 小さな消滅跡は数万年前に、大きな消滅跡は数百年前、丁度、宇宙船が第2地球に向かって航行を始めた頃に発生したようだ。関係者はこの結果に大きな衝撃を受けた。宇宙をくまなく観察しても見つからなかった爆発による消滅が、太陽系の近隣で立て続けに起こっていた。偶然とはとても思えない。関係者は連日この不思議な問題について、議論し、分析を続けた。 
 長時間の分析の末、次のような結論に至った。

1.爆発はいずれも活性物質の急激なエネルギー変換によるもの。
2.爆発はビッグバン後130億年以降。
3.ビッグバン後120億年以内では同様の爆発跡は見つからない。
4.ビッグバン後130年近くの星は、光速の関係からこの周辺しか観測できない。
5.ビッグバン後130億年以上経過すると、おそらくあちこちで同様な爆発が発生する、と推測される。

 これらの事から推測されるのは

1.4つの爆発は知的生命体が引き起こしたもの。
2.旧太陽系消滅以外の爆発は、人類が関与したものではなく他の知的生命体によるもの。
3.知的生命体が、効率の良いエネルギー源として活性物質を作り、意図したか否かは別として、その知的生命体が惑星や衛星全体を活性化させ、爆発させた。

 調査報告書を作成し、政府に報告した。政府は質量電池の研究を禁止し、現存する2つの質量電池を宇宙に放出した。

活性物質の危険性

 政府はこの問題を受け、関係技術者を中心とする〔危険物検討プロジェクト〕を発足させた。
 検討の過程は次のようなものだった。

「ビッグバン後、130億年経過し、恒星を回る惑星あるいは衛星に知的生命体が誕生し、効率の良いエネルギー源として活性物質を開発し、意図したか否かは別として惑星あるいは衛星全体に活性化が広がり爆発したと推測される」
「意図したか否かも問題だ」
「技術がここまで進展すると、意図的に行えば大変な事がおこる」
「知的生命体についてどのような形態があるか挙げてみよう」
「脳だけのものもありうる」
「思考だけになって、宙をさまよっているものもありうる」
「そこまで進化すれば逆に無害だろう。手が無ければ何もする事ができない」
「進化しすぎて、そこまで行けば無害だが、我々みたいな中途半端なものが一番危険だ」
「たとえば、我々のエネルギー源である太陽光が千年後に無くなるとわかった場合、我々のような中途半端な知的生物はどのような行動を取るだろうか」
「それは替わりのエネルギーを開発するしかない。効率の良いエネルギー源を探すだろう。最も効率が良いのは何と言っても活性物質だ」
「千年後に太陽光が無くなるとわかったならば、活性物質を検討するのは確実だろう」
「活性物質は危険で、いずれ消滅につながる」
「効率が中途半端な、核融合で輝いている恒星の下に文明は栄えた」
「恒星は永遠には輝かない。やがて消滅する」
「やはり最終的には活性物質だ。活性物質の安全な封じ込め技術の開発が必要だ」
「封じ込め技術ができても、消滅を意図的に行う場合は避けられない」

 このような議論を経て、「活性物質を作れば、いつかは巨大爆発につながる」という趣旨の報告書が作成されると、政府は質量電池研究の永久禁止を法制化した。

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