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SFE人類の継続的繁栄 第13章『宇宙をめぐる船』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

天体宇宙船製造

 第4太陽系の住民に対し天体宇宙船計画が発表され、60億人の移住希望者の募集が行われた。10個の天体宇宙船に暮らしながらの終わりのない旅に対し、100億人が応募した。
 第4月のエンジン製造工場で各種大きさのセルフエンジンの躯体や部品が製造された。
隊列を組んで宇宙を航行する航法では、旗艦である先頭の大きな天体が強力な推力により前方に推進し、2番艦は旗艦の引力によりひきつけられ、3番艦は2番艦の引力によりひきつけられ、次々と後続の天体宇宙船をひきつけるので、全体の推力の4割以上が旗艦にかかる。そのため旗艦の4つのセルフエンジンの大きさは直径100m、長さ1kmにも及ぶ。他の艦のエンジンも直径20mから70mの大きさである。
 航行方向を変更したり、前方の天体との距離を調整するためには微妙な出力調整が必要だが、このエンジンは出力100%から6.25%までの16段階の飛び飛びの調整しかできない構造である。
 この欠点を補い推力の微妙な調整を行うために、4つのエンジンの角度を調整できるようにした。推進方向に対し4つのエンジンの角度を小さくし、平行に近くするほど推力は増し、逆に角度を大きくすれば推進方向への推力成分が減り、効率が低くなり推力は低下する。
16段階の飛び飛びの調整とエンジンの角度の微調整により推力を連続的に調整する事が可能になり、4つのエンジンそれぞれを独立に出力制御する事により進行方向を変える事も可能になる。
しかしながら旗艦のエンジンはあまりにも巨大であり、最新のカーボン変成技術を用いても、この角度調整機構を設けるのは得策でなく、巨大なメインエンジンの角度は固定し、微妙な出力調整用には補助エンジンを取り付け対応する事にした。
 月面でのエンジンの製造と平行して、10個の天体で使用する当面必要な各種機材の製造も地球上の工場で始まった。大量の質量電池、各種カーボン変成機、半導体製造装置、移動装置、その他各種機材の製造と共に大量の人体と大量の脳のチップも製造されていく。
 100億人の移住希望者の中から60億人が選定され、それぞれ移住先の天体も決定された。第4太陽系の大型宇宙船を総動員して新規に製造された機材や人体は、各天体へ輸送されることとなった。

天体への移住開始

 第1回目の移住が始まった。最初の移住民は各天体の開拓隊員として6億人が選定された。6億人の開拓隊員は基地建造に必要な機材等を携えて大型宇宙船により各天体に到着した。
 船団の2番艦には60億人を率いる政府が置かれることになった。政府の長には江田氏がなり、各艦には自治政府を置く事になった。各艦といっても1艦1艦がそれなりに大きな天体であり、将来それぞれの天体に数十億人が住む事が予定されている。 
 そして船団の旗艦は元々、天体宇宙船計画の研究のための基地が整備された小惑星がなる。この小惑星には実験設備や研究隊員用の住居棟や大量の人体も用意されていたが、本格的な開発のため1億人が移住してきた。
 まず、基地の増強と居住環境の整備を行なわなければならない。この天体は旗艦であり、先頭を高速で航行するため、天体の前方には大量の宇宙の塵が衝突する事が予測された。このため天体の後方部である後半球に居住地域を設けるように計画された。
後半球側に大規模なカーボン鉱山を見つけ、カーボン変成機などの主要な機材を新たなカーボン鉱山の近くに移し、大規模な製造工場を建設し、14億人分の人体づくりと仮設住居の建設に邁進した。
 15億人分の仮設住居が出来上がり、第4太陽系の各所から、14億人が体を乗り換えて移住してきた。15億人一体となりインフラを整備し、本格的な住居を建設し、自治政府や各種機関の建物を建造し、第1次整備が終了した。
 15億の住民はそれぞれ本来の仕事に従事できるようになり、宇宙船関連の技術者がこの天体を宇宙船とするための作業を開始する。

 第4の月からエンジン関係の部材が大量に輸送され、地球から一般機材が大量に輸送された。エンジン組立工場で直径100m、長さ1kmの円筒状のメインエンジンが組み立てられる。
メインエンジンの設置場所には岩盤を斜めに深く貫くエンジン固定用ブロックが設置されていた。メインエンジン運搬用の150m幅の道路はすでに建造されている。 
エンジン運搬専用車両工場で、横幅100mの荷台を持つ専用車両と超大型クレーンが製造され、10台の専用車両がエンジン組立工場の搬出用通路に1列に並べられると、整列した10台の専用車両の荷台に一基のメインエンジンが多数の超大型クレーンにより下ろされた。メインエンジンを搭載した10台の専用車両は、設置場所を目指して直線状の専用道路をゆっくりと動き出した。
多数の超大型クレーンによりエンジン固定用ブロックにメインエンジンが嵌め込まれ、強固に連結された。円筒の下側の端部に16のブロックに分割された燃料注入装置が嵌め込まれ、16ブロックそれぞれに液体燃料注入用のパイプが接続され、1基目のメインエンジン設置作業は終了した。
同様にして残り3基のメインエンジンの設置作業が行われると、長さ1km、直径100mの4本の巨大な円筒が斜め後方に突き出した、この天体を高速で航行させるための巨大な推力をもつ巨大なセルフエンジンが完成した。
 巨大といっても、この惑星の大きさに比べればほんの小さなものである。遠くからこの天体を見た場合、小さな4つの棘が刺さっている程の大きさである。しかしながらこのエンジンは燃料の質量を95%エネルギーに変換し、残りの5%の物質を光速に近い速度で噴射させる、とんでもない性能を持つものであり、小さな棘の大きさでもこの天体を高速で航行させるのに十分な性能を有するエンジンである。
 メインエンジンの作業と平行して、自転を止めるための活性化エンジンが赤道上に設置された。4基のメインエンジンの1km外側には円筒の向きを広い範囲で調整可能な補助エンジンが設置された。

微小天体の衝突対策

 隊列の先頭を航行する旗艦であるこの天体の前半球には、宇宙のゴミが大量に衝突する事が予測される。航行速度が遅い数百年間は問題ないが、光速に近づくにつれ小さなゴミの衝突でも大きなダメージを受ける事になる。
〔微小天体衝突対策プロジェクト〕が発足し、関連技術者による議論が始まった。

「この宇宙船団は一直線に加速し続ける。始めのうちは船団自体の速度が遅いため、主にこの惑星の引力により落下する隕石についてだけ考えれば良いが、時間の経過につれ宇宙船の速度が速くなるため、衝突エネルギーの増加を考慮しなくてはならない」
「大きな天体が進行方向にある場合はどのようにするのか」
「大きな天体については何百年も前からその軌道を計算できる。面倒なら活性爆弾で消滅させる事もできる。問題なのは宇宙に漂う大量の微小天体、すなわち宇宙のゴミだ。小さいほど事前に捉える事は難しく、不意打ちを食らう」
「速度が増すにつれ、宇宙のゴミが衝突するのではなく、宇宙のゴミにこちらから衝突するようになる。速度の増加につれ衝突角度は進行方向と直角になってくる。高速で直角に衝突すると発生エネルギーが大きくなる。衝突角度が浅くなるように前半球の形状を変えられないだろうか」
「形状を変える事は現実的でない。この天体に微小天体が衝突しないように円錐型の巨大な傘を取り付ければ良いのでは? 傘へ衝突しても衝突角度が浅ければ大きなエネルギーは発生せず、微小天体は傘に沿って斜めに方向を変え、この天体にも後続の天体にも当たる事はない」
「それは良案だが傘は巨大だ。空気抵抗はないので傘に圧力がかかる事はないが、この天体の引力に負けないように柄を丈夫にしなくてはならない。最新のカーボン技術を使えば問題ないだろうか」
「強度の問題はないと思うが、それでも傘の柄にあたる柱は巨大な太さになるだろう。傘に引力を打ち消すためのエンジンを取り付ければ柱を細くする事ができる」
「セルフエンジンは少しずつ加速させるものなので出力はあまり大きくはない。いっそのこと、旗艦となるこの天体の引力があまり及ばない前方に、軽量な傘の形をした傘艦を配置して、傘艦を先頭にして隊列航行すれば良いのでは」
「それは良案だ。これにより千年以上微小天体の問題は解決できるだろう。問題はその先だ。光速に近づいたら傘ではしのげないだろう」
「この問題の解決を図る時間は少なくても千年はある。とりあえず傘艦方式で行こう」
「傘艦が先頭を航行するなら傘艦を旗艦にしなくてはいけないのでは。進行方向を決めるのは傘艦だ。旗艦からは傘が邪魔になり前方をはっきり確認する事もできない」
「前方観測装置を傘艦の先端に取り付け、操縦は旗艦で行えばよい。タイムラグは長くても10秒程度だ。いくらなんでも傘を旗艦にする事はできない」

この検討結果が第4月の技術部隊に報告され、傘艦についての検討が行われた。検討の結果次のような概略仕様が決定された。

  1. 他艦と同様に4つのエンジンを取り付ける。
  2. 傘艦は大量のカーボンを変成して製造する。
  3. 先端に前方観測装置と小型の活性爆弾発射砲を設ける。
  4. この艦にも移動基地を設け、旗艦から1000人が交代で勤務する。
  5. 傘の開度は2度から20度までとする。
  6. 低速航行中は傘を閉じ、中速になったら20度に開き、高速時には2度まで閉じる。
  7. 大型活性爆弾発射砲は旗艦に設け、使用するときは一時的に傘を閉じる。

 詳細仕様が決まり、傘艦の製造が始まった。

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