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SFG人類の継続的繁栄 第16章『天体宇宙船団との交信』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

大統領の思い

 数日前、500億人の脳が保管されているシェルターを見学した上田大統領は、その際に技術者が、「1000光年以上離れた天体宇宙船団へ行っても、普通に活動できる」と言ったことが頭から離れなかった。
 大統領執務室に、天体宇宙船団関連の上級技術者数名と瞬時通信関連の上級技術者数名が招かれ、側近を交えて天体宇宙船団のその後の様子についての話が始まった。

「100光年までは観測しましたが、その後の事はわかりません。向かった方角だけはおおよその見当がつきますが」
「光速だと無理なことは私にもわかる。瞬時通信技術を応用して彼らと連絡する事はできないか」
「船団の位置がわかったとしても、船団には受信機がないので交信は不可能です」
「交信が無理なら、船団の位置だけでもつかむ事はできないか」
「瞬時通信技術をレーダー技術に転用できれば、可能性はあります。瞬時レーダーで船団の方向をスキャンして、反射波を解析すれば可能だと思います」
「ならばぜひ、瞬時レーダーを開発してほしい。活性物質応用省を通して政府から正式に開発を依頼する」

 政府からの正式な開発依頼を受けて、瞬時通信技術グループ内では瞬時レーダーについて議論と研究が行われ、強力な瞬時波束発射装置を開発した。開発された装置が実際に使えるかは、使ってみなければわからないということで、即時、試されることとなった。
大量の微小天体が存在する宇宙の領域に向け、発射方向を一定速度で左右に動かしながら上下に動かし、反射波を捉える実験を行った。
 反射波を表示させる画面には、微小天体に反射して戻ってきたらしき反射波が点状に映っていた。高速で左右に動かしながら低速で上下に動かし、観察領域を四角い面状にスキャンすると、四角い画面全体に大小の多数の点が映っていた。
 スキャン速度を速くすると近くの領域の微小天体が表示され、遅くするほど遠くの領域の微小天体が表示された。
 スキャン速度を調整する事により近くの領域から、はるか彼方の領域まで観測可能である。
 本格的な瞬時レーダーを製造し、反射波処理ソフトが開発されると、天体宇宙船団の捜索が開始された。天体宇宙船団が停泊していると思われる方向を、0.01度の四角の領域に分け、500光年から2000光年までを捜索する、気の長い捜索作業である。
100万回の面状スキャンにより縦横1度の領域の調査が終了し、反射波処理ソフトにより、3次元で反射物を表示する事ができた。この領域にはあまり微小天体はなかったが、それでも画面のあちこちに微小天体が点状に表示された。大き目の物体も観測されたが、天体宇宙船団らしき物体は確認できなかった。隣の領域も捜索したが結果は同じだった。

観測できない暗黒

捜索領域を広げ、10番目の領域を捜索した時、画面に異様な光景が映し出された。1200光年離れた領域に、全く微小天体の点在しない真っ暗な円形をした画像があった。最初はブラックホールだと思った。しかし周りの微小天体の観測により、ブラックホールにしては引力が小さすぎることがわかった。
 関連技術者が招集され、この不思議な映像について意見交換が行われた。

「1200光年先に、直径200万kmのほぼ真円の真っ黒の領域がある。これより近い領域には微小天体が確認できるが、遠い領域には微小天体が見えない。まるでこの真っ黒な物体に隠されているようだ」
「瞬時波を反射しない真っ黒の物体など、ブラックホール以外に何があるだろうか。全く見当がつかない。超並列階層型コンピュータシステムで調べる手続きをとるぞ」
「そう熱くなるな。冷静に観察すれば我々でも分析できる。よく観察してみれば、これは真っ黒の物体ではないが瞬時波を吸収する何かがあるようだ。可能性として考えられるのは円形状のダイオード膜だ。しかし直径200万キロの真円のダイオード膜が、こちらに正確に対向しているとは思えない。円形でなく球状かも知れない。つまり、直径200万キロの球状のダイオード膜が宙に浮かんでいる可能性が考えられるだろう」
「1200光年先と直径200万kmは、天体宇宙船団と関連していてもおかしくない。天体宇宙船団が宇宙に停止している場合は、多分真ん中に一番重い天体があり、その周りを他の天体が回っているのだろう。半径100万kmで天体が回っていてもおかしくない。1200光年先のあの真っ黒な映像は、天体宇宙船団と関連している可能性は高そうだ。ただ、私には、なぜ真っ黒なのかわからないが……」
「天体宇宙船団とダイオード膜とを関連付ける事はできないか。天体宇宙船団その物は半径90万kmで、半径100万kmのダイオード膜で覆われているのではないだろうか」
「たとえその推測が間違っていたとしても、近いものだろう。何らかのステルスには違いないだろうし、何らかの理由で外から見えないようにダイオード膜で覆っているのに違いない」

 以上の議論の結果は、活性物質応用省から政府に報告された。

 

宇宙に響くモールス信号

この報告を受け、大統領執務室に天体宇宙船団関連の上級技術者数名と瞬時通信関連の上級技術者数名が再び招かれ、側近を交えて天体宇宙船団についての議論が始まった。

「推定だが、天体宇宙船団が停泊している可能性が高い場所がわかった。仮にこの推測が正しいのであれば彼らはダイオード膜で覆ってステルス化している事もわかった。彼らと交信する事はできないか」
「瞬時通信で一方的に送信する事は可能です。ダイオード膜はあらゆる電磁波を透過しますから。無論透過した電磁波がダイオード膜から外に出ることはなく内部にとどまります。多分ダイオード膜に反射して、内部で反射を繰り返すでしょう。無論、最終的には熱になるか物質に生成されるでしょう」
「我々が送信すればダイオード膜で反射を繰り返し、うるさいだろうな」
「大統領、その表現はぴったりです。しかし反射を繰り返すといっても一瞬です。送信を停止すればすぐに静かになります。彼らには、瞬時通信の受信機はないので受信はできませんが、何かしらの信号は感じ取れるかも知れません。何かを感じ取れるならば、大昔のモールス信号のように、信号をオンオフする事により、こちらからの情報を伝えられるのではないでしょうか」
「こちらの情報を理解できた場合、理解できたことを向こうからこちらに知らせるのは、どのようにすればよいだろうか」
「こちらから見える面のダイオード膜に100メーター角の窓を開け、そこに反射板を取り付けてもらおう。そのことを信号で伝えておこう」
「窓が開き、反射板が取り付けられたら受信に成功した証拠ということか。それでいこう。この件も活性物質応用省を通して政府から正式に依頼する」

 政府からの正式な依頼を受けて、瞬時通信技術グループ内で天体宇宙船との交信について議論を行った。

「天体宇宙船団への瞬時送信には開発した瞬時レーダー技術がそのまま使えそうだ。瞬時波をスキャン無しで、そのまま中心に照射すれば良い。中心には旗艦の天体があるはずだ。向こうですぐに読み取れるように、コンピュータで工夫した信号を送信しよう」

 早速、真っ黒な円の中心に向けて、瞬時波をオンオフ変調したモールス信号によるメッセージの送信が始まった。 

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