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SFH人類の継続的繁栄 第12章『融和のために』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

作戦開始

第5太陽系では佐藤大統領が上田大統領を迎えるため検査機関を訪れ、予定時間になった。用意された人体に乗り換えると上田大統領が現れ、佐藤大統領は固い握手を交わした。上田氏は通信不良による体の動きのぎこちなさを演じながら、立ったまま短い挨拶を交わし1分ほどで去った。
上田氏が去った後、同じ人体に担当技術者が乗り換えて現れ、早速検査機関を見学した。時々、通信不良によるぎこちなさを演じ、2時間が経過した時、突然姿を消してしまった。
 第4太陽系の通信担当者から第5地球の通信担当者に、「今回の見学は通信が突然途絶えたことにより失敗した事」、「不手際のお詫び」、「通信の改善後見学をやり直したい」旨の連絡が入り、第5地球側は了承した。
 第4太陽系政府の目論見は、なんの問題もなく達成された。

第4太陽系では、再び脳を頭にセットしたメンバーが会議室に集合した。議長による、「今回の第1弾の戦略が成功した」との発言の後、今回わかったことを担当者が箇条書きした。

  1. 人体検査の過程は事前に予測していた通りである。
  2. 本人の人体検査では、脳器は〔電脳を介して会話するための装置が組み込まれた専用の浄化装置〕に載せられ、本人に人体の状態を聞きながら丹念に検査される。この点は会社等が所有する装置としての人体の検査とは異なり、本人の人体については1時間ほどかけて入念に検査される。
  3. 浄化装置は一般のものと異なり、検査機関専用のもので、検査機関に関連する民間企業1社により製造されている。
  4. 第5地球には検査機関が1000箇所あり、各機関とも50個の浄化装置を備えている。
  5. 2年後に1年がかりで全ての浄化装置に一部の部品を交換する改修作業が行なわれる。どの部品が交換されるかは不明。

「人口は50億人だ。話が合わない。計算すると1人当たりの検査時間は20分程度だ」
「その点はあまり問題ないだろう。実際には20分程度でも1時間と大げさに言うのはよくある事だ」
「とにかく、脳器が浄化装置に載せてある時がウイルスを植えつける絶好のチャンスだ。検査中に会話ができるように、浄化装置には電脳の電極とつながるようになっている。浄化装置の回路にはCPUチップが組み込まれている。そのチップにウイルスを仕掛ければ電脳にウイルスを感染させることができる」
「1年がかりの部品交換の時がチャンスだ。どの部品を交換するかが問題だ。交換する部品がわかっていれば戦術も立てやすくなる。今度は専用の浄化装置を製造している工場を見学して具体的な作戦を立てよう」

 第4太陽系の通信担当者が第5地球の担当者に対し次のように連絡した。

「先日は人体検査を見学させて頂き、ありがとうございました。通信が突然途絶え、見学したこと全体が無駄になったと思いましたが、こちらに残っているデータから見学した時の状態の復元に成功しました。人体検査のやり方についてはほとんどわかったので再度見学する必要はありません。ただし人体検査時に使用する専用の浄化装置については良くわかりませんでした。通信の問題も解決できましたので、次回は浄化装置工場の見学を希望します。無論、我々の脳は無機物のチップにより構成されているため浄化の必要はありませんが、本人専用の人体を検査する時に、本人に人体の状態を聞きながら検査するところに非常に興味があります。あなた方のすばらしい技術を学んで、できるだけ早く第4太陽系に人体検査を導入しようと検討しています」 

 この申し入れを第5地球側は快諾した。

ウイルスの設計

第5太陽系では、第4太陽系人用に特別に改造された人体が浄化装置工場に運ばれた。今回は多重人格戦略をとらずに行なうことにした。
十数光年も離れた星からやってきた技術者に対し、会社をあげて歓迎した。社長と工場長に案内され、3時間ほど雑談を交えて見学し、第5地球から戻ってきた。
この動きを受けて、第4太陽系では再び脳を頭にセットしたメンバーが会議室に集合した。議長による、「今回の第2弾の戦略も成功した」旨の発言の後、今回わかったことを担当者が箇条書きした。

  1. 前回の人体検査機関で得た情報に間違いがなかった。
  2. 1年がかりの改修の内容は、浄化部の定期的な部品交換とバッテリーの交換。
  3. 脳器が浄化装置に載せられる時は、本人の人体の状態について本人と会話するための会話システムが脳器の電脳と接続される。 
  4. バッテリーは、最新技術の電磁波吸収パネルを使用した自然充電式のもので、浄化装置製造会社の子会社の小規模な会社が、浄化装置専用仕様の25万個を5ヵ月後に2ヶ月かけて組み立てを行う。
  5. バッテリーには充電制御用のCPUがあり、会話システム側のCPUとつながっている。

「バッテリーのCPUと会話システムのCPUがつながっているので、バッテリーのCPUにウイルスを仕掛けておけば、会話システムのCPUを介し、電脳に感染させる事は可能だろう。バッテリー組み立て時がウイルスを仕掛けるチャンスだ。しかし回路図が無ければ電脳に感染させるウイルスを作る事はできない。回路図が必要だ」
「バッテリーの組み立て会社はかなり小規模な会社だ。ネットのセキュリティはあまいだろう。回路図の件は私が引き受ける」
「ウイルスの内容はどのようにする。内容については政府の承認が必要だが、ウイルスの仕様案はこの会で作成しよう」
「これまでの情報を基にすると、彼らは危険な存在でなく我々に敵意も抱いていない。我々より頭が良い点だけが問題だ。むろんウイルスをうまく作れば頭を悪くする事もできるだろう」
「頭を悪くするのはひどすぎる。頭は良くても我々が見下げられたり不利な扱いをされなければそれで良い。何か良案はないだろうか」 
「本能に承認依頼本能を植えつければ良いのでは。重大な決定には第4太陽系の所轄官庁による承認が必要だとの本能を植えつけておけば良いだろう」
「それはいい。それでいこう」

 回路図は簡単に入手できた。回路図を基にしてウイルスの原案を作成し、政府に原案が提出され承認された。

承認依頼本能ウイルス

 再び脳を頭にセットしたメンバーが会議室に集合した。

「ウイルスの原案は出来上がり政府に承認された。具体的な作戦計画の策定が必要だ」
「リスクを下げるために時間差時限方式はどうだろう。最初に『承認方式は絶対に必要』と思い込ませるウイルスを起動させ、しばらくして『承認を求める先が第4太陽系の所轄省庁』だとするウイルスが起動すれば、最初の時限ウイルスが働いても、承認方式は当たり前の方式だから問題ない」
「誰かが第5地球に行き、バッテリーの組立工場の作業員として働かなくてはならない。バッテリーにウイルスを植え付けるためには、実際にバッテリーを手にしないとできない。どのように行うべきだろうか」
「あのバッテリー工場で単純作業を行っているのは人体検査制度の対象外のロボットだ」「浄化装置製造会社は我々を歓迎している。あの工場なら実習生として我々を受け入れるだろう。バッテリー組立工場のロボットは時々ネットとつながっている。誰もあのような小規模の会社のロボットを破壊しようと思わないのでセキュリティは非常に甘いだろう。バッテリーの組み立てが始まる直前にロボットを使えないようにして、実習の一環としてバッテリーの組み立てを申し込めば、工場側も喜んで実習を受け入れてくれるはずだ。ロボットがやるような単純な作業まで実習するのは不自然だが、『ロボットなどが壊れたことに対する緊急応援の実習』という名目で行えば、我々の評価も上がるだろう」
「それには実習生は1人では不自然だ。数名の実習生の内、1人だけがバッテリー工場で応援するのなら問題ないが、1人の実習生がロボットの代わりの単純作業だけするのでは実習の意味がない。あの、人の良い社長や工場長が、『遠い天体からやってきた実習生を単純作業の緊急応援を行わすことはできない。緊急応援なら私が行なう』とでも言いかねない。実習生は最低でも5人は必要だ」
「しかし第5地球には我々が使用できる人体は1体しかない。実習目的にあと4体作って欲しいというのは言い出しにくい」
「その点の問題はない。思ったよりも改造は簡単だ。私が1人で先に行き、浄化装置工場にある人体を改造する」

 ウイルス計画の要点がまとまったところで、報告書が作成されると、政府の承諾を得て、作戦は実行に移された。予定通りに事が進み、人体検査機関の25万台の浄化装置にウイルスが仕掛けられた。

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