MENU

Novel

小説

SFI 人類の継続的繁栄 第8章『第6太陽系の繁栄と想定外の出来事』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

石英星の繁栄

 5つのプロジェクトが発足してから200年が経過した。計画通り人口は50億人になり、人体は100億体となった。50億人の電子脳は10億個ずつ5か所の電子脳シェルターに格納され、必要に応じ100億体の人体のどれかと瞬時通信によりつながっていた。
 無論、男性の電子脳は男性の人体を使用し、女性の電子脳は女性の人体を使用するように法律で定められていたが、罰則規定はなく、遊び心で異性の人体を使用する事も時々あった。
地球観光産業は大成功し、多くの人が利用した。それにつれて各種の娯楽産業ができ、娯楽施設やスポーツ施設も充実してきた。
 5つのプロジェクトにより、各種の技術は大幅な進展を遂げた。

  1. 瞬時通信技術:これにより瞬時ネット社会が実現し、電子脳は安全なシェルターに保管したまま、どの人体も自由に使えるようになった。
  2. 瞬時レーダー技術。
  3. 天体観測技術:超大口径反射望遠鏡、瞬時レーダー、活性化に伴う特殊光検出装置。
  4. 階層型コンピュータの更なる高性能化。
  5. 本格的なシリコン変成機によるシリコン社会の実現。
  6. 電子脳ソフトの改良。
  7. 人体の大幅改良:瞬時通信機能、副脳・体脳の追加。
  8. 地球バーチャル観光、その他のレジャー、スポーツ関連産業技術の進展。
  9. 活性化技術、特に安全技術の大幅進展。

 この頃の第6太陽系の石英星の様子と住民の生活の様子は次の様だった。
第6太陽系の巨大惑星の衛星の、惑星と対向する表半球側に50億人が居住しており、表半球側の5カ所に電子脳格納シェルターが設けられ、それぞれ10億人の電子脳が格納されていた。
ここで暮らす人々の電子脳、人体には性別があり、通常1組の男女カップルで家族は構成され、家庭で使用する自分専用の人体は購入し保有している。電子脳はシェルターに格納され、瞬時通信で人体とつながり、家庭は第1世代、第2世代の人類の家庭とほぼ同様だが、食事は充電である事、死という概念がないこと、子供を育てることがないこと、親の介護の必要がないこと、などが異なる。
住民の多くは男女とも企業や政府機関で働き、職場への通勤は職場にある人体と電子脳の瞬時通信による接続だけでよく、接続された人体にはその人の顔と声が形成される。通勤後家庭に取り残された人体は待機モードになり、副脳が体脳を制御し、簡単な家事を行い自宅で待機している。
また、人口50億人に対し、家庭で使う自分専用の人体、職場用の人体、レジャー施設などで使う人体、有事の際に使用する軍事用人体等が150億体有り、更に100億体を新たに製造中であった。
人口のほとんどは表半球側で暮らしているが、この表半球は完全な隕石防御システムが機能し、人類の大きな脅威となる隕石の問題はない。
一方で、裏半球側には大量の隕石が落下し、それらは貴重な資源として採掘、採取されていた。裏半球側の資源採掘には、専用の100万体の人体が用意され、表半球側のシェルターに格納されている電子脳と瞬時通信でつながり働いている。
裏半球側の隕石対策は複眼望遠鏡と軌道計算用のコンピュータが配備され、作業用人体が損傷する可能性のある隕石の飛来が確認されると、落下予測地点で警報がなり、頑丈な隕石避難シェルターに避難後、念の為に瞬時通信を自宅の人体に切り換えて自宅で待機し、隕石の落下後に再び作業用人体に戻るようなシステムになっている。

思わぬ事態

 ある日、表半球の電子脳格納シェルターの近くに直径20cm程の隕石が落下した。
被害はシェルターから少し離れていたのでほぼないに等しかったが、直径20cmの隕石の直撃を受けたら、シェルター内に格納されている電子脳の多くは破壊されてしまっただろう。また、これまで表半球側の隕石防御システムは完璧に機能していたため、これは大事件だった。
シェルターの強度は直径5cmの隕石の落下には耐えられるように設計さていたが、20cmの隕石の落下は想定外だった。
通常ならこの大きさの隕石は、隕石防御システムが働きこの衛星の表半球側に落下する事はない。隕石の飛来を捉えた時点から、追尾ロケットが活性爆弾を隕石の近くで爆発させ、軌道を変えて飛び去る様子は克明に記録されている。その記録を見ると、活性爆弾の爆発の少し前に隕石が二つに分離し、追尾ロケットは大きいほうの塊を追尾し、小さいほうの塊が表半球側に向かって落下していた。
この大問題を受けて、大統領を議長とした対策会議が行われた。

「完璧だと思われた隕石防衛システムが破られた。破られた原因の報告を受けたが、途中で2つに分離する隕石に対しては、対策の立て様がない。落下位置が少しずれていたら10億人の命に危険があった。今後このような危険がないように十分な対策案を出すように」
「隕石防衛システムの改良では回避できない。わずかな確率だが今回のような事は今後も必ず起こる。もっと大きな隕石が落下するのも時間の問題だ。シェルターの強度を大幅に増すしか方法はない」
「10m位の隕石が落下する可能性もある。それ以上の巨大な隕石は巨大惑星の引力に引き寄せられ、この衛星には落下しないだろう。10mの隕石の落下による衝撃から守るのは巨大なシェルターが必要となる」
「この巨大惑星の外側に濃い大気をもつ大きな惑星がある。電子脳格納シェルターをその惑星に建造し、電子脳をそこに移すのはどうだろう。電子脳がどこにあろうと瞬時通信なので問題ない。我々が自分のいる場所を認識するのは使用している人体がある場所だ。あの惑星は大気が濃い。隕石は大気との摩擦で燃え尽きて惑星に落下する事はない」
「あの惑星は引力が強すぎる。今の宇宙船では着陸できない。強力な活性化エンジンを取り付けた専用の宇宙船が必要だが、これ以上強力な活性化エンジンの開発には時間がかかる。その間にも隕石の事件が起こるかもしれない。たとえ、あの星へシェルターを作り、電子脳の格納に成功したとしても、電子脳の点検やシェルターのメンテナンスが必要だ。あの引力が強すぎる惑星に電子脳を保管すると、その後が非常にめんどうだ」

 白熱した議論が展開されたが、結論が出ず、その日の会議は終了した。
会議終了後、大統領は「シェルターを見学したい」と言い出した。会議の参加者の多くが随行し、大統領の電子脳が格納されている電子脳シェルターを見学した。
シェルターの係官から一通りの説明を受けたあと、大統領は自分の電子脳が格納されているブロックを見学したいと言った。電子脳の見学は禁止されていたが、大統領の申出を断る事はできず、係官は大統領の電子脳が保管されている部屋に案内し、大統領の電子脳が収納されている小さな箱を指差した。
大統領は小箱を見ながら、「私は今、ここに立って考えているが、考えているはずの脳はあそこにある。なんだが妙な気持ちだ。第1世代、第2世代の人類の資料にある、幽体離脱とはこういうものなのか」とつぶやいた。

命のセキュリティ

 翌日、大統領に代わり、側近が議長になり、対策会議を再開した。

「大統領は同席できないが、私が議長として昨日の会議の続きを行う。今日の参加者の多くは昨日電子脳格納シェルターを見学した。私も始めて見学した。何か良い対策案はないだろうか」
「対策案ではないが、電子脳格納シェルターは不便なところには設置できない。隣の惑星に設置するのは無理がある」
「生命の本質は記憶にある。シェルターとは離れた場所に小さなシェルターを設け、瞬時通信のできる記憶保管装置を格納し、定期的に記憶を上書き保存すれば、万一電子脳が隕石により破壊されても生き返ることができる。この方法なら安上がりに解決する事ができる」
「電子脳が損傷し新しい電子脳に保存された記憶を移しかえた場合、上書き間隔が1ヶ月の場合は記憶が1ヶ月飛んでしまう。長期間記憶が飛ぶと厄介だ。上書き間隔は1秒間隔にしよう」
「リスクの観点から考えてみよう。命の保管場所が2つあれば、隕石により両方とも一度に破壊される確率は大幅に減るが、盗難にあう確率は2倍になるだけだ」
「盗難のリスクを下げて、死ぬリスクを大幅に下げるには、記憶記録装置の設置場所を地下深くに設けるのはどうだろうか。地下深くなら隕石の問題も盗難の問題も大幅に減る。記録装置のメンテナンスは簡単だから地下深くに設けても手間はわずかしかかからない」
「地下深くに記録装置を設置するのには賛成だが、この星の表面は硬い。どのように掘るのだ。また地下深くから瞬時通信はできるのか」
「地下深くに設置した記録装置との瞬時通信を行う問題は簡単に解決できる。全く問題ない。掘るのは確かに大変だが、活性物質を使えば簡単に掘れるだろう」
「活性物質は危険だ。太陽系が丸ごと蒸発してしまった」
「活性物質自体は我々の生活の色々なところで使われている。取り扱い方法などは法律で厳しく決められている。それを守れば安全だ」

 記憶記録装置を地下深くに設ける事、1秒毎に脳内データを記憶記録装置に上書き保存する事、それによるメリット、デメリットをまとめ中野政権に報告した。このほとんど完璧な報告内容に対し、政権はその方式を行うことを法制化した。

小説一覧

© Ichigaya Hiroshi.com

Back to