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SFJ人類の継続的繁栄 第7章『種の命運をかけた戦い』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

本格的な戦闘と導かれた結論

 最初の戦闘から100日が経過した。瞬時レーダーに大量の宇宙船が映し出された。予想に反し本格的な戦争が始まった。
 早速、宇宙船に向けてミサイルを発射した。しかしミサイルは不発に終わった。
 すぐに弾頭に封じた活性物質自体が衝撃により混合し爆発する、通常型ミサイル攻撃に切り換えたが、これも不発に終わった。弾頭が宇宙船に当たる前に、活性物質を不活性化させる特殊な物質が発射されたようだ。
活性物質の技術では敵の方がはるかに上のようである。
 弾頭に相当量の活性物質を封じた旧式のミサイルを宇宙船団から少し離れた所で爆発させた。ミサイルは大爆発し、破片が宇宙船団に衝突し一定の効果があった。
 旧式のミサイルを大量に発射し宇宙船の多くは航行不能になった。それでも300隻以上の宇宙船が着陸し、四足の兵士が銃器を手に大量に降りてきた。前回の攻撃時の四足の兵士とはどこか異なっていた。銃器を手にしていたのではなく腕そのものが銃器になっていた。
 宇宙船から四足兵士が続々と出できた。銃器同士による激しい地上戦が展開された。宇宙船から全ての兵士が出終わると、宇宙船は離陸し去っていった。
前回とは全く異なり、四足兵士は死を恐れる事無く、最後の一兵まで勇猛に戦い、この日の戦闘は終了した。
双方共に100万体近くの兵士が倒れていた。しかし双方共この戦闘での死者はいなかった。今回の四足兵士は生物ではなく機械の兵士だった。

今回の戦闘結果を受け、全面戦争を念頭に置き、両大統領出席の下、四足生物対策プロジェクトが再開された。先ず、合同戦略室の調査班から今回の戦闘について説明が行なわれた。

  1. 宇宙船には活性爆弾を無力化する高度な処理が施されており、唯一有効だったのは宇宙船からある程度離れたところで爆発させる衝撃波攻撃のみ。ただし次回の戦闘時には無力化範囲が拡大される恐れがある。
  2. 最初の戦闘の時は四足兵士だったが今回の戦闘では生物でなく四足兵器だった。
  3. 双方とも約100万体の戦闘体を失った。
  4. 明らかに敵はこの星が汚染する事を恐れている。
  5. 敵の居住しているところはこの太陽系の内部と思われる。

「この星のシリコンが敵にとって重要ならば我々にそれを申し出れば良いのに、どうして大掛かりな戦争を選択したのだろうか」
「敵はこの星が汚染する事を非常に恐れている。汚染すれば敵の目的には使えないのだろう。敵がこの星の特殊なシリコンにこだわっている理由は仲間を増やすことに必要なのだろう。敵の脳は我々の電子の脳と有機脳の中間的なものだが敵は自然生物だ。自然生物なら生殖以外に仲間を増やすことができない。敵は体を進化させすぎて自然死は無くなったようだ。それと引き換えに生殖能力を失ったのだろう。自然死はなくても事故などによる死はまぬがれない。先日の戦闘でも相当数が死亡した。このままでは数が減るばかりだ。この星のシリコンは仲間の増加のために不可欠なものなのだろう」
「この星が汚染されると敵の絶滅につながるというのなら、敵にとって最重要の問題は汚染源を取り除くことだ。汚染源は我々自身かも知れない。もしそうなら敵は必死になって我々を絶滅させるかこの星から追い出すつもりだろう。どちらにせよ生きるか死ぬかの戦いだ。この危機を乗り切るためには十分な戦略を立てて臨まなければならない」

敵の弱点を見抜け

「敵は次にどの様な攻撃を仕掛けてくるつもりなのか。あきらめる事はまずあるまい」
「我々は兵士として戦う事は行わないが、武器を作ったり色々な後方支援を行っている。バーチャル戦士にお願いがある。敵にどれだけの機械兵士がいるかわからない。長期戦を覚悟しなくてはならない。勇敢なのは良いけれどこのままだと人体の供給が間に合わなくなるかもしれない。少しだけ痛みを感じるように設定したい。そうすれば少しは人体を大事に扱うだろう」
「痛みの件は了解した。あまり強くない、ほどほどの設定でお願いする」
「汚染したシリコンは敵には役にたたない。我々の手で積極的に汚染させてしまえば敵にはこの星を攻め取る意味がなくなるのではないだろうか」
「どのように汚染すると敵には価値がなくなるかが分かればその手は有効だが、今はまだ汚染物質がわからない。色々と汚染させてしまえば将来我々にとっても問題になる」
「敵が嫌がる石英への汚染物質は四足動物そのものにも嫌な物質のはずだ。捕虜に色々な汚染物質を吹きかけて、どれが嫌な物質か確かめてはどうか」
「その方法は捕虜の虐待にあたる。人道に反する」
「敵は人でない。四足動物だ」
「四足動物でも虐待には変わりはない。敵の脳との通信は無理なようだが脳波を測定する事はできるのではないか。虐待にならない程度に汚染物質をちらつかせ脳波を観察するのはどうだろうか」
「もしそれで敵にとって致命的な汚染物質がわかったら、機関銃で一匹ずつ攻撃するよりも、汚染物質を霧のように吹きかけてまとめて攻撃すれば石英も能率よく汚染でき兵士も攻撃できる。一石二鳥だ」
「四足機械兵士は機械の兵士だ。必ずしも機械兵士に有効か否かはわからない。しかしやる価値はある。早速脳波により敵の嫌う汚染物質を調べよう」
「攻撃を防ぐだけでなく、こちらから敵の拠点を攻撃しよう。敵の拠点はこの太陽系の中にあるに違いない」
「拠点はもうじき特定できる。しかし活性爆弾への対処技術は我々より桁違いに進んでいるようだ。活性爆弾による攻撃は難しいだろう」
「敵の嫌う汚染物質で攻撃するのが最も効果があるだろう。攻撃にせよ防御にせよ汚染物質の特定が勝利への鍵になる」
「汚染物質で攻撃するにしても、宇宙船で行けばたちまち打ち落とされてしまうだろう。ミサイルでも同じだ」
「やつらは活性物質の技術は非常に高いようだが、体を乗り換える移動はおろか、通信技術も発達していないようだ。我々のような電子脳を持った、いわば人工生物と遭遇したのも初めてのようだ。当然瞬時通信や瞬時レーダーは知らないはずだ。瞬時技術が攻撃の鍵かも知れない」

敵敵を知り己を知れば百戦危うからず

「敵は自然生物という事だが、有機物でないシリコン系の生命体がどのように誕生して進化したのだろうか。炭素を中心に水や窒素があれば有機物ができる。有機物があれば簡単な生命体が発生しやすい。シリコンと微量な元素があれば半導体ができやすい。半導体が複雑に組み合わされば電子細胞になりやすい。日光があれば電子細胞が作動する。簡単な電子細胞から進化した生物ではないだろうか。電子細胞は腐りにくい。寿命は長くなり生殖機能は退化する。電子細胞は脳には必要だが体には必要ない。脳を除く体の多くが電子細胞から特殊シリコンに退化し、生殖に必要な電子細胞もなくなったのだろう。エネルギー源は最初から太陽光だけで、それ以外に食料は必要なかったのだろう。強力な顎と口があり、頑丈で鋭い歯のようなものがある。これらは食物を得るためのものでなく単なる武器だ。太陽光をめぐってライバルの生物との間に争いがあり、強力な武器を持つ種が進化したのだろう。強力な武器の延長線上に活性爆弾技術が進化したのだろう」
「すると敵は戦うだけの非常に好戦的な生物なのか」
「そうともいえないだろう。地球の有機物の生物も戦うことで生き残った。地球の環境は複雑なので強い武器を持つことだけが生き残りの決め手ではない。魚のように大量の卵を産卵する事により生き残る種もいれば、擬態により敵から身を隠す種もいる。複雑な環境の中で頂点に立った人間は、単なる強力な武器だけでなく色々な技術を持つようになった。それに対し太陽光を争うだけの単純な環境下のシリコン系の生物たちは、強い武器が単純に生存競争の鍵だった。無論それなりの戦略も発達しただろうが。とにかくあの連中は活性化技術だけは非常に発達している。しかしステルス技術も無いようだ。戦略能力はそれなりに備わっているようだが複雑な思考は苦手なようだ」
「敵が住んでいる天体がわかった。この星よりずっと太陽から離れた惑星にある小さな衛星で、自転をしていないこの星の表半球側からは観測できない、太陽光があまり射さない暗く小さな天体だ」
「太陽光があまり射さないところで太陽光を唯一のエネルギー源とする生物が誕生し、進化したということか」
「よくわからないが太陽光が強すぎないことが知能が発達する条件だったのだろう。生存可能領域が小さくてエネルギーが少ないので生存競争が激しく、その為大きな進化を遂げたのだろう」    
「とにかく敵が嫌がる汚染物質を見つけることが先決だ」

 リアル世界が使用するあらゆる物質を調べたところ200種類の物質が確認できた。捕虜として捕らえてある四足兵士は20匹である。200種類の物質の情報と20匹の四足兵士の情報とを階層型コンピュータに入力し、最も効率の良い確認方法を編み出した。
20匹の四足兵士をそれぞれ別の部屋に閉じ込め、頭に脳波計を取り付け、計算された手順でそれぞれの物質を極微量、順番に体に塗布する方法である。
最初は全く無害と思われる同じ物質を100回塗布した。初めのころは塗布されるたびに脳波が変動したが、次第に脳波の変動はなくなってきた。
これからが本番の実験である。
計算された手順に従い実験を行ったところ、ある物質やその化合物に大きな毒性がある事が判明した。ある物質とは地球から電子の脳に使用するチップの材料として10億人分搭載してきた貴重物質であり、化合物とはその物質を添加したシリコンウエハだった。
チップを作るためのその物質は、この星の裏半球側から採取される鉱物に置き換えられ、現在の副脳のチップには使用されていないが、この天体に移住した初期に製造した1億体分のチップには使用されていた。残りの9億体分はシリコンにドーピングさせた状態のまま放置されていた。
汚染物質の特定の報告を受け四足生物対策プロジェクトが再開された。

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