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SFJ人類の継続的繁栄 第9章『哀しき事情』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

移民問題検討プロジェクト

 四足動物に対する今後の扱いはリアル政府側に一任されたため、リアル政府では〔移民問題検討プロジェクト〕が組織された。プロジェクトの最初にして最大のミッションは、移民受け入れのために必須となる彼らとのコミュニケーションの確立である。
20匹の捕虜の監視役をプロジェクトに招き、仲間同士の会話の方法について質問した。監視役の話では、口に目立った動きはなく、時々相手の表情を見ているという事である。どうやら脳同士で直接会話しているようである。

「脳で直接会話しているのに間違いなさそうだ。彼らの脳は電子細胞により構成されている。脳に電波の発信器官、受信器官があってもおかしくない。我々の脳は完全な電子回路によりできている。我々こそ脳で会話するのが合理的だが、我々は人類の形状を継承し、口と耳を使い振動を電磁波に変換する方法で会話を行っている。技術的な観点からは非常に不合理な方法だ。彼らは自然生物で、自然生物には不合理な器官が発達するはずはない。電磁波を使い脳で直接会話するほうが極自然だ」
「四足兵士の死体を解剖し、脳の構造を見ればすぐにわかるはずだ」
「死体といっても有機物でないので腐る事はない。脳が破壊されてなければ脳を動かすことができるかもしれない。記憶も残っているだろう。記憶を取り出せれば彼らのこれまでの生活がわかるだろう。危険な動物か理性的な動物かもわかるはずだ。戦争を起こした経緯もわかるかもしれない」

プロジェクトの提言により死体の脳から各種の情報を取り出す事になり、関連技術者が招集された。
四足兵士の死体は死体置き場に無造作に山済みにされていた。有機物の死体と全く異なり、腐る事はなく、単に廃棄された工業製品が山済みにされているのと同じようである。
頭部に損傷を受けていない10体の首を切断し、頭部を研究所に持ち帰り調査する事にした。
最初の1個の頭部を切り開き、中から電子細胞で構成されている脳を取り出した。取り出した脳を見ていた別の技術者が思わず吹きだした。
同僚がいさめ、理由を聞くと、その技術者は皮肉な表情を浮かべながらいった。

「この動物の脳のほうが我々の脳よりずっとまともだ。電子回路としては未熟な点も多いが、我々の脳は非常に高度な電子回路と、大昔の真空管で構成されている。もし我々の脳を彼らが調べたら、あまりのばかばかしさに笑う事もできないだろう」

この発言を聞いた同僚たちは、しばらく沈黙し、沈黙したまま作業を続けた。

四足人の記憶

 取り出した脳には明らかに発信臓器と受信臓器があった。それぞれの臓器を切り取り、精密検査を行った。検査の結果、使用している電磁波の周波数帯が明らかになった。
 次に各種の記憶情報が記録されている記憶部位を見つける事にした。該当する数箇所が見つかった。各記憶部位は記録形式がそれぞれ異なるように思われた。ここから記憶情報を取り出すのは大変である。電子細胞が電子回路を形成しているようだが、リアル人の電子回路とは全く異なっていた。また電子細胞同士のデータのやり取りについても異なるところが多く、この問題を解決しなければデータを取り出す事は不可能である。
 試行錯誤の結果、データ記録装置につなぐためのインターフェースを作る事ができ、断片的だがデータの取り出しに成功した。取り出した断片的なデータの意味は全くわからなかったが、できるだけ多くのデータを取り出した。データさえ取り出せば超高性能階層型コンピュータで何とかなる可能性は極めて高い。しかし全く未経験の記録方式だったのでデータの取りだしは試行錯誤の連続である。初めのころは取り出したデータの大半は取り出す途中で消失したり別の書式に変換されたりして使い物にならなかった。
 2個目の頭部を切り開き、脳を取り出した。脳の外観は最初の脳と同じだった。これなら最初の脳の経験を生かしデータを取り出すことができるかもしれない。先ず複数ある記憶部位の1つを選びデータの取り出しを行った。断片的な欠落があったが大量のデータを傷つけずに取りだす事に成功した。
 取り出した大量のデータはすぐに解析担当の技術者により階層型コンピュータに入力された。データの欠落部分の多くが修復され、大量の画像データが出力された。どうやらこの記憶部位は視覚情報を格納する部位のようである。欠落部分が多く、不鮮明な画像が多かったが、日常生活の様子がぼんやりとだがわかってきた。
画像の中にかなり鮮明なものがあった。銃で撃たれ、もがき苦しんでいる自分の様子を見かねた同僚が、とどめを刺す瞬間の、苦痛に満ちた同僚の顔の画像だった。
 別の記憶部位からもデータが取り出されコンピュータにかけられた。この記憶部位は衝撃的な体験、思わぬ出来事を記憶する部位で、やはり不鮮明な部分が多かったが、深く印象に残った鮮明な記憶も記録されていた。
最も鮮明な記憶は、兵士として召集を命じられたときの記憶、仲間との別れの記憶、宇宙船から戦場に降り立った時の記憶、戦闘が始まった時の記憶だった。
 記憶の取りだしの技術も向上し、残りの脳から大量の記憶の取りだしに成功した。全てのデータを入力し再処理を行った。階層型コンピュータの最上層に〔戦争に至った経緯についての報告書の作成〕を、処理項目として入力した。

 四足動物とその社会の全容、戦争に至った経緯がわかってきた。階層型コンピュータの報告書には時系列で経緯が記されていた。

  1. この星(石英星)の表半球側にある石英は特殊な成分を含んだ石英で、事故などにより体を大きく損傷したときに、この石英を用いる事により体が再生できる。あの星で長期保存すると劣化してしまうので、昔から定期的にこの星に訪れ採取していた。
  2. 定期的な採取のために宇宙船が着陸した時、たまたま人類が繁栄している様子を知った。
  3. 採取した石英を精密に分析したところ極微量の有毒物質による汚染が確認された。
  4. 10隻の宇宙船で各所から石英を採取し分析したところ、汚染源は人類自体だということが明確になった。
  5. 人類に脅しをかけ、この星から追い出すことを決定した。
  6. 5万の兵士で戦ったが意外にも勇猛な反撃にあった。

ほぼ想定していた通りの結果だった。

宇宙人との対話

 電磁波受信装置と監視カメラを随所に配備した20匹の捕虜が快適に過ごせる捕虜用の居住部屋を作り、捕虜全員をこの部屋に移した。彼らのコミュニケーション方法を調べるのが目的である。
既に死体の脳の受信器官、送信器官は調査済みで、おおよその通信方法はわかっていたので、簡単に会話データを取得する事ができた。
 取得した電磁波による会話データと監視カメラの画像を階層型コンピュータで分析し、彼らと会話するための会話装置を作製した。
 会話装置を頭部に取り付けた担当官が捕虜と一匹ずつ面談した。最後に捕虜全員を集め担当官が輸送用宇宙船の様子を説明した。

 大統領と政府幹部列席の下、捕虜と会話した担当官を含め多くの関係者を交えた移民問題検討プロジェクトが開催された。大統領の挨拶の後、今後の方針についての議論を行った。先ず、プロジェクトのリーダーが今後捕虜の数の表し方について20匹ではなく20人とする事を提案し、続けてこれまでの調査結果を報告した。

  1. 四足人が我々を攻撃した経緯については既に報告済みで想定通りだった。
  2. 会話装置が出来上がり彼らと会話が可能になった。
  3. 今回の行動により一概に攻撃的な性格とはいえず、コンピュータの分析では人間より争い事は嫌うようだ。
  4. 捕虜20人と面談したところ、輸送用宇宙船にはおそらく1億人近くが乗っており、この星への移住を望んでいると思われる。ただし人間により汚染されてしまった表半球側より、隕石の危険性がある裏半球側を希望していると思われる。また裏半球側への移住が許可されれば、不合理なことでなければ人間には絶対的服従をするとおもわれる。


 
 これらを下に議論した結果彼らを受け入れる事になり、捕虜を交渉窓口とする事を決定した。
 プロジェクトは一旦解散し各部門の担当者からなる〔移民プロジェクト〕が組織された。
 プロジェクトの担当者が捕虜達に輸送用宇宙船との交渉役になるように命じた。捕虜達は最大限の感謝の意を表し、早速宇宙船との交信を申し出た。交信用の簡易通信機がその日のうちに製作され、彼らの言語による宇宙船との交信が始まった。無論、翻訳機も製作され交信の様子は担当官が把握できるようになっていた。20人の中からリーダーが選出され、交信後、宇宙船の様子について担当官に次のように説明し訴えた。

  1. 200隻の輸送用宇宙船に1億人近くが乗船しており、すし詰め状態である事。
  2. 多くの人がエネルギー切れ寸前であり、苦痛を訴えている事。
  3. 太陽光が宇宙船の内部まで届かず、このままではこの星に到着する前に多くが命を落とす事。

 これらを説明後、一刻も早く光を浴びせて欲しいと強く訴えた。担当官は一刻の猶予もないことを認識し、関係技術者を緊急招集し、元捕虜も加え緊急対策会議を開いた。

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