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SFJ人類の継続的繁栄 第15章『石英星の冷戦1』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

不可解な無反応

 リアル世界で通信方式を変更した事に対し、バーチャル政府からほとんど何の反応も無かった。大きな問題が生じることを覚悟して変更したが、ほとんど何も無く、事務的な処理に関する問い合わせがあっただけだった。
この反応の少なさに対し、リアル二足人政府は違和感を持ち、政府の幹部と関係者とによる分析会議を開催した。

「通信方式を変更し、我々を監視できなくなった事に対し何の反応もなかった。ただごとではないかも知れない。第5会議室にも盗聴装置が仕掛けられていた。毎日盗聴されていたようだが変更してからは盗聴できなくなった。あそこだけでなく色々なところを盗聴されていたはずだ。過去には1万人の仲間の脳に潜在データを植え付けられたこともある」
「やはり四足人の脳に情報を植え付けたのはバーチャル政府に違いない。もしかしたら時限式かトリガー式の潜在データも植え付けられているかも知れない。四足人もそれを承知しているかもしれない。四足人は今でもバーチャル人の手先かもしれない」
「それはないと思うが念の為、死体から取り出した脳のデータを再度分析してみよう」

 脳のデータを再び階層型コンピュータで解析した。時限式データなどの怪しいデータが書き込まれていないか徹底的に調査し、何もないことが確認できた。
共同の庁舎に、二足人の政府幹部と四足人の自治政府の幹部が集まり、この問題に対して協議した。

二足人:「通信方法を変更した事により事実上我々リアル人を監視できなくなったのに、バーチャル世界側から何の反応もなかった。もしかして8年前に君たちの脳に技術や文明が植え付けられた時、同時に時限式の潜在データを書き込まれていないか、死体の脳のデータを詳しく調査したがそれらしきものは全くなかった」
四足人:「我々も通信方式の変更により絶対に何かが起こると思っていた。何も起こらなかったという事は我々が考えている以上に深刻な状況かも知れない。8年前に我々の脳に技術を植え込んだのはバーチャル人に間違いない。潜在データを確認したということだが、確認できないような仕掛けがあるかもしれない。万一仕掛けられていたら我々にはそれが認識できない。定期的に我々の脳の状態を調べて、怪しいデータがあれば取り除いて欲しい。脳の検査にはいつでも協力する」
二足人:「我々には二足と四足の違いがあるが共にリアルな人間だ。バーチャル世界の人間は我々と祖先は同じだが、バーチャル世界は10センチ立方の中だけの存在だ」
四足人:「10センチ立方のクラウド装置がどこにあるのか我々を信用して教えて欲しい」
二足人:「5箇所に5つある。例え4つが壊れても1つだけ動いていればバーチャル世界は存在する。場所は最重要機密事項なので教える事はできない。いざとなれば4つは破壊する事が可能だが、1つは地中深くに埋まっていて取り出すことができない。もし取り出そうとトンネルを掘ろうにも時間がかかりすぎて気付かれてしまうだろう。それが最大の問題だ」
四足人:「トンネル堀なら我々は得意だ。洞窟をつなぐトンネルに活性物質を使う承認に時間がかかりいらいらしたが、我々の活性技術により10キロのトンネルを1時間もかからずに掘ることができた」

 共同庁舎の協議の結果が両政府に報告された。自治政府のヨツ大統領から本政府の西田大統領に、「トンネル工事なら何でも任せて欲しい」との連絡があった。

バーチャル人の凄み

 二足人政府で西田大統領を議長とする対策会議が開催された。

「共同庁舎での協議の内容は報告書にある通りだ。ヨツ大統領からトンネル工事は任せて欲しい、との連絡があった」
「バーチャル世界は信用できない。我々も四足人もリアルな人間だ。物体至上主義を両政府の理念とし、バーチャル世界と対抗していこう」
「クラウド装置は全部で5個ある。5個あるということは同じバーチャル世界が5個あるということなのか」
「5個のクラウド装置は瞬時通信でつながっていて5個同時に動いている。バーチャル世界が5個あるという見方もできるが1つという見方もできる。どれか1つが動いていればバーチャル世界は存在する」
「5個ある場所はわかっている。3個はすぐにでも処理できるが1つは隕石防衛システムと同じ領域にあり、1つは地表から15kmも深い位置に埋まっている」
「四足人の言うとおり、四足人の活性技術を使えば15kmのトンネルは2時間もかからずに掘ることができる。これを掘り出して5つのクラウド装置を1箇所に集めたほうが良いのでは。いざという時は同時に破壊できる」
「中野大統領が時々リアル世界に来る。他の政府関係者や技術者も時々来る。特に初めてリアル世界に来る者は、自分が存在しているクラウド装置を必ず見学する。3個はこの周辺にあるのでよく見学に来る。これを移動しては不審に思われる。この3個は今の場所のままでもいざという時にはすぐに破壊できる。宇宙にあるものと地下に有るもの2つをすぐに処分できるところに移すことが必要だ」
「地下にあるものはヨツ大統領に任せればすぐに取り出せる。宇宙にあるものが問題だ」
「4個複製したのは我々だ。4つの設置場所を決めたのも我々だ。2つの設置場所は理解できるが地下深くと宇宙に設置した経緯はどうだったのか。そもそも複製したのはどの様な経緯だ。先ずそれを調べてみよう」

 4個複製し、それぞれの場所に設置した経緯を過去にさかのぼって調査した。調査結果は次のようだった。

  1. 我々は少人数で洞窟の中に隠れて暮らしていた。
  2. ある日、人体も含め地上の物を何もかも放置したまま、人がいなくなった。
  3. 分厚い強化ガラスに覆われた同一仕様の複数のクラウド装置が見つかり、調査の結果、全員がバーチャル世界に移行したことが判明した。
  4. 我々はそのことを知り物体至上主義を理念として掲げた。
  5. クラウド装置のメモリーを改良し、10センチ立方のクラウド装置を1つ作り、もとの装置と交換した。バーチャル世界を愚かさの象徴としてクラウド記念館を作り、10センチ立方のクラウド装置を展示した。
  6. 我々がこの星に存在し、クラウド装置が我々により展示されている事に、バーチャル政府が気付いた。
  7. 異常な隕石の落下があり、バーチャル記念館の近くにも落下した。
  8. リアル人1万人にバーチャル人側に付く潜在記憶を植え付けられた。
  9. 隕石による破壊のリスク対策として、クラウド装置を4つ複製した。
  10. 展示館の館長と隕石防衛システムの担当者から設置先についての進言があり、1つは隕石防衛システムのそばの宇宙空間へ、1つは深い洞窟の底に設置した。
  11. 2年後に大きな隕石が洞窟上に落下し、洞窟は完全に塞がれた。
  12. バーチャル人に脳を支配されたリアル人3人がバーチャル政府の交渉役として現われ、バーチャル世界が我々の存在を知っていることが始めてわかり、交渉に入った。

「我々がバーチャル記念館を作り、クラウド装置を展示している事を、バーチャル政府が気付いた時からバーチャル側の工作が始まったようだ。バーチャル世界の基となるクラウド装置を我々が握っていることを知り、危機感を持ち色々工作して我々にクラウド装置の複製を作らせたということだ」 
「複製を作らせた事も設置場所も、隕石の落下が絡んでいるようだ。彼らはバーチャル世界に移行する前に、隕石によりクラウド装置が破壊されないように、隕石防衛システムを操作できるようにしていた事は間違いない。システムを操作し、わざと隕石を落下させ、われわれに複製を作るように仕向けたのだろう」
「クラウド記念館の近くに隕石を落下させ、我々にクラウド装置が隕石に破壊される不安を持たせ、4つ複製を作らせた。問題は設置場所だ。宇宙空間と洞窟に設置したのは展示館の館長ら2人の進言によるということだが、2人にその時の事情を聞いてみてはどうだろうか」
「それについては既に2人から事情を聞いてある。2人とも、『理由はさっぱりわからないが気がついたらそのように進言した』と言っている。洗脳されたのに間違いない」
「宇宙空間に設置するように仕向けたのは、破壊しようにもそこまで行くには時間がかかるからだろう。しかしながら洞窟のほうは不可解だ。深い洞窟に設置しても、取り出すのにあまり時間がかからない。偶然に大きな隕石で洞窟が完全に塞がれたので、結果的にバーチャル人にとって非常に都合の良い結果になってしまったが」
「いや、偶然ではないと考えればすべての辻褄が合う。2年もかかったのは洞窟の破壊に必要な大きな隕石が飛来するのを待っていたからだと考えるほうが妥当だろう」
「そうか。我々に複製させたのも、設置場所を選ばせたのも全てバーチャル政府の策略だということはこれではっきりした。何もかもやつらの仕業だろう。細心の注意を払い事に当たらなければならない」

会議を受けて、西田大統領はヨツ大統領に対策会議で判明した内容を説明し、トンネル工事を行うように依頼した。

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