日本には打ち水という生活習慣があります。夏場に路面に水をまくことで涼をとるというもので、これも気化熱の仕組みを利用したものです。蒸発した水分が空気に混じり必然的に湿度も高くなるので、一概に効果があるとはいえませんが、気化させるために特別に熱エネルギーを使ってないのは地球温暖化対策としては見習うべき部分です。
また、冷媒として特別な化合物質を使っていないのも環境に優しい部分です。おまけに、誰にでもできてコストもそこまでかからない。効果はエアコンなどに比べれば小さなものかもしれませんが、環境やコスト、運用面を考えれば水が理想的な冷媒なのは間違いありません。
ただ、そんなことは誰もが考えるわけでありまして、水を冷媒とした冷却装置をそう簡単に作れるのであれば、すでに誰かが作っているはずです。そう簡単にいかないからこそ、わざわざフロンなどの化合物質が冷媒用につくられているわけです。しかし、この部分をどうにかしないと、現状の循環に歯止めをかけることはできません。
水を冷媒とするアイデアについて、私は諦めませんでした。その理由のひとつは、もちろん現状の循環に歯止めをかけるためには水を使うしかないという確信があったからですが、もうひとつ発明家・技術者としてのプライドの部分もありました。
水を使った冷却装置について試行錯誤を重ねる中で、私は二つの重大なことに気がつきました。
一つ目は、「部屋全体を涼しくする必要はないということ」です。
既存のクーラーは、部屋全体を涼しくする機器です。冷蔵庫や冷凍庫も同じです。ただ、人が涼しくなるだけならば何も部屋全体の温度を下げる必要はありません。人間だけが快適ならばいいのです。エネルギーの消費量についても、部屋全体を涼しくするために使うエネルギーと比べるまでもなく少なくて済みます。これが、涼しくなる服という着想につながっていきました。『空調服™』というアイデアの萌芽です。
それからは、涼しくなる服をどうすれば実現できるかについての試行錯誤となっていきました。最初のうちは服の内部に水を流して、それを蒸発させるという仕組みづくりを考え、それを実際に作ってみたりもしましたが、なかなかうまくいきませんでした。水は少しのことで漏れてしまいますし、蒸発させるための水を装着するのも重たいといいとこなしでした。
そんなときに二つ目の気づきがありました。
それは、「人は暑ければ勝手に汗をかく。それを蒸発させればいい」というものです。
考えてみれば当たり前のことですし、人は体温を逃がすために汗をかくということも知識としてはもちろん知っていました。ただ、そんな当たり前のことを見落としていたのです。この気づきが『空調服™』を開発・設計していく上での柱となる、「生理クーラー®理論」の誕生につながっていきました。そして、ようやく『空調服™』という地球温暖化対策に対しての私なりの答えが、まだ形にはなっていないとしても、その実感をこの手に掴むことができたのです。
この時点で、『空調服™』が完成することは私の中で必然となり、あとは実際に形にしていくだけの段階になったのです。