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ピントのぼけた写真のピント補正はできるか

 私たちの日常には、鏡や写真、テレビ、ネットなどにさまざまな映像が溢れています。これらの映像というものは、それぞれの仕組みによってもともとの情報を変換し、何か別の媒体に映し出しているものです。いうなれば鏡的な理解や写真的な理解、テレビ的な理解といった形で処理された情報ということにもなります。これらの処理は、ある意味で必然的なものです。そうなるであろうことを前提に、計算されて変換された再現性の高いものです。
 これが人によって行われる場合もあります。絵や彫刻、オブジェに情報処理されていれば美術品になりますし、音に処理されれば音楽になり、文字に処理されれば文学情報になり、数式に処理されれば数学になるといった具合になるわけです。数学の場合は少し特殊ですが、他の変換は理解する者によってそれぞれその方法も異なりますし、表現の過程でも違いがでてくるので、より高度な情報処理を行わなければ再現が難しいものになります。
 ただ、これらの情報処理の方法にはパターンがありますので、情報処理とその因子を解明することで、ある程度までならば近いものに補正することが可能です。
たとえば、現在ではピントのぼけた写真の修正はある程度可能なようです。厳密にどのような技術を使用して補正を行っているか知りませんが、まず誰もが考えられる方法は次のような補正方法でしょう。
 情報を沢山持っている人、あるいはネット情報の検索能力の高い人が、あるピントの外れたぼやけた画像を見て、「この背景の山は●●山だ」、「ここに写っている車は1990年製造の■■だ」、「この人の着ている服のブランドは▲▲で色はダークグレーだ」など、ぼやけた部分が何であるかを想定して修正する方法です。モノクロ写真をカラー写真にするのと同じような方法です。遺跡や遺産の壁画を修正するような作業にも似た、高度な知識と情報理解がなければできない仕事です。
 では、この方法を機械AIにできるでしょうか。私は人間にできることは、たとえ今はできなくても、全ていつかはできるようになると信じています。人の脳を改造することは禁止されているので、これ以上人類の能力が上がることはありませんが、機械の改良は自由にできるのでどんどん性能が向上するのがその理由です。計算力や記憶能力などは、とうに人間を追い越しました。すでにこの程度の事なら、ビッグデータの活用によりできるでしょう。
 しかし、この方法は修正したい写真に写っている修正対象物は、人が知っている物でないと通用しない方法で、本質的な方法ではありません。おそらく、その他の方法も同じようだと思います。似せることはできても全く未知の映像はもちろんのこと、過去の記録、記憶があっても完全に修正する方法はありません。
つまり、本質的にはピントのぼけた写真からピント補正を行うことはできません。写真を撮る前ならフォーカスを調整してピント合わせできるのに、写した写真からピントを合わすことができないのです。
 私は、この違いは位相情報にあると思います。レンズを透過中の光は、電磁波としての位相のある完全な光なのでレンズのピント調整はできますが、それを写した写真には位相情報がありません。位相情報がない、明暗と色情報しかない写真からはピントの調整は不可能なのです。

『空調服™を生み出した市ヶ谷弘司の思考実験』より

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