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SFB人類の継続的繁栄 第18章『生きている実感』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

幸福向上検討委員会

 しばらく平穏な日々が続いた。この間も大統領には阿部氏が選ばれ続けた。しかしながら、こうも連続で選ばれ続けると阿部氏の超長期政権に対する批判や不正への疑念の声もあがり、平和ボケと活性度が低下しつつある社会に対し、荒木らを筆頭とする対抗勢力が力を増してきた。
政府はこの動きに対し危機を感じ、支持率の向上を目指し、〔幸福向上検討委員会〕を組織した。
 第2世代からのバトンを受けた、最大の功労者であり責任者である阿部氏には、その時の直接の記憶は残っていないが、連続的に生きている阿部氏には、代を重ねても人類の継続的繁栄の精神は強く残っていた。無用な混乱を避けるための手段として制度化したステータス制度によ、生まれながらの階級社会だが、〔基本的には平等〕との理念の下に検討するように命じた。
 幸福向上委員会は、現状の不満の分析と、これに対する対策を検討した。まず、第1世代、第2世代の人類に対し第3世代の人類に不足している点を列挙した。

1. 芸術、スポーツ、趣味に対する要素が不足している。
2.家族としては男女カップルだけである。
3.性行為が単純である。

 その他、色々な問題が挙げられたが、概して単純であり、「苦労はほとんどないが、楽しみも少ない」ということであった。
生きるとはなにか? 第3世代人類は、そんな生きている実感を求めていたのかもしれない。

 生きる実感という意味でまずされたのは、やはり性行為についての議論だった。
「手っ取り早いのは、性交による快楽を上げることだ」
「それでは性行為にふけってしまい、バッテリーが速く消耗する。エネルギー問題につながる」
「それでは、激しい動きをしなくても、たとえば挿入しているだけで強烈な快楽が得られるようにすれば、エネルギーをあまり消耗しない」
「快楽だけ得られるなら、そればっかりして働かない、馬鹿ップルだらけになる」
「それでは、1日の内で快楽を得られる時間に制限を設ければ良い」
 この検討の結果、性行為にも単なる性交だけでなく、快楽を得られる性行為の種類を増やし、その代わり快楽の得られる時間に制限を設けることにした。

幸福のメカニズム

 さらに、そもそも人が幸福感を覚えるのはどういうことなのか。その検討においても白熱した議論がかわされた。
「面白い4コママンガを見て大笑いしても、同じマンガを2回目に見たときは面白くない。大笑いしたことによる満足指数だけを上げ、見た内容を消去してしまえば何回見ても大笑いできる」
「結局、満足指数や幸福感指数を上げるのはソフトだけのことで、どうにでもなる」
「第1世代、第2世代の人類では、たとえば麻薬による快楽を味わった場合、後遺症が残ってしまう。これに対し、我々はソフト次第で後遺症など残さず幸福感だけを得ることができる」
「幸福感や満足感などは、その指数を上げるだけで簡単にできる」
「第1世代、第2世代の人類も結局同じことだ。性交による快楽も麻薬による快楽も最終的には脳の中で処理される。我々の場合は、それらが何の犠牲や後遺症を残すことなく、ソフト次第で簡単にできてしまう。それだけの違いだ」
「確かにそれはいえる。たとえば第1世代の人類が絶景を見て非常に感激しても、それは目というレンズを通し、神経という電線を通し、脳という回路が反応するだけだ」
「しかし第1世代の人類がモニターで絶景を見ても、そこに行って実際に絶景をみたときの感激とは全く異なったようだ」
「異なるのは情報量が違うだけだ。テレビで見る情報量と絶景地での情報量はまるで違う。いずれにせよ、目や耳や鼻というセンサーを介して脳が処理して感じるだけだ。情報量の違いだけで、本質的な違いではない」
「確かにそうだ。第1世代の末期では、バーチャルリアリティの技術が進歩しすぎて、観光産業が衰退した」
「結局バーチャルもリアルも同じことだ。リアルといっても、五感というセンサーで検出したデータを脳で処理するだけだ」
「第1世代の末期では情報技術が進展しすぎて、スマホから超スマホに移り、リアルとバーチャルの堺がなくなり、危険な状況になった。第2世代の人類に移行したのも、この問題が大きな理由だった。第2世代の人類は情報関係の技術を21世紀初頭に戻し、情報技術等を危険技術として研究を禁止したために、第2世代の人類は小惑星の衝突まで繁栄し続けたのだ」
「大昔のテレビや電話とほぼ同じ概念の道具を今でも使っているのも情報技術の進展を禁止したからだ」
「ある天才が1000年以上前に書いた、危険技術として抹消された思考実験の記録が見つかった。『脳を体から切り離し、神経の代わりに通信で脳と体を結ぶと、100km先に脳があっても全く普通に行動できる』という趣旨の記録だ」
「その考え方は全く正しい。現に第3世代の人類の一時期には、メモリーの容量が不足して、一般記憶は通信によって脳と結ばれていた」
「ここで一旦戻り、第1世代の人類と我々との本質的な違いはなにかを整理してみよう」
「それは簡単だ、第1世代の人類は有機物で作られている。有機物は腐り易い。腐らないようにしているのが生命活動だ。腐らなければ生きている。たとえ個人記憶がなくなろうと心臓だけが動いて、腐らなければ生きているとされていた。それに対し我々は無機物で作られている。無機物は腐りにくい。たとえ電源が切れても腐らないし記憶は残っている。電源を入れれば問題なく生き返る」
「第1世代の人類は原始生命から時間をかけて進化した。進化の過程で不要な物も残った。確か、第1世代の人類の設計図であるゲノムの大半は何の役割もしていないらしい。これに対し、我々は無駄な部分はほとんどない。無論、第1世代の人類の形をまねるという事自体が無駄という見方もできるが、それは人類の継続的繁栄が原点だから仕方がない。その点を除けば、何もかもが整然とした設計図を基にでき上がっている。魂も感情も自我も、合理的な設計図によりできている」

家族の幸せ

 次に家族問題について検討した。現在は男女カップルという、2人だけの家族しかいない。親や子供を含む家族について次のように提案された。
 「第2カップルを第1カップルの子供とする。第3カップルを第2カップル子供とする。第1カップルを第3カップルの子供とする。このように1組の親と子供をもつ、6人で構成する家族、あるいはもっと大きな循環家族」が提案された。
 このように幸福向上検討委員会での検討結果、次のような提案が報告書にまとめられ、政権幹部で検討され、この幸福向上計画を実行することが決定された。

1.循環家族希望者には、最大5カップル10人までの家族を認める。
2.全員の幸福指数、満足指数を一律に引き上げる。
3.性的快楽には複数のメニューを追加する。
4.趣味や芸術、スポーツ等の各種の才能に多種類のメニューを追加する。

「4」については、それぞれのメニューの内容により、適正なポイントが付けられた。ステータスに関係なく、総計500ポイントを上限として、各人の希望通りにソフトの追加、或いはチューニング方法の変更を行なうことになった。
 このような阿部大統領の、いわば人気取り政策が実行され、阿部政権の支持率は向上した。
また、第1世代の人類に比べれば無論少ないものの、色々な個性を持つ人が現れ、バラエティ豊かな、また幸福度の高い社会となった。無論、このことは宇宙に暮らす住人にも実施された。 

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