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SFB人類の継続的繁栄 第19章『女神のきまぐれ』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

宇宙開発プロジェクトが成し遂げた偉業

 宇宙に暮らす住民は、一部の観光業を営む人を除き、技術色が強く、独立色も強かった。500ポイントを上限とするソフトの追加内容も、地上に暮らす住民の内容とは大きく異なり、結果的に技術への意識も高まり、地上に対する独立意識もさらに強くなった。
 地球の引力圏から離れ、新天地を開拓しようと考える研究者集団も現れた。
 彼ら宇宙の研究者集団は宇宙政府の承認の下に、地球の引力圏から脱する、〔宇宙開発プロジェクト〕をスタートさせた。地球の引力から脱し、宇宙へ向けて航行する研究には、この宇宙居住区は最適である。
宇宙開発プロジェクトの下位プロジェクトとして、〔宇宙エンジンプロジェクト〕、〔新エネルギープロジェクト〕、〔一般プロジェクト〕の3つのプロジェクトを設けた。
 〔宇宙エンジンプロジェクト〕は、21世紀初頭に研究されたイオンエンジンを大幅に改良することに取り掛かった。第3世代の人類は真空中で活動することができるので、第1世代の人類に比べ、高電圧発生の実験を行う上で断然に有利である。
イオンを加速するための電圧を100万ボルトに引き上げることに成功し、カーボンをイオン化させることも成し遂げた。このように宇宙船のエンジン開発は順調なスタートを切った。
〔新エネルギープロジェクト〕では、地上で実用化されている原子力発電を宇宙船用に改造しようと試みた。しかし、検討を続けるうちにそこには2つの大きな難問があることがわかった。
 1つは寿命の問題。航行は数千年にも及ぶ可能性がある。それでは燃料が尽きてしまう。
もう1つは廃熱処理の問題である。当初の予定では船体に放熱板を施す方法を考えたが、エンジンが高出力になり、それにともない発電量を予定以上に増やす必要があり、宇宙への自然放熱では間に合わないことが明らかになった。
 ソーラーパネルは恒星から大きく離れた光が届かない領域では使用できない。宇宙線をエネルギーとして使用する方式では発電量が少なすぎ、現実的でない。
 残された選択肢は一つ。第3世代人類において、かねてからの念願である質量電池を開発するしかなかった。
 質量電池は、第2世代の末期に発明されたもので、質量の4割程度をエネルギーとして取り出すことのできる夢の電池である。
 第3世代の当初は、埋もれた都市から使いかけの質量電池を発掘し使用していた。残された文献を基に何度か開発を試みたが難しすぎた。プロジェクトのメンバーの中に当時の開発に参加した人がいて、ある程度の知識はあったが肝心な内部構造がわからなかったというのがこれまでの経緯である。
 質量電池は、宇宙居住区にもほとんど消耗した出涸らしものが数個放置されていた。出涸らしとはいえ、残りの燃料が一度にエネルギーに変換したら大変なことになる。最悪の事態が起こったならば周囲数百kmを破壊してしまう。
 新エネルギープロジェクトのメンバー数人は、この出涸らしを分解して内部構造を調べるために宇宙船にのりこんだ。そして、宇宙居住区から100km程離れた領域に質量電池を運びこむと、慎重に分解を試みた。
結論からいえば分解はうまくいった。
「運命の女神は味方したらしい」
 メンバーの誰かがそういったが、爆発せずに分解するのみならず、内部構造をつぶさに観察し秘密を解き明かすことにまで成功した。もし地上で分解を行ったら、おそらく大爆発したであろう。真空が幸いしたのである。
 第3世代人類にとって長年の課題であった質量電池のなぞは解明され、ついに開発は成功した。
 このことは、宇宙居住区にあるエネルギー省の分室にも報告された。しかしながら分室の室長は、このことを地上の本省に、すぐには報告しなかった。今でも宇宙の地位は相当に低い。このうえ質量電池が量産できると、ソーラーパネルによる地上への発電が中止されることは容易に考えられるシナリオだろう。そうなると宇宙の地位はさらに低くなる。こうして、この重大発見についての報告は、頃合いを見計らってされることになったのである。

宇宙からの贈り物

 質量電池の他にも、宇宙航行計画のための様々な技術が開発された。
たとえば宇宙を観察するための超大型反射望遠鏡だ。超大型反射望遠鏡により、地球にとって脅威となる、小惑星や巨大隕石の綿密な調査も行うことができるようになった。
 30年後に地球に衝突する危険のある巨大隕石が発見され、衝突地点も正確に予測できた。宇宙居住区にある宇宙空間開発庁は、この予測結果を政府に報告した。100年後の隕石の衝突を、衝突地点まで特定した自負もあり、少し大げさに報告した。
ただ、大げさに報告したのがよくなかった。
 この知らせは地上では劇的に報道された。小惑星の衝突により第2世代の人類が絶滅したことは、人類史上最大の悲劇であり、人々はそれを連想し、地上は大パニックになったのである。
 宇宙空間開発庁と地上政府は火消しに懸命になった。
 政府系の報道機関を通し「この隕石はあまり大きくなく、大気圏で消滅するか、消滅しなくとも衝突時には直径30cm以下になり、最悪でも半径数kmに影響する程度」だと広く報道したが、パニックは収まらなかった。デマも相次ぎパニックに拍車がかかった。政府はできる限りの方法で沈静化を試みたが、小惑星衝突により第2世代の人類が絶滅した事実はあまりにも大きかった。 
 政府の懸命の説明の結果、事態は多少沈静化したが、宇宙への移住希望者は膨大な数に上った。宇宙には観光用の人体が用意されているだけで、移住希望者が乗り移るにはあまりにも数が少なかった。
 移住ができないとわかると、移住希望者はさらに先鋭化し、暴動に発展しかねない状態が続いた。政府は隕石の衝突についての詳細な説明を行い、沈静化を図る一方で移住希望者の要望に対応することが最大の沈静化策だと考え、大幅な宇宙居住区増強計画を発表した。
 発表だけでなく、実行に移されていることを示すため、人体が大量生産された。あまり使用されていなかった宇宙エレベーターがフル稼働し、大量の人体が宇宙基地に荷揚げされた。
 隕石衝突を発表した1年後には、予想を大幅に上回る200万人もの人が宇宙へ移住した。これに対し宇宙居住区増強計画では全くの対応不足だった。急遽古い居住棟の整備を行ったが、急増する移住者を全員収容することができず、一部の人はホームレスの状態になった。地上なら安定した引力があるので、たとえ住居が無くても充電施設さえあれば生きてゆけるが宇宙ではそうは行かない。
 宇宙に放出される事件が相次いだ。網捕獲砲での捕獲にも限界がある。このため宇宙への移住は中断され、居住棟の整備を優先した。
 政府は衝突予測地点を中心に半径2kmの円を描き、立ち入り制限区域に指定し、それを宇宙から撮影し大々的に報じた。地球全体を撮影した映像からは、半径2kmの円はあまりにも小さく、ほとんど目視することはできなかった。
 このようにして3年かけてこの騒動は沈静化したが、宇宙の人口は騒動前の4倍の4000万人に急増した。結局この騒動により、200人もが宇宙に放出され、二度と地球の引力圏に戻ることはなかった。ちなみにこの隕石による被害は地表に半径5メートルの窪みができただけだった。

忍び寄る終末

 宇宙で質量電池が実用化された知らせが、ついに地上にも伝えられた。その事実を知ることは、当然のことながら地上の技術者たちには多大な衝撃だった。
宇宙で開発された質量電池は燃料中の活性物質の比率が小さく、最初は大きな出力が得られない。しかしながら、電力を取り出すことにより燃料に電流が流れると、活性物質と接する未活性な通常物質が徐々に活性化が進行する。したがって使用直後はあまり大きな出力が得られず、最大出力に達するまでには長時間かかる問題があった。小出力で長期間使用するロケットエンジンの電源としては全く問題ではないが、大出力電源として地上で使用する場合には問題である。
 地上の科学者たちは、宇宙に先を越されたことに対するプライドもあり、地上においてはあまり実用的でないこの質量電池を改良するために懸命に研究し、新しい燃料を開発した。その燃料を使用することにより、質量電池内の燃料が短時間で全て活性化し、最大出力に達するまでの時間を大幅に短縮することができた。これならば地上での実用的な電源として使用できる。
 活性化された物質は、特定の素粒子の位置が通常の物質と異なるだけなので、通常の物質と全く同じ物性を有し、化学的分析では活性化されているか否かは判別することが困難だった。それが、のちの重大事を引き起こすことにつながった。
 地上でも質量電池工場が建設されると、すぐさま量産体制が整った。活性物質が製造され、通常物質とブレンドし、燃料も次々に製造される。この燃料を使用した質量電池が量産された。
ただ、大量生産には落とし穴もあった。製品の劣化、及び製造過程の質の低下である。とくにその製造過程では製造に慣れるにつれ、作業への慎重さが低下してきた。
きっかけは、ある日、作業台に少量だけこぼれた活性物質だった。
作業員は丁寧にこれを除去したが、わずかな量が作業台にこびりついたままだった。 
冬の乾燥した日、作業員の手袋と作業台の間に静電気が溜まり、小さな放電が発生した。その放電により、活性物質がこびりついた作業台の表面が、わずかな範囲活性化した。
誰も気が付かぬまま、時間と共に作業台の表面に徐々に活性化が進行した。数年後には、作業台全体が活性物質に変性していた。
その後、作業台と接する床の一部も活性化が進行した。静電気による放電のたびに活性化範囲は広がり、ついに従業員も含めて、工場全体が活性物質になってしまった。しかしそうなった今も、このことを誰も気が付くことはなかった。
 活性化は工場外にも広がり、その地区一帯が活性物質に置き換わった。雷により活性化は一気に進行し、10年後には、大気を除く地球の大半が活性物質に置き換わった。
地球は臨界状態に達した。

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