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SFC人類の継続的繁栄 第12章『第4世代人類の避難』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

第4暦700年 太陽フレア問題とその対策

第4暦700年、人類存亡に関わる大問題に直面した。
 第4世代の人類にとって太陽光は唯一のエネルギーである。そのため、太陽の観察は盛んに行われていた。また太陽の今後の動きを予測する研究も進展していた。
5年後に、巨大なフレアが短時間発生する事が確実になった。このクラスのフレアだと半導体そのものが壊れる事はないが記録内容が消える恐れがある。
この報告を受けて急遽、〔フレア対策プロジェクト〕が組織された。
プロジェクトは、このフレアから脳を守るためのシェルターの仕様を検討し、壁の厚みは少なくとも3センチ必要だとわかった。家庭毎にシェルターを設置する案が提案され、これを作るための費用を計算したところ、莫大な費用がかかる事がわかった。
メンバーの1人が、体全体を避難するのではなく、記憶だけ避難させる案を提案した。「充分な電磁波シールドを施した小さな記憶保存装置を各家庭に支給し、フレア発生前に自分の記憶を記憶保存装置に転送する。フレアが収まった後、壊れた記憶を消去して、記憶保存装置に保存してある記憶を脳に戻す」という提案である。
当初は妙案に思われたこのアイデアだったが、完璧とはいえなかった。検討の結果、たしかにこの案はあまり費用がかからないが、運用上に大きな問題があることが指摘されたのである。
自分の記憶を記憶保存装置にコピーするのは自分でできるが、フレアにより記憶に大きなダメージを受けた当人が、記憶保存装置に記録された記憶を自分の脳に転送する事は不可能である。転送するにはダメージを受けてない人による操作が必要であった。
 そこで、各地区とも1,000人に1人の割合で体ごとシェルターに避難し、その人が操作する案が検討された。検討の結果1人で1,000人もの人に記憶を戻すのには無理がある事がわかり、次のように計画された。

  1. 体ごとシェルターに避難し、最初に記憶を戻す操作を行う第1操作者を各地区から1,000人に1人の割合で選定する。
  2. 各地区から第2操作者を1,000人に15人の割合で選定する。 
  3. 第1操作者と第2操作者に〔記憶保存装置から脳に記憶を転送する操作手順〕を訓練させる。
  4. 家庭単位で、フレア対策を施した記憶保存装置を支給する。
  5. 各地区に第1操作者用の1人用シェルターを作る。
  6. フレア発生3時間前に退避命令を出す。
  7. 第1操作者がシェルターに避難する。
  8. 第1操作者以外の全員が、記憶保存装置に自分の記憶をコピーし、自ら電源を切る。
  9. フレアが収まった後、第1操作者がシェルターを出て、15人の第2操作者の自宅に赴き、第2操作者の脳に記憶保存装置に記録された記憶を転送し、15人を目覚めさせる。
  10. 第1操作者と第2操作者の16人が、残りの984人を目覚めさせる。

 計画は承認され、実行された。
結果からいえば計画は成功し、5億人の住民全員フレアによる被害は無かった。
フレア事件の終了後、関係者によりフレア対策を施した記憶保存装置の取り扱いについて議論された。今後同様のフレアが発生する事も考えられるので、そのまま残す方向で議論は進んだ。
メンバーの1人が「このまま記憶保存装置を残すと勝手に自分の記憶をコピーできる事になる。そうなると事故で死んでも、家族が保存された記憶を別の人体に転送し、生き返らせてしまうだろう。これは倫理に反するのではないか」と発言した。
この発言に対し、別のメンバーが「たとえば事故の1月前に記憶を上書きした場合、1ヶ月間の記憶を持たない人が生き返る事になる。100年前の記憶なら戻しても意味はない。我々は100年前の記憶は消失するようになっている」と発言した。この発言により訳がわからなくなり、とりあえず「今後のフレアに備える」という名目でそのまま残す事になった。その結果、死亡事故対策として各家庭それぞれのやり方で使用された。 
記憶の保存については、人それぞれで、人によっては毎日コピーする者もいたが、1年近くコピーせず、家族から「事故で死亡し、生き返らせたら1年も記憶が飛んでいたらややこしい」と頻繁にバックアップ・コピーするように強要される者もいた。

第4暦1万年 小惑星の衝突

第4世代人類の歴史が始まって1万年が経過した。地上の人口は30億人にまで達していたが、その記念すべき年になって5ヶ月後、人類に文字通り衝撃が走った。第2地球に小惑星が衝突する事が明らかになったのである。第2世代の人類を滅亡させた、旧地球への小惑星衝突と同規模の衝突であった。
衝突の5ヵ月前までわからなかったのは、遠くから飛んできた小天体が小惑星の近くに飛来し、その影響で小惑星の軌道が突然変わったためだった。遠くの小天体の状況までは把握できていなかった。
人類史を詳しく調べ、小惑星の衝突への対策が検討された。同規模の小惑星衝突が起こった場合の、第2世代の人類と第4世代の人類との受けるダメージについて比較検討された。
 第2世代の人類が衝突により滅亡したのは、小惑星の衝突による直接的なダメージではなく、衝突により地球が長期間灰に覆われ太陽光が長期間遮られ、その結果ほとんどの植物が全滅し食料が無くなるためだった。第2世代の人類は食料がなければ生き抜く術がなく、ほとんど全ての人は衝突前に自ら死を選択した。これに対し第4世代の人類は、食料は必要ではなく太陽光さえあれば生き抜く事ができる。
 たとえ第2地球に太陽光が届かなくなっても月には太陽光は降り注ぐ。第4世代の人類には空気は必要ないので月に避難すれば済む。また月に移住するには、体ごと移動しなくても、通信で移動する事ができる。
 たとえ月に移住しなくても、衝突による衝撃の影響の及ばない、衝突地点から十分に離れた所に移動し、月から電磁波でエネルギーを送り届けてもらう事もできる。
 しかしながら、衝突により第2地球は大きく歪み、巨大地震が頻発すると予測される。歪みが解消し、安定するまでは第2地球に住むのはリスクが大きいものになると予測された。エネルギーを受け取る装置が壊れればそれまでである。やはり月への避難が必要である。 

月への避難

 月への避難に当たって大きな問題があった。第2地球の人口は30億人にも達しているが、月には30億人が乗り換えるだけの人体が備わっていなかった。月への定住が始まった初期には、観光やレジャーに第2地球から沢山の来客があり、そのための人体が備えられたが、それでもせいぜい2億体である。
当初月へのレジャーや観光は盛んに行われたが、やがてブームは去り、それ以降あまり人体は製造されていなかった。月へ一時避難するためには、月面に新たに人体を用意する必要がある。しかし5ヶ月間で30億体を製造するには、人体を作るための大量のカーボンが必要で、月には黒鉛鉱山が少なく、大量のカーボンを採掘し人体を用意する事は困難である。
一方、脳に当たるメモリーやプロセッサーについては、微細加工技術がさらに進展し、第4世代の初期に比べ1億倍の密度で製造できるようになっていた。脳は第2地球で作り月へ運ぶ事もできるし、第2地球から最新の半導体製造装置を月に送り、月面で製造する事もできる。どちらでも30億人用の脳を5ヶ月で作るのは容易である。
問題なのは体である。体を超小型にすれば、月にある少量のカーボンだけで30億体を作る事が可能である。頭も小さくなるが、脳は1ミリ角で十分である。脳が小さくても容量が同じなら知能に全く影響することはない。
しかし、超小型の体で、引力の小さな月で生活するためには別の問題がある。引力の小さな月面で小さな軽い体で行動するのは大変不便である。月面を歩こうにも、少し力を入れると飛び上がってしまい、実質的に月面を歩く事は困難になる。この問題を解決するには体を重くする必要がある。しかしカーボンを重くする事はできない。たとえできたとしても大量のカーボンが必要となり意味がない。幸い月には大量の鉛がある。体の重心近く、腹部に鉛を詰め込めばある程度解決できる。
 このような検討を経て、小惑星衝突対策の計画が次のように策定された。

  1. 地上から月面に最新の半導体製造装置と多数の移動設備を送る。
  2. 人体の材料として必要な、カーボンと貴重物質と鉛を月で採掘する。 
  3. 腹部に鉛を詰めた超小型の人体30億体を月面で製造する。
  4. 地上の30億人が月面の超小型人体に体を乗り換える。

 衝突後の事はその後の様子を見て決める事にして、計画は実行された。
月には2億人の普通サイズの人間と、第2地球から避難してきた30億人の超小型の人間が住むようになった。
体の大小も人の力関係を決める重要な要素のようだ。下等動物から知的動物への進化の過程で、体が大きく力の強い方が生存競争に勝利する。第1世代の人類までは体の大小は重要な要素だったが、第4世代の人類にもこの事は引き継がれているようである。
 これまで政府や重要な機関は地上にあった。第4世代の人類を主導する立場にある多くの人は地上にいた。主導的立場の人も含めて、全ての地上にいた住民がみんな超小型になってしまった。体の大きな月の住民と地上から避難してきた超小型な住民との間に大きな軋轢が生じた。
 体の大小問題を根本的に解決するためには、体のサイズを皆同じにする必要がある。30億人全員の体を普通サイズにするためにはカーボンが足りない。主導的な立場にある人だけ普通サイズにすれば、それはそれで問題である。2億人の月の住民を超小型に変更する事が技術的にも資源的にも最も合理的だが、それには月の住民が納得しない。
一刻も早くこの問題を解決しなければならない。この問題を解決すべく超小型の関連技術者を中心とした〔大小問題検討プロジェクト〕が組織されることとなる。

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