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SFD人類の継続的繁栄 第3章『分散移住プロジェクト』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

移住計画の実行

 上田政権は、隣の惑星の衛星への移住提案報告書を受けて、〔分散移住プロジェクト〕を組織した。
 プロジェクトはできるだけ負担の少ない、月や第2地球からの物資の輸送を最小限にする方針で行う事にした。このためにはその天体に黒鉛鉱山と貴重物質の鉱山がある事が必要である。 
 月は完全な真空ではなく、わずかだが大気がある。そのわずかな大気の影響を少しでも小さくするために、高地に超大型望遠鏡を設置し、3つの衛星を綿密に観察した。黒鉛鉱山はどの衛星にもありそうである。問題はA、B、C、3種類の貴重物質である。貴重物質がありそうなクレーターは数多く見つかった。
 内側の大き目の衛星には3種類の存在が確認された。その外側の月程度の大きさの衛星にも3種類とも存在する事が確認された。最も外側の衛星は月よりもかなり小さく、この衛星には2種類の存在が確認された。
 最も有力な2番目の衛星をさらに詳しく観測した。大きさも引力も月とそれほど変わらなかった。自転周期は23時間と、ほぼ旧地球と同じである。2番目の衛星を移住先として決定した。
 この衛星への移住計画が次のように策定された。

  1. 隊員6名、カーボン変成機、バッテリー、半導体製造措置、小さな基地建造に必要な資材、5000人分の半導体チップ、1000人分のバッテリー、1万人分の記憶データ、当面使用するソーラーパネルなどを、衛星着陸用の専用宇宙船にのせ出発し、有力な黒鉛鉱山の近くに着陸する。
  2. 6名の隊員により最小限必要な機能を持つ小さな基地を建造する。
  3. 宇宙船の内装部材をはがしてカーボンを入手する。
  4. カーボン変成機で小型重機を製造する。
  5. 小型重機で黒鉛を採取する。
  6. 採取した黒鉛を材料とし、カーボン変成機で94体の人体を製造する。
  7. 宇宙船で運んだ半導体チップやバッテリー、記憶データを使用し94人を誕生させる。
  8. 100人でソーラーパネルや基地を建造する。
  9. 100人により900人を誕生させる。
  10. 本格的な重機や車両を製造する。
  11. 貴重物質の鉱山を探査する。
  12. 貴重物質を採掘しバッテリーを4000個作り4000人誕生させる。
  13. 5000人になったら衛星の資源で全てを作り、発展させる。

プランの提案が出されておよそ千年後、第4暦2万3千年、計画は実行され、6名の隊員と大量の荷物を載せた宇宙船は第2衛星の鉱山地帯に到着した。基地を建造し、月から持ち込んだ人の材料とその衛星から採掘した資源により、予定通り人口は1000人となった。
大型重機や車両が製造され、本格的な鉱山探査が始まった。黒鉛も半導体チップに必要なABCの3物質も大量に埋蔵されている事がわかった。
しかし大きな問題が見つかった。ソーラーパネル製造の問題である。ソーラーパネルの製造にはABCの貴重物資とは別のD物質が必要である。D物質はありふれた物質なので月の超大型望遠鏡による観察やスペクトル分析の対象にはならなかった。ところがこの周辺の鉱山にはそのありふれたD物質はほとんどなかった。
ソーラーパネルが増産できなければ1000名の生存もおぼつかない。
 月の政府に「基地周辺の鉱山にはソーラーパネル製造に必要なD物質がなく電力不足に陥っている」と救援を要請した。
 1名の隊員が小型ロケット乗りに月から第2衛星にD物質を届けにきた。ソーラーパネルが生産され、当面の電力不足は解消された。あとは別の鉱山を探査しその物質を採掘する事になった。

移住の成果と落胆と

 最小限の分散計画は成功した。第4世代の人類は、第2地球と、その衛星である月と、第2地球の外側の惑星の第2衛星、の3箇所に分散して定住している。小惑星衝突による人類滅亡のリスクは大幅に解消された。
今後の第2衛星の本格開拓は第2衛星の自治政府に任せる事にした。自治政府は今後の開拓方針を検討し、最優先課題はソーラーパネルの製造に必要なD物質の入手である事を確認した。人体は製造できてもソーラーパネルが製造できなければこれ以上の開拓は不可能である。探査範囲を拡大したが、この星にはその物質はほとんど無いようである。


第2地球と月と第2衛星

 分散移住プロジェクトは超大型望遠鏡による各衛星の観測やスペクトル分析、その他の技術を活用し、第2衛星と第3衛星とを詳細に観測した。 第2衛星にはその物質はほとんど無い事が確認された。第3衛星にはその物質もその他の貴重物質もウランなども大量に存在する事が確認された。第3衛星は引力が非常に小さく住むことはできないが、資源についてはまさに宝の山である。
 また、第3衛星の直径は第2衛星の1割程度で、再接近時の距離は非常に近い事も確認された。再接近時の距離の近さを利用して、第3衛星から第2衛星に資源を運ぶ事も検討された。
 原爆技術者たちは、工事用の超小型原爆の開発には成功したが、超小型原爆は工事用にはあまり役に立たなかったので落胆していた。中型原爆により固化した層に能率よくひびを入れる事には成功し、また万一に備えての武器としての各種威力の原爆を製造したが、通常の原爆製造技術は何十万年も前に確立した技術で、技術者にとっては何の意味もなかった。

臨界をはじめる自己実現欲求

 中途半端な超小型化をこれ以上行う事を中止し、原爆の別の使用方法について議論した。

「原爆の超小型化は簡単に成功したが意味が無かった。もっと微小化し別の目的に使えないだろうか」
「もし超微小化ができたなら、大砲の弾薬や薬きょうとして使える可能性はないか」
「カーボン変成技術の進化により、砲身の強度はいくらでも強くできる。ものすごい発射速度の大砲を作ることができる」
「超高速で発射したら、反動で大砲が後に吹き飛んでしまう」
「それほど大きな反動があるのなら、70光年離れたこの第2地球に来た時の宇宙船に使用したエンジンと比較にならない推進力のエンジンができるのでは」
「そのような大砲エンジンを利用したら、反動で宇宙船が破壊してしまう。ものすごく微小化して連続して発射すれば別だが」
「仮にそのような事ができたとしても、小さな弾を大量に積んでいかなければならない」
「弾の替わりに原爆で発生した物質を高速で放出すれば良い。何しろ核爆弾は効率が非常に悪く、質量のほんの一部しかエネルギーに変換できない。質量の大半は核分裂生成物として残る」
「その考えは面白い。だけど大砲の中で爆発させ、高圧にして、その圧力で核分裂生成物を弾代わりに普通に吹き飛ばすのは面白くない。もっと効率のよい方法はないだろうか」
「爆発と圧力の関係を整理してみよう」
「爆発すれば大量の熱エネルギーが発生する。高温になるという事はあらゆる方向に向かう分子運動の速度が速くなり、圧力が上がるのでは」
「あらゆる方向に分子運動の速度が速くなるのを、一方向に集中して高速で発射できれば、超強力なイオンエンジンのようなものができる」
「夢の話だが、筒の端に少しずつ連続的に核物質を送り込み、それが核反応し、そのエネルギーより核分裂生成物が超高速で筒の開放端に向かって飛び出す、という事か」
「必ずしも夢の話ではない、原爆なんて何十万年も前に作られたものだ。他の技術のほとんどは危険技術として研究は中止されたが、質量をエネルギーに変換する研究は禁止されなかった。そのため質量電池が開発された。しかし質量を100%エネルギーに変換する活性化技術により地球が丸ごとエネルギーに変換し、太陽系が消滅してしまった。そのため質量電池や活性化技術の研究は厳禁され、ごく安全な原爆の研究だけが生き残った。一口に原爆といっても何十万年前の技術と今の技術とは雲泥の差がある」
「桁違いの速度で核分裂する改質ウランがあるし、中性子を100%反射する材料技術もある。当時と比べ、10桁近い強度を持つカーボン変成による構造材技術もある」
「何と言っても質量電池にたどり着く過程で得た、膨大な高度な知識がある」
「エネルギーを一方向の速度に変換するには、あの技術が応用できるかも知れない」

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