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SFE人類の継続的繁栄 第6章『第2船団のたどり着いた場所』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

第5暦50年、第2船団 第4太陽系に到着

 第3地球へたどり着いた第一船団と同時に出立した第二船団は、旅立ちから550年が経過し第5暦50となった頃、ついに長年の航行を経て第4太陽系に到着した。
 旗艦から惑星やその衛星をつぶさに観測した。この太陽系の惑星にはクレーターが多く、予測していたほど条件の良い太陽系ではなかった。
 引力の大きな惑星の衛星である。大きなクレーター跡が見当たらない天体を候補地として選び、詳細に観測した。この星にはほとんど地割れは無く安定しているようである。また山らしい山はなく、火山活動は無いようだった。微小な隕石落下跡だけが無数にあった。大気はほとんどなく真空に近かった。
小惑星や大きな隕石は惑星の強い引力により引き寄せられ、この天体には大気がないため小さな隕石だけが燃え尽けずに落下し、微小な落下跡を無数に作ったようだ。
もしこの星に移住したなら、小惑星の衝突や大きな隕石の落下による大きな災害は避けられるが、微小な隕石が人に当たる事は極まれにはあるだろう。しかし他の条件の良い太陽系を探すのは時間がかかりすぎる。
 プロジェクトはこのような事態も想定して、カーボン気化変成機を開発して宇宙船に搭載していた。小さな星全体を自己回復シールドシートで覆い、気体カーボンで満たす事によりシールドシートを膨らませ星全体を隕石からシールドする方法である。隕石がシールドシートを貫通して落下した場合、中を気体カーボンで満たしてあれば摩擦熱によりほとんどの隕石は燃え尽き、シールドシートに開いた孔はシート自体の自己回復性作用により直ぐに塞がる。 
 旗艦船の会議室で上田大統領を議長として会議を開き、シールド方式を使用してこの小さな星に定住する事を決定した。
 第4太陽系の惑星の衛星であるこの第4月の引力は小さく、エンジンを最大出力にすれば着陸可能である。旗艦は着陸目標地点に向けエンジンが下を向くように姿勢を変え、着陸態勢に移った。エンジンの出力を調整しながら降下し、月面近くで出力を最大にして月面に軟着陸した。輸送艦も次々と着陸し、小さな月に300人が降り立った。
 宇宙船から資材や機材を月面に下ろし、計画通りに宇宙船の内装を取り外し、カーボン変成機により基地建設に必要な部材を製造し、300人が暮らせる小さな基地を建造した。
 極薄い大気の成分、月面の安定度を綿密に調査し、資源についての簡易調査も行った。カーボンは大量に採掘できそうである。カーボンさえあれば80億人を目覚めさせるのにあまり問題ない。
 15日間の調査の結果、この第4月には貴重物質があり、小さな隕石落下の問題はあるが80億人が定住するには十分な環境だった。
 旗艦の宇宙船を解体し、沢山のカーボン材料を入手し、当面必要な各種機械と1000体の人体を製造した。記憶記録装置に記録されている80億人の記憶の中からカーボン変成と人体製造関連の技術者を中心に1000名の記憶が選定され、その記憶が製造されたばかりの1000体の人体の脳に書き込まれ、1000名が目覚めた。

第5暦350年 降り立ってから300年

 この第4月に人類が降り立ってから300年が経過した。最後の1人が目覚め、この第4月に80億人全員が揃った。 
 この300年の間に100人の体に小さな隕石があたり体を損傷した。1人の隊員は頭に隕石が直撃し死亡した。死亡したと言っても記憶記録装置に1週間前の記憶が保存されていた。予備用の人体の脳に記憶がインストールされ、この1週間の記憶こそないが完全に生き返った。
 第4月に暮らす人類にとって待望となったシールド工事も始まった。
 この星にはもともと山らしき山は無かったが、それでも2000メートル級の山は数個あった。工事用原爆で山を破壊して、この星から1000メートル以上の突起物はなくなった。黒鉛を大量に採掘しカーボン変成機で超強力なシールド用のカーボンシートが量産された。
50年をかけ、この衛星全体にシールドシートで覆いつくし、専用の気体カーボン製造装置数百台が稼働し、5年をかけて気体で満たし、シールド工事は完了した。
 そして、隕石対策プロジェクトの議論が始まった。

「シールドを粘着方式にしたが隕石対策は完全ではない」
「上空に隕石検出カメラを多数配備し、その情報を基地のコンピュータに送信し、シールドで対処できるかどうか判断し、シールドが破れるようならピンポイントで落下地点を計算し、その付近にいる人に警告信号を発信し、衝突する前に自動的に近くの記憶記録装置に記憶を飛ばせば良いのでは。この星は小さいし基地局が沢山あればタイムラグは短いので間に合うだろう」
「半径10m位のピンポイントなら問題ないだろう」
「めったにないが巨大な隕石の場合はどうするのか?」
「巨大な隕石なら落下した周辺数kmの人の脳が損傷する。大都市に落ちれば100万人ぐらいの記憶を飛ばす事が必要だろう。無論緊急だから顔データや声データまで飛ばす必要はない。記憶だけなら記憶記録装置の容量の問題はない」
「記憶を飛ばした後の人体の記憶はどうする。脳に残せば、脳が壊れた場合は問題ないが、壊れなかった場合記憶は二重に存在することになる。二重存在は法的には問題ないが、後の処理が厄介だ。どちらの記憶を使うかで本人同士でけんかになる場合もある」
「長時間、二重に存在して1人の記憶に統合する時にどちらの記憶を優先するかをめぐり裁判沙汰になった例もある。二重存在は後の始末が厄介だ。記憶記録装置には確実に記憶が残るようにして、記憶を飛ばした後の脳は初期化する事にしよう」

 隕石プロジェクトによるこの案は採用され、着実に運用成果をあげていた。シールドを強化した事により、ほとんどの小さな隕石は月面へ落下しなかったが、稀にシールドが破られシステムが起動した。
この「隕石検出記憶記録システム」により年間50人程度の記憶が記憶記録装置に飛ばされた。
 そんなある時、巨大隕石の落下の情報をこのシステムがキャッチした。落下場所は大都市で、50万人の記憶が記憶記録装置に送信された。
脳を初期化された50万人があちこちに倒れていた。人体には何の損傷も無く、ただ倒れているだけだった。
巨大隕石落下の情報は誤報だった。3つの小さな隕石がほぼ同時に捕らえられ、巨大隕石として計算されたようだ。
3つの隕石による物的被害は無かったが、後始末が大変だった。記憶のない、顔と声とを持つ50万体の人体と、顔データと声データのない50万人の記憶の突合せるのは大仕事だった。
1ヶ月かけて、ほとんどの記憶が本人の体の脳に戻されたが、100体の人体と70人の記憶が合わずに残ってしまった。100体のうち30体は予備装置としての人体と思われるが、顔と声とが残されたままで、予備装置か否かの区別がつかなかった。
 2ヵ月後、50人の記憶は元の体に戻ったが、20人分はこれ以上調査してもわかりそうになかった。20人の記憶は、残った50体の人体の中からこれと思われる20体を選び出し、その中に入れられた。
 最後の20人が目を覚ました。1人だけ記憶と体が一致していたが、残りの19人は「自分はこんな顔でない」「自分は男なのに女になっている」などと、大騒ぎになった。あれが自分の顔だと言い、言われた人は、これは私の顔だと言い、美人やイケメン顔の争奪戦となった。
 このトラブルによりシステムは見直され、記憶と体を照合し易いように一部の記憶は人体の脳に残すように変更された。

まだ見ぬ脅威への対策

 第3地球との交信により、第3地球の75億人に微小生物が共生し、神業の能力を持つようになった事を知った。その知らせは第4月の政府にとっては、まさに驚愕の知らせであった。
この知らせを受けて上田政権は、早速〔微小生物問題検討プロジェクト〕を組織した。

「この話は本当なのか」
「状況から見て本当の話に間違いない。第3地球の政府が嘘をつく理由もない。あえて挙げれば、第3地球が我々よりもずっと強くなった事のアピールだ」
「嘘をついてまで強くなった事をアピールする理由がない。正しい情報という前提で議論しよう」
「微小生物は小さな隕石型ロケットでやって来たという事だが、強力なシールドがあるこの星に侵入する事はできるのか」
「原理的には小型ロケットではこの星には入れないが、微小生物は知能が高い。どのような方法で浸入するかわからない」
「もし我々の脳に感染しようとしている微小生物がいたとして、彼らの目的は共生なのか。それとも我々の脳を乗っ取って我々をロボットとして使うつもりなのか。第3地球のような共生なら、かえって感染したほうが良いくらいだが、ロボットとして使われるのではかなわない」
「共生目的なら理解できるが、ロボットとして我々を使う合理的な目的が何かあるだろうか」
「目的があるとしたら、第2太陽系での事件のように、体が微小なために何らかの窮地に陥って、微小な体では解決できなくなり、我々の体を利用する事しか考えられない」
「SFの世界だが、彼らを窮地におとしめる大きな体の敵がいて、その敵と戦うために我々の体を使う事は有り得るのでは」
「第3地球の微小生物に率直に聞いてみるのはどうだろうか」
「25光年離れているので返事が返ってくるのは50年後だ。とりあえず感染対策について考えよう」
「第3地球の住民も含め、我々の脳には既にシールドが施されている。それなのにどうして第3地球の75億人が感染したのだろうか」
「彼らは一塊の集合体になれるということだ。体の形を自由に変えられるようだ。脳のシールドの分子間をすり抜けて脳のチップに取り付いた可能性が高い」
「それならすり抜けられないように脳のシールドの表面を何かでコーティングするのが良い。第2太陽系時代に開発した比重1万の物質が良い。あれならば分子間距離も陽子と電子の距離も小さい。あの物質をフィルムにして脳を包み込んでは」                  
「包み込むのでは隙間ができる。あの物質を液体にして脳の入っているシールドを丸ごとジャブ漬けしてコーティング処理しては」
「脳には神経が接続されている。そこの処理はどうする」
「脳と神経とは接続せずに、シールドとコーティング膜を介して信号のやり取りを行えば良い」
「それでは微小生物も同様にシールドを介して脳と信号をやり取りするのでは」
「直接脳に取り付かなければ、信号のやり取りはできても脳からの電源の供給を受ける事はできない。電源が無ければ信号のやり取りどころか彼らは生きてゆけない。この問題はこれで解決できる」

 プロジェクトは検討結果をまとめ政府に報告を行った。そして、政府はこの方式による感染対策手術を行う事を決定した。
脳のシールドの表面を比重1万の超高密度物質でコーティングし、完全防護が施された脳が量産される。すぐさま200億体の人体に対してこの脳の交換手術がなされ、微小生物の感染対策は完了した。
 この領域には色々な知能の高い生物がいるようである。どのような生物がいるかわからない。巨大な体を持つ生物がいるかも知れない。
微小生物問題検討プロジェクトは巨大な敵などについての議論も始めた。 

「巨大な敵でも体が大きいだけなら原爆を打ち込むだけで済む。どうにでもなる。各種威力の原爆を多数そろえておけば良い」
「微小な知的生物への対策は完了したし、体が巨大な敵には原爆を使えば済む。他にどのような敵が問題になるのか」
「どのような敵がいるか全くわからない。とにかく強力な武器を持つ事が必要だ」
「強力な武器なら何と言っても活性物質だ。しかし活性物質は作る側にも危険がある。知らない間にこの星ごと活性化する危険がある」
「2つの物質を混ぜ合わせると活性物質に変化するようにできれば最高だ。たとえば惑星ごと破壊する時、AとBの物質を別の容器に入れたロケットでその惑星のどこかに打ち込めば、容器が壊れAとBの物質が混ぜ合わさり活性物質に変化して、やがて惑星全体が活性物質に変化する。そこに大型ロケットでも打ち込めばそれが引き金になり惑星全体がエネルギーに変換する。大きな惑星ならその太陽系全体が消滅してしまうが」
「混ぜると活性物質になるAとBの2つの物質を開発しよう」

 プロジェクトは検討結果をまとめ、政府に報告した。政府は研究を承認し、活性物質の開発が始まるとそのプロトタイプは3年ほどで完成し、実験が開始された。

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