MENU

Novel

小説

SFE人類の継続的繁栄 第7章『活性化する第4の月』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

活性爆弾研究

 ターゲットとなる人口衛星が打ち上げられ、少量のAB2物質を搭載した超小型ロケットを人工衛星にドッキングさせた。容器破壊スイッチが押され、容器は壊れAB2物質が混合し活性物質が出来上がった。
爆破スイッチが押され、人工衛星内に大電流が走る。しかし爆発は起こらなかった。
1時間後、再度爆破スイッチを押したが爆発は起こらなかった。100時間後に爆発スイッチを押した時、やっと大爆発した。
活性化の変換速度が遅く、人工衛星の要部が活性化するまでに長時間かるためだった。計算の結果10トンの物質を活性化させるには500時間かかる事がわかった。500時間もかかったのでは敵に反撃をゆるしてしまう。
 変換速度が速い物質の研究が始まった。物質から活性物質に変わるときに一瞬発生する特殊電磁波を捕らえ画像化するための〔変化瞬間観測装置〕の開発も始まった。

 改良型AB2物質と変化瞬間観測装置が2年かけて完成すると、小天体を標的にした爆破実験が始まった。
改良型AB2物質を搭載した小型ロケットが小天体に打ち込まれ、天体の表面が活性物質で汚染された。変化瞬間観測装置により活性物質への変換の瞬間が画面に表示された。5トンはあると思われる小天体はわずか0.5秒で全体が活性物質に変換した。すかさず爆薬を積んだ小型ロケットを打ち込んだ。しかし爆薬が爆発しただけで、活性化された天体は爆発しなかった。
 大量の爆薬を搭載したロケットを天体に打ち込んだ。大爆発したが、爆発したのは大量の爆薬だけだった。
この結果を受けて関連技術者が集まり議論が行われた。

「予測はしていたが、変換速度が速い活性物質は安定度が高く、起爆にはかなりのエネルギーが必要のようだ」
「活性物質への変換速度が速いという事は変換後の安定度が高いという事だ」
「究極すると瞬時に変換する物質は超安定な活性物質、つまり普通の物質だ」
「安定度と変換速度とのバランスを図らなければならない」
「変換速度はあまり速くなくても良い。惑星を丸ごと活性物質にしてから爆発させれば、その太陽系全体が吹き飛んでしまう。それでは近くの惑星を攻撃する事はできない。変化瞬間観測装置により必要量の活性物質ができ上がるのを確認し、そこに爆弾を打ち込み活性物質を爆発させれば、短時間でその惑星だけ破壊できる」

 最適な変換速度と安定度とのバランスを探るための活性化爆発実験が、あちこちの小天体を標的にして行われた。

第3地球から見えたもの

 その頃、第3地球の衛星に設置された天文台では定期的に宇宙観察が行われていた。数十光年先の領域で小天体が次々と爆破されているのが観測された。明らかに知的生物によるものである。
 この近辺の馬鹿な知的生物が小天体の破壊実験をしているのは明らかである。
爆破位置を調べると第4太陽系によるものだと明らかになった。今までの直並列通信による会話でもそのような兆候が読み取れた。第4太陽系の第4月の政府は活性爆弾武装したようである。
 阿部政権は、〔第4太陽系の武装は第3地球が微小生物と共生し、桁違いの知能を備えた事に対する対抗措置〕と考え、その対抗措置としてこちらも活性爆弾武装する事を検討するための〔活性爆弾検討部門〕を政権内に設置し、議論を行った。 

「第4太陽系が活性爆弾武装した事は間違いないようだ」
「どのような意図で武装したのだ。我々が桁違いの知能を手に入れた事への対抗措置なのか」
「あちらの第4月の全住民と我々の全住民とは元々は1人1人が同じ人間だ。同じ人間だった我々が考えれば我々を攻撃する意味は全くない。理解できない。我々の生誕地である第1太陽系を丸ごと消滅させた、あの危険極まりない活性物質を懲りずに作るのにも理解できない」
「第4月の住民に悪質な微小生物が感染し、脳を操られているのではないだろうか」
「前回の通信で万全な感染対策をしたとの報告があった。具体的な内容の報告もあったので確かだろう。対策内容を微小生物に確認したら『最良の対策の1つだ』と言っていた。感染は有り得ない」
「我々も武装する必要はないか」
「活性物質での武装は危険で考えられない。我々の最大の強みは微小生物との共生だ」
「この件を微小生物に聞いてみよう」

共生人の技術者10名が政権の検討会に呼ばれ、活性爆弾武装についてのアドバイスを求められた。10人はすぐに彼らの言葉で一斉会話を行い、あくまでも感染されていない人間が行った場合を前提として次のように説明した。

  1. 活性爆弾はAB2物質混合型の爆弾である。
  2. 実験は活性化の変換速度と安定度のバランスの適正化実験である。
  3. 変換速度が速いものは安定度が高く、起爆に大きなエネルギーが必要である。
  4. 活性化が瞬時に進行して出来た物質は完全に安定した物質、つまり通常物質である。
  5. 破壊する天体全体を活性化させる必要はない。必要最小限の活性物質ができた時点で起爆すればよい。たとえばこの第3地球を破壊する場合、地球全体が活性化した後に起爆すれば、太陽系ごと吹き飛んでしまう。

 ここまで説明された時、政権幹部の1人が「もしこの第3地球が標的だったら防ぎようがないのか」と質問した。
技術者は「その心配は全くない。AB2物質はそれ自体が不安定で、長くても製造後5年経てば通常物質に戻ってしまう。25光年も離れたこの星には全く無害だ」と答え、説明を続けた。

  1. 目的は巨大隕石や小惑星の衝突に備えての防衛と推測される。
  2. 実験の様子から既にAB2物質の適正化には成功したようだ。
  3. この活性爆弾の最も良いところは、天体を破壊するのにほとんどエネルギーを必要とせず、破壊するためのエネルギーはその天体自体の質量の一部を使う点である。

第4太陽系がめざすもの

 第4太陽系の第4月ではさらなる活性爆弾の開発が行われ、最適なAB2物質の開発に成功し、AB2物質の比率を変えるだけで変換速度と安定度を制御できるようになった。活性物質の安定度に応じた起爆方法も開発された。
 最終的に出来上がった活性爆弾による小天体の破壊方法は次のようである。

  1. 小天体を破壊するために必要なエネルギーを計算する。
  2. そのエネルギーに対応する質量を計算する。
  3. 破壊するまでの時間的余裕を計算し、時間内にその質量に達するための変換速度を計算する。
  4. 変換速度に対応した比率と起爆エネルギーを計算する。
  5. AB2物質と、起爆エネルギーに対応した起爆装置と、起爆タイマーを搭載したロケットをその天体に軟着陸させる。
  6. AB2物質を混合し、天体の表面に散布し起爆タイマーを入れる。
  7. 起爆タイマーが働き天体に生成された活性物質を爆発させる。

――宇宙大国を目指す。

 この技術を手に入れたことにより、巨大隕石や小惑星衝突の問題はなくなった。それどころか惑星にせよ恒星にせよ、どんな天体でも破壊できるようになった。
 惑星の衝突による問題が完全に解決でき、小惑星の衝突を恐れてこの小さな第4月にとどまる必要のなくなった住民は大いに喜び、上田政権は宇宙大国を目指す方針を掲げた。
住民投票により圧倒的多数で第4太陽系開発案が可決され、まずこの第4月の惑星である第4地球を開発する事になった。
隕石検出記憶記録システムの完成により小隕石の問題は解決されたので、既にシールドは取り払われていた。
月面と月面上空の宇宙基地とは月側宇宙エレベーターでつながり、宇宙基地には次々と地球側エレベーター基地建造用の資材が荷揚され、地球側宇宙エレベーターも完成した。    
第4月から第4地球の地上基地に大量の機材や開拓隊員用の大量の人体が運ばれた。月の移動基地から地上の移動基地に沢山の開拓隊員が体を乗り換え出勤し、基地を整備し地球の鉱山開発が急ピッチで行われた。鉱山から採掘された大量のカーボンや貴重物質から基地周辺には人体製造工場などの沢山の工場が建造された。

 上田政権は第4太陽系の開発を加速するため、本人の正式な人体のほかに作業用等の人体10体を同時に使用可能にする政策を掲げ、議会で承認され法案は可決された。
月の人口は80億人に上るとはいえ、第4太陽系開発、ひいては宇宙大国を目指すためには行わなければならないことは多い。地球の開発に大量の人材を投入する事は得策でなく、1人が10体の人体を同時に使用する事により地球の開発を加速するのが主な狙いだった。
 月の各家庭には移動室が設けられ、自宅から直接地球の職場に出勤できるようになった。すでに記憶統合のソフトは高い完成域に達し、月の自宅から1人の開拓隊員が地球の職場に10人となって出勤し、10人が帰宅する時1人の記憶に統合する事に大きな問題は無かった。
 このように地上には人体製造会社やその他の多数の製造会社が進出し、多くの開拓隊員や一般作業者が勤務し、第4太陽系開拓に向けての大量の人体や資材の本格的な製造が開始された。
地上の昼間の人口は100億人に達し、地上に定住する夜間人口も5億人に達し、人体や各種機材の製造が加速してきた。
第4月の宇宙開発省では次の開拓先として、第4地球の1つ内側の惑星と1つ外側の惑星、及びその衛星を選び、開発プランの作成に着手した。
1つ内側の惑星の大きさは地球と同程度で自転周期にも問題はなく宇宙エレベーターを使用する事が可能だが、外側の惑星は自転周期の問題で従来型の宇宙エレベーターを使用できない事が判明した。しかもその惑星は地球よりずっと大きく引力が強い。従来の原爆エンジンを大型化しても円盤型宇宙船の離発着は困難なことも判明した。
 担当官はこの惑星の開発はあきらめ、その惑星の衛星の開発に変更するように上層部に進言したが、上層部は宇宙大国を目指す上で、あえて困難に挑戦する事とし、従来型宇宙エレベーターも原爆エンジンによる離発着もできないこの惑星の開発を行うように担当官に命じた。
 
 活性爆弾はほとんど実用の域に達し、活性物質応用省は次の活用法を模索していた。エネルギー源としての質量電池もこれ以上の改良の必要性はなく、超画期的なこの技術の次の応用課題がなかなか見つからなかった。
 惑星開発の担当官が「原爆エンジンに替わるさらに強力なエンジンを活性化技術で開発できないか」と活性物質応用省を訪れた。活性物質応用省にとっても渡りに船の話である。早速関連技術者による大規模な検討会が開かれた。
議長の趣旨説明の後、次のような活発な議論が展開された。

小説一覧

© Ichigaya Hiroshi.com

Back to