MENU

Novel

小説

SFF人類の継続的繁栄 第2章『進むべきか、停まるべきか、それが問題だ』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

人類の命運をかけた大会議

 第5暦2500年、出航してから1000年が経過した。天の川銀河の端の過疎部に到達し、ほとんど何もない真空中を航行していた。それでも極まれに、微小な塵が傘に衝突した。傘の開度は0.5度まで絞られたが、光速に近い速度で衝突する。これ以上の衝突は、たとえ小さな塵であっても傘の耐久度に大きな不安がある。間もなく限界であることは明らかだった。
 この時代も大統領には江田氏が就任していた。100年前の記憶は消失するので、出航時の江田氏は現在の江田氏の10代前の先祖という見方もできる。
第3太陽系、第4太陽系の状況は知る由もないが、隊列を組み超高速で直線的に航行するこの10個の天体では人類は大いに繁栄している。人口は400億人、人体も2000億体に上っていた。
天体宇宙船関連、特に他の天体や宇宙のゴミとの衝突対策技術は大きく進展を続けていたが、このまま加速を続けてゆくとどうなるかわからない。銀河の先を目指すよりも400億の人命を守る事のほうが重要である。
そんな中で、今後の方針について政権幹部や関連技術者による大規模な会議が開催される事になった。400億の人類の命運をかけた大会議である。
この大会議を行うに当たり、政権幹部と関係官僚と上級技術者による準備委員会が開催され、会議の開催方法を議論した。

「このまま加速を継続するか否かの、人類史上最も重要な会議である。400億人の命運がかかっている」
「政治家や関連技術者は無論のこと、各天体からそれぞれの団体の代表者を招かなければならない」

 開催の方法について活発な議論が展開され、なかなか会議の開催方法が決まらないまま10日目に入った。
 あまり発言せずこの様子を見ていた1人の上級技術者が次のように発言した。

――会議の開催方法について決める会議でも、このようになかなか意見がまとまらない。まして大勢の関係者が集まる本会議では意見がまとまるはずがない。400億人の命運がかかっている問題に多くの人の意見を聞けば話がまとまるはずがない。特に各職種や団体の利権者が参加すれば絶対に話はまとまらない。極少数の関係者で決めるべきだ。全住民の意見を反映して決めるのが原則なら、関係者で決めてから2択にして住民投票で決めるべきだ。

この発言に全員が納得し、江田大統領と数人の政権幹部と関連技術者3人の合計10名だけで、今後の大方針を議論する事にした。

船団の行く末は

「この天体宇宙船計画は状況に応じ我々が判断する事になっている。無論、第4太陽系にアドバイスを求めようにも遠すぎて無理である」
「今後これ以上速度が増すと、特に微小天体の衝突の問題が深刻になる。無論傘の材料技術は大幅に進展したが、それだけでは無理であり、根本的な解決が必要だがその方法が見つからない」
「今のミサイル防衛システムでは、これ以上の加速は限界である。また、机上では巨大天体やブラックホールを迂回するための、全く新しい物理法則を発見したが、実際に使うのは危険すぎる。天体宇宙船が消滅する可能性のほうが高い」
「要するにこれ以上の加速は無理という事か」
「現在は天の川星雲の中の過疎部の、ほとんど何もない領域を航行中なのであまり問題ないが、加速をやめてこのままの速度で航行しても、やがては次の恒星群に接近する。減速する事が必要だ」
「減速するにはエンジンを天体の後方から前方に移動する方法しかないのか。もっと簡単な方法はないのか」
「運動エネルギーを物質に変換する全く新しい理論を発見したが、これも机上のもので、使うにはリスクが高すぎる」
「エンジンを移動し再設置するのではなく、自転を止めたときに使用した赤道上に設置したままになっている活性化エンジンを使用して、180度回転させれば良い。傘艦についてはエンジンの向きを180度変えれば良い」
「隊列の編成はどうする」
「エンジンを逆向きにても進行方向は変わらない。各天体宇宙船の間隔に若干の修正は必要だが、基本的には今のままで問題ない」
「減速するためには、加速に使用したのと同じ量のエネルギーが必要になるのか」
「ほぼ同一ポテンシャル上の移動なので、本質的にはエネルギーが回収できる。実際のやり方も考えた。ただしこれも机上の理論でリスクが大きく実験する余裕もない」
「今から減速し完全に停止させた場合、銀河系から離れた単独の恒星群に近い領域に位置する事になる。完全に停止させるか航行速度を遅くするかの選択が必要だ」
「完全に停止させた場合のメリットとデメリットを箇条書きで説明してくれ」

  1. 減速のためにエネルギーを大量に消費する。すなわち、天体はまた一回り小さくなる。
  2. 過疎領域にとどまるので、微小天体も含め、天体の衝突はほとんどない。
  3. 他の天体を手に入れる事はできず、エネルギーを消費するにつれ天体は小さくなる。無限に存在する事はできない。
  4. 減速に留めれば、やがては次の恒星群に接近し、天体との衝突の問題は発生するが、他の天体を獲得でき、エネルギー問題は解決する。

10名での検討により極短時間で結論に達し、次のように行なう事になった。

  1. 400億人の住人には「このまま加速すると次の恒星群の中を航行する事になり、間違いなく大き目の微小天体が傘艦を破壊し旗艦に衝突し、巨大エネルギーにより旗艦は粉砕する。早く減速しないと間に合わない」と、少し大げさに発表する。
  2. すぐに減速作業を開始する。完全に停止させるか減速に留めるかは減速中に検討する。
  3. まず全セルフエンジンを停止し、慣性航行に入る。
  4. 赤道上の自転を止めた時に使用した活性化エンジンを使用して、全ての天体を180度回転させる。傘艦については噴射方向が逆になるようにエンジンの向きを変える。
  5. 各天体宇宙船間の間隔を調整する。
  6. 全セルフエンジンを点火し減速を開始する。

減速開始

政府は400億人の住民に対し、減速する案を発表した。非常に重要な方針の大転換である。このまま航行するかこの大転換を行うのか2択の住民投票を行った。多くの住民は〔加速し続け銀河の先を目指す〕という方針自体に疑問を持っており、高速航行に対する恐怖心もあり、大転換することがすんなりと決まった。
宇宙船の加速事業に携わっている業者も、仕事が減る事はなく減速作業という実質的に同じ仕事に換わるだけなので、特段の不満をいう業者もいなかった。
 減速作業に伴う色々な工事が発生するので、インフラ関係の事業者は大歓迎だった。
唯一不満を持つものは〔銀河の先を目指すという理念で行った天体宇宙船構想〕に反する、と訴える原理主義者だけだった。
 減速を行うための作業が始まり、20年かけて終了し、減速航行が開始した。

 減速を開始してから800年が経過した。
 停止させるか否かの〔停止検討プロジェクト〕が発足し、自由討論が始まった。

「停止させれば天体衝突のリスクがほとんどない領域にとどまれる。完全停止に賛成だ」
「完全停止させた場合そこには何もない。エネルギーを消費する分天体が小さくなり、最終的にはなくなってしまう。我々の絶対的理念は人類の継続的繁栄だ」
「計算してみないとわからないが、エネルギー消費により天体の大きさが半分になるのは何十億年もかかるだろう。省エネをもっと行えばさらにその分長くなる」
「省エネに一番効果があるのは体を小さくする事だ」
「体を小さくするという方向で行うと、行き着く先はあの微小生物だ。第1世代、第2世代の人類に対し、知能や体の形を大きく変更する事は行ってはならない」
「それでは省エネする方法を考えてみよう」

こうして省エネについての議論が始まった。

小説一覧

© Ichigaya Hiroshi.com

Back to