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SFG人類の継続的繁栄 第3章『黒幕の誕生』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

スーパー人への移行計画

 スーパー人により、神がかった各種の装置が製造され、スーパー人用の脳が量産された。
人体に埋め込むための超小型質量電池も製造された。
 政権幹部、プロジェクトの主要メンバー、スーパー人との間で、人類のスーパー人への移行計画を検討した。先ず、安全性を確認するために全員同時には行わず、被験者を募り、経過観察を行って安全性を確認してから、本格的にスーパー人への移行作業を行うことにした。
 最も難しい点は、移行作業中の〔体の乗り換え〕の問題である。本人の人体と仕事先の人体の仕様が異なると出勤すらできない。また仕事先の人体と自分の人体をスーパー人仕様に変更した場合でも、他の施設の人体の改造が済んでなければ、その施設に行くことはできない。従ってスーパー人へ早く移行した人のほうが必ずしも有利というわけではない。また家族間の問題や職場内での問題もある。職場で上司が部下より先にスーパー人になるのは問題である。その逆もさらに問題である。同僚との問題も深刻である。当然の事ながらスーパー人のほうが圧倒的に仕事ができる。出世競争に大きな差が生じてしまう。移行期のこの問題を解決しなければ社会が大混乱に陥る。
 神田氏は、大統領や政権幹部にこう訴えた。

「この問題は非常に難しい問題です。この問題の解決方法の策定は我々だけに任せてほしい。申し訳ないが、圧倒的に知能に差がある普通人が加わると、話がややこしくなり、なかなか前に進めない。我々だけなら『社会の混乱を生じる事なく進める最良の方法』を策定する事ができます」

プロジェクトからは反対意見が多く出されたが、大統領の決断で解決方法の策定はスーパー人に一任することになった。
 スーパー人が集まり、この問題の解決方法を検討した。頭が良いので簡単に解決方法が見つかった。時間がかかるのは250億体の脳の手術作業である。脳を手術しても、実質的に普通人と同じ能力になるように、基本ソフトに使用制限ソフトを追加すれば良い。第3太陽系の全の人体に脳の交換とソフトのインストール手術が終了した時点で、第3太陽系の隅々まで一斉に使用制限ソフトを除去するための特殊コード化した電波を発信すれば、全員が瞬間的にスーパー人に変身する。
 このように、何ら混乱なく一斉にスーパー人へ移行する問題の解決方法は決まったが、厄介なのは被験者の問題である。その中でも特に問題なのは、スーパー人となった被験者が普通人を見下す問題である。被験者が普通人を見下したり支配欲が表面化したら、スーパー人が普通人である大統領や政権幹部を見下したり支配欲がある事が発覚してしまう。
 頭の良いスーパー人は、この問題の解決方法もすぐに見つけた。これも特殊電波方式である。これは試験者がスーパー人に移行した後も、使用制限ソフトを除去するための特殊電波を受信するまでは支配欲が生じないようにするだけで良い。
政府に提案する移行手順計画書は次のように作成した。

  1. 被験者を1000人募集し、スーパー人への移行手術を行い、1ヶ月間経過観察する。
  2. 大きな問題が無ければ被験者を1万人に増やし、2ヶ月間経過観察する。
  3. 被験者を10万人に増やし、1年間経過観察する。
  4. 4年かけて全人体に使用制限プログラムの入った手術を行う。
  5. 全人体の手術が終了したら特殊コード化した電波を第3太陽系の隅々まで発信する。

これにより使用制限プログラムが除去され、先に移行した試験者を除く、全ての人体が一斉にスーパー人用の人体に移行する。

スーパー人への移行計画

移行計画書はプロジェクトを通して政府に報告された。スーパー人を信頼している阿部政権は、この完璧な計画に感心し、計画を承認した。
 先ず1000人の被験者を募集した。被験者に手術が施され、被験者たちは全員スーパー人になった。被験者の多くは就労していた。そのため被験者が仕事先で使用する人体にも同時に手術が施された。被験者の仕事先での評判は上々だった。
民間会社の事務職についている被験者も大勢いた。同僚に対し圧倒的な能力の差を示したが、「手術すれば誰でもが持つ当たり前の能力だ」と言い、周りを見下す被験者はいなかった。被験者の中には芸術家もいて、次々と圧倒的な作品を制作したが、発表は控えめだった。
 本人には無論、家族や職場に対してもプロジェクトによる聞き取り調査が行われ、調査結果は上々だった。被験者自身も手術後の能力に十分満足し、早く全員に手術を施すべきだ、と触れ込むのがよく見る光景となった。
 1ヵ月後1万人の被験者に手術が行われ、この結果も上々だった。これらの結果がプロジェクトによりまとめられ、政府に報告される。
阿部大統領と政権幹部、プロジェクトの主要メンバー、神田氏とスーパー人の代表10名、被験者の代表20名をメンバーとした〔移行推進会議〕が開催された。
 計画が順調に推移している事、何らトラブルが発生していない事、被験者本人も周りの人の評判も非常に良い事、10万人の被験者の募集には募集前から応募者が殺到している事、スーパー人となった被験者は普通人を馬鹿にする事はないが、あまりにも能力の格差があり、被験者を新たに10万人に増やし1年間経過観察すると、先にスーパー人となった被験者と後からスーパー人となる人との間に地位上の格差が大きくなる恐れがある事、などから、10万人の被験者の募集は中止して、前倒しで計画を進める方針を打ち出した。
 4年をかけて、この大事業が完了し、第5暦3550年頃には、第3太陽系全体に移行信号が発信された。第3太陽系の105億人全てがスーパー人に、250億体すべての人体がスーパー人仕様となった。また自らスーパー人を開発した1000名に対し、敬意を表しウルトラ人と称する事にした。
 スーパー人は、ウルトラ人と称する事を単に敬称だと思っていたが、実際にはウルトラ人の能力とスーパー人の能力とは大きな格差があり、格差を設けることがウルトラ人側の戦略だった。
 大統領からアドバイスを求められた時に神田氏が提案した〔人体に超小型質量電池を埋め込む〕案は当然採用され、脳の手術と同時に全人体に埋め込まれた。この超小型質量電池の埋め込みにもウルトラ人の戦略が隠されていた。この電池の制御部にはウルトラ人同士の通信機能が設けられており、スーパー人には全く気付かれずにウルトラ人同士で会話する事が可能なのだった。

それぞれの思惑

 スーパー人へ移行した事に対する数々の式典が行われた。ウルトラ人だけの祝賀会も行われた。1000人のウルトラ人が集まった祝賀会にスーパー人は何の疑念も抱かず、当然の式典と思っていた。
スーパー人側から見れば単なる祝賀会だが、ウルトラ人にとっては105億人のスーパー人や第4惑星の普通人を支配するための作戦会議である。

「これまでの戦略は見事に成功した。今後どのように全人類を支配するべきか。政権を握り、大統領も我々の中から選出するべきか。また我々の能力はスーパー人をはるかに凌ぐことを発表するべきか」
「いくら能力が高いとはいえ、人数が全く違う。我々はたった1000人だ。当面我々の正体は明かさず、政財界、その他の重要な団体の黒幕として、実質的に支配するほうが現実的だ」

このような秘密裏のやりとりから、黒幕方式を採る事になり、各自の分担を取り決めた。
 また最優先課題として人類の脳の、特にソフト面の改良の禁止を永久制度化する必要がある。何らかの理由で基本ソフトを変えられてしまってはウルトラ人もスーパー人も同じ能力になってしまうからである。 
 高知能検証プロジェクトへの対策は木村氏が担当する事になった。ウルトラ人の代表としてプロジェクトのメンバーに加わり、開発の経過を詳しく説明した。〔基本ソフトを少しでも変更するとあの微小生物のようになる恐れがある〕との恐怖を与えるための説明である。
 木村氏の巧妙な説明により、プロジェクトは政府に、現状の基本ソフトの変更禁止を法制化する事、を進言した。
 大統領の主席補佐官には神田氏が就任していた。プロジェクトのこの進言に対し、大統領は神田氏に、この進言に対する助言を求めた。神田氏は、プロジェクトの進言は全くその通りです、と言い補足説明した。政府は現状の基本ソフトの永久固定化を法制化した。
 スーパー人に移行に対する一連の式典が終了し、阿部大統領と首席補佐官の神田氏と政権幹部が、今後の政権の運営について議論した。

「第3太陽系の105億人全員がスーパー人に無事移行した。カーボン変成機に替わる物質変成機など、数々の画期的な装置も手に入れた。無論画期的な装置など今となっては我々にはいくらでも開発可能だ。今は第4太陽系の政府の下の自治政府の位置付けだが、スーパー人となった我々が、知能の低い連中の下に位置づけられているは不合理だ。第4太陽系との関係をどのように見直すべきか」
「第4太陽系には、我々がスーパー人に移行した事はまだ連絡していない。いたずらに刺激するだけなので隠しておいたほうが良いと思います」
「そのとおりだ。当面隠しておこう」
「我々から見て第4太陽系には大きな問題点が2つある。1つは双方の位置付けの問題。1つは活性化武装の問題である。活性化武装など、我々の知能を使えばすぐに追いつけるが」
「こちらで活性化武装すると、あちらを刺激するだけだ。それに活性化技術は危険だ。第4太陽系でA惑星の隣に巨大な水素の惑星が出現し、あやうく第4太陽系が消滅しかねない事態になったようだ」
「馬鹿どもが活性化技術を持っているのは非常に問題だ。いつまた何を起こすかわからない。だからと言って、一度手にしたものを放棄させる事は我々の知能をもっても難しい」
「知能といえば、第4太陽系にもすごい知能がある。我々に寄生していた75億の微小生物だ」
「位置付けの問題は実質的問題ではない。活性化技術と微小生物が問題だ」
「我々も活性化技術を使用している」
「宇宙船のエンジンに使用されている活性化エンジンですね」
「かつて5億人の普通人の援護のため、第4太陽系から活性爆弾も運ばれてきた。活性化エンジンや活性爆弾のメンテナンスのために、少しだが我々も活性化技術を研究している」
「まだ活性化技術の研究を行っているとは知らなかった。知能が高くなったので、今後急激に技術が進む。活性化技術の研究は中止するか、研究拠点を遠くの天体に移すべきだ」
「活性化技術は宇宙船のエンジンの点でも、衝突しそうな小惑星の軌道を変えるためにも必要だ。遠くの天体に研究拠点を移して、安全最優先で研究を加速するべきだ」
「我々の知能なら安全を十分確保して、色々な方面に役に立つ活性物質を作れるだろう。すぐに第4太陽系の技術に追いつき追い越せる。活性物質の研究は宇宙誕生の解明にもつながる本質的な研究だ」
「43億キロ程度離れたところに小型の惑星がある。あの惑星なら4時間で通勤できる。安全が確保できたら研究者が住居を移して研究に没頭する事もできる。成果も次々にあげられるだろう」
「第4太陽系の頭の悪い連中の事はしばらく忘れて、大幅に改良された頭脳を用いて、活性物質以外にも各分野の本質的な研究を行っていくのがいいだろう」
「活性物質以外の研究は、この第3地球の過疎半球側に設けた新しい技術拠点に集結しよう。過疎半球側ならいくらでも空き地がある。第4太陽系は宇宙大国を目指したが、我々は技術大国を目指すべきだ」 

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