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SFH人類の継続的繁栄 第1章『地球の別プロジェクト』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

小惑星の衝突対策

まだ、第2世代人類が地球に暮らしていた頃、小惑星衝突前に地球にとあるプロジェクトがあった。        
 秘密裏に宇宙船開発の大規模な施設が地下に建造され、1万人が従事していた。無論このプロジェクトは国際政府のプロジェクトだが、国際政府の中でも一部の高官にしか知らされてなかった。
 
 200年後に小惑星がこの秘密施設の反対側の領域に衝突する情報が持たされた。この大問題に対し、プロジェクトの長と関係者がこの施設に集まり対策会議を開いた。

「200年後に小惑星がこの施設と反対側の領域に衝突する事が確実になった。衝突の規模は恐竜の絶滅を招いた時より大きく、衝突の際の灰により地球全体から100年以上太陽光が遮られ、ほとんどの動植物が絶滅するという事である。対策はなく、人類の終焉に向けて各種の国際プロジェクトが発足するようだ。この地域へは、震度5から6程度の衝撃が伝わるだけで、直接のダメージはあまり大きくないらしい。国際政府はパニック状態で、このプロジェクトの処理は全て私に任された。私はここを頑丈なシェルターにしてこの施設の従事者を救えないか、人類の絶滅を回避できないかと考えている。予算はいくらでも使える。何か良いアイデアはないか」
「その程度の衝撃なら簡単な工事でシェルターに改造でき、ここに従事する人がしばらく生活できる基地にするのは可能だろう。そのためには大型のカーボン変成機や大量の質量電池など、各種設備が必要だ。無論大量の食料や水やその他の生活必需品の備蓄も必要だ」
「大量の食料などを備蓄しても、1万人が世代を重ねて暮らし続けるのには限界がある。地上で植物を栽培したり家畜を飼育できるようになるまで持つだろうか」
「その議論は後回しにして、当面は基地の建造と資材や機材や食料などを大量に確保する事に集中しよう」

 従事者の家族も加わり1万5千人が基地で暮らすことになった。大型のカーボン変成機が数台持ち込まれ、基地の補強・拡大工事が始まった。
 質量電池10個、人型ロボット500台も運び込まれ、国際政府の機密倉庫に保管されていたスキャナー・プレート装置も運び込まれた。
広大な基地内では質量電池を用いた人口太陽光による植物の水耕栽培も始まり、家畜も飼育された。空気や水の浄化装置も完成し、衝突の前日を迎えた。

人類の蛹

――世界中で記憶を宇宙に向け発信するための発電機が轟音を轟かせた。

基地の扉を閉ざし、衝突の日を迎えた。小惑星が衝突し、衝突による衝撃波はこの基地にも到達したが、基地内のダメージは小さく、これまでの生活と同様な生活が続いた。しかし基地内の住民を除く人類のほとんどが死に絶えたのは確かである。
 荒廃した地表の奥深くにあったシェルター基地内では、今後の対策についての会議が開催された。

「ついにその日が来てしまった。ほとんどの人は衝突前に薬物により自殺しただろう。一部の人は小さなシェルター内で生き残っているだろうが、我々以外の生存者が死に絶えるのは時間の問題だ。我々は十分に食料を備蓄している」 
「それでも150年が限界だ。水耕栽培や家畜の飼育もそれほど時間稼ぎにならない。このままでは地上で生活できる500年後までは到底持たない」
「いずれにせよ、現在の1万5千人の住民の寿命は100歳前後なので、今ここにいる人は100年後には誰も生きていない。何代か後の世代が問題だ。人口を減らし続けて生き延びるしかないのでは」
「あまり人口が減っては絶滅につながる。脳細胞も含めて体を小さくすれば食料も少なくて済む。次の世代は体を大幅に小さくしよう。そうすれば食料は長持ちする」
「人型ロボットが500体ある。手や足をロボットにすれば食料はもっと少なくて済む。手足を動かす電力は豊富にある」
「成人してから手や足を切断し、ロボットの手足に置き換えるのは残酷すぎる」
「ここには人体を丸ごとコピーできるプレート・スキャナー装置がある。誰かを3Dスキャンし、データを加工して、手足のみロボットの手足にすれば良い。データ加工技術でどうにでもなる」
「手足だけでは中途半端だ。どこまで機械に置き換えると人間として問題なのか」
「少なくても目や耳は機械に置き換えても全く問題ない。脳以外は機械に置き換えても問題ないだろう。脳から出る神経を途中から導電体に変換し、ロボットの制御装置と接続するのは可能だろう。問題は脳に血液を送るシステムだ」
「酸素と糖分を豊富に含む新鮮な血液を動脈により脳に送り、静脈から戻ってきた静脈血を浄化する、心臓と肺の役割を兼ねた浄化臓器が必要だ」
「心臓のように脈動により血液を送るのは不合理だ。リニアポンプで連続して動脈に送り出す方が合理的だ。戻ってきた劣化した静脈血から元の新鮮な血液に戻すのは電気エネルギーだけで行えるだろう」
「すると動脈管と静脈管と呼ぶより養液管と帰液管と呼ぶほうがふさわしい。動脈血を養液、静脈血を帰液と呼ぶことにしよう」

ここまで出された人の仕様をまとめると、以下のようになる。 

  1. 動脈血を養液、静脈血を帰液とする。 動脈管を養液管、静脈管を帰液管とする。
  2. 基本的には脳はそのままで、神経をロボットの制御回路に接続できるように工夫する。具体的には従来のロボットの制御回路基板に、脳と体の各部を結ぶ神経の信号を処理するインターフェースを付加する。
  3. 多数の神経電極と養液管と帰液管の2本のチューブによりロボットと脳とをつなぐ。
  4. ロボットには浄化臓器を設ける。浄化臓器には帰液を養液に浄化する浄化器と養液を養液管に連続して送り込むためのリニアポンプを配す。 
  5. 浄化器は、帰液に多く含まれる二酸化炭素などを電気で処理し、酸素と糖分を多く含んだ養液に浄化する。
  6. 浄化臓器に与えた電気エネルギーが脳細胞を活動させる閉鎖システムにする。脳に養液という形で与えられるエネルギーは、脳細胞を作動させ最終的には熱エネルギーとして放散する。

「電気エネルギーだけで帰液を溶液に浄化できるか否かが最大の鍵だ。また脳をそのままロボットの頭部に入れることはできない。頭蓋骨が必要だ。頭蓋骨の底部にチューブの接続部や神経電極を設けなければならない」
「脳を収納する器という意味で頭蓋骨の代わりに脳器と呼ぶ事にしよう。目や耳などはロボットに組み込み、ロボットの頭部はファスナーで開閉できるようにして、脳器を頭部にはめ込む構造だ。脳器をはめ込むと、多数の電極を納めた端子と養液管と帰液管が接続し、脳器を簡単に取り外せる構造になる。これならば、色々な機能のロボット、すなわち人体を使用できる」
「人間の本体である脳から見れば、人体を自由に交換できることになるが、人体側から見れば脳器を自由に交換できることになる。脳器を交換する時に床に落としてしまえば脳がダメージを受ける。落下対策が必要だ。強い衝撃に耐えられる脳構造が必要だ」
「養液管と帰液管を細部の管まで剛体にして、剛体の管で脳を支えるようにすれば良いのではないか。三次元スキャナーで脳のデータを取り込み、血管を剛体にデータ変換し、分子合成プレートを用いた3次元コピー装置により、剛体の血管により脳細胞が支えられた構造の脳を作る事は可能だ。」
「脳器の外側を弾性体で作ればもっと強くなる。床への落下どころか10mの落下に耐えられる脳も作れるだろう。但し外側を弾性体にする場合、弾性体に厚みが必要だ。その分脳を小さくしなければならない」
「脳の寿命はどうするのだ。我々の脳を基に作れば200年ぐらいしか持たないだろう」
「スキャナー・プレート技術はあくまでもコピーが主体の技術で、脳細胞の経時劣化を防止することも脳細胞を小さくすることもできない。しかし第2世代の新誕生システムのように遺伝子に手を加えれば脳細胞の劣化を防ぐことが可能だ。どの遺伝子をどのようにすれば良いか、膨大なデータから検索すればすぐにわかる」
「第2世代の誕生システムを応用し、劣化しない脳と、脳全体を小さくした子供を誕生させ、成長してから脳を3次元スキャンして、脳を分子レベルでコンピュータに取り込み、コンピュータで血管を剛体にデータ変換し、脳器に収納した3次元データを作成し、スキャナー・プレート技術で小さくて丈夫で劣化しない脳を脳器ごと作るという事か。誕生させる子供の脳以外の仕様はどうするのだ」
「脳以外は従来通りで、心臓の寿命も100歳のままにしよう」

 遺伝子操作により脳に各種の改良が加えられた子供が1000人誕生した。8年で大人になるような遺伝子操作も加えられていた。

新たな人類の羽化

 ロボットを人体として使えるように各種の改造が施された。電力だけで帰液を養液に浄化できる浄化器、また脳器を人体から外し脳器を保存する為の浄化装置も同時に開発された。
 誕生した1000人は順調に成長し、8年で大人になった。1000人の中から特に優れた頭脳をもつ100人が選ばれ、その中から最初に佐藤氏が選ばれた。
佐藤氏の脳のデータを3次元スキャン装置により取得し、専用コンピュータにより血管を剛体にデータ変換されると、首側端部付近の神経が連続的に神経から電導体にデータ変換され、頭蓋骨の替わりに脳器データに置き換えられた。
変換されたデータを基にして、プレート技術により中に脳が収納された脳器が製造されると、製造後すばやく養液管に養液が注入され、一旦浄化装置に載せられた。脳のないロボットの人体が自ら頭のファスナーを開き、浄化装置に載せてある脳器を両手でつかみ、頭部に脳器をセットした。
コピー元の佐藤氏と脳細胞以外はロボットの、全く同じ記憶と知能を持つ2人の佐藤氏が対面した。
 顔と声は別人に仕上げられ、体格も新佐藤氏のほうが大きく、外観上は全くの別人だが二人の過去の記憶は共通している。
しばらくこれまでの経緯など共通に認識していることを不思議そうに話始めたが、すぐに2人は別人である事を認識し始めた。
2人に与えられた業務内容は全く異なり、環境も異なるため、日が経つにつれ別人として互いを無理なく受け入れ、周りの人から見ても違和感はなかった。
 残りの99人に対しても同様に行われ、ロボットの人体をもつ100人が誕生した。100組のペアに対し能力の比較検査が行われ、知能や知識は全く同じだった。身体能力については使用する人体により異なるので比較の意味が無かった。

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