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SFH人類の継続的繁栄 第4章『第5地球の健康診断』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

多様性問題の解決策

 新たに人の脳を生産できる見込みが立ったので、今後の方針について協議した。

「とりあえず10万人分の材料は確保できた。現在の鉱山だけでもまだ十分に採掘可能である。100万人分の材料確保は時間の問題だ。問題は誰の脳を基にコピーするかだ。1人の脳から全部をコピーすると、みな同じ能力になってしまう。みな同じ能力だと社会の発展は望めない」
「我々200人も元々は100人の脳を使用したものだ。同じ脳をコピーしても時間が経つにつれ少しずつ変化するだろうが、基本的な大きな変化は起こらない。文系の脳が理系の脳に変化することはないだろし、勉強が得意な人が創造力を持つ事もないだろう。脳の基本配線を変えなければ能力の多様性は期待できない」
「脳の配線と各種能力についての文献は少ない。第2世代の人類には実質脳の研究は禁止されていた」
「多様性は絶対に必要だ。全く同じ能力なら何億人いてもあまり意味がない。体脳だけで勤勉に働く人体とあまりかわりない」
「我々200人の能力にもそれなりに多様性がある。我々全員の脳を3次元スキャンして、脳構造と能力について調べてみよう。能力に多様性を持たせるヒントになるかも知れない」
「しかしながら、調べるにしても地球から運んできたコンピュータでは無理だろう。もっと高度なコンピュータが必要になる。それに高性能コンピュータは他の面でも有用性が高い。人を作るより先にコンピュータを作ることを優先したほうがいい。半導体製造装置は地球から運んできてある。メモリーチップやCPUチップはいくらでも製造する事ができる」
「いいアイデアだ。ただ、どうせ作るのなら階層型コンピュータが良い」
「すまん、階層型コンピュータとはどの様なものだ。それを用いて脳構造と能力の関係をどのように調べるのだ?」

 問われた研究者は、階層型コンピュータの説明を始める。
階層型コンピュータは、最上層は知的部分で、目的に応じた最適な調査・分析方法を編み出し、中間層に命令する階層となる。今回の研究ならば200人の脳構造と200人の能力表から能力と脳構造の関係を調べるように入力し、その指示を中間層に行うこととなる。
命令を受けた中間層は処理用の具体的な手順をつくり最下層に命令する。
最下層は高速な大容量の計算部で、200人の脳構造の詳細なデータが記録されており、構造上の差を見つけだし、今度はこれを中間層に報告する。報告を受けた中間層には200人の能力表があり、能力表と最下層から報告された脳構造の差異とを照らし合わせて整理し、最上層に報告する。
最上層は中間層からの報告資料から脳構造と能力に明らかな因果関係がある部分を探し出し分析し、分析結果が明瞭でなかったらその原因を解析し、調査・分析方法を改良し、中間層に新たな分析方法を命令する。

「このように明確な結果が出るまで繰り返し、脳構造と能力との関係の最終結果を導き出すものだ」
「階層型コンピュータとは大会社の組織のようなものだな。最上層に入力する人を株主に置き換えると、株主は最上層にあたる経営層に大きな利益を出し多く配当するように命じる。少数の経営層は大きな利益を出す方法を編み出し、中間層にあたる中間管理職にその方法を行うように命令する。中間管理職は具体的な方法を考え出し最下層にあたる一般社員に命じる。大量の一般社員は中間管理職の命令に従い実務を忠実にこなす、ということだな。それならば3層よりも5層のほうが良いのでは」
「無論、層を多くすれば性能がよくなる。会社組織と大きく異なる点は、会社では経営方針を間違えると倒産しかねないが、階層型コンピュータではやり方に変更を加えながら最良の分析結果が出るまでいくらでも繰り返すことができる。いくら繰り返しても倒産する事はない。何よりも上層の命令を下層が忠実に実行する」
「いくら繰り返しても良い結果が出ない場合もあるのでは」
「無論そのような場合もある。入力内容に矛盾があるか、或いは解がないもので、その場合にはコンピュータがその理由を表示する」 

 このような議論の結果、強力な能力を持つ5層の階層型コンピュータを製造する事になり、半導体製造装置をフル稼働し大量の半導体チップを製造し、3年で完成させた。

 200人の脳のスキャンデータと能力表を入力して、解析演算が行われた。
1時間後に脳構造と各種能力との明確な関係が画面に表示された。更に200人の持つ能力以外の能力についての脳構造も参考データとして表示された。
脳構造と各種能力との関係は単純なものだった。このような関係なら1人の特徴の少ない人の脳を基にして、色々な能力を持つ多種類の脳にデータ変換する事は容易である。
どの様な能力を持つ人を、どの様な割合で構成すれば、安定且つ活発な社会が実現できるかについての議論に入った。結局この問題も階層型コンピュータにより解くことにした。
 各種能力を持つ脳の作り方、どの様な能力を持つ人をどの様な割合で構成すれば安定、且つ活発な社会が実現できるかがわかり、今後誕生させる人の人体の有り方についても見直すことになった。

人体仕様の見直し

 次に五感について見直してみた。
現状の感覚器官は視覚、聴覚、触覚であり、触覚は点状センサーと分布センサーからなる最も重要な感覚器官である。体の状況を確認したり、人体に損傷を生じた場合に痛みを発生させたり、性行為を行うときの快感にも必要である。
視覚については高性能カメラを用い、視神経との間にインターフェースを用いている。基本的には従来の人間と同様だが、解像度や望遠モードにできる点など、性能は大きく向上させる事ができる。
 この星には気体があるので聴覚の仕組みも音声の発生方法も基本的には従来の人間と同じだが、性能は大きく改良可能である。 嗅覚は元々呼吸しないので設けない。 味覚も食事をしないので設けない。 代わりに触覚を従来の人間以上に充実させ、喪失する嗅覚や味覚の分を十分に補えるようにする。
 痛覚については、人体に損傷が有ってもあまり問題がないので大幅に弱くすることにした。
 次に、見直しがされたのは脳を納める脳器についてだった。今後、仕事の内容によっては職場で人体を乗り換える事も十分にありえる。特にこの点に着目し、自分で別の人体に乗り換える場合について整理してみた。

  1. A氏が人体交換室に行き、使用したい装置としての人体のスイッチを動作開始モードの1にする。
  2. A氏が自分で後頭部のファスナーをあけ、脳器を取り外し浄化装置にセットした後、脳器が取り外された人体が、空になった頭部のファスナーを閉じ、人体待機室に行き、スイッチをスリープモードの4にする。
  3. 動作開始モードを1にされた人体が動き出し、後頭部のファスナーを開け、自らスイッチを脳器取り付けモードの2に切り替える。
  4. その人体が浄化装置からA氏の脳器を取り外し自体の頭に入れ、ファスナーを閉じスイッチを生活モードの3にする。これにより作業用の人体に乗り換えたA氏が人体交換室に現れ職場に行く。

次に人体を乗り換えるときの問題点について整理された。
 人体を乗り換えたときの顔や声がA氏と異なると職場で混乱が生じる。この対策として脳器の底の空いたスペースにA氏の個人情報を記録したチップを入れ、A氏の脳器を入れた人体の顔と声が自動的にA氏のそれになるように工夫する必要がある。
 また人体は男女別に製造する。間違えて使用しないように脳器の底部構造と人体の脳器をはめ込む部分の構造を工夫し、男性の人体には男性の脳器、女性の人体には女性の脳器しかはめ込めないようにする。
 また、体を乗り換えるとき、たとえば、たまたま大きな地震が発生し、脳器のはめ込みに失敗する事も考えられる。脳器のはめ込みに失敗し、脳器がそのまま放置されると、帰液が浄化されずに酸素不足になり死を招くので、脳器が一定時間放置されても酸素不足にならないような根本的な対策が必要だということが判明した。

 次に自宅での過ごし方や自宅から通勤までの様子を想定してみた。 自宅では、当然自分専用の人体を使用する事になる。
自宅で就寝するときの様子について関係者で議論した。

「寝るときは体ごと寝るのか。それとも脳器だけで寝るのか」
「それは場合によって異なるだろう。カップルが性行為をしながら寝るときは当然体ごと寝る事になるだろうし、熟睡したい場合には、我々が宇宙船で冬眠していたように、専用の睡眠用浄化装置を使うほうが良いのは決まっている」
「宇宙船では浄化装置に電脳を取り付けたが、脳器には顔や声などの個人情報を記録するためのチップを取り付けるように決まった。そのチップを脳につながる神経電極と接続し、電脳として使用したほうが良いのではないか。体脳から直接脳の神経につながるのではなく、電脳を経由してつながるようにしておけば、後で色々と応用できるだろう。電脳で快適な睡眠状態に制御するだけではなく、仕事中も脳に適切な信号を送れば、仕事の能率が上がるだろう」
「会社に出勤する場合はどの様な状態で出勤するのだろうか。会社で仕事専用の人体に乗り換えるのなら、脳器だけで職場に出勤すれば良いことになる。脳器専用の冷蔵コンテナ宅急便で配達し、配送先で指定された人体に脳器を届けるようにするようなシステムが合理的に思える」

このように、各観点から検討した結果、新たに誕生させる人の仕様等が決められていった。

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