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SFI 人類の継続的繁栄 第13章『一家6人制度の幕を開け』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

一家6人4体制度の議論

「家庭の男女カップルを中心とした2つの電子脳と職場の2つの人体の、最良の組み合わせが決まった。常に3つの脳が一体化し1つの体を使う点は現状と同じで、一家が6人家族という見方も現状と同じと見なせる。だが、脳については男女が入り乱れている。しかもTPOに応じて最適な組み合わせを6人で決めるということなのか」
「複雑なので1つずつ順番に書き出してみよう」

  1. 6人で家族を構成する、一家6人家族という概念を導入する。
  2. 一家の核となるものは元々の家で使用する人体の副脳である男女カップルであり、そこに人体を持たない電子脳が2人、職場で使用する人体を持つ副脳2人が加わる。従って職業はその職業に自動的に決まる。
  3. 常に人体を使用している2人が存在し、2人の脳はそれぞれ2つの副脳と1つの電子脳からなる。
  4. 核となる男女カップル以外は、性別に関係なく階層型コンピュータが選ぶ。
  5. 6人の都合により2人を構成する脳6人をTPOに応じ家族内で交換して良いが、3つの脳を一体化するためのソフトは体を持たない電子脳にあり、必ず電子脳1人と体を持つ副脳2人が一体化する。
  6. 出張等で副脳のない装置としての人体を使用する場合には、従来通り一体化した3つの脳が出張先の装置としての人体を瞬時通信でつなぎ使用する。

「TPOに応じて家族内で脳を交換するという事は、具体的な例を挙げるとどういうことになるのだ」
「優秀で口下手な技術者が自分の研究結果をプレゼンテーションする場合で説明する。職場の人体は換える事はできないが、口下手な副脳の代わりに、あとの2つの脳、電子脳と家庭で待機している人体の副脳が表に出ることができる。場合によっては家族内の別の3つの脳のどれかが表に出ることができる。雄弁な脳と交代すれば、うまくプレゼンテーションする事ができる。別の例ならば、たとえば社内旅行で、その会社に勤務している人が旅行先に興味がなく、家族の別の人が旅行先に興味がある場合、興味がある脳と興味がない脳とが交代すれば良い。このように6人の家族が協力すれば色々な事ができる」

会議の途中で階層型コンピュータが選んだ25億家族の6人の男女構成表が配布された。そこには次のように男女の組み合わせ比率が記述されていた。

  1. 男性1人、女性5人:5%
  2. 男性2人、女性4人:20%
  3. 男性3人、女性3人:50%
  4. 男性4人、女性2人:20%
  5. 男性5人、女性1人:5%

「今までの家庭の男女カップルを核とした6人の家族制度はそれなりの制度のようだが、新制度はどのように実行するのだ。国民投票も必要になる。政府から詳しい内容が説明されれば国民の多くは賛成票を投じるだろう。しかし実行するとなると話しは別だ。核になるカップル以外はみな別れて別の家族を構成する事になる。今の制度が始まったのは10年前だ。10年間、一体化していた人が3人に分離する時の問題はないか。いくら6人家族制度が良いとわかっていても、10年間同一だった人間が3人に分離することには大きな抵抗があるだろう。少なくても私には抵抗がある」
「私にも抵抗がある。プロジェクトのメンバーの大半も抵抗があるだろう。しかしこのプロジェクトの今のミッションは、抵抗なく6人家族制度に移行するシステムを考え構築することだ。何の手立てを打たないまま実行する事はありえない」
「6人家族制度に移行してしまえばその後は全く問題ない。なにしろあの超高性能の階層型コンピュータがはじき出した組み合わせだ。あのコンピュータの能力と我々の頭脳の能力とを知能指数という点で単純比較すれば、山ほど桁が違う。最初の手立てだけが問題だ」
「オーソドックスなやり方だが、全ての脳に抵抗感が薄れるようなソフトを組み込めば良いのではないか」 

実行方法の議論

 プロジェクトにより詳細な報告書が作成され、人体製造省と大統領に報告された。政府内での審議の結果、国民投票を経て実行する事を決定した。政府は国民に対し詳細に内容を説明し、国民からの質問に対し丁寧に応じた。国民投票が行われ、圧倒的多数の支持を得て、実行に移されることになった。 
 実行方法について再びプロジェクトで議論した。

「6人家族制度を正式に実行する事になった。抵抗感の少なくなるソフトの開発状況はどうなっている」
「今は鎮静剤のようなソフトを考えている。分離する時の抵抗感を少なくするソフトだけを作っても、その後の新しい6人家族になることにも抵抗感があるはずだ。それには鎮静剤ソフトがふさわしい。しかし単純な鎮静剤では頭がボーとしてしまう。全員の頭がボーとしてしまってはこのミッションを成功させることができない。ボーとしていてもミッションを遂行できるような工夫が必要だが、その工夫がなかなかわからない」
「簡単な話だ。ミッションに関わる人だけは鎮静剤を使用しなければ良い、このプロジェクトのメンバーには鎮静剤を使用しなければ良いだけだろう」
「いやいや、実行には何万人もの協力者が必要だ。それに我々の多くも抵抗感と不安があり、鎮静剤がないとミッションに参加できない」
「それではまた、階層型コンピュータの力を借りて解決方法を見つけてもらえば良いのではないか」
「確かに階層型コンピュータの知能は我々の知能と山ほど桁が違う。しかし具体的に指示をしないとあのコンピュータでも考えようがない。具体的な指示は我々が行わなくてはならない」
「あのコンピュータは今までの3人が一体化した50億人のデータと新しい6人で構成される25億家族の情報を持っている。その情報を精査して、10年間一緒だった2人と分離しても、新しい家族に移っても全く問題ないような人を1万人探してもらえば良い」
「そのほかに1万人を束ねるリーダーを選ぶ事も、ミッションの足を引っ張るような人を排除する事も条件に加える必要がある」
「まだまだ条件があるが、あのコンピュータには細かい指示は必要ない。ミッションの内容と、鎮静剤を使用しなくても良い人を探し、そのミッションが成功するため必要な人材を1万人見つけるように、またミッションを最小のリスクで成功させるための組織図を作るように指示するだけで良い。あのコンピュータは知能が高いだけでなく、それなりの知恵も持ち合わせている」
 
 ミッションの目的と、鎮静剤を使用しなくてもミッションを遂行できる人1万人の人選と、組織図をつくるようにコンピュータの最上層に指示した。数時間後に1万人の人選と組織図が出力され、備考欄に「隕石の落下等で混乱する事態に備えて、ミッションを遂行するための人材を2万人に増員する事を推奨する」とのコメントがあり、2万人の人選と組織図も出力された。
 コンピュータが推奨した2万人案を採用する事になり、この大事業を進めるための手順を次のように決めた。

  1. 実行計画書をまとめ政府の承認をとる。
  2. 国民に実行計画を公開する。
  3. コンピュータが選んだ2万人を、政府職員として臨時採用する。
  4. 組織図に沿って2万人の役割を決め訓練する。
  5. 瞬時インターネットを利用し、2万人を除く全国民の脳に鎮静剤ソフトを書き込む。
  6. これ以降は2万人が全てを実行する。
  7. 階層型コンピュータにより、2万人を除く全ての人を一体化から解き、25億の家庭にある男女それぞれ25億体の副脳に割り当てられた電子脳を瞬時通信で結び一体化させ、新たな3つの脳からなる50億人を作り、25億家族に編成する。
  8. 鎮静剤の効果は徐々に弱まり、仕事に従事できるようになる。
  9. 最後に2万人が解散し、6万人の脳が新しい家族に加わる。 

ほぼ完璧な手順である。しかし小さな矛盾点が見つかりプロジェクトで議論した。

「顔や声についての議論がなかった。3つの脳が一体化した時の人体の顔や声はどのようにする。家庭で、2人で過ごす時の顔はもともとの家庭で使用していた人体の顔で良いが、職場で使う人体の顔や、出張時に出張先で使用する人体の顔はどうするのか」
「今まで職場で使っていた顔が変わると、誰が誰だかわからなくなってしまう。職場で使用する顔は元の顔のままにしよう。出張など仕事関係で使う人体も仕事場の顔にしよう。家庭で使う顔と職場で使う顔が別でもまったく問題ない。かえって仕事を家庭に持ち込まなくなり、家庭が円満になる。仕事以外で使うときの顔は、内容に応じて家庭の顔か職場の顔か、その場面に応じて決めれば良い。例えばスポーツジムに行く場合、ジムが会社に近ければ職場の顔を使い、ジムが自宅に近い場合は家庭の顔を使えば良い。無論自宅の近くで使う顔も、都合が悪ければ職場の顔を使えば良い」
「3つの脳が一体化している時の顔は職場の顔を使うか家庭の顔を使うか、ケースバイケースで使い分ければ問題ない事はわかったが、一体化から分離し、3人になるときの顔はどうするのか」  
「3人に分離するのはどの様な場合なのか。副脳は人体を持っているから問題ないが、電子脳は人体を持っていないので分離したら体がない」
「例えば休日に3人に分離してレジャーランドで楽しむ時だ。レジャーランドではそれぞれにレジャーランドに備えてある3つの人体を使用する。そのときに使用する顔は、家庭の人体の副脳は家庭での顔にして、職場の人体の副脳は職場の顔を使い、電子脳の使う顔は昔の顔か好みの顔を使えば良い」
「レジャーランドに遊びに行くのに、そもそも3人に分離する必要があるのか? 3人に分離すれば3人分の入場料が必要だ」
「我々は1つの電子脳に2つの副脳が一体化していた。もともと副脳は電子脳を観察したり学習する事により自我に目覚めた。当然3つの脳の性格や能力は酷似している。そのことが問題なので3人の性格や能力がばらばらで相性の良い3人の組み合わせに変えることになった。それによりレジャーランドで興味を持つ遊びは別々になる。わざわざ遊びに行って、面白くない遊びに付き合うのでは意味がない」

一家6人制度の議論の結果が報告され、政府の最終的な承認を得て、手順に沿って進められた。この大事業は無事に完了し、一家6人制度の時代が幕を開けた。
階層型コンピュータが最良の組み合わせを選んだことによる効果は当然ながら非常によく、国民も政府も大満足である。
常時は3人の内の1人が表に出ていて、残りの2人は満足度を大きくして半分眠っている。家庭では家庭の人体の中にある副脳が主に表に出ている。職場では職場の人体の中にある副脳が主に表に出ている。その他の場所ではシェルターに保管されている電子脳が主に表に出ている。しかし職場でプレゼンテーションする時は説明上手なほかの脳と交代する。その時の状況に合わせて表に現れる脳が交代する。性交時の快楽は表に現れていない4つの脳も眠りから覚めて、6つの脳が快楽を味わう。家庭や職場以外の場所に移動するときには3つの脳が一体化したまま、移動先の装置としての脳のない人体を使用する。大きな問題が起こった場合は6つの脳が協力して解決し、必要に応じて6人に分離する事もできる。
1家族の6つの脳は男女混合で能力や性格も別々だが、超高性能の階層型コンピュータが150億の脳の中から最適な組み合わせを行った結果の6つの脳なので、いさかいなどの起こりようがない。このシステムは結果的に大成功となった。

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