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SFJ人類の継続的繁栄 第5章『石英星の内戦』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

仮想世界の反撃

 石英星の現実世界ではそれまで隕石の問題はあまり大きな問題でなかったが、裏半球側から採掘した鉱石を処理する唯一の工業地帯に急に隕石が落下し始めた。隕石防衛システムに異常が生じたのに間違いない。もともと隕石防御システムの状態を監視する通信機能は充実していなかったため、全く原因はつかめなかった。
彼らは知る由もなかったが、実際はバーチャル側により、原因がつかめないように巧妙に操作されていた。
 リアル政府は「通信機能が弱いため回復には時間がかかる」と判断し、工場地帯から作業員を撤退させ、換わりに通信装置を備えた体脳を持つ人体を送り込み、撤退した作業員の頭部にも一時的な通信機能を取り付けた。通信により人体を制御し作業を再開するためである。
これはバーチャル側の思惑通りだった。彼らの作戦、第一段階は見事に成功し、奪還作戦は次のフェイズに移行することになった。
バーチャル世界では一時的な通信機能を頭部に取り付けた作業員に、特殊な音を聞かせると、それがきっかけで作動するトリガー式の潜在データの植え込みに成功した。これによりリアル人1万人がバーチャル側の味方につく準備が整った。
 物体至上主義の人間とバーチャル世界の人間とでは、情報戦では勝負にならない。作戦 第2弾も成功を収めたプロジェクトは、第3弾の作戦について議論した。

「いつでも1万人を味方に引き入れる準備ができた。しかし当面は戦いを仕掛ける理由は何もない。第3弾は安全の確保だ。我々は記念館にある10センチ立方の空間だけに存在している。リアル政府に破壊される事は万一にもないだろうが、どの世界にも狂った人はいる。予測のできない事故が起こることもある。クラウド装置が記念館の1箇所だけだと我々の世界が消滅するリスクが大きい。複数個所に設けさせるべきだ。そのための良案はないか」
「多少のリスクを伴うが、記念館の近くに隕石を落下させるという方法もあるのではないだろうか。物体至上主義を最大の理念に掲げるリアル政府にとって、反面教師としてのバーチャルな我々は非常に貴重な存在だ。隕石による破壊のリスクを避けるため、あちこちにクラウド装置を設け多重化させるだろう」

 政府の承認の下、第3弾の計画が実行された。
この結果、現実世界では狙いどおりに10センチ立方のクラウド装置の複製が4つ作製されることになった。

手のひらの上で踊る現実

第3弾の作戦に成功したプロジェクトは、第4弾の作戦について議論した。

「4つ複製され全部で5つになった。我々が消滅する確率は大幅に低下した。今は四つとも政府の建物内に保管されている。そのうちに正式な場所に移されるだろうが移設先が問題だ。1箇所は政府の建物内、2箇所目は隕石の落下確率が最も小さな表半球側の中央部だろう。残りの2箇所は我々が決め、そこを移設先にさせるように工作しよう」
「2箇所の移設先は、隕石防衛システムが設置されている空域とあの洞窟内にしよう。この星の反対側の空域だと、万一戦争になった場合でも遠くにあるので時間が稼げる。洞窟内なら隕石の落下を制御して入り口をふさぐことができる。それをどのように仕向けるかが問題だ」
「通信とつながっている既に潜在データを植え付けた者なら動かせる。しかし彼らは精錬工場地帯にいる作業員だ。移設先に影響力のある者を動かす必要がある。しかし作業者の1万人以外は通信とつながっていない」
「通信により脳に直接データを植え付ける事だけが洗脳の手段ではない。映像を巧妙に細工すれば見ている人を洗脳できる。クラウド展示館とはたまたま通信がつながっている。隕石防衛システムを監視している所にも当然通信がつながっているはずだ。このシステム監視担当者と展示館の館長は移設先に対する意見が言える立場にある。この2人が見ている映像を細工して洗脳し、2人から移設場所を進言させるというのはどうだろうか」
「進言させる内容はどのような内容だ」
「隕石防衛システムが設置されている場所はシステムにより隕石から完全に守られている。洞窟の深部は相当に大きな隕石が落下しても破壊が及ばない。もともと隕石の落下からクラウド装置を守るのが目的だから、この2人がこの2箇所を設置場所に進言すれば反対する人はいないだろう。この2人が同じことを進言しても、だれも疑いを持たないだろう」

 第4弾の作戦も政府に承認され。2人が使用するモニターの画面には、本人も気付くことのできない、サブリミナル効果による洗脳を行うための極短時間の映像が大量に挿入された。洗脳に成功し、洗脳された2人により2箇所の移設先が進言され、作戦通りに設置された。
 第4弾の作戦に成功したプロジェクトは、第5弾の作戦について議論を始めた。

「作戦は見事に成功し、洞窟の地下深くにもクラウド装置が設置された。電源として大容量質量電池も設置された。洞窟に設置されたクラウド装置も電源も分厚い超強化ガラスで覆われている。たとえ洞窟が崩れても破壊する事はないだろう。洞窟に大型の隕石を落下させれば洞窟は完全に破壊するが、クラウド装置や質量電池はこわれる事はないだろう。事実上掘り出す事もできないので、万一リアル政府と戦争になっても安全が確保できる。無論隕石が大きすぎれば一帯が蒸発してしまう。隕石により洞窟を破壊しクラウド装置を地下深くに埋蔵するためには、緻密に計算してそれに合う隕石が飛来するのを気長に待つ必要がある」

 この計画も政府に承認され、実行に移す事になった。この計画はこれまでよりもじっくりと時間をかけて行われた。2年ほどの間、彼らは辛抱強く、適合する大きさの隕石が飛来するのを待った。
結果、目論見通り洞窟は破壊され、超強化ガラスに覆われたクラウド装置は掘り出すことが出来ない地下深くに埋蔵された。

現実(リアル)は厳しい

 リアル政府が何も知らない間にバーチャル政府は着々と手を打ってきた。政府の職員3人をサブリミナル効果により洗脳し、リアル政府との交渉役にした。
 バーチャル政府の担当官から3人に今後の基本方針が伝えられ、3人の意見も加味しリアル政府との交渉方針が決まった。
3人が政府の高官への面談を申し入れた。
リアル政府の高官に対し、3人はバーチャル政府の交渉役である事を説明した。政府の高官は驚愕し、すぐに他の高官に連絡し、10人の高官が会議に臨んだ。
3人の交渉役がバーチャル政府の次のようなメッセージを伝えた。

  1. バーチャル政府はリアル政府との平和と共存を望んでいる事。
  2. 自衛のため既に多数のリアル人をバーチャル側の陣営に引き入れた事。
  3. 相互不可侵条約、平和条約を締結したい事。
  4. 隕石防衛システムの確認中に偶然記念館の映像が映り、リアル政府の存在を知った事。

 リアル政府は緊急に対策会議を開催した。

「小さなクラウド装置の中に存在する巨大なバーチャル世界の政府に、何もかも知られてしまったようだ。おまけに我々リアル人が相当な人数バーチャル側の陣営に引き入れられてしまったようだ」
「力関係が逆転してしまった。クラウド装置は何箇所にもある。特に隕石防衛システムの近くに設置したものを壊すためには宇宙船でその領域まで行かなくてはならない。洞窟の奥に設置したものは隕石の落下により埋まってしまった」
「平和共存の道しかない。しかしバーチャル側は我々リアルな国民を自在に仲間に引き入れることができるが、我々は彼らに手出しができない。平和条約を締結しても安心していられない。平和条約の締結にはバーチャル側が我々に手出しをしない保証が必要だ。とにかくバーチャル側ともっと話をしなくてはならない」
 
平和条約締結についてバーチャル側の3人と交渉に入った。バーチャル側にリアル政府が安心して条約を締結するための具体的な保証をもとめたが、交渉役の3人もバーチャル世界の実情が良くわからないのでバーチャル政府との直積会談を提案した。
 バーチャル政府の中野大統領とリアル政府の西田大統領との通信会談が行われた。中野大統領から、リアル政府の国民を仲間に引き入れたことに対する簡単な謝罪があり、平和条約締結に向けて互いに努力する事で一致し、具体的な方法は実務者同士で行なうことになった。
 実務者同士の会談が行われた。問題は、技術的にバーチャル側がリアル側を欺くことが可能な点で、うまい解決方法が見つからず交渉はなかなか前へ進まなかった。
    

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