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SFK人類の継続的繁栄 第9章『それは現実なのか』

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

仮想世界の歓迎会

 第4太陽系の使節団が大統領宮殿の特別室に体を乗り換えて訪れた。
豪華に宝飾された3台の室内車両に乗って、西田大統領の側近が使節団を迎えに現れた。側近に促され使節団は3台の室内車両に分乗した。長い室内通路を通り、広大な大統領執務室に案内された。無論バーチャルの執務室である。
広大な執務室には満面に笑みを浮かべた威厳に満ちた西田大統領が待っていた。使節団は大統領執務室の大きさと豪華さに仰天した。執務室は大きすぎて室内を車両で移動した。執務室の壁には多数の写真が飾られていた。
大統領自ら、いきなり、いくつかの写真を3次元映像モードに切り換えながら説明しだした。大統領宮殿と政府庁舎が立ち並ぶ巨大な建物群の映像も説明した。大統領宮殿だけでも第4太陽系の政府庁舎の10倍は超えていた。映像はズームアウトされ、巨大なビルが林立する巨大な都市が映し出された。さらにズームアウトされ、巨大な都市や製造工場が地表を埋め尽くしていた。 大統領は多数の天体が描かれている次の写真の説明を始めた。映像はズームアップされ、巨大な工場が映し出された。兵器と宇宙船を製造している植民天体の1つとの説明だった。
 大統領は「失礼した。これらの写真を説明していたらきりがない。第4太陽系に比べればお粗末なものだろうが、我々の太陽系も10個ほど植民天体を持っており、1500億人が奴隷として働いている」と説明した。

 使節団の歓迎式典が行われ500万人の住民が使節団を歓迎した。式典会場は大統領執務室よりはるかに大きく、室内会場の中で小型宇宙船が飛行していた。式典が終わり、会場から宿泊先のホテルまでに高速車両で送られた。ホテルは1000階建てで、700階の特別室に案内された。特別室は第4太陽系の大統領執務室をはるかに凌ぐ大きさで、豪華な装飾が施されていた。窓から外を見ると、巨大な建物の間を無数の通路が張り巡らされていた。 第4太陽系とは何もかにもが桁違いである。
 翌日、5名の担当官が高速宇宙船であちこちを案内した。軍事用宇宙基地にも案内された。大型の爆弾砲を搭載した宇宙船が100隻も係留されていた。担当官は「この基地は古い基地で近々このまま閉鎖されるので見学の許可が下りた。この基地の100倍の規模の軍事基地があちこちの天体にある」と言った。
使節団と親密になった担当官の1人が「大統領は見ての通りのワンマンで、欲しいものは何でも手に入れる。独裁者だが遊び心もあり、先日も20トンほどの爆薬を盗もうとしたものが現れたが、そのまま泳がせていた。大統領に、1トンほど宇宙船で持ち帰る様子があると言ったら、腹心に起爆装置を仕掛けさせた。我々が起爆装置のことを知り大統領に尋ねると、『盗みだした者の星に着いたら爆発させ、星ごと粉々にする』と笑いながら言った。私が、相手は第5惑星に住む元の同胞です、と言った。それでも大統領は中止しなかった。私が、あの星にはそれなりの技術があり植民天体には丁度良い、粉々にするのはもったいない、と言ったらやっと中止し、宇宙で爆破させた」と言った。
 
 使節団が大統領宮殿に戻ると西田大統領は使節団の前で、「私も明日、上田大統領に挨拶に伺いたい。至急支度をしなさい」と側近に命じた。側近が「我々は物体至上主義を理念の柱としています。大統領自身が理念を破って良いのですか。それに我々には瞬時通信で向こうに行く装置がありません」と答えると、大統領は「理念と実務とは違う。私が許可するのだから至急準備しなさい。装置など1日で作れるだろう」と再度命じた。
 このやり取りを見ていた使節団は大きな恐怖を覚えた。もし西田大統領が第4太陽系を訪れて第4太陽系の実情を知ると、間違いなく植民天体にされてしまう。何が何でも阻止しなければならない。

最初の交流、その結末

 大統領が第4太陽系を訪問する事に側近も反対しているようである。使節団は側近に働きかけて大統領の訪問を阻止しようと決めた。

「大統領が第4太陽系を訪問するためには大統領が使用する人体を作る必要がある。そのためには第6太陽系の瞬時通信システムの綿密な情報が必要である。それによる機密情報漏洩の問題を言い出せば阻止できるのではないだろうか」
「我々からそちらにある人体の仕様を調べるのは簡単だ。仕様にあわせた瞬時通信装置を作るのも簡単にできるだろう。技術的理由では通用しない。別の理由を考え出さないとならない」
「第4太陽系の瞬時通信の技術は低く、すぐに故障する。急に故障したので我々使節団は大統領への挨拶なしに突然消えた、という事にしたらどうか」

側近もその意見に同意し、使節団は消えるように第6太陽系から去った。
 
 使節団が帰った後、三政府の大統領による通信会談が行われた。西田大統領が中野大統領に「バーチャルの威力はすごい。想定以上の結果になった。この出来事は他の太陽系にも伝わり、二度と我々の領域を侵す事はなくなるだろう。四足政府も含め我々リアル側は隕石対策に注力する。万一同じような事があったらまたよろしく頼みます。クラウドシステムの容量の変更など、リアル側でないと出来ない事は何でも言って欲しい」と言った。
中野大統領は「三政府のそれぞれ最も得意なところを生かして第6太陽系を協力して発展させよう。我々は運命共同体だ。そもそも全ての利害が一致している」と言い、ヨツ大統領も全面的に同意し、三政府のトップ会談は終了した。

第4太陽系の勝負手

  使節団が突然、第4太陽系に帰ってきた。恐怖におののいている様子である。真相解明プロジェクトのメンバーが急遽招集され会議が開催され、使節団が第6太陽系の状況を報告した。使節団の報告に対し、ほとんどのメンバーは報告の信憑性を疑った。洗脳を受けたのではないかとの意見もあった。
使節団の団員は「実際にこの目で見た。絶対に洗脳ではない」と強く否定した。何もかも信じがたい内容だが、第5太陽系の観察の内容とは符合する。特に、第5太陽系に帰還中の宇宙船に積んでいた1トンもの質量がエネルギーに転換し、超巨大爆発を起こした部分は完全に符合する。団員の話を聞いていているうちに事実かもしれない、と考え直すメンバーもいた。

「独裁政権になり西田大統領に権力が集中したのなら真実かも知れない。独裁政権だと急速に国家が巨大になることがある。独裁政権はある意味で非常に合理的で能率が良い。技術も経済も急激に拡大する事がある」
「第5太陽系に住んでいる連中の先祖を地球から宇宙に送りだした後、地球の洞窟に残った人間が脳を無機質の電子の脳に改造し宇宙に旅立ったと聞いている。その連中が第6太陽系に住みついたのだろう。そうだとすれば大統領は中野氏のはずだ」
「たくさん植民天体を所有して、そこから多くを搾取していると言っていた。クーデターで中野政権が倒され、中野政権側の住民が植民天体で働かされているのではないだろうか。 とにかく西田大統領は強暴だ。昔の同胞の第5太陽系の住民を第5地球ごと吹き飛ばそうとした。側近が『吹き飛ばすのはもったいない。植民天体にしたほうが良い』と言ったので第5地球は助かったようだ」
「それが事実だとすると第5地球はそのうち植民天体にされてしまうだろう。第5太陽系が植民天体にされたら、我々の第4太陽系も隣の第3太陽系も植民天体にされるだろう」
「使節団の報告が事実なら、我々が奴隷にされるのは時間の問題だ。事実か否か調査しよう」
「調査していることが見つかれば我々は滅ぼされてしまうかも知れない」
「西田は強暴だが合理的な考えの持ち主のようだ。滅ぼすより植民天体にするだろう。調査に失敗しても同じことだ」
「西田大統領が第4太陽系を訪問したいと言い、使節団は西田大統領が第4太陽系の実態を見ること恐れ、瞬時通信のトラブルを理由にあわてて帰国した。その続きを行おう。その続きはこうだ。『西田大統領を迎えるために瞬時通信を万全に整備した。大統領一行を迎えるための専用の豪華な人体も準備できた。我々は西田大統領の訪問を第4太陽系の全住民をあげて大歓迎する』という趣旨の招待通知を上田大統領名で瞬時通信したらどうなるだろうか」
「2つのケースが考えられる。第6太陽系が異次元の強国のように見せかけるため、何らかの技術を使い全くのでっち上げた世界を使節団に見せ付けたとしたら、何か理由を作って招待を断るだろう。使節団の見てきたことが本当なら実際に来るだろう。実際に来ることを前提にして対策を行わねばならない」
「もし使節団の見て来たことが真実で、西田大統領がこちらに来たときの対策はどのようにするのか。実態を知られたらおしまいだ。我々は奴隷扱いされてしまう」
「瞬時通信でこちらに来るという事を技術的に深く考察し、そこから対策を考えよう。我々が向こうに行く場合も同じだが、瞬時通信でこちらに来るという事は脳を第6太陽系に残したまま脳以外がこちらにあるということだ。脳とそれ以外の体が瞬時通信と言う長い神経でつながっているのと同じだ。例え、目で見て体で体験したことでも、脳に送る信号に細工を加えればどのようにでもなる」
「通信という神経を切断し、間にダミー信号発生装置を取り付ければ良い。ダミー信号発生装置として階層型コンピュータを使えば良い。階層型コンピュータは人間の知能に比べ50桁以上の高い処理能力がある。大統領一行の瞬時通信装置に階層型コンピュータを接続し、最上層に我々の趣旨を入力するだけで良い。しっかりとした趣旨を入力すれば後はコンピュータがベストのシナリオを作ってくれる」
「使節団も同じ方法でだまされたのではないだろうか。我々がこのように考えているのだから第6太陽系も我々に実態を把握されるのが怖くて同じ事を行った可能性が強い」
「何か理由をつけて招待を断ってきた場合にはどのようにするのか?」
「断る理由にもよるが、その時は第6太陽系の実態を把握する別の手段を考える必要がある。それはその時に考えよう。今は大統領が招待に応じることを前提に準備を行おう」

 政府の承認の下、ギャンブル的なこの作戦を実行する事になった。

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