株式会社セフト研究所 社長 市ヶ谷 弘司
2020年、新型コロナウイルスは突如として現れ拡散し、瞬く間に世界を大きな混乱に陥れた。これまで空調服™は数多くの災害と復興の現場で活用されてきたが、その技術の応用からコロナ対策のため「空調フェイスシールド™」は生み出された。これは、その発想の経緯から、開発における試行錯誤を追った詳細記録である。
※空調フェイスシールド™は、フィルターを装備したファンユニットによってフェイスシールド内を清浄にして快適に過ごすことのできる密閉型陽圧式フェイスシールドです。汚染された空気は吸気用フィルターによりろ過され、シールド内部の空気は呼気用フィルターを通して排出されます。
開発開始
4月末に開発を開始し、2か月後の5月25日に試作品の発表を行い、9月の販売を目指すと発表した(実際の販売時期は未定。2020.9.23現在も鋭意開発中です) 。
販売に向けて開発を加速しなければならない。しかし当社は毒ガスや化学防護服や送気マスク等に対する知見はほとんどない。問題点を1つずつ調査しなければならない。
実用化に際し次のような大きな問題が見つかった
- フードとして40μのポリエチレンフィルムを使用したが、ポリエチレンに限らず薄いフィルムは燃えやすい。難燃性の透明なフィルムは見つからない。フィルムなので燃えてもすぐに燃え尽きるのではないかと、試しにフィルム片に火を付けたら、溶けたフィルムが手に落ちて、軽い火傷を負い、今でも親指の関節の部分に少し跡が残っている。フィルムの袋を被るのは非常に危険と認識した。
- フィルターの面積が足りず、十分な濾過性能が得らえない。
- 使用者が感染している場合に備えた排気用フィルターがない。
- 風のある屋外では風圧により変形し使用できない。
- 袋の材料費はただ同然だが、袋を目的に合わせて作るのには非常に手間がかかる。その他諸々の問題点が出てきたが、問題点を解決するための試行錯誤を繰り返し、多くの点は解決の目途が立ったが、この方式だと限界があることがわかり、別の方法を模索し始めた。
試行錯誤の結果、袋を使わずに顔の前面だけお面のようなもので覆うアイデアが出た。お面なら燃える問題や屋外での風圧の問題、製造の手間の問題も解決できる。急遽、中国の子会社のブリスターケース納入業者に依頼し空調フェイスシールド用のお面を作ることになった。
お面方式は袋方式の経験を踏まえて次のような改良を加えることになった。
- 使用者が感染している場合を考慮して呼気用のフィルターを付ける。
- 吸気用のフィルターも呼気用のフィルターもN95マスクに使用されているものと同性能のものを使用する。N95マスク用のフィルターは空気抵抗が高く、また2組のフィルターを取り付けることにより送風量の問題が出てきた。また医療現場では患者を運ぶような重労働があることも考慮して、呼気による二酸化炭素の蓄積を最初に解決すべき課題とした。
その他諸々の問題点が出てきたが、問題点を解決するための試行錯誤を繰り返し、多くの点は解決の目途が立ったが、この方式だと限界があることがわかり、別の方法を模索し始めた。
二酸化炭素濃度のシミュレーション開始
空調服™の空気の流れと冷却効率を計算するためのソフトを使用できないか検討し、東京大学の保坂教授のアイデアを取り入れ、空気の流量と二酸化炭素濃度の関係を調査するためのソフトを構築しシミュレーションを開始した。単純なシミュレーションから始め、ある程度の当たりを付けてから次に進み、更に精度を増すための工夫を行い、だんだんとコツがつかめるようになった。
最初は鼻に向けて空気を取り込こみ、お面の上部から排気する設計だったが、この設計では効率よく二酸化炭素濃度を下げられないことがわかり、多くのシミュレーションを経て最終的には吸気部を上部にし、排気部を下部にした。
シミュレーション動画の説明
二酸化炭素が蓄積しないように設計するためのシミュレーション
- お面の縁と顔の縁を密着させ送気部から空気を送り、吸気用フィルターで濾過し、呼気用フィルターから排出する。
- 鼻孔からのパイプは気道を表している。
- 鼻孔から吸い込んだ空気(吸気)を気道から肺に送り、二酸化炭素濃度の高くなった呼気が気道を通り鼻孔から排出される。
- 矢印はその点での空気の動きを示す。
- 色は二酸化炭素の濃度を示し、濃い青は外気と同じ二酸化炭素濃度、赤は肺から排出される二酸化炭素濃度を示している。
動画A:送気部が鼻孔の近くにあり、上部に排出部がある。速度は実時間
動画B:Aの動画の早送り(4倍速)動画
動画C:送気部が上部にあり、排出部が下部にある。速度は実時間
動画D:Cの動画の早送り(4倍速)動画